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帷
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とばり
ふりがな文庫
“
帷
(
とばり
)” の例文
窓にはことごとく
帷
(
とばり
)
が下りている。右手にグランド・ピアノがあって、真中の円卓のまわりに、茶色の絹張りの安楽椅子が並んでいる。
小フリイデマン氏
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
そうするとあれは
帷
(
とばり
)
の向うに瞬いている星を
瞶
(
みつ
)
めて、にこにこと嬉しそうに聞きながらやがてスヤスヤと眠りに就いていたのです。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
(
帷
(
とばり
)
の背後より立ち出づ。メフィストフェレスが手に帷を
搴
(
かか
)
げて顧みるとき、古風なる臥床に横はれるファウストの姿、見物に見ゆ。)
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
あの一
刹那
(
せつな
)
にわたくしの運命は定まったのでございます。わたくしは開けようと思った戸を開けずに、
帷
(
とばり
)
の蔭に隠れていました。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
どんなところでも、夜の
帷
(
とばり
)
の裾のはいり込まないところはない。そして
茨
(
いばら
)
に引掛っては破れ、寒さに会っては裂け、泥によごれては
傷
(
いた
)
む。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
▼ もっと見る
彼女の椅子の後には、
絳紗
(
かうしや
)
の
帷
(
とばり
)
を垂れた窓があつて、その又窓の外には川があるのか、静な水の音や
櫂
(
かい
)
の音が、絶えず此処まで聞えて来た。
南京の基督
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
よしやその
帷
(
とばり
)
をまったく掲げることは許されないまでも、少なくともその光を明らかに透かし見せることだけはおそらく許されるであろう。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
月のうす明るい夜で、丞相が
紗
(
しゃ
)
の
帷
(
とばり
)
のうちから透かしてみると、賊は身のたけ七尺余りの大男で、
関羽
(
かんう
)
のような美しい長い
髯
(
ひげ
)
を
生
(
は
)
やしていた。
中国怪奇小説集:13 輟耕録(明)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
たまには
蒹葭堂
(
けんかどう
)
、
無腸子
(
むちょうし
)
のやうな
篤志家
(
とくしか
)
も出なんだではないが、この地に
帷
(
とばり
)
を下した学者といふても多くは他国から入りこんで来た者であつた。
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
月はまつたく姿をかくし、深い雲の
帷
(
とばり
)
をぴつたりと引いてしまつた。夜は暗くなり、
疾風
(
しつぷう
)
に乘つた雨が慌しくやつて來た。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
中には手前の壁に寄せかけて安楽椅子をはじめ五六脚の形のちがった椅子を置き、そのむこうには青い
帷
(
とばり
)
を引いてあった。そこは寝室らしかった。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
帷
(
とばり
)
を垂れたる六層の
觀棚
(
さじき
)
も、
積
(
せき
)
あまりに大いにして客常に少ければ、却りて我をして一種の寂寥と沈鬱とを覺えしめき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
ベッドは薄絹の
帷
(
とばり
)
に
覆
(
おお
)
い隠されていたが、その絹をとおして、純白のシーツと、ぼんやりした人の姿とが
眺
(
なが
)
められた。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
なんでも幅広な、奥深い
帷
(
とばり
)
に囲まれて、平凡な実世界の接触を免かれて、さういふところでは一種特別な生活が行はれてゐるのではあるまいかと思ふ。
クサンチス
(新字旧仮名)
/
アルベール・サマン
(著)
渠等
(
かれら
)
が炎熱を冒して、流汗面に
被
(
こうむ
)
り、気息
奄々
(
えんえん
)
として労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげん
帷
(
とばり
)
を掲げて
白皙
(
はくせき
)
の
面
(
おもて
)
を
露
(
あらわ
)
し、微笑を含みて見物せり。
金時計
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その濃緑の
帷
(
とばり
)
からは何処ともなく甘い香りと蜂の羽音とがあふれ出てひそやかな風に揺られながら私を抱き包んだ。
フランセスの顔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
