丹塗にぬり)” の例文
そこは十じょうほどの平座敷で、上段はなく、三方に丹塗にぬり勾欄こうらんのある廊をまわし、坐ったままひろい展望をたのしむことができた。
のき風鐸ふうたくをつるし、丹塗にぬりの唐格子のはまった丸窓があり、舗石の道が丸くッた石門の中へずッと続いている。源内先生は
「何度やつても同じ事だ。それより面倒でも一走り、おれの矢を探しに行つてくれい。あれは高天原の国から来た、おれの大事な丹塗にぬりの矢だ。」
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もうひとここ景色けしきなかとくわたくしいたものは、むかって右手みぎてやま中腹ちゅうふくに、青葉おおばがくれにちらちらえるひとつの丹塗にぬりのおみやでございました。
みるみる品物と人々の位置が定まると、手ぶらと思った先頭の老人はいつのまにか二個の丹塗にぬりの大椀を手にしており、一つを膝そばに置き一つを捧げて私に差す。
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
株立ちのひくい桜は落葉し尽して、からんとした中に、山門さんもんの黄が勝った丹塗にぬりと、八分の紅を染めたもみじとが、何とも云えぬおもむきをなして居る。余は御室が大好きである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
葉桜の緑と、丹塗にぬりの塔との配合が、色彩の上からはっきり頭に残るというだけではない。樹木の緑と建築物の赤との対照は、日本においてはむしろ平凡な景色に属する。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そして、破れ果てた窓口のしとみへ向って、吠えては飛びかかり、躍っては転げ落ちたりして、そのあたりの丹塗にぬりの柱や壁ぶちを、めちゃめちゃに爪で掻きたてているではないか。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一に浅草といひさへすれば僕の目の前に現はれるのは大きな丹塗にぬり伽藍がらんである。或はあの伽藍を中心にした五重塔や仁王門である。これは今度の震災にも幸と無事に焼残つた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
汚れた敷布の上に丹塗にぬりの枕が二つ並んだままにある。それは仲のよい菊龍と富江の「共同の」床であった。彼女等は大抵一緒になることはなかったので一つの床を二人で使っていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
ともしび一つに附着合くッつきあって、スッと鳥居をくぐって来たのは、三人ひとしく山伏なり。白衣びゃくえに白布の顱巻はちまきしたが、おもてこそは異形いぎょうなれ。丹塗にぬりの天狗に、緑青色ろくしょういろ般若はんにゃと、つら白く鼻の黄なる狐である。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ神の御子といふ所以ゆゑは、三島の湟咋みぞくひが女、名は勢夜陀多良せやだたら比賣、それ容姿麗かほよかりければ、美和の大物主の神、見でて、その美人をとめ大便くそまる時に、丹塗にぬりになりて、その大便まる溝より
丹塗にぬり高欄こうらん美々びびしく、見上げるばかりの五重の塔が聳えている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丹塗にぬりのポクリねもかろく
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
『おじいさま、あそこにたいそううつくしい、丹塗にぬりのおみやえますが、あれはどなたさまをおまつりしてあるのでございますか。』
廣い門の下には、この男のほかに誰もゐない。唯、所々丹塗にぬりの剥げた、大きな圓柱まるばしらに、蟋蟀きり/″\すが一匹とまつてゐる。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御免ごめん。」とひざすゝめて、おもてにひたとむかうて、じつるや、眞晝まひるやなぎかぜく、しんとしてねむれるごとき、丹塗にぬりもんかたはらなる、やなぎもとくゞもん絹地きぬぢけて、するりとくと
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
遠くからでも明らかに皇居の大内裏だいだいり十二門の一劃とわかる官衙殿堂が、孔雀色くじゃくいろいらか丹塗にぬりの門廊とおぼしき耀かがやきを放ッて、一大聚落じゅらくをなしており、朱雀すじゃく、大宮などを始め、一条から九条までの大路おおじ
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹塗にぬりらん長廊わたどの
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
はばひろ石段いしだん丹塗にぬり楼門ろうもんむらがるはとむれ、それからあのおおきなこぶだらけの銀杏いちょう老木ろうぼく……チラとこちらからのぞいた光景ありさまは、むかしとさしたる相違そういもないように見受みうけられました。
丹塗にぬりの柱、花狭間はなはざまうつばりの波の紺青こんじょうも、金色こんじきりゅうも色さみしく、昼の月、かやりて、唐戸からどちょうの影さす光景ありさま、古き土佐絵とさえの画面に似て、しかも名工の筆意ひついかない、まばゆからぬが奥床おくゆかしゅう
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ、所々丹塗にぬりげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさ揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寿福寺の丹塗にぬり伽藍がらんが、木々の彼方に紅葉もみじのように見えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつくしき門のいしずえは、霊ある大魚の、左右さうに浪を立てて白く、御堂みどうを護るのを、もうずるものの、浮足に行潜ゆきくぐると、玉敷く床の奥深く、千条ちすじの雪のすだれのあなたに、丹塗にぬりの唐戸は、諸扉もろとびら両方に細めにひら
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丹塗にぬりの柱にとまっていた蟋蟀きりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
丹塗にぬりの柱にとまつてゐた蟋蟀きり/″\すも、もうどこかへ行つてしまつた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)