下手へた)” の例文
「国公、起きて見ろ、いやに荒っぽく門を叩く奴がある、こちとらの門なんぞは、下手へたに叩かれたんではひっくり返ってしまわあな」
「いよ/\以つてお前とは附き合ひたくないよ。人の女房に惚れて、下手へたな碁などを打ちに通ふとは、何といふ間拔な深草ふかくさの少將だ」
下手へたな論文を書いて見ていただくと、実に綿密に英語の訂正はもちろん、内容の枝葉の点に至るまで徹底的に修正されるのであった。
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
賄は七八人以下の団体稼だんたいかせぎの時分には廻りコックにて、これにも初めはひどく閉口したが今では仲々下手へたなおさんどんなどはだしだよ。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
見物の人々は、彼の下手へたカスの芸を見ないで、実物の原田重吉が、実物の自分に扮して芝居をし、日清戦争の幕に出るのを面白がった。
一週間にいちどずつ、近所の中泉花仙とかいう、もう六十歳近い下手へたくそな老画伯のアトリエに通わせた。さあ、それからめた。
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぞうは、下手へたですから、なにか、ほかのものをつくってあげましょう。」といいました。けれど、子供こどもたちは、もう、しんじませんでした。
夏の晩方あった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが私は毎日その母を訪れない振りをして極めて下手へたに母の冷たさを誤魔化しているものだから、やがて辰夫は其れを見破り
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「おおニーナ。いまごろまで、なにをぐずぐずしていたんだ。下手へたなことをやったんじゃないかと、わしは気が気じゃなかったぞ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何やら、戦場へ向うようなここちもせず、船中で下手へたな歌など作ってまいりましたが……いずれいくさの終ったあとで御披露に及びましょう
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明智はクチャクチャになった広告ビラを、丁寧ていねいにひろげてそれを確かめた。そこには下手へたな文句で次のような文章が印刷してあるのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私の髪結は下手へたですから今朝結ったのをむしりこわしてまた外のに結わせましたなんぞと一日に二度も髪を結って騒いでいる人もある。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いえ、別に前置きのつもりぢやなかつたんでございますけど……話が、から下手へたでございましてね……。余計なことばかり申上げました。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
わるへば傲慢がうまんな、下手へたいた、奧州あうしうめぐりの水戸みと黄門くわうもんつた、はなたかい、ひげしろい、や七十ばかりの老人らうじんでした。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
無筆のお妾は瓦斯ガスストーヴも、エプロンも、西洋綴せいようとじの料理案内という書物も、すべ下手へた道具立どうぐだてなくして、巧にうまいものを作る。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのときKは登り口に小さな札を見つけたので、近寄ってゆくと、子供じみた、下手へたな文字で、「裁判所事務局昇降口」と書いてあった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
生中なまなかいぢくらずに置けば美しい火の色だけでも見られたものを、下手へたに詩にばかりもとの面白い感情が失はれたのと同じ様な失望を感じた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかしこれほど父を自由にした姉の口先は、御常に比べると遥かに下手へたであった。まことしやかという点において遠く及ばなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こいつは自分で飲むつもりだったが、まあそっちへげる。下手へたな薬なぞよりはかえってこの方が好い。毎日すこしずつお上り」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どの色も美しかったが、とりわけて藍と洋紅とは喫驚びっくりするほど美しいものでした。ジムは僕より身長せいが高いくせに、絵はずっと下手へたでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それは、なアに」と、義雄は心配させない樣に答へて、「下手へたですが、大丈夫です、子供の時に落ちた經驗も二三度ついてゐますから。」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「しかし切っかけを下手へたにやると、此奴、避難したと思われる。先方むこうは洒落を言いたい一心だ。その辺を要領好くやるんだね」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いく度か下手へたな画や写真に表われた急斜の左は、雪の岡でしきられて、村から街道を東に行けば、その峠をこして、グロース・シャイデック
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
あれが妖怪狐狸の類ならば、こんな下手へたな化け方はしないでしょうが、そこが人間の情けなさから頗る深酷に手古摺てこずっているのでありました。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
もう決して音楽をやるまい、やるにしてもできるだけ下手へたにやってやろう、そして父を落胆さしてやろう、と彼は決心した。
このおさらいは下手へたな者が先に語る。多少上手な者があとで語るのが通例である。そのため聴衆は先に語る人に悪口をいう。