……霧の下りて来る季節で、朝な朝な、
草庵
(
そうあん
)
の周囲は灰白色の
帷
(
とばり
)
に包まれた、そして日が高く昇ると、雪のある甲斐駒の嶺が
眩
(
まぶ
)
しくぎらぎらと輝いた。
春いくたび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そこらが全く
夜
(
よる
)
の
帷
(
とばり
)
に
蔽
(
おお
)
い
裹
(
つつ
)
まるる頃まで、草原を乗まわしている、彼女の白い姿が、往来の人たちの目を
惹
(
ひ
)
いた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
夜
(
よる
)
のやうな
漠
(
ばく
)
とした憂愁の影に包まれて、色と音と
薫香
(
くんかう
)
との感激をもて一糸を乱さず織りなされた
錦襴
(
きんらん
)
の
帷
(
とばり
)
の粛然として垂れたるが如くなれと心に念じた。
黄昏の地中海
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
愈々
(
いよいよ
)
、暗い運命の手は、更に一枚の
帷
(
とばり
)
を増して、私たちを包んだことになるではないか? こう思ってふと
鴨居
(
かもい
)
を見ると
其処
(
そこ
)
には「金毘羅大神」の文字が
犬神
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
列島の
彼方
(
かなた
)
に別にエメラルドの色をたたえているのは
八代
(
やつしろ
)
海である。けれども今
目路
(
めじ
)
の限り、紫がかった薄絹の
帷
(
とばり
)
の
様
(
よう
)
に、
朝霞
(
あさかすみ
)
が一面に棚引いているのだ。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
そういう感じは、ジャックリーヌが話に加わるときいっそうはっきりしてきた。するとオリヴィエとクリストフとの眼の間に、皮肉の
帷
(
とばり
)
がはさまってきた。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
……娼家の門の上にはプリアポスの神に捧げられた、猥らな絵を描いた街燈が点っていて、戸口の
帷
(
とばり
)
——セントンを挙げる毎に、内部の模様が見透かされた。
大衆文芸作法
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ただ映画によって濃きも淡きも生じて白い
帷
(
とばり
)
の上にさまざまの姿を映す。そのさまざまの姿こそ万物である。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
人間の瞳を
欺
(
あざむ
)
き、電燈の光を欺いて、
濃艶
(
のうえん
)
な脂粉とちりめんの衣装の下に自分を潜ませながら、「秘密」の
帷
(
とばり
)
を一枚隔てて眺める為めに、恐らく平凡な現実が
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それどころか——朝から天候の悪かった
所為
(
せい
)
もあろうが——もうなんとなく薄暗くさえなって来て、荒涼とした
廃頽的
(
はいたいてき
)
なこの原が、
暗澹
(
あんたん
)
たる
夜
(
よ
)
の
帷
(
とばり
)
に覆われるのも
自殺
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
帳台の四方の
帷
(
とばり
)
を皆上げて、後ろのほうに
法華経
(
ほけきょう
)
の
曼陀羅
(
まんだら
)
を掛け、銀の
華瓶
(
かへい
)
に高く
立華
(
りっか
)
をあざやかに
挿
(
さ
)
して供えてあった。仏前の
名香
(
みょうこう
)
には支那の
百歩香
(
ひゃくぶこう
)
がたかれてある。
源氏物語:38 鈴虫
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
彼らは息をひそめてしばらく外の様子を
窺
(
うかが
)
った。遠く山上の敵塁から
胡笳
(
こか
)
の声が響く。かなり久しくたってから、音もなく
帷
(
とばり
)
をかかげて李陵が幕の内にはいって来た。だめだ。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
三階に着くより静緒は
西北
(
にしきた
)
の窓に寄り行きて、
効々
(
かひがひ
)
しく緑色の
帷
(
とばり
)
を絞り
硝子戸
(
ガラスど
)
を
繰揚
(
くりあ
)
げて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
顧
(
かえり
)
みれば、下野の男体山から赤城、榛名、妙義、荒船、秩父山かけて大きく包まれている関東平野は、もう浅春の薄い霞の
帷
(
とばり
)
をおろして、遠く房州の方へ煙っているというのに
酒徒漂泊
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
中将はにこやかにたちて椅子をすすめ、椅子に向かえる窓の
帷
(
とばり
)
を少し引き立てながら
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
私はそっと
帷
(
とばり
)
を開いて差し覗いて見た。すやすやと庄亮が眠っている。少し斜めに壁の方に身体をねじ曲げ気味に片手枕で、毛布を蹴ぬいて、何かしら弱々しそうな息づかいである。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
