小紋こもん)” の例文
春陽堂あたりでさえも文芸物出版社としての誇りをかなぐり捨て、あられ小紋こもん風の表紙、菊判百頁前後の探偵小説十数冊を出版し
その小紋こもん女羽織をんなばおりはわたしの母が着た物である。母もとうに歿してしまつた。が、わたしは母と一しよに汽車に乗つた事を覚えてゐる。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今の歌右衛門うたえもん福助より芝翫しかんに改名の折から小紋こもん羽織はおり貰ひたるを名残りとして楽屋を去り新聞記者とはなりぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
五人一座の二人までは敷かせる座蒲団ざぶとんの模様が違って、違った小紋こもんも、唐草も、いずれ勧工場かんこうばものにあらざるなく、杯洗はいせん海苔のりとお銚子ちょうしが乗って出るのも
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あお天鵞絨ビロードの海となり、瑠璃色るりいろ絨氈じゅうたんとなり、荒くれた自然の中の姫君なる亜麻の畑はやがて小紋こもんのようなをその繊細な茎の先きに結んで美しい狐色に変った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小紋こもん石持こくもちを着た年増の女の、庭下駄にわげた穿いて石燈籠いしどうろうの下に蹲踞うずくまっている人形———それは「虫の音」という題で、女が虫の音に聴き入っている感じを出すのだと云って
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
思い出もいまは古い、小紋こもんの小切れやら、更紗さらさ襤褸つづれや、赤い縮緬ちりめんの片袖など、貼板はりいたの面には、彼女の丹精が、細々こまごまつづられて、それはるそばから、春の陽に乾きかけていた。
コートの下には小紋こもんらしいむらさきがかった訪問着がしなやかに婦人の脚を包み、白足袋しろたびにはフェルト草履ぞうりのこれも鶯色のわせ鼻緒はなおがギュッとみついていた——それほど鮮かな佐用媛なのに
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれ忍艸しのぶぐさ小紋こもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる姿(すが)たいま幾日いくひらるべきものぞ年頃としごろ日頃ひごろ片時かたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむね今日けふまでの物思ものおもひはそも幾何いくばく昨日きのふ夕暮ゆふぐれふくなみだながらかたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お蓮はそう尋ねながら、相手の正体しょうたいを直覚していた。そうしてこのの抜けた丸髷まるまげに、小紋こもんの羽織のそでを合せた、どこか影の薄い女の顔へ、じっと眼を注いでいた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もつと神樂坂かぐらざか歩行あるくのは、細君さいくんつて、ちつともたのしみなことはなかつた。すでうちにおさんをれて、をりは、二枚袷にまいあはせ長襦袢ながじゆばん小紋こもん縮緬ちりめんもん羽織はおりで、白足袋しろたび
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頭を綺麗に小紋こもんの羽織に小紋の小袖こそですそ端折はしおり、紺地羽二重こんじはぶたえ股引ももひき白足袋しろたび雪駄せったをはき、えりの合せ目をゆるやかに、ふくらましたふところから大きな紙入かみいれの端を見せた着物の着こなし
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえば婦人の服色でも、眼を刺すような色柄は見られぬし、髪ひとつひもにしても、つかい捨てにしていないのがわかる。男の服装はなおさらで、茶、暗藍色あんらんしょく、せいぜいが小紋こもんあられぐらい。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木綿もめん小紋こもんのちゃんちゃん子、経肩衣きょうかたぎぬとかいって、紋の着いた袖なしを——外は暑いがもう秋だ——もっくりと着込んで、裏納戸うらなんど濡縁ぬれえん胡坐あぐらかいて、横背戸よこせどに倒れたまま真紅まっかの花の小さくなった
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その深川ふかがわ吉原よしわらなるとを問わず、あるひは町風まちふうと屋敷風とを論ぜず、天保以後の浮世絵美人は島田崩しまだくずしに小紋こもん二枚重にまいがさねを着たるあり、じれつた結びに半纏はんてんひっかけたるあり、しぼり浴衣ゆかたを着たるあり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まなこするどはなうへしわ惡相あくさうきざそろへる水々みづ/\しきが、小紋こもん縮緬ちりめんのりうたる着附きつけ金時計きんどけいをさげて、片手かたてもすそをつまみげ、さすがに茶澁ちやしぶはぎに、淺葱あさぎ縮緬ちりめんからませながら、片手かたてぎんくさりにぎ
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)