くわ)” の例文
脚本に道具がくわしく指定してあればそれによって画けるわけだけれども、ただ農家の内部位な事じゃ、どうやっていいかわからない。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ああ、くわしくここに写さんも要なけれど、余が彼をづる心のにわかに強くなりて、ついに離れがたきなかとなりしはこの折なりき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「今やからあんたはんに言いますけど、真相ほんとうはこうやのどす」といって、なおくわしく話して聞かせたところによると、こうであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
奥畑の手紙にも「夙川でお目に懸った」むねを記しているが、どう云う風にして何処で落ち合うのか、くわしい様子は語ったことがない。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
特に「塩市」のにぎわい隣国に並びなきことと、町の催し、諸国から集まる見世物、放下師ほうかしたぐい、その辺についての説明はくわしいもの。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もしあなたの保子さんに対するお考へが本当にくわしく伺へれば本当にいいと思ひますけれど、それも無理には伺ひたくありません。
「そこを何とか工夫して見ようじゃないか。貴様は俺より人間の身体の中のことはずっとくわしいはずだから、一つよく考えて見てくれ」
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
この事については私も娘読本をあらわす時くわしく意見を書くつもりですが簡略に申せばず英国風の習慣を採用するのが上策かと思います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ただ母は昔からの為来しきたりを非常に尊び、年中行事にくわしく、それをきちんきちんとやった。未だにその習慣が思い出されると悪くない。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
わたくしはおしかさんと膝組ひざぐみで、そうした恋のいきさつを聴いて、おしかさん一人について何時いつくわしく書こうと思っている。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
長「何分頼むよ、おめえのお蔭でくわしい事が知れて有難ありがてえ……ムヽそうだ、婆さん、お前その、長左衛門の先祖の墓のある寺を知ってるか」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くわしい事は書けないがチベット内地のここギャア・カルコまで来たということをインドのサラット・チャンドラ・ダース師に知らしたい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この事をいまこゝでくわしくは話さないでも、私の今までの性格なり行動なりを知っている蝶子さんには大体察しがつくでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お仙はどうしたかいナア」と不幸な娘のことまでくわしく聞きたがる母親を残して置いて、翌日あくるひ正太は叔父の許をって行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あなたはまだ、私のくわしい経歴は御存じないでしやうが。私の身の上は、実にこのこわれ指環によく似てゐるのでござります。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「宗匠は、なんでもくわしいが、チト当社のつうでも並べて聞かしたら如何どうかの。そのうちには市助いちすけも、なにかさかなを見附けて参るであろうで……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その夜万年屋のいないのを、同宿の者がいぶかって女房に聞いたが、ただちょっと田舎へとのみで、くわしいことは言わなかった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
北斎の三冊本、福徳和合人の中から、男の姿を取り去り、女の方ばかりを残したものもあったので、わたくしはくわしくこの書の説明をした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
叔母は気の毒そうに、なぜ小六の世話ができなくなったかを、女だけに、一時間も掛かってくわしく説明してくれたそうである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今回のはこの種のわたしの第二回の試みで、それをここに、よりくわしく述べようと思うのである。便宜上、二年間の経験をひとまとめにする。
出来るだけくわしくと、なおなおがきの付いた手紙を受取ったとき、孝之進はお咲を入れて置く部屋の準備にせわしかった。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もう少しくわしくいえば、戞然かつぜんとして木を打ち割った音と同時に鶯がいたので、「音にうち当る」といったものであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
『いろ/\くわしいことうけたまはりたいが、最早もはやるゝにもちかく、此邊このへん猛獸まうじう巣窟さうくつともいふところですから、一先ひとま住家すみかへ。』とじうつゝもたげた。
ひじり生れは、大和葛上郡——北葛城郡——当麻村というが、くわしくは首邑しゅゆう当麻を離るること、東北二里弱の狐井・五位堂のあたりであったらしい。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
