うま)” の例文
やあ? きぬ扱帶しごきうへつて、するりとしろかほえりうまつた、むらさき萌黄もえぎの、ながるゝやうにちうけて、紳士しんし大跨おほまたにづかり/\。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分は依然として病院の門をくぐったり出たりした。朝九時頃玄関にかかると、廊下も控所も外来の患者でいっぱいにうまっている事があった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頁には、昨日の日附と夕刻の数字とが欄外らんがいに書きこんであり、本欄の各項はそれぞれ小さい文字でうまっていた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おめえと従兄弟いとこ同士の源右衛門はどうした。駈け落ちをしたと云うのは嘘で、あの抜け道のなかにうまって死んだのだろう。その死骸はどこへ隠した」
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
禿谷には、その翌日、一山の人々がきびすをついでぞろぞろとれてきた。講堂は立錐りっすいの余地もなく人でうまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姐さん一人に八割も頭をはねられるんではうまらねえ、どうだ、このへんで姐さんと手を切ろうじゃねえか
いやだった。——そしてスタンフォドに着いたら、大学の森中、数千台の自動車でうまっている人出でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ならんでつて望生ぼうせい膝頭ひざかしらどろうまつてるのを、狹衣子さごろもし完全くわんぜん土器どき間違まちがへて掘出ほりださうとすると、ピヨイと望生ぼうせい起上たちあがつたので、土器どき羽根はねえたかとおどろいたのも其頃そのごろ
あっしなんざ、内儀さんにはよくする方なんだ。これで不足を言われちゃうまらないや。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
丁度紅葉もみじも色づきます秋のことでげすが、軍艦が五艘ごそうも碇泊いたし宿しゅくは大層な賑いで、夜になると貸座敷近辺はまるで水兵さんでうまるような塩梅、いずれも一杯召食きこしめしていらっしゃる
だから風琴がなくなった時の事を考えると、私は胸に塩がうまったようで悲しかった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
空と艸木くさきとのうつつた池の水面が、ほとんどうまる位な蛙だから、賛成の声も勿論もちろん大したものである。丁度ちやうどその時、白楊はこやなぎの根元に眠つてゐたへびは、このやかましいころろ、かららの声で眼をさました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
即ち近くで泣く子供をしかり付けながら、足のしびれをまんしながら、遠いせりふを傾聴しながらあるいは弁当とみかんの皮にうまりながら、後ろの戸の隙間すきまから吹き込む冷たい風を受けながら
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
店という店、もう九割はそれでうまる。かつて都を指してのぼった地方の品々は、その逆流に手向うことが出来ない。特色ある各地の伝統と技術とは無数の優れた職人と共にたおれつつあるのである。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ほめてでももらわなくちゃあうまらないヨ、五十五銭というんだもの。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その夜、まつしろいものにうまつて寝た。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
横竪よこたての目盛りは一手ひとてごとにうまって行くのだから、いかに呑気でも、いかに禅機があっても、苦しくなるのは当り前である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
地震ぢしんえらおつぱだかつて、しやつきりのこつたのはお天守てんしゆばかりぢや。人間にんげんいへ押転おつころばして、ほり半分はんぶんがたうまりましけ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第七番目、第八番目、第九番目、山の兵営からの手紙は頬を染めるような文字でうまっている。——吾木香われもかうすすきかるかや秋くさの、さびしききはみ、君におくらむ。とても与一の歌ではあるまい。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
入口の瀟洒しょうしゃな新しい小屋や小館こやかたうまっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地質学者の計算によると、五万年ののちには今の渤海湾ぼっかいわんが全くうまってしまう都合になっていますと木戸君が語られた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああ、入替った、うつくしい人の雪なす足は、たちまち砂へ深くうまったんです。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この記憶に富んだ庭も、今は全くきりうまって、荒果あれはてた自分の下宿のそれと、何の境もなくのべつに続いている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
塵芥ごみうまった溝へ、引傾いて落込んだ——これを境にして軒隣りは、中にも見すぼらしい破屋あばらやで、すすのふさふさと下った真黒まっくろ潜戸くぐりどの上の壁に、何の禁厭まじないやら、上に春野山、と書いて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあどのくらいあれば、これまでの穴が奇麗きれいうまるのかと御聞きになるから、——よっぽど言いにくかったんですけれども——とうとう思い切ってね……」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ものこれ、三十年ったとこそいえ、若い女﨟じょうろううまってるだ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は積んである薪をかたぱしから彫って見たが、どれもこれも仁王をかくしているのはなかった。ついに明治の木にはとうてい仁王はうまっていないものだと悟った。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その食事さえ雨が降って車の輪が泥の中にうまって、馬の力ではどうしても運搬うんぱんができなかった事もある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生はどんなはしらいてゐるだらう。与次郎は偉大なる暗闇くらやみなかに正体なくうまつてゐるに違ない。……
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「僕か、そうさな僕なんかは——まあ自然薯じねんじょくらいなところだろう。長くなって泥の中にうまってるさ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただその色具合が、とくに現代を超越して、上昔そのかみの空気の中に黒くうまっている。いかにもこの古道具屋にあってしかるべき調子である。井深はきっと安いものだと鑑定した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中にうまっているのを、のみつちの力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが不思議にも続きもので、右のはじいわの上に立っている三羽の鶴と、左のすみに翼をひろげて飛んでいる一羽のほかは、距離にしたら約二三間の間ことごとく波でうまっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君は私がなぜ毎月まいげつ雑司ヶ谷ぞうしがやの墓地にうまっている友人の墓へ参るのか知っていますか」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市蔵はようやくあきらめたという眼つきをして、一番しまいに、「じゃせめて寺だけ教えてくれませんか。母がどこへうまっているんだか、それだけでも知っておきたいと思いますから」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
壕はどのくらいうまったか分らないが、先の方から順々に飛び込んではなくなり、飛び込んではなくなってとうとう浩さんの番に来た。いよいよ浩さんだ。しっかりしなくてはいけない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は手欄のそばまで近寄って、短い首をのばして穴の中をのぞいた。するとはるかの下は、絵にかいたような小さな人でうまっていた。その数の多い割にあざやかに見えた事。人の海とはこの事である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あの橋は人でうまっている」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)