種吉は、娘の頼みをねつけるというわけではないが、別れる気の先方へ行って下手へたに顔見られたら、どんな目で見られるかも知れぬと断った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
政宗がしも途中で下手へたに何事か起した日には、が領分では有るし、勝手は知ったり、大軍では有り、無論政宗に取って有利の歩合は多いが
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ばあさんになってもそうですが、若い娘さんなんか特に目立ちます。しかしおなじ紅白粉べにおしろいをつかっても、上手じょうず下手へたとでは、たいへん違います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
けれどもたいへん下手へたですから、見物人けんぶつにんがさっぱりありませんで、非常ひじょうこまりました。「甚兵衛の人形は馬鹿ばか人形」と町の人々はいっていました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「これからの道行みちゆき下手へたに長々と講釈していると、却って御退屈でしょうから、もうここらで種明かしをしましょうよ」
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すなわちこのほうの話は上手じょうず下手へたというかわりに、努力と勤勉とをすすめる教訓に、もちいられていたらしいのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぼくはのう学校の三年生になったときから今日まで三年の間のぼくの日誌にっし公開こうかいする。どうせぼくは字も文章ぶんしょう下手へただ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
自分でちゃっかり佐々木はうまいものだ! にしてしまって、下手へたの横好きという俗諺ぞくげんの通りに、私は到頭、文章家として立とうと決心したのであった。
がんであった。——空飛ぶ雁をゴミのようだったと私が言うのを、読者はあるいは私の下手へたな作り話、大げさな言い方と笑いはせぬかと、私は恐れる。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
道場での稽古ぶりもずっと穏やかになり、上手じょうずな者よりも下手へたな者のほうに時間をかけ、手を取って教えるというふうな、入念なやりかたに変った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ジャネットは思ったよりも大がらで、たくましくて日にけて男の様な体格をして居るのに吃驚びっくりしました。ジャネットは英仏語がどちらも下手へたです。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
下手へたな画工がきそうな景色というやつに僕は時々出あうが、その実、実際の景色はなかなかいいんだけれども。』
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それを下手へたに手に取ろうとして失敗をすることなんぞは、避けたいと思っている。それでぐずぐずしていて、君にまで意気地がないと云われるのだ。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下手へたであるのを洒落しゃれた書き方で紛らしてある字の品の悪いものだった。の前にいた夜の顔も連想れんそうされるのである。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今のも下手へただとは言わないが、ほんとうに仮装の巧みな人物の仮装というものを、ハルトアンさん、あなたにも見せて上げたいようじゃなアという。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
下手へたに相手になると、いくらでも調子がつくばかりですよ。こう言う風に猛っている時は相手になる方が負けです。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
正月酒にへべれけに酔った彼は、酔ってろれつのまわらぬ下手へたな口上で、文吉と元子の前にひれ伏したのであった。
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ただし下手へたにおだてるとツムジを曲げる春琴であるから必ずしも周囲の仕向けに乗せられたのではないかも知れぬさすがに彼女もこの時に至って佐助を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いわれるようですが、下手へたに刺激して、脳症でも起すとことですから、落着かれたら電話で連絡します。それまでは、どなたもおいでにならないように
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もちろんあの埴輪はにわは、お葬式そうしきときつくつて墓場はかばてたもので、非常ひじようほねををつてつくつたものではありませんが、その粗末そまつ下手へたつくかたのうちにも
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
おかあはん、私は口が下手へたで、よういわんさかい、あんたから、おいでやしたら、ようお礼いうてえやちゅうて。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ドストエフスキーの文章はカラ下手へたくそでまるで成っていないといってツルゲーネフの次位に置き、文学上の批判がともすれば文章の好悪にとらわれていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ちよつとこの題目ばかり見れば余り懸隔しをる故、そを置き違へるとは受取れぬ様なれど、実際俳句をものする上に上手じょうず下手へたを問はず絶えずある事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これが角乗りといって川並得意の芸、浮いている代物だから下手へたをすると仰向けに自分がざんぶと水の中、そこでこの角乗りは平素練習を怠らなかった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)