案内の武士が、営門の
帷
(
とばり
)
をあげて、閣の庭を指すと、紀霊は何気なく入りかけたが
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
自分達が浮世絵の博物館を
訪
(
と
)
ふた時は曇つた日の午後三時頃であつたが、各室の監視人は自分達の為に
被
(
おほ
)
ひの
帷
(
とばり
)
を
徹
(
てつ
)
して浮世絵の
一一
(
いち/\
)
を実は
内内
(
ない/\
)
迷惑を感じるまで仕細に観せて
呉
(
く
)
れ
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
私は例え夜があけても
関
(
かま
)
わぬ一歩でも下の方へ降りたいと言う、とは言え、七曲りの尽きた下は又大樹林で、見た所でも闇の
帷
(
とばり
)
に閉じられた森を、何うして路のわからないのに抜けられよう
武甲山に登る
(新字新仮名)
/
河井酔茗
(著)
ところが、そのとき、鼠が二匹、ベッドの
帷
(
とばり
)
をのぼって来ると、ベッドの上をあちこち嗅ぎまわって、ちょろ/\走り出しました。一匹などは、も少しで、私の顔に
這
(
は
)
いのぼろうとしたのです。
ガリバー旅行記
(新字新仮名)
/
ジョナサン・スウィフト
(著)
莧
(
ひゆ
)
のやうに紫ばんだ
薔薇
(
ばら
)
の花、賢明はフロンド黨の姫君の如く、
優雅
(
いうが
)
はプレシウズ
連
(
れん
)
の女王とも
謂
(
いひ
)
つべき
莧
(
ひゆ
)
のやうに紫ばんだ
薔薇
(
ばら
)
の花、
美
(
うつく
)
しい歌を好む姫君、姫が
寢室
(
ねべや
)
の
帷
(
とばり
)
の上に、
即興
(
そくきよう
)
の
戀歌
(
こひか
)
を
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
眞黒な錦襴の
帷
(
とばり
)
は九番目の祕密を垂らした
太陽の子
(旧字旧仮名)
/
福士幸次郎
(著)
背後
(
うしろ
)
には小さい
帷
(
とばり
)
が垂れてある。
破落戸の昇天
(新字新仮名)
/
フェレンツ・モルナール
(著)
大和田
(
おほわだ
)
の原、天の原、
二重
(
ふたへ
)
の
帷
(
とばり
)
有明集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
わたしの書斎の
帷
(
とばり
)
に
浮
(
うか
)
び
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
花の
帷
(
とばり
)
の中絶えて
花守
(旧字旧仮名)
/
横瀬夜雨
(著)
奥の壁の右手にある窓には、長くすんなりとひだを作りながら、白いモスリンの
帷
(
とばり
)
がかかっている。次の間に通ずる白い扉は、右手にあった。
衣裳戸棚
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
錦の
帷
(
とばり
)
の見える
室
(
へや
)
の中に
燈火
(
あかり
)
が
点
(
つ
)
いていた。章はその室へ通されて一人で坐っていた。乳母と女が入ってきた。二人の手には肉を盛った鉢があった。
狼の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それから数月の後、ある夜のことである。崔は戸を閉じ、
帷
(
とばり
)
を垂れて
寝
(
しん
)
に就くと、夜なかに女の姿が見えなくなった。
中国怪奇小説集:07 白猿伝・其他(唐)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼は
帷
(
とばり
)
を少し開いた、そして豆ランプの光でさしのぞくと、ファンティーヌの静かな大きい目が彼をじっと見ていた。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
しかしその間に金花の夢は、
埃
(
ほこり
)
じみた寝台の
帷
(
とばり
)
から、屋根の上にある星月夜へ、煙のやうに高々と昇つて行つた。
南京の基督
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それは現今のフランスには思いがけないものであり、現今のフランスが容認するのを恥じてるものであり、慎み深くその上に
帷
(
とばり
)
を投げかけてるものである。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
われも昔はかゝる兒どもの
夥伴
(
つれ
)
なりしに、今堂上にありて羅馬の貴族に交るやうになりたるは、いかなる神のみ惠ぞ。われは
帷
(
とばり
)
の蔭に
跪
(
ひざまづ
)
きて神に謝したり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
飛び込むと同時に、私はさっと寝台の
背後
(
うしろ
)
の
帷
(
とばり
)
を引きあけた。そうしておいてすぐ窓の方へ走り寄って、この方もまた二カ所ばかりの重い帷をさっと引いてみた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
帷
漢検1級
部首:⼱
11画
“帷”を含む語句
帷幕
帷帳
帷幄
窓帷
経帷子
湯帷子
竪帷
帷中
垂帷
帷子
鎖帷子
經帷子
白帷子
古帷子
浴帷子
帷衣
鎖帷子組
生帷
講帷
繍帷
...