わし)” の例文
『それでは、わしの姪にあたるのですが、その亭主が絵師えかきですから、其処そこへ行ってお聞きなさい、ナアニ、直き向こうの小さい家です』
職業の苦痛 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
「それはわしにもわからないが、いま時分じぶんりをするのがまちがっている。」と、百しょうはいいのこして、さっさといってしまいました。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
「白い物が何でも査公おまわりさんなら、わしが頭の手拭も査公おまわりさんだんべえ」と、警句一番、これにはヘトヘトの一行も失笑ふきださずにはおられなかった。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「師範なら兎に角物になるが、中学丈けじゃ全く仕方がない。わしもお前一人だから、何うにかする積りでお母さんと話し合ったんだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そうかい! それは、結構だな、わしは、相変らず貧乏でのう。年頃になった娘にさえ、いろ/\の苦労をかけている始末でのう。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なになりとたずねてもらいます。研究けんきゅうめとあれば、わしほうでもそのつもりで、差支さしつかえなきかぎなにけてはなすことにしましょう。
でもしお前の兄の身に暗いところがなかったなら、謀反人呼ばわりしたわしこそ、かえって部落の攪乱みだし者。お前にとっても兄の仇じゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それはわしほうからいふ言葉ことばでさあ。こうして此處こゝうまれて此處こゝでまた俺等わしらです。一つたび土産みやげはなしでもきかせてくれませんか」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「先生様のお為めなら、わしい、何時いつだつて投票するだと、彼方あつちからも此方こつちからも持掛けるんで定めし先生様もお困りでがせうな。」
「……それはなって行くだろうとわしも思う。だから、おばばも元気を出して、ともどもに、あの息子を励ましてやらねばなるまい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だ。あの物のいい振りは。わしはあんな人間がお前の姉の亭主だと思うと厭だからいわなくとも早くどこか探して出てゆくよ」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
わしの処の六角時計ですな、あれが何うも時々針が止つて為様しやうがないのですが、役場に持つて来たら直して貰へるでせうな?』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
炎天つゞきの真夏のことであつた、わしはこの夏米山越をしました。峠の上りにかゝつた頃はもう午下り、一時頃ででもあつたでありませう。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
わしは博勞だがもう先月から越後へ三度も渡るが雜用が掛つてよう儲からんといひながら其風呂敷包から梨を一つ引き出した。
佐渡が島:波の上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それだからこうやって、夜夜中よなか開放あけっぱなしの門も閉めておく、分ったかい。うちへ帰るならさっさと帰らっせえよ、わしにかけかまいはちっともねえ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「黙れ。もうわしの云う事には背かぬと、たった今云ったではないか。この心得違い者が。貴様も矢張り紅木大臣のような眼に会いたいのか」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「あのね、あの虫は大変賢いだらう。だからわしの鼻のあなに沢山毛が生えて、あかもついてゐるから、毛をかつたり垢を掃除したりさせるのだよ。」
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
わしらは直ぐに作男や小作人たちを集めて駆けつけましただが——駄目でがした。殺生谷の入口のところで、木枝に引懸っていた奥様の着物の袖を
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今の今まで隠匿しておった廉で、わしは禁錮を申し渡さなければなりますまい。いや、実は家内に頼まれたのじゃが……
「そんなに何時いつまでも何時までもわし援助たすけたなければならないやうなものなら、何もかもして、地面を俺にかへしてもらはなければならない。」
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
その声はしゃがれていてぎごちなくて、銹びた錠前のようだった。「わし可哀かええそうなベン・ガンだよ。この三年間も人間と口を利いたことがねえんだ。」
「有難うよ。御主人はわしを知ってだから」と、スクルージはもう食堂の錠の上に片手を懸けながら云った。「すぐにこの中に這入って行くよ、ねえ。」
こんなことを少し物をった女である夫人は見苦しがって、冷淡に見ていることで守は腹をたてて、わしの秘蔵子をほかの娘ほどに愛さないとよく恨んだ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わしにはもうじとじとしたのろいの霧が山中にまつわって、木々の影まで怪しくゆらめいて来たような気がするわ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
