トップ
>
咄嗟
>
とっさ
ふりがな文庫
“
咄嗟
(
とっさ
)” の例文
もしK中尉自身も砲弾のために
咄嗟
(
とっさ
)
に
命
(
いのち
)
を失っていたとすれば、——それは彼にはどう云う死よりも幸福のように思われるのだった。
三つの窓
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「やっつけたな!」
咄嗟
(
とっさ
)
に私は少年のままの君の面影を心いっぱいに描きながら下くちびるをかみしめた。そして思わずほほえんだ。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
立ち
辣
(
すく
)
んだ与次郎、浅黄の頬冠りこそしておりますが、苦味走った三十男、
咄嗟
(
とっさ
)
の間に、万七の手を振りもぎって逃げようとすると
銭形平次捕物控:021 雪の精
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
のことでどうすることもできませんでした。それからあとのことは、病院へかつぎこまれるまでちっとも気がつきませんでした。
鉄の規律
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
「内惑星軌道半径⁉」このあまりに
突飛
(
とっぴ
)
な一言に眩惑されて、真斎は
咄嗟
(
とっさ
)
に答える
術
(
すべ
)
を失ってしまった。法水は厳粛な調子で続けた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
▼ もっと見る
聞いたような声で、たしかに自分を呼ぶのだとは思いましたけれども、お松はこの場合に
咄嗟
(
とっさ
)
に返事をすることができませんでした。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
逃れられぬと分ったので、三谷は
咄嗟
(
とっさ
)
に態度を改めて、見えすいたうそをいいながら、ふてぶてしく笑った。彼も
流石
(
さすが
)
に兇賊である。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
思わず二、三歩飛び退いて、笠の
前縁
(
まえぶち
)
をグイと押えた玄蕃は、二人の虚無僧を見るや
咄嗟
(
とっさ
)
にそれと分っていたが、わざと声を作って
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
天丸左陣はこれを聞くと一時は少なからず
吃驚
(
びっく
)
りしたが、
咄嗟
(
とっさ
)
に思案の
臍
(
ほぞ
)
を決めると、部下の兵を引率して妙高山へ出張って行った。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
彼女は、部屋を
馳
(
か
)
け出そうとしたとき、
咄嗟
(
とっさ
)
に兄のことを考えた。兄は、白痴の身を、監禁同様に葉山の別荘に閉じ込められている。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
誰かに似ている、と
咄嗟
(
とっさ
)
に彼は思ったが、そのまま足音を忍ばせてすばやく窓の下をはなれた。見てはならぬ光景を見た気がしたのだ。
日の果て
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
ふと首を上げた悟浄は、
咄嗟
(
とっさ
)
に、危険なものを感じて身を引いた。妖怪の刃のような鋭い
爪
(
つめ
)
が、恐ろしい速さで悟浄の咽喉をかすめた。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
と
咄嗟
(
とっさ
)
に腹を
極
(
き
)
めた私は、赤いレッテルの生長液の入った壜をとりあげて栓を抜くと、グッと
一
(
ひ
)
と
息
(
いき
)
に生長液を
嚥
(
の
)
んだのであった。
蠅
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
冷
(
れい
)
か、熱か、
匕首
(
ひしゅ
)
、寸鉄にして、英吉のその舌の根を留めようと
急
(
あせ
)
ったが、
咄嗟
(
とっさ
)
に針を吐くあたわずして、主税は黙って
拳
(
こぶし
)
を握る。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の動作だったので、貞之助は
呆気
(
あっけ
)
に取られたが、次の瞬間に、今の紳士が奥畑であったと心付くと、彼も
直
(
す
)
ぐあとから廊下へ出た。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
私の不幸というものについて書くように云われると、何となし当惑したような
咄嗟
(
とっさ
)
の心持になるのは、私ひとりのことだろうか。
フェア・プレイの悲喜
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
はじめての人だが誰だろうと
訝
(
いぶか
)
る妹のよしには、専売局の友達が惣吉の行先を訊いてきたのだと、それでも
咄嗟
(
とっさ
)
に誤魔化すことが出来た。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
