ああ)” の例文
かうしてゐるも宮の事は忘れかねる、けれど、それは富山の妻になつてゐる今の宮ではない、ああ、鴫沢の宮! 五年ぜんの宮が恋い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そんな者と話の合いようが無かろうじゃないか。ああ、年甲斐がいもない、さいというものは幾人いくたりでも取替えられる位の了見でいたのが大間違。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
罪の父はただひと目、御身のかんばせを見たいと切望するが、その願いも今はもうむなしき夢と諦めなければならないのかもしれない、ああ
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ。私はあの時寝台ねだいの中の女を悪魔だと思い込んで殺したので御座いました。この国の秘密を守るため。王様のため。国のため」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
とこういうべきいとまあらず、我にかえるとお杉もいたくお若の身を憂慮きづかっていたので、飛立つようにして三人奥のへ飛込んだが、ああ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、浅間しい! う思ふと、渠はポカンとして眠つて居る佐久間の顔さへ見るも厭になつた。渠は膝を立直して小さい汚ない机に向つた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そう言わないで何卒どうかもすこし此処ここて下さいな、もすこし……。ああ! 如何どうしてう僕は無理ばかり言うのでしょう! よったのでしょうか。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これがこの市の尊敬すべき役人連であった。ああ! この世の中では、痩形やせがたの連中よりも肥りじしの連中の方が確かに上手に物事をやり遂げてゆく。
最初おいて行ったのは、涙香るいこうの訳にかかるユーゴーの「ああ無情」で、「こういうところから始めたらいいがすぺい。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから裏を返して「空間に生れ、空間をきわめ、空間に死す。空たり間たり天然居士てんねんこじああ」と意味不明な語をつらねているところへ例のごとく迷亭が這入はいって来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
涙香といえば、彼の代表作である「ああ無情」「巌窟王」「白髪鬼」「幽霊塔」などに、ことごとくこの「隠れ簔」願望がふくまれているのは興味深いことである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああ、嘘、先生の業、何ぞ千万のうれひ無くして成らんや。我等手をひたひに加へて鏡花楼上の慶雲を見る。欣懐きんくわい破願を禁ず可からずといへども、眼底又涙無き能はざるものあり。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ああ我赤心欲報国」と起し、「蓑笠独耕石水浜」と結んだ。自分にはそれだけ云えば納得出来る。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
然し、ああ、それは全くの空想でした。私は自分が悪魔の弟子であることを忘れていたのでした。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
ああ、ああ、この眼! この顔! おぼえず髪をおさえながら、ああ、だめだ、だめだ、と自分に向って叫んだときの心持。しーんとした明るいすこし西日のさす仕事部屋。
見よ、世界の機運の滔々とうとうとして移りゆくことを。語にいう、千渓万壑せんけいばんがく滄海そうかいに帰し、四海八蛮帝都に朝すと。古今を考えかつ東西をる、また読書人の一楽というべし。ああ
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ああ無心こそたっとけれ、昔は我も何しら糸の清きばかりの一筋なりしに、果敢はかなくも嬉しいと云う事身に染初しみそめしより、やがて辛苦の結ぼれとけ濡苧ぬれおもつれの物思い、其色そのいろ嫌よと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とりわけ今になっても面白かったと思うものは、鉄仮面、死美人、非小説、ああ無情等である。
黒岩涙香のこと (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ああ、その優しい美しい淋しい笑顏、見る毎に私の胸は今更らしくせき上げて來るのであつた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「非常の人あり、非常の事を好む。ああ非常の人、ついに非常に死す」と記しているそうです。
平賀源内 (新字新仮名) / 石原純(著)
かれは日記帳に、「あゝわれつひにへんや、あゝわれつひに田舎いなかの一教師にうもれんとするか。明日! 明日は万事定まるべし。村会の夜の集合! ああ! 一語以て後日ごじつに寄す」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
桔梗色ききょういろに濃かった木曽御嶽の頭に、朝光が這うと微明ほんのりとして、半熱半冷、半紅半紫を混ぜてく、自分は思った、宇宙間、山を待ってはじめて啓示される秘色はこれであると、ああ
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「人格を尊重し給え」とラエーフスキイはかまわずに、「しょっちゅう人のことをああだとかおおだとか噂ばかりしているんだ。しょっちゅう人の跡をつけ廻して、立ち聞きしているんだ。 ...