「人の耳に入ってまこと悪くば、聴いた其奴そやつひねりつぶそうまで。臙脂屋、其方が耳を持ったが気の毒、今此のわしに捻り殺されるか知れぬぞ。ワッハハハ」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
した。主人のわしう手をついてあやまるから、何卒どうぞ内済ないさいにしてくれ。其かわり君の将来は必俺が面倒を見る。屹度きっと成功さす。これで一先ず内地に帰ってくれ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「泊めて呉れるかな」「頼んで御覧ごらうじ、どれわしも一緒に帰つて行かずか、其処まで一緒に行つて上げずよ」
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
「それはそうと親方、お前さんは何かこの道庵に内緒ないしょの頼みがあると言いなすったから、それでわしはやって来たのだが、内密ないしょの頼みというのはいったい何だね」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さようかな、わしは之が大好きでなあ、ビタミンを含んどると云う事じゃ」彼は一つつまんで口へ入れた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
わしにやあ、エドワァドさまのなさることは分つてゐましたさ。きつといつまでも待つちやあゐさつしやらんと思つたが。何しろようござんした。お目出度う!」
わしの第六感ははずれたことがないのだ。それにしても、もう午前三時を過ぎた頃じゃろうが……」
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしとこではお寺の建立があろうが、学校の修繕があろうが、堤防の修築があろうが、先祖代々から一文半りんも出した先例がないので、村のことでさえそういうわけだから
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ハハアわしかとえみを含んで可なり詳しく話して呉れたのであったが、其当時書き留めて置かなかったので殆ど忘れてしまったのは、今思うと誠に惜しいことをしてしまった。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「網は外の柿の木に乾してあるが、お前さん、きつねにでもつままれているじゃないか、わしはこの浦で二十年来漁師をやっているが、買手を待たして置いて獲る程こいは獲れないよ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『大金持にだつてなれるのに此の坊主はわしにたつた一と握りの小麦をねだつたりして。』
「おんしゃら(和歌山の方言でお前という意)わしの兄弟のこと悪う抜かすことないわい」
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「お前に解らないことが、わしに解る道理はないよ。——だが、どんな事なんだ」
昔から君という男を、あれだけ馬鹿にしきって、ふみつけにしてやってきたこのわしという人間——この人間の正体がこれだよ。そういう君から、こんなさ中に握り飯を貰って、ガツガツと食っている。
樹氷 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「遊佐なら人手を待たぬ。わしの心を察して、俺にまかせてくれ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぢやによつて、わしなんざあ、遠くの方はてんきりみんぢやて
星とピエロ (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「この村では、わしを地主だと思ってもらわにゃならん。」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「必要があるか? 娘は今現在□□で悪い奴の、手で苦しめられて逃げることも出来ずに、泣いて居るのですぜ、もう貴方には頼まん、初めから警察へ持てゆかなんだがわしの手落じゃ、警察へ頼みます、帰って下さい」
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
「でお前からわしに頼んでくれと云うんだな。」
過渡人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「さあ、来たぞ。——ここがわしの仕事場だ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
わしらが一生はなほ火事じや
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのとき、わしは、もし、こえがよかったら、ほかのとりにそねまれたり、人間にんげんにねらわれたりして、安心あんしんした生活せいかつおくられないといった。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「瀬戸君、それは富士子の言う通り、わしも甚だ感心しないな。君は引っ張っている事情を知っていながら、何故黙っていたんだね?」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どっこいやらぬ」と引っとらえ、「女の足でこの夜道、しかも険しい山道を、走ったところで間に合わぬ。それよりわしの酌でもせい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その代り、みなもその覚悟してな、入牢じゅろうの腹を決めて下されな。わしも、ことによっては、磔にでもなんでもなる覚悟をするけにな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これからわしもうすところをきいて、十ぶん修行しゅぎょうまねばならぬ。わし産土うぶすなかみからつかわされたそち指導者しどうしゃである、ともうしきかされた。