帰途かえり)” の例文
旧字:歸途
実は昨年、ちょうど今頃……もう七八日ななようかあとでした。……やっぱりお宅でお世話になって、その帰途かえりがけ、大仁からの電車でしたよ。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君がはじめて来てくれたのは、二十四年だったかね。そうそう、君をおくった帰途かえりに、巡査にとがめられたことがあったっけなあ。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その帰途かえり、近所の町組詰所へ立ち寄って、異な物を銜えた宿無犬のことを聞き、もしやと思って急いで帰宅かえってみると、案の定
それから町人ちょうにんいえよりの帰途かえり郵便局ゆうびんきょくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であったが警部けいぶかれ握手あくしゅして数歩すうほばかりともあるいた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「高崎のお帰途かえりですか」ちょっと千々岩の顔をながめ、少し声を低めて「時にお急ぎですか。でなけりゃ夜食でもごいっしょにやりましょう」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その帰途かえりに玉子と一緒に二人乗の俥に載せられたことを思出した。その俥の上でこの御殿山の通路を夢のように揺られて行ったことを思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かくて黄金丸は、ひたすら帰途かえりを急ぎしが、路程みちのほども近くはあらず、かつは途中にて狼藉せし、猿を追駆おいかけなどせしほどに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
帰途かえりを案じていた作左衛門夫婦は、声におどろいて出てみると、五平は肩先から鮮血を流して、乱鬢らんびんのままへたばっていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは田圃の近道をば田面たのもの風と蓮の花の薫りとに見残した昨夜ゆうべの夢をたくしつつ曲輪くるわからの帰途かえりを急ぐ人たちであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
即ち五月さつきの初旬、所謂る降りみ降らずみ五月雨の晴間なきゆうべ、所用あって赤阪辺まで出向き、その帰途かえり葵阪あおいざかへ差掛ると、生憎に雨は烈しくなった。
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
帰途かえりには電車で迂廻まわりみちして肴町さかなちょうの川鉄に寄って鳥をたぺたりして加藤の家へ土産みやげなど持って二人俥を連ねて戻って来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その初めの日は帰途かえり驟雨しゅううに会い、あとの一日は朝から雨が横さまに降った。かれは授業時間のあいだ々を宿直室に休息せねばならぬほど困憊こんぱいしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
其れは明治三十九年露西亜の帰途かえりだった。七月下旬、莫斯科もすくわを立って、イルクツクで東清鉄道の客車に乗換え、莫斯科を立って十日目とおかめにチタを過ぎた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
闇の間に走った中国筋は先ず九州を一周してから帰途かえりにゆっくり拝見という寸法。団さんの設計は例によって無駄がない。今度はナカ/\の長道中だ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは渋川の車夫で、車に乗って来た処が、正直で能く働き、気の利いた男で、しまいには馴染になって、正直者だから次の間に居れ、帰途かえりは又乗ると云う
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おまけに、帰途かえりに花屋へ寄って、一ソヴェレンも出して素晴らしい花束を買ったり、女の好きそうな菓子を土産に持たしたり、ひたすら歓心を獲るに努めたとある。
消えた花婿 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
昼は賃仕事に肩の張るを休むる間なく、夜は宿中しゅくじゅう旅籠屋はたごやまわりて、元は穢多えたかも知れぬ客達きゃくだちにまでなぶられながらの花漬売はなづけうり帰途かえりは一日の苦労のかたまり銅貨幾箇いくつを酒にえて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
林は火曜日の午後五時、所用を帯びて銀行へいった帰途かえり、チープサイドの喫茶店でお茶を飲んでいると、衝立の蔭にエリスともう一人見知らぬ男が席を占めているのを見た。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
丁度自分の畑の所まで来ると佐藤の年嵩としかさの子供が三人学校の帰途かえりと見えて、荷物をはすに背中に背負って、頭からぐっしょり濡れながら、近路ちかみちするために畑の中を歩いていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
盆踊りのあと淫猥いんわいの実行が行われるから困ると非難する者もあるが、その実行は盆踊りの後に限った事ではない。芝居の帰途かえりにもある。活動写真の戻りにもある。日々谷公園の散歩中にもある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
伊之助の帰途かえりを追っかけて、斬って捨てたのもこのわしだ。後閑氏こがうじではない
今日はその帰途かえりである。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
三郎さんを突いたのは——帰途かえりは杖にしてすがろうと思って、ぽう、ぽっぽ。……いま、すぐ、玄関へ出ますわ、ごらんなさいまし。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学校の帰途かえりに行く月浚いに、間にあうように新しく縫われた浴衣であるにしろ、それだけの過失で、英語は下げられてしまった。