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『どうか貧しい寡婦やもめのためになるべく余計に払つてください』それから、またいふ。『ドクトルは麦酒ビール一杯二十五万麻克マルクするといふことを御存じでせうねえ。ああ麦酒ビールが飲みたいですねえ』
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
晴又熱有リ。七月中旬ニ似ル。早ニ起キテ点検ス。墻垣尽クたおレ。樹木半バ倒ル。(略)侯邸吏舎。商店農廬。或ハくだケ或ハ傾ク。水ノ屋ニ升ル有リ。風ノ簷ヲ奪フ有リ。ああ亦甚シイカナ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黒岩涙香に依って、「巌窟王」「ああ無情」が翻訳されたのであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
われ内なる人については神の律法おきてを楽しめどもわが肢体に他ののりありてわが心の法と戦い我をとりこにしてわが肢体の内におる罪の法に従わするを悟れり。ああわれ悩める人なるかな。この死の体より我を
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
子曰く、ああ天予をほろぼせり、天予を喪せり。(先進、九)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
燃ゆる死滅の灰を揚ぐ、ああ、わりなげの悲苦ひく遊戲ゆげ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しかし、ああ! やがてお恵みが下ります時には
我が祈り:小林秀雄に (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ああ、永遠のすまうどよ、噫、怨念おんねんのはらからよ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ああ、かかるもろもろの匂のなかにありて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ああ、よからん、よからん、よからんや!
ああ、なんと云ふ侮辱だらう。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
ああ、吾れ汝を……
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
ああ
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ああ。貧苦ほど痛いものは無いね。貧苦、貧苦、子供は七人もあるし、家内には亡くなられるし——おまけに子供は与太野郎(愚物)ばかりで……。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ああ、お嬢様。貴女あなたがそんなに非道ひどい目にお会いになるのは、皆私が悪いからで御座います。何卒どうぞ御勘弁なすって下さいまし。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
なにしろ私の寿命がはや十分間のあと(いやそれはもう十分間どころか、ただいまでは九分しか残っていないのだ、ああ
放送された遺言 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ世に誰か此のフンの意味の能く解る人があらう。やがて身をかがめて、落ちて居た櫛を拾ふ。抱いて居る児はまだ乳房を放さない。随分強慾な児だ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
来た時のやうに立停たちどまつて又、ああ、妖魔にもせよ、と身をてて一所いっしょに殺されようかと思つた。途端に騎馬が引返ひきかえした。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
法律は鉄腕の如く雅之をらつし去りて、あまつさへつゑに離れ、涙によろぼふ老母をば道のかたはら踢返けかへして顧ざりけり。ああ、母は幾許いかばかりこの子に思をけたりけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
極々ごくごく愚鈍の富者は小間物屋の肆前みせさきに立って、ああ悲しいかな、今は吾が買うき何物をも新に見出し得ざるに至ったと嘆じて、何か買いたい物の有った時の幸福さを味わうと同時に
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
迷亭は笑いながら「まあその墓碑銘ぼひめいと云う奴を見せ給え」と原稿を取り上げて「何だ……空間に生れ、空間をきわめ、空間に死す。空たり間たり天然居士ああ」と大きな声で読みあげる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大亜細亜主義の大旆たいはいでも振りかざして政府を泣かせることを職業とするムッソリーニ式英雄を思い出すが、黒岩涙香というペンネームをきくと、どうしてもああ無情や鉄仮面の読者を思い出す。
黒岩涙香のこと (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
先生詩酒ニ跌倒てっとうシ傾倒淋漓りんり磅礴ほうはくきわまりナシ。ああすでシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ああ、たまらない。貞淑な妻を疑って惨殺したとは!」
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
ああ彼女かのひとにのみ内証ないしようの秘めたる事ぞなかりける。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
えて落ちたるこのみかと、ああよ、空に
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)