地面じべた)” の例文
老耄ろうもうしていた。日が当ると茫漠ぼうばくとした影がたいら地面じべたに落ちるけれど曇っているので鼠色の幕を垂れたような空に、濃く浮き出ていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
う心は、両足を地面じべたに喰っつけていて歌う詩ということである。実人生と何らの間隔なき心持をもって歌う詩ということである。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
そして悪口が見つかったので、やはり顔を地面じべたうずめたまま、わらいこけながら大声おおごえでそれをいってやった。けれどなんの返事もなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
押し合い、へし合いしている、その前後左右に出没して、また別な頑童共が、割竹を持って地面じべたを打叩きながら、噺し立てている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地面じべたである。しかも、いつか、龍に化している長たらしい全身から、鱗が一枚ずつげ落ちて、ウナギに似た無残さになっていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
爺どのは二度吃驚びっくりちかけた膝がまたがっくりと地面じべたへ崩れて、ほっと太い呼吸いきさついた。かっとなって浪の音も聞えませぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土下座とか云って地面じべたへ坐って、ピタリと頭を下げて、肝腎かんじん駕籠かごが通る時にはどんな顔の人がいるのかまるで物色する事ができなかった。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸口の向うに大きな真黒なものがうずくまって、鼻っ面を地面じべたにつけ、眼玉が暗がりにぎらぎらしているのを見たのであった。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
肋骨あばらの張りぐあいと言ったら、ちょっと考えも及ばないくらいで、あしのうらだってまんまるこくって、歩いても地面じべたにつかないような逸物なんだぜ!
丁度彼がむしっている草の芽の地面じべたを割って出て来るように、彼の内部なかきざしたものは恐ろしい勢であふれて来た。髪は濃くなった。頬は熱して来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ラムプを吹消して、手探りで草鞋わらじを穿いて、地面じべたへジカに置いた座布団の上にドッカリと坐って、潜り戸にりかかりながら腕を組んで眼を閉じた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこで、老人は、手がぶるぶる顫えるので、聖水おみずを雨のように地面じべたにこぼしながら、そッと呼んでみた。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その男の隣にしゃがんでいる女は地面じべたに風呂敷包みをひろげて資生堂の粉ハミガキの袋を売っていた。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それから自分はその前の地面じべたにすわって、じっと見入っている様子で黙ったまま身動きもしなかった。
不意ふい出来事できごとに、女房にょうぼうおもわずキャッ! とさけんで、地面じべた臀餅しりもちをついてしまいましたが、そのころ人間にんげん現今いま人間にんげんとはちがいまして、すこしはかみごころがございますから
子供は門の右辺に横たわって顔を地面じべたに向けていたが、彼の顔を見るとわっと泣き出した。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
空想のなかで彼はフォン・コーレンを地面じべたに叩きつけて、両足で踏んづけはじめた。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのサラダは全く地面じべたから湧き出た滋味そのものの新鮮さと気品とをひるがえしている。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
地面じべたに放っぽりかしちゃあおけめえ。あっしが通りかかって飛ぶ所を見て、死骸だけでも揚げたというのも、これも何かの因縁だ。なあ伊助どん、話あ自宅うちけえってゆっくり聞くとしょう。
貴様達は知るまいが……復讐……この恨を晴らすために……晴らすために……ああ愉快だ……俺は復讐のために生きるんだ……俺は貴様達にひざまづいてあわれみを乞わしてやるんだ……地面じべたへ手をつかして……
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
と、地面じべたのたくつた太い木根につまづいて、其機会はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリとれた。チヨツと舌鼓したうちして蹲踞しやがんだが、幻想まぼろしあともなし。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こいつ一匹だけは鬚ぼうぼうの顎を頸飾くびかざりの中へすっこめて、しゃがんだまま、地面じべたにつきそうなくらい身を伏せて、そこからくだんの声を立てているのだが
勇は打ち損ねて、自分の独楽は地面じべたって空廻りをする、今度は勇が先に廻さなければなりません。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お銀様は、まさに近い所の路傍の闇に子供が一人、地面じべたほうり出されて泣いているのを認めました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それからのわたくしはただ一たましいけたきたむくろ……丁度ちょうどむしばまれたはなつぼみのしぼむように、次第しだい元気げんきうしなって、二十五のはるに、さびしくポタリと地面じべたちてしまったのです。
彼は草むしりする手を土の上に置き、冷い快感の伝って来る地面じべた直接じかに掌を押しつけて、夏期学校の講演を聞こうとして諸方から集って来る多くの青年のことを思いやった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
森五市くさ。つらからして、悪逆無道の顔しちょる。ボタ餅を地面じべたにたたきつけて、その上を
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
下ブーロンネー産のかわいいやつです。大変な元気者です。最初は乗馬にしようとした人もあったですが、どうもあばれ者で、だれ彼の用捨なく地面じべたに振り落とすという代物しろものです。
それと一所に、向うから来る者は赤い鳥を左のこぶしに据えて馬の上でニコニコ笑いながら帰って来る藍丸王だという事がわかって、兵隊共は皆一度に矢を外し剣を納めて、地面じべたの上にひれ伏した。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
陰にこもった含み声。弥吉は力なく地面じべたへ坐った。
軒毎のきごとに立たせて、物を売らせるのや、まだ四つか、五つの子供を地面じべたに坐らせて、通る人々に頭を下げさして、ぜにわしめるのなどを、私は、見る時に、血が逆上する。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
祖父じじ言葉ことばには格別かくべつこれとてていうほどのこともないのですが、場合ばあい場合ばあいなので、それは丁度ちょうどしとしとと春雨はるさめかわいた地面じべたみるように、わたくしすさんだむねんできました。
彼は今にも倒れそうにき入りつつ、地面じべたに映る自分の影法師を見た。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その重みで馬の方が危く地面じべたへへたばりそうになった位だ。
両足を地面じべたに着けることを忘れてはいないか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
白髪しらがのおばあさんは、さしているがさを地面じべたいて、子供こどもをすかしたり、なだめたりしました。二人ふたりっている往来おうらいそらには、とんぼが、はねかがやかしながらんでいます。
泣きんぼうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おれは何でもこれは福の神に違いないと思っていて行って見ると、この街の真中の四辻に来て神様は、地面じべたの上を指してそのまま消えてしまった。見るとそこには金剛石ダイヤモンドめた金の指環ゆびわが……
正夢 (新字新仮名) / 夢野久作萠円(著)
Kは、じっとこらして闇の中を覗き込んでいた。折々バサバサと鳴って硝子窓に当るものがあった。風に散る木の葉の音より大きかった。乾き切った地面じべたから舞いあがる黄色な埃でなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
すると間もなく白い馬を二頭附けた立派な馬車が来て、ポストの前に止まりましたが、それを見るとチイちゃんはイキナリ広告サンドイチの服を脱いで地面じべたに放り出して、その馬車に飛乗って手招きするんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
変に黄臭きなくさいような、息苦しいような感じがして気が遠くなりかけたり、口の中がなまぐさくて嘔きそうになったりしましたので、時々眼をあけて、キラキラ光る地面じべたを見ながら、唾を吐き吐き歩きました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その投げ上げた眼の玉が、地面じべたに落ちたその時は
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)