きっ)” の例文
生前の深山木の鋭い探偵眼に驚いていた私は、ここにその深山木以上の名探偵を発見して、更らに一驚いっきょうきっしなければならなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
団飯むすびからあしごしらえの仕度まですっかりして後、叔母にも朝食をさせ、自分も十分にきっし、それからすきを見て飄然ふいと出てしまった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
する時は必ず大人おとなの真似をするされば彼女も自分は検校に愛せられていたのでかつておのれの肉体に痛棒つうぼうきっしたことはないが日頃の師匠の流儀りゅうぎ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「これは思いがけない好物のお贈り物。わけて秀吉どののお志とあれば風味ふうみきっすべしと存ずる。遠慮なく頂戴いたそう」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、それにはみみかたむけず、まちのカフェーへいって、外国がいこくさけんだり、紅茶こうちゃきっしたりして、終日いちんちぼんやりとらすことがおおかったのでした。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
帰途勧工場かんこうばに入りて筆紙墨ひっしぼくを買い調ととのえ、薄暮はくぼ旅宿に帰りけるに、稲垣はあらずして、古井ひとり何か憂悶ゆうもんていなりしが、妾の帰れるを見て、共に晩餐をきっしつつ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
台所では毎日緑青のいた有毒食物をきっしながら二百円も三百円も奮発して贅沢な翫具おもちゃを買うのだね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、もしこの手紙を受け取ったとすれば、君は必ず僕の運命に一驚いっきょうきっせずにはいられないであろう。第一に僕はチベットに住んでいる。第二に僕は支那人しなじんになっている。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その私の繰り返し繰り返し言った忠告が効を奏したのか、あるいは、かのシェパアドとの一戦にぶざまな惨敗ざんぱいきっしたせいか、ポチは、卑屈なほど柔弱にゅうじゃくな態度をとりはじめた。
要塞のうえには、今もなお敵の決死隊のしるしらしい骸骨の旗が、へんぽんとしてひるがえっているのであった。命令しない戦闘に大勝利を博し、命令した戦闘に敗北をきっしている。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふるって驀地ばくちに進めとえたのみである。このむさくろしき兵士らは仏光国師の熱喝ねっかつきっした訳でもなかろうが驀地に進むと云う禅機ぜんきにおいて時宗と古今ここんそのいつにしている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私もふだん人から年少に見られる方ではあるが、鳴尾君の飛び抜けた若さには一驚いっきょうきっした。村木さんはまた私より二つ上の二十七であったが、私達が幼いせいか、ぐっと老けて見えた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
つぶてのごとく身を躍らして、突如! 左膳をおそうと見せて一瞬に右転、たちまち周囲にひろがりかけていた助勢の一人を唐竹割り、武蔵太郎、柄もとふかく人血をきっして、ッ! と鳴った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先年、二年あまりアメリカの研究所で仕事をして見て、日本とくらべてあまりにも研究能率の差があるのに、一驚をきっした。日本だったら、二十年かかる仕事が、アメリカでは二年で出来るのである。
線香の火 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
さすがに葛木は一驚をきっした。あまりの事である。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これには大塔ノ宮以下、一驚をきっして、夜討ちの出鼻をくじかれた。大誤算を生じたらしい。しょせん、正攻ではかなわぬことはわかりすぎている。
部屋の中にいては気が附きませんけれど、暗い屋根裏から見ますと、その隙間が意外に大きいのに一驚いっきょうきっします——稀には、節穴さえもあるのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
外の食物をきっしておればその中に多少の水分がありますから水を飲まないでも済みます。殊に疲労してのどかわいた時は水を何ほど飲んでもその渇きが止まりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
少時しばらく三人が茶をきっしている際でも、別に会話をはずませる如きことはせぬので、晩成先生はただわずかに、この寺が昔時むかしは立派な寺であったこと、寺の庭のずっと先は渓川たにがわ
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついには病前よりも一層の肥満を来し、その当時の写真を見ては、一驚をきっするほどなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そうとはちっとも知らずに、食堂に入って飯を食っていると、突然この顔に出食でっくわして一驚いっきょうきっした。もとより犬の食堂じゃないんだけれども、犬の方で間違えて這入はいって来たものと見える。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かしらそこにあまい満足をきっしているふうだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
桂木一驚いっきょうきっして
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とにかく、上方でも武蔵野でも連敗はきっしてきたが、なおそれくらいな意気はあった。また自信していい兵数もあった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
潤一青年は、あの宝石踊りの黒天使が、たった十分ほどのあいだに背広の男姿になって、自動車を運転してきたのを知ると、一驚をきっしないではいられなかった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平生へいぜい食し習わぬ珍らしき物をきっして非常に美味よきあじを感ずる事あり。また以前好まざりし物を喫してにわかにその味を好むようになる事あり。それらは食物が成分の不足を教えたるなり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
