大勢おおぜい)” の例文
元園町一丁目十九番地の角店かどみせで、その地続きが元は徳川幕府の薬園、後には調練場となっていたので、若い侍などが大勢おおぜい集まって来る。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いったい世間のものは、みんな十人十色で、どれだけ大勢おおぜいの人が集まっていても、寸分たがわぬ、同じ人間は、一人もありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それでも二時を聞いてしまうと、ようやく眠気ねむけがきざして来た。——お蓮はいつか大勢おおぜいの旅客と、薄暗い船室に乗り合っている。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大勢おおぜいの人が松明たいまつをふりかざし、かね太鼓たいこを打ち鳴らし、「おーい……おーい……」と呼びながら、川の土手どてから、こちらへやって来ます。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
へんな声だと思ったのは、黒んぼが大勢おおぜいよってたかって、私のいかだを、土手の方へ引っぱっていこうとしていたのでした。
障子しょうじを取り払ったその広間の中を見上げると、角帯かくおびめた若い人達が大勢おおぜいいて、そのうちの一人が手拭てぬぐいを肩へかけておどりかなにかおどっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時にも私は学業の進歩が随分速くて、塾中には大勢おおぜい書生があるけれども、その中ではマア出来のい方であったと思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
唖の巳代吉が裸馬はだかうまに乗って来た。女子供がキャッ/\さわぎながら麦畑の向うを通る。若い者が大勢おおぜい大師様の参詣さんけいに出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この人であろうかと推量すいりょうめぐらすのが大勢おおぜいの人に関するから、つまり大勢の人が僕には恩人のごとき感を与えている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
するとかねてから為朝ためとものゆくえをさがしていた平家へいけかって、為朝ためとも油断ゆだんをねらって、大勢おおぜいにおそいかかってつかまえてしまいました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「オヤオヤオヤ、なんだなんだありゃ、まッ黒に顔をつつんで、目ばかり光らしたさむらい大勢おおぜいここへのぼってくるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆうべ、自分の家へ帰って来やしてね。大勢おおぜいで祝いの真似をして飲んだり食ったりして、寝間へ這入ったそうですが、今朝お袋が起こしに行くと、胸元を
すぐに村の若いしゅ大勢おおぜい参りましたけれども、其の甲斐もなくもう間に合いませんで、誠に情ないことでございます
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『おう、ポリデクティーズ王様、』と彼は叫びました、『そして大勢おおぜい方々かたがた、私はあなた方にゴーゴンの首をお見せすることは、ひどく気がすすまないのです!』
まあ、邪魔じゃましないでちょうだい。とにかく、すばらしい舞踏会なの。お客も大勢おおぜいいて、それがみんな若くて、立派で、勇敢ゆうかんで、みんな夢中むちゅうで女王様にこいしているの
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
薺を打つ板は元来きまったものがあったのであろうが、大勢おおぜいの手に行渡るほどはないので、そこらにあり合せの板切でたたいている、というのが吏全の句意である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その晩は恐怖に明けて翌る朝、近所の川本かわもとの原に大勢おおぜい避難していると聞いて容子を見に行った戻りに大杉の家を尋ねると、マダ寝ていたが私の声を聞くと起きて来た。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大勢おおぜい食事の折柄おりから腹こなしに一席弁じたくば亜米利加人アメリカじんが食卓の祈祷きとうの如きまだしも我慢がなりやすし。風俗時勢の新旧を問はず宴会といふものほど迷惑千万なるはなし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一族の人びとは死骸に永別を告げるために進んでゆくと、そのあとから大勢おおぜいの会葬者もつづいて、多年自分たちのふまじめな娯楽の関係者であった彼女に最後の敬意を表した。
賑やかな人で、自分の家の二階で八人芸をやっていると、まったくだまされるほど、大勢おおぜいっているようにきこえた。かみさんは新宿あたりのあがりもの(遊女の)で、強者したたかものだった。
こんなことを考えながらやって来ますと、いつのにか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢おおぜいの人があつまっていました。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そこで出逢った大勢おおぜいの旧友や、自由な快闊な生活や、いろいろな芸術的ならびに学問上の興味——こうしたすべてのことが一緒になって、この都会に私の腰をおちつかせてしまったが
なるほど、あくる朝、大勢おおぜいしてがたがた、ものおきをかたづけにきました。そして箱をどけて、もみの木をはこびだしました。それから、かなりらんぼうにゆかのうえになげだしました。
そうして、大勢おおぜいの友達のうちには暗いような物思わしげな顔をしている者があるのを、不思議に思うくらいでありました。わたしは祈祷きとうにその一夜を過ごして、まったく法悦ほうえつの状態にあったのです。
そこで、大勢おおぜいは誘いあわせて四明山へ登ることになった。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
と、大勢おおぜいは叫んでいます。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