帰途かえりに電車の中でも、勢いその事ばかりが考えられたが、此度のお宮に就いては、悪戯いたずらじゃない嫉妬やきもちだ。洒落しゃれた唯の悪戯は長田のしそうなことではない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
帰途かえりにも葡萄酒醸造所に寄って、ふたたび梅酒の御馳走になりました。アルコールがはいっていないのですから、わたしには口当りがたいそういのです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
湯島の方へ用達ようたしに行った帰途かえりを近江屋の前へ差しかかったのが、八丁堀に朱総を預る合点長屋の釘抜藤吉、いきなり横合から飛び出して藍微塵あいみじんの袖を掴んだのは
門から玄関までの長い家へ行くと帰途かえりには出て来てから屹度反対あべこべの方角へ向う。子供の時分の話だが、自分の学校が分らなくなって巡査に訊いたことさえあるんだからね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
村の青年達が八幡様の鳥居を直した帰途かえりに立寄って、廊下の壁の大破たいはを片づけたり、地蔵様をき起したりしてくれました。あとは前述の如く素人大工で済ませて置きます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
片岡中将はその副官といずくかへ行ける帰途かえりを、殊勝にも清人しんじんのねらえるなりき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
師の範宴の帰途かえりを案じてさまよっている性善坊と覚明かくみょうのふたりで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倉賀屋の帰途かえり、平次はこんな事を言い出すのです。
俊吉は、外套がいとうしに、番傘で、帰途かえりを急ぐうちに、雪で足許あしもと辿々たどたどしいに附けても、心も空も真白まっしろ跣足はだしというのが身に染みる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松吉に別れて、半七はまっすぐに神田へ帰ろうと思ったが、自分はまだ一度もその現場を見とどけたことがないので、念のために帰途かえりに市ヶ谷へ廻ることにした。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玳瑁たいまいの櫛を出して問い詰めると、辰はすぐさま頭を掻いて、じつは誠に申訳ないが、年の暮れのある晩稼業しょうばい帰途かえりに、筋交すじかい御門の青山下野守しもつけのかみ様の邸横で拾ったのだが
松屋から帰途かえりに食傷横丁に入って、あすこの鳥料理に上った。私は海鼠なまこさかなけぬ口ながら、ゆっくりした気持ちになって一ぱい飲みながら、お宮のために鳥を焼いてやって
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
田舎銀座の呉服町まで行って、帰途かえりは参考の為めとあって電車に乗ったが、実は博多織だの博多絞だのがややもすると田鶴子さんの足を止めるので、団さんが警戒したのだった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
煮焚にたき勿論もちろん、水ももろうてあるき、五丁もはなれた足場の悪い品川堀しながわぼりまでたらいをかゝえて洗濯に往っては腰を痛くし、それでも帰途かえりにはふきとうなぞ見つけて、んで来ることを忘れなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
帰途かえりは、めっかち生芽しょうがとちぎばこがおみやげ、太々餅だいだいもちも包まれている。
帰途かえりに、一度、そちたちも聴聞ちょうもんしてゆくがよいと、いわれたがの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はあ、つい先日佐世保に行って、今帰途かえりです」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
帰途かえりは、薄暮くれがたを、もみじより、花より、ただ落葉を鴨川へ渡したような——団栗橋どんぐりばし——というのを渡って、もう一度清水へ上ったのです。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おじさんは帰途かえりに本郷の友達のうちへ寄ると、友達は自分のっている踊りの師匠の大浚おおさらいが柳橋の或るところに開かれて、これから義理に顔出しをしなければならないから
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
帰途かえりは夜と覚悟してか、まのぬけた小田原提灯おだわらちょうちんが一つ梶棒かじぼうの先にぶら下がっていた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
翌朝、母親が手ずから着物を着せて、父親が口上こうじょうを教えてくれた。嫁を貰う息子を未だ子供だと思っている。新太郎君は羽織袴に昨夜散髪の帰途かえり大徳だいとくへ廻って特に吟味ぎんみして来たタスカン帽。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ねえ行こうよ。そして帰途かえりに何か食べよう」と、優しくいうと
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
奥さん、いずれ帰途かえりには寄せて頂く。私は味噌汁が大好きです。小菜こなを入れて食べさしてたたせて下さい。時に、帰途はいつになろう。……
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足の方が少しく楽になったので、わたしはまた例のおしゃべりを始めますと、案内者もこころよく相手になって、帰途かえりにもいろいろの話をしてくれました。その中にこんな悲劇がありました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四年スタートのおそい野口君がソロ/\肉迫して来た。同じ県で鉢合せをすることはなかったが、僕はいつも野口君の任地と東京の間に介在していたから、野口君は上京の帰途かえりに必ず寄ってくれた。
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……店頭みせさきをすとすと離れ際に、「帰途かえりに寄るよ。」はいささか珍だ。白い妾に対してだけに、河岸の張見世はりみせ素見すけん台辞せりふだ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)