一日いちんち)” の例文
御帰りに——なった? ならないでも? 好さそうなものだって仕方がないよ。学問で夢中になってるんだから。——だから一日いちんち都合を
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一日いちんちに十六手水場てうづばつたの一とうだつけが、なあに病氣びやうきなんぞにやけらツるもんかつちんだから、ときにや村落中むらぢうかたではあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もう、あれから五十日もたつてることですし、センイチは一日いちんち、森の中をうろつきまはつても、悪魔の穴を見つけることが出来ませんでした。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
いま小倉のいった通り、俺の釣堀だって芝居のたまの休みに、それこそ一日いちんちか二日の忙しい中を無理をして行くからこそたのしみにもなるんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
……博覧会に出ていた時なんか、暑うい時分に、私は朝早くから起きて、自分で御飯を炊いて、私が一日いちんち居なくっても好いようにして出て行く。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
が、ちょうどこの時ポーレンカは、一日いちんち気分のすぐれなかった弟を寝かせつけようと、着物を脱がせているところだった。
わっしどもは、どうかすると一日いちんちうちにゃ人間の数より多くお目にかかる、至極可懐なつかしいお方だが……後で分りました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ねえドクトル、この子をしかってやって下さいな。一日いちんちじゅう、氷水ばかり飲んでいるんですよ。それが、体にいいことでしょうかねえ、胸が弱いくせに」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
戴きましても、一日いちんちに割ってみると何程にもなりやしませんから、なか/\旨い物なんぞ喰う事ア出来ません
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いくらいうても、同じじゃ」と、辻木が声を荒らげて、「もう、帰んなさい。一日いちんちそこに坐っとっても、百万べん頭を下げても、こればっかりは駄目じゃ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一日いちんち一人ひとりしか会わせませんからね。おまえさんの前に誰か会っているんでしょう。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おかみさん。湯に行って暖たまってよう。今日は一日いちんちらく休みだ。」と兼太郎は夜具を踏んで柱のくぎ引掛ひっかけた手拭を取り、「大将はもう芝居かえ。一幕ひとまくのぞいて来ようかな。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
晩は晩で、毛布ケットのしたにちぢこまって、今にも患者から呼び出しが来やしまいかと、びくびくしている始末だ。この十年のあいだ、わたしは一日いちんちだって、のんびりした日はなかった。
ところが或とき、犬は一ぴきだけ来て、そのやせた犬は一日いちんちすがたを見せない日がありました。出て来た方は、夕方になると、もらった肉のきれを食べないでくわえてかえりました。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
こねえだも、夜の明けねえうちにわっしをまいて、その日一日いちんちいねえんでがす。わっしは、旦那がけえって来たらしたたかぶん殴ってくれようと思って、でっけえ棒をこせえときました。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
竹山は、「一日いちんちも早く新聞の仕事に慣れる様に、」と云つて、自分より二倍も身体の大きい長野を、手酷しく小言を云つては毎日々々使役こきつかふ。校正係なら校正だけで沢山だと野村は思つた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あしたもう一日いちんち着てらっしゃい、シューラちゃん。」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「それで一日いちんち幾何いくらすといてれるんです」と小六ころくいた。「鐵砲てつぱうでもかついでつて、れふでもしたら面白おもしろからう」ともつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ちつたあ黴臭かびくさくなつたやうだが、そんでもこのくれえぢや一日いちんちせばくさえななほつから」勘次かんじ分疏いひわけでもするやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母の方は、あまり身を入れずに聞いていて、わたしの姿を見ると、一日いちんちどこへ雲隠くもがくれしていたのかとたずねた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その癖、光起さんを恋しがって、懐しがって、一日いちんちと顔を見ないと、苦労にする、三日四日となるとふさぎ出す、七日なのかも逢わなかろうものなら、涙ぐむという始末。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わたしは猟師だ。鉄砲をかついで一日いちんち歩きまはつてるので、どつちからつてことはない。」