挨拶あいさつ終りて、ふとかたわらに一青年のあるに心付き、この人よ、船中にても種々いろいろ親切に世話しくれたり、彼はそも何人なんぴとなりやとたずねしに、そはにをいう、弟淳造じゅんぞうを忘れしかといわれて一驚いっきょうきっ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その日はなお種々いろいろのものをきっしたが、今くわしく思出すことは出来ない。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その辺りのたたずまいでは、今し方まで、家康の主従と、大徳寺の僧などが、そこで茶をきっしていたらしく思える。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その余りにも大胆な身のこなしに、一驚いっきょうきっしないではいられませんでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これもやっぱり化学作用の一つで肉を食べた後に菓物くだものきっすると消化を助けるぜ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
として彼は今日も、舶載の支那鉢に、ひと株の福寿草を移し植え、それを卓の春蘭しゅんらんとならべて、みずから入れた茶をきっしながら、ひとりかんを養っていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読者諸君は右の記事を読んで、事の意外に一驚いっきょうきっせられたことであろう。物語はまだ始ったばかりだ。それに、主人公である筈の明智小五郎は死んでしまった。これはどうしたことだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分免許の政治家と名乗っている人が家では天保時代てんぽうじだいの台所で野蛮風の食物をきっして、外へ出ると待合まちあいで酒を飲んで芸者を引張るという有様ありさまではどうして一国の文明を進められましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一驚いっきょうきっしたようだった。——が、それはまだ宵のくちのことで、——あわてて彼もその本陣を三条北の河原から悲田院址ひでんいんあとへかけて押しすすめていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるにこの消化吸収という事が一問題で、同じように料理した食物をきっしても人の体質や境遇によっておおいに吸収消化の度をことにしましょうが平生どういう風に心掛けたらいいでしょうか。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
精神分析学の書物を一冊でも読めば、幽囚された慾望というものが、どんなに恐しい力を持っているかに一驚いっきょうきっするだろう。おれは、以前そんな事に興味を持って少しばかり読んだことがある。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや彼の床几はどこにしろ、彼もまたその伝令には、一驚いっきょうきっしたことにちがいない。武将は柵門へ引っ返して来た。そして高氏をいんぎんに迎え入れた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は今の世人せじんを見るのに用がなくして手車へ乗る人が沢山あります。衛生上から申しても車へ乗るより足で歩いた方が運動になりましょう。運動をして食物をきっすれば味も好し、消化吸収もすみやかです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
七時半より七時四十分まで、女中に茶菓を命じ、風月の最中もなかを二箇、お茶を三碗きっした。七時四十分より上厠じょうし約五分にして、部屋へ戻った。それより九時十分頃まで、編物あみものをしながら物思いにふけった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平左衛門は、一驚いっきょうきっしたが、つぶさに見れば、防禦工事はまだ半ばで、けば、案外、もろいかと思われた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼自身の大身代に一驚いっきょうきっしないではいられませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中川は一皿をきっしおわりて再び説明を始めたり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
東野勝って西野に一敗をきっすれば、きのうの田楽狭間でんがくはざまはむしろ笑うべき一朝いっちょう夢花醒散むかせいさんとなってしまう。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利家の水軍の一将、浦兵部丞が敢行した姫路襲撃は、その上陸には成功したが、戦には惨敗をきっした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっと、ひとりで、茶をきっしているうちに、安兵衛は、何かうっすらと、郡兵衛の用向が感じられて来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
織田の群臣が一驚いっきょうきっしたのは、この会盟かいめいが行われたすぐ翌日、元康は、今川領のかみごうの城を攻め、城主の鵜殿長照うどのながてるを斬って、もう陣頭の人となっていたことであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど秀吉の気持は、唐突を知って、ほんの小憩しょうけいを求めに立ち寄ったに過ぎないのであるから、従者の弁当を調ととのえさせ、自分も湯漬の馳走になって、一碗の茶をきっし終ると
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わしも因縁の奇なるに一驚をきっした。しかし、こういう物が世上にもれているとすれば、あの方のことも悠長に構えてはおられない。これは当家に取ってもいい刺戟じゃ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平家は一見、その組織も士気も早、末期のものとは見えるが——と云って、一挙になどと見縊みくびったら、存外な惨敗をきっするかもしれない。すくなくも彼には数十年の集積がある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)