山蔭やまかげ)” の例文
それは本土との交通がほとんどなく、少数の貧しい漁夫たちが、所々の寂しい山蔭やまかげに住んでるような、暗く荒寥こうりょうとした島嶼とうしょであった。
雪枝ゆきえみちけ、いはつたひ、ながれわたり、こずゑぢ、かつらつて、此処こゝ辿たどいた山蔭やまかげに、はじめてたのはさくらで。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
草のかおりがする。雨と空気と新鮮な嵐と、山蔭やまかげむせぶばかりの松脂まつやにのにおいである。はしる、駛る、新世界の大きな昆虫。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
平常ふだんしずかな山蔭やまかげみなとも、あらしのにはじつに気味悪きみわるみなとでありました。船乗ふなのりらはこのいしおとをきくと、ひやりとからだじゅうがさむくなるといいます。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きょうは月並の祭日か、日本三大神楽かぐらの一つに数えられている、三峰神社の太鼓が山蔭やまかげにとどろいて聞こえてくる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山蔭やまかげの土に四つきも五つきもひつゝいて居る落葉のやうなものを着て居るのです。竹の棒やら、木のはしやらを皆持つて居て私等の足に近い所を叩いて居るのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
するとそのとき、このくに国守こくしゅ山蔭やまかげ中将ちゅうじょうという人が、おおぜい家来けらいれておとおりかかりになりました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
こう思って各々めいめいは同じく山下へ入り込んで行きましたが、究竟くっきょうと思う木蔭こかげ山蔭やまかげをも無事に通り抜けさして、ついに鶯谷うぐいすだに新坂しんざかの下まで乗物を送って来てしまいました。
「こんなふうにたびたびお訪ねくださる光栄を得て、山蔭やまかげの家も明るくなってきた気がします」
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まどはしの幸福に暫くの間溺れ——次には悔いと恥ぢの苦い涙にむせんでゐるのと——村の小學教師となつて健全な英國中部地方の快い山蔭やまかげに、自由に、正直にしてゐるのと
今夜は宿が見つからず、山蔭やまかげの渓谷の大樹の下に草をいて、四人がごろをしている。
売茶翁ちやをうるおきなに問ば、これは山蔭やまかげの谷にあるなり、めしたまはゞすゝめんといふ。さらばとてひければおきな菜刀なきりはうてうとりさらのなかへさら/\とおとしてけづりいれ、豆のをかけていだせり。
その蓮池の山蔭やまかげ
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見返ればハヤたらたらさがりに、そのかた躑躅つつじの花にかくれて、かみひたる天窓あたまのみ、やがて山蔭やまかげに見えずなりぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黄昏たそがれ近きを思わせた山蔭やまかげの道も、明るくひらけて来た視野には、なお夕陽にはだいぶ間のある空であった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売茶翁ちやをうるおきなに問ば、これは山蔭やまかげの谷にあるなり、めしたまはゞすゝめんといふ。さらばとてひければおきな菜刀なきりはうてうとりさらのなかへさら/\とおとしてけづりいれ、豆のをかけていだせり。
普通の人から立てられる使いもまれな山蔭やまかげへ、院のお便たよりを持って阿闍梨が来たのであったから、宮は非常にうれしく思召して山里らしい酒肴しゅこうもお出しになっておねぎらいになった。お返事
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はたうつや鳥さへなか山蔭やまかげ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
南むきの山蔭やまかげに七、八軒の長屋がある。時親に代って飛び領の百姓を差配している山武士の家族と牛や馬の小屋だが、同日のひるさがり、上の山荘から耳の遠いばばがここへ来て
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みづを……みづをとたゞつたのに、山蔭やまかげあやしき伏屋ふせや茶店ちやみせの、わか女房にようばうは、やさしく砂糖さたうれて硝子盃コツプあたへた。藥師やくし化身けしんやうおもふ。ひとなさけは、ときに、あはれなる旅人たびびとめぐまるゝ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし小野の山蔭やまかげには春のきざしらしいものは何も見ることができない。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ちゝところ巡廻じゆんくわいしたせつ何処どこ山蔭やまかげちひさなだうに、うつくし二十はたちばかりのをんなの、めづらしい彫像てうざうつたのを、わたくし玩弄おもちやにさせうと、堂守だうもり金子かねつて、とものものにたせてかへつたのを、ほか姉妹きやうだいもなし
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)