でもこの書物には白髪小僧様と、妾の身の上にいて、今まであった事や、行く末の事がすこしも間違いなくくわしく書いてあるので御座いますもの。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
それとも片はずしというようなことかと、くわしく聞いてみたでございますが、当人その辺はまるで見境みさかいがございません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くわしくいうと、そこにはもう、三つのイズムはなくして私のみがある。こうした個性の状態を私は一番私に親しいものと思わずにいられないのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いかにもして逃ぐべき支度をして逃げ給へ、門を堅く鎖しておぼろけにて、逃ぐべきやうなしと、くわしく教へければ、ありつる居所に帰り給ひぬ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
みんなをひきいている親鳥おやどりは、むずかしいかおつきをして、「わたしたちはどんなに心配しんぱいしていたかしれない。どこへいってきたのか、くわしくはなしなさい。」
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは近頃もっぱら事実を尊ばれる小説家の微妙な観察によっくわしく描写していただいたならば明白になるかも知れません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
私の隣人は、彼女が其の自分の子供達に就いて持つてゐる経験をくわしく話した。男の子は三つで、女の子は九つだつた。二人とも託児所に預けてあつた。
死んだ魂 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
くわしい事はイワンがお話しいたしましょう。私は仕事に取かからなくてはならんし、その筋へ報告を書かなくてはならん。もう黙っているわけにはかんです。
ようよう妹をすかして、鉛筆と半紙を借り受け急ぎ消息はなしけるも、くわしき有様を書きしるすべきひまもなかりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いずれ後からまたくわしいことは通達するが、それまではかまえて静穏にしているようにというのであった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
先ほど私からくわしく申上げましたような事情がおわかり下されば、そうは考えられないと存じますが……
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この時の事を私は何とかしてくわしゅう調べよ思うて、随分苦心しましたけンど、恰度その当時居合した人夫が、死んだり、他所よそへ行ったりして、一人もおりまへん。
私は無論のこと、母も大いによろこび、お礼を申し述べ、その日は母と一緒に、十一年ぶりで我家に帰って父にもその由をくわしく話しました。父も非常に喜びました。
山内侯爵家の祖先が、土佐で実行せられたという対地侍策のごときは、なかんずくこの経過をくわしく語っている。最初には最も強硬な少数をおびき出して来て殺した。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
父は佐伯文一さえきふみかずといって多分今静岡県の浜松にいると思いますし、母は金子きくのといって、くわしい消息はわかりませんが多分郷里くにの実家の近所におることと思っています。
そう云ふ事にくわしい人達は、その一生を植物の研究に費してゐる。その人達を植物学者といつて、植物の事については、出来るだけ間違ひのない事を私達に話してくれる。
男はお庄に東京へ出たら、是非店へ遊びに来いと言って、そこをくわしく教えてくれた。お庄のこともいろいろ聞きたがった。お庄は女たちにそのことをいろいろ言われた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
倭国とは、くわしくは倭人の国の義で、もとは一国の名称として呼ばれたものではなかった。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
くわしいことは途々みちみち話すとして、すまないが君のあの上等の双眼鏡を持って来てくれたまえ
げいがよくって愛嬌あいきょうがあって、おまけに自慢気じまんげなんざくすりにしたくもねえッておひとだ。——どこがわるくッて、どうたおれたんだか、さ、そこをおいらに、くわしくはなしてかしてくんねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのほか、中央の言語にないような音もあって、音韻組織に違いがあったろうと考えられるが、くわしいことは知り難い(東国語の中でも、勿論土地によって相違があったであろう)
国語音韻の変遷 (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
くわしい話をセエラにしてくれたのは、美しい、感じのいいカアマイクルの奥様でした。
人の家に行きたる家が己が家なり。故にその家の先祖は己が先祖なり。ゆるがせにする事なかれ。また先祖の行状功績等をもくわしく心得置き、子供らへ昔噺むかしばなしの如くはなし聞かすべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
日本の事だから我々にくわしい事情のわかけはない、分りはしないけれども、どうも大体を考えて見た所で日本は小国だ、アヽう小さな国に居て男子の仕事の出来るものじゃない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分はくわしく聞きもしたし、細工物は手に覚えもあるので、あちこちから材料や道具さえあつめれば、自分の手一つでこっそりその機械をつくり上げて、機械さえあればひと晩に十五
書かれた。で、初対面の時のことも、その何れかでくわしく書かれている筈である。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)