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「やれやれ、この谷は一日いちんちがよその半分しかないよ。仕事も半分しか、でけやせん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一日いちんちじゅう何もせずに、まるで影みたいにあなたの後ろばかり追っかけているし、わたしだってこのとおり、仕事も何もほったらかして、ママのところへお話に来てしまうでしょう。
「けれども始めからそう思っていたのよ。姉さんはきっとわたしたちのためにはなんでもして下さるのに違いないって。——実は昨日きのうも大村と一日いちんち姉さんの話をしたの。それでね、……」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、一日いちんちいたそのあくる日は河岸かしの連中のある日だった。河岸の問屋の人たちが、古馴染のかれのため、大挙して見物に来てくれる日だった。それを思うと安閑とは寝ていられなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
『ハア、うも。…………それでゐてう、始終しよつちゆう何か喰べて見たい様な気がしまして、一日いちんち口案配が悪う御座いましてね。』とお柳もはだかつた襟を合せ、片寄せた煙草盆などを医師いしやの前に直したりする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「今日は山端やまばな平八茶屋へいはちぢゃや一日いちんち遊んだ方がよかった。今から登ったって中途半端はんぱになるばかりだ。元来がんらい頂上まで何里あるのかい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母は気持が落着いて、食事を命じたりしたが、とはいえやはり姿を見せず、決心を変えもしなかった。忘れもしない——わたしはその日は一日いちんちじゅう散歩ばかりしていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ほんに、もうお十夜だ——気むずかしい治兵衛のばばも、やかましい芸妓屋の親方たちも、ここ一日いちんち二日ふつか講中こうじゅうで出入りがやがやしておるで、そのひまそっと逢いに行ったでしょ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「えゝ、箆棒べらぼう一日いちんち手間てま鍛冶屋かぢやんちあなくつちやなんねえ」かれつぶやいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お前が一日いちんち猟に出て、手ぶらで帰るのを見て、少し気の毒になつたから、貸してやらうと思つたんだが、どうともお前の心まかせだ。だがこれがあれば、十分いゝ猟が出来るがね……。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
……そこでまる一日いちんち、あくせく働いて、ちょいと一服するまもないし、これっぽっちの物を、口へ入れる暇もなかった。やっとこさで、うちへ帰ってみると、やっぱり休ましちゃもらえない。
罷めてからは、一日いちんち外へ出ないで、何時でも蟄居ちつきよして居るんです。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
小路こうじ泥濘ぬかるみは雨上りと違って一日いちんち二日ふつかでは容易に乾かなかった。外から靴をよごして帰って来る宗助そうすけが、御米およねの顔を見るたびに
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから、今日一日いちんち、あの馬車ばしゃを貸してください。あれに馬をつけてあちこち駆けまわって、どうだい、メーソフさんの馬車はこのとおり立派じゃないかと、みんなに見せつけてやりたいんです。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
小路こうぢ泥濘ぬかるみ雨上あめあがりとちがつて一日いちんち二日ふつかでは容易よういかわかなかつた。そとからくつよごしてかへつて宗助そうすけが、御米およねかほるたびに
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「それで一日いちんちいくら出すと置いてくれるんです」と小六が聞いた。「鉄砲でもかついで行って、りょうでもしたら面白かろう」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一日いちんちぐらい遊んだってよかろう。ああ云う美くしい所へ行くと、好い心持ちになって、翻訳もはかが行くぜ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と友人の迷惑はまるで忘れて、一人嬉しがったというが、小説中の人間の名前をつけるに一日いちんち巴理パリを探険しなくてはならぬようでは随分手数てすうのかかる話だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いい積りだなあ。僕も、あんな風に一日いちんち本を読んだり、音楽を聞きに行ったりして暮していたいな」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いゝつもりだなあ。僕も、あんな風に一日いちんちほんを読んだり、音楽を聞きに行つたりしてくらして居たいな」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一日いちんちに二三人はきっと逃げますよ。そうかと云って、おとなしくしているかと思うと、病気になって、死んじまう奴が出て来て——どうも始末に