彼はただ大光明のために、烈しく眩暈めまいが起るのを感じた。そうしてその光の中に、大勢おおぜいの男女の歓喜する声が、澎湃ほうはいと天にのぼるのを聞いた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帽子はもうちゃんともとの悪魔の姿になって、下水道の口からちょっとのぞいて大勢おおぜいの人を見ると、こそこそと中の方へはいってゆきました。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
言うかと思う間もなく、大勢おおぜいの小さい人間がありのように群集してきて、机に登り、床にのぼって、滅茶苦茶に彼をなぐった。
土間には大勢おおぜい女の人達が立ち働いて煮焚にたきをして居る。彼等夫妻はあがって勘五郎さんに苦しい挨拶した。恵比須えびすさまの様な顔をしたかみさんも出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見ると、弁天堂のまえへ、大勢おおぜいの武士をつれて篝火かがりびかせている者は、かのしずたけ勇名ゆうめいをはせた、加藤虎之助かとうとらのすけしん、井上大九郎であることがわかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又は私が外国からもっかえった原書の中の不用物をうったりして金策をして居ましたが、何分大勢おおぜいの書生の世話だからその位の事ではとて追付おいつく訳けのものでない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
富「処が向が大勢おおぜいでげすから、此方こっちが剣術を知っていても、大勢で刃物を持って切付けるからかないません」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
為朝ためともちからつよいばかりでなく、おとうさんに孝心こうしんぶかいと同様どうよう、だれにかってもなさけぶかい、こころのやさしい人でしたから、三ねんいるうちにこんなに大勢おおぜいの人からしたわれて
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「僕は苦手なんです……大勢おおぜいの人前へ出るのは……」とわたしは、眼を上げずにつぶやいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
二人は早速閑地あきちの草原を横切って、大勢おおぜい釣する人の集っている古池のなぎさへと急いだ。
大勢おおぜい神将しんしょう、あるいはほこり、あるいはけんひっさげ、小野おの小町こまちの屋根をまもっている。そこへ黄泉よみの使、蹌踉そうろうと空へ現れる。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてなお足で逃げようとするのを、強い家来達が大勢おおぜいで取って押えて、象の背中のかごの中へ入れてしまい、籠の上にはさらに袋をかぶせました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
京王電鉄調布上高井戸間の線路せんろ工事こうじがはじまって、土方どかた人夫にんぷ大勢おおぜい入り込み、鏡花君の風流線にある様な騒ぎが起ったのは、夏もまだ浅い程の事だった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
父が三回忌の法事を檀那寺で立派に営んだ時には、子分らしい者が大勢おおぜい手伝いに来ていて、田舎かたぎの親類たちを驚かした。足利の姉は涙をこぼして帰った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さらにあわれをとどめたのは——大勢おおぜいの客を呼びあつめ足駄あしだばきで三ぼうにのっていた歯磨はみがき売りの若い男、居合いあいの刀を持っていたところから、一も二もなく目がけられて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わたしならね」と彼女は、両手を胸に組んで、をわきの方へそそぎながら、言葉を続けた。——「若いむすめ大勢おおぜい、夜中に、大きなふねに乗って——静かな河に浮んでいるところ、それを書くわ。 ...
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
相手は大勢おおぜい、蟠龍軒はすきあらば逃げたいのは山々でござりますが、四辺あたりは一面土手をいたる如く立錐りっすいの余地もなく、石川土佐守殿は忍び姿で御出馬に相成り、与力は其の近辺を警戒して居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
妹の方はうちで母親と共にお好み焼をあきない、姉の方はその頃年はもう二十二、三。芸名を栄子といって、毎日父の飾りつける道具の前で、幾年間大勢おおぜいと一緒に揃って踊っていた踊子の中の一人であった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
刑場のまわりにはずっと前から、大勢おおぜいの見物が取り巻いている。そのまた見物の向うの空には、墓原の松が五六本、天蓋てんがいのように枝を張っている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
街中に明るく燈火あかりがともっていて、大勢おおぜいの人がぞろぞろ通っていて、おもしろい蓄音機ちくおんきの音までも聞こえています。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もし運動会に似たようなものを求むれば、土曜日の午後や日曜日に大勢おおぜいが隊を組んで、他の学校へ喧嘩けんかにゆくことである。相手の学校でも隊を組んで出て来る。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ダダダダッとかかとを鳴らして後ろへ退がって来たし、後方の者は、争って前へ押して来るため、大勢おおぜいという力の自体が、咄嗟に混乱を起して、味方は味方の足手纒あしでまといとなるばかりだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すらり引抜いて一生懸命に大勢おおぜいを相手にちゃん/\切合いましたから、刀の尖先とっさきから火が出ました、真に火花をちらすとはこの事でしょう、けれども多勢に無勢と云う譬えの通りで、とてかなわぬから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この事一校の評判になりて大勢おおぜいのものより常に冷笑せられたり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)