に九鬼が非常に莨好きだったことを思い出しながら。そうして彼は夫人の顔が気味悪いくらいに蒼ざめているのに気づいた。
聖家族
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
人間としての偉さなんて、私には
微塵
(
みじん
)
も無い。偉い人間は、
咄嗟
(
とっさ
)
にきっぱりと意志表示が出来て、決して負けず、しくじらぬものらしい。
鉄面皮
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
〈水ヲ下サイ〉と彼は何気なく
咄嗟
(
とっさ
)
にペンをとって書いた。それから彼はMと一緒に中央公民館の方へ、ぶらぶら歩いて行った。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
敦夫は
咄嗟
(
とっさ
)
にそう思った。彼は爪先から氷のような恐怖が
這登
(
はいのぼ
)
るのを感じて、思わず猟銃を
執直
(
とりなお
)
した。呻声は直ぐ続いて起った。
殺生谷の鬼火
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しかしそれから三日すると、あっと思う暇もない
咄嗟
(
とっさ
)
のうちに、老看視人の眼の前で彼はその花を摘み取った。看視人は追っかけて来た。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
私は
咄嗟
(
とっさ
)
の間に身を飜して寝台の中へ飛び込んだ。ストンと音がして、
身体
(
からだ
)
が階段の上に落ちるとすぐに、跳ね起きて階段を駈け降りた。
冥土行進曲
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「
若
(
もし
)
や
山𤢖
(
やまわろ
)
か。」と、市郎は
咄嗟
(
とっさ
)
に思い付いた。で、
先
(
ま
)
ず
其
(
その
)
正体を見定める為に、
袂
(
たもと
)
から
燐寸
(
まっち
)
を
把出
(
とりだ
)
して、慌てて二三本
擦
(
す
)
った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
自分はこの明瞭でかつ
朦朧
(
もうろう
)
なる亭主の頭を居眠りの不知覚から我に返る
咄嗟
(
とっさ
)
にふと見たんである。この時はあまり好い心持ではなかった。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
村岡は
咄嗟
(
とっさ
)
の間に、
先刻
(
さっき
)
丸の内を歩きながら清岡が言った事を思出し、何とも知れぬ恐怖を感じて、首と手を振って早く行けと知らせた。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の謀計で久野はわざと大声に「なあに心配することはないよ。向うが五秒早くたってこっちの
条件
(
コンディション
)
が悪るかったせいだよ」
競漕
(新字新仮名)
/
久米正雄
(著)
その中で
甲斐々々
(
かいがい
)
しく立ち働らいてゐる人影が、お母さんやお
祖母
(
ばあ
)
さんや若い女中だといふことにさへ
咄嗟
(
とっさ
)
には気がつかなかつたさうです。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
かの女は
咄嗟
(
とっさ
)
の間に、おならの
嫌疑
(
けんぎ
)
を甲野氏にかけてしまった。そしてその
為
(
た
)
めに突き上げて来た笑いが、甲野氏への
法外
(
ほうがい
)
な
愛嬌
(
あいきょう
)
になった。
かの女の朝
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そのほか君の前に書画帖を置いて画を
乞
(
こ
)
ふ者あれば君は直に筆を
揮
(
ふる
)
ふて
咄嗟
(
とっさ
)
画を成す。
為山
(
いざん
)
氏の深思熟考する者と全く異なり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
なぜ胸を
小衝
(
こづ
)
かれたような心もちになるか、そして又なぜに自分の視覚がその
咄嗟
(
とっさ
)
の間にどぎまぎして、いままで眺めていたものを
打棄
(
うっちゃ
)
って
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
……で、今も、思わず歓呼の声を挙げかかったのであったが、
咄嗟
(
とっさ
)
の間にそれに気づいて、
辛
(
かろ
)
うじて口を
緘
(
かん
)
したわけである。
吊籠と月光と
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の出来事にこれも面喰って足速やに駈けつけた禅僧は、蒼ざめ、つきつめた顔をかすかに
痙攣
(
けいれん
)
させながら旅人に言った。
禅僧
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の場合、さすがの彼も、そうすることが彼の罪状の自白を意味するということには、まるで気がつかなかったのである。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
「どうしました? 何をそんなに考えていらっしゃる?」と少年は微笑み掛けたが、私は
咄嗟
(
とっさ
)
の機転で「
MR
(
ミスタ
)
・シュータン!」と呼び掛けた。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の事で、私は
唯
(
ただ
)
目をパチクリするだけであつた。その夜書斎へ入ると机の上に、佐々木邦氏主裁のユーモア・倶楽部誌が開いて載つて居る。
釣十二ヶ月
(新字旧仮名)
/
正木不如丘
(著)
手早く仕度をして、良子は気晴らしに表に出た。何日ぶりかすら
咄嗟
(
とっさ
)
には思い出せないほどの、久しぶりでの外出だった。
一人ぼっちのプレゼント
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
余はおのれが信じて頼む心を生じたる人に、卒然ものを問われたるときは、
咄嗟
(
とっさ
)
の
間
(
かん
)
、その答の範囲をよくも
量
(
はか
)
らず、直ちにうべなうことあり。
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
対馬守
(
つしまのかみ
)
は、
咄嗟
(
とっさ
)
にキッとなって居住いを直すと、書院のうちの
隅
(
すみ
)
から隅へ眼を放ち
乍
(
なが
)
ら、静かに
闇
(
やみ
)
の中の気配を
窺
(
うかが
)
った。
老中の眼鏡
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
が、そのとたんに落ちていた桃の枝に足元がひっかかったので、彼は
咄嗟
(
とっさ
)
にそれをすくい上げて抱え込みながら喘いだ。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の間に、ちらりと見ただけで、何であったかわからなかった。ただ
斑
(
まだら
)
に色のついた、かたまりのようなものだった。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
キャラコさんは、あまり思い掛けないことで、呆気にとられ、
閾
(
しきい
)
際に立ちすくんでしまった。
咄嗟
(
とっさ
)
に、何と声を掛けたらいいのか、わからなかった。
キャラコさん:11 新しき出発
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
奴は
咄嗟
(
とっさ
)
にあるだけの力を出して、沈んだがまた浮上った夫を背にかけて、
波濤
(
はとう
)
をきって
根
(
こん
)
かぎり岸へ岸へと泳ぎつき、不思議に危難はのがれたが
マダム貞奴
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
見たような顔! 見たような顔!——
咄嗟
(
とっさ
)
に、眼まぐるしい思案が、壁辰の
頭脳
(
あたま
)
を
駈
(
か
)
けめぐった。と! 思い出した! ぴイン! と来たものがある。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
抜きうちを
喰
(
く
)
わされたような
咄嗟
(
とっさ
)
の
駭
(
おどろ
)
きであった。阿賀妻には茶飯事のこのことが安倍誠之助を
気色
(
けしき
)
ばましていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
しかし此の際
咄嗟
(
とっさ
)
に起った此の不安の感情を解釈する余裕は
固
(
もと
)
よりない。予の手足と予の
体躯
(
たいく
)
は、訳の解らぬ意志に支配されて、格子戸の内に這入った。
浜菊
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
彼女はどちらかと云うと
咄嗟
(
とっさ
)
の思い付きを愛する女で米良は自分の桃色の革命家の恋心について悲しまなかった。
地図に出てくる男女
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の間に為吉は呶鳴った。固く眼を押えて半病人のように這出して来たのは殺された筈の坂本新太郎であった。
上海された男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
と、ふだんの通りの快活な口のきき方で、
斬込
(
きりこ
)
んで来た。何とかうまく
引
(
ひっ
)
ぱずそうと思ったが、手痛い冗談だったので、澤は
咄嗟
(
とっさ
)
に返事が出来なかった。
九月一日
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
嫁が来た日から病に取り
憑
(
つ
)
かれたのだというその意味は、登勢の胸にも冷たく落ち、この日からありきたりの嫁
苛
(
いじ
)
めは始まるのだと
咄嗟
(
とっさ
)
に登勢は諦めたが
蛍
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
“咄嗟”の意味
《名詞》
咄 嗟(とっさ)
極めて短い時間。
(出典:Wiktionary)
咄
漢検1級
部首:⼝
8画
嗟
漢検1級
部首:⼝
13画
“咄嗟”で始まる語句
咄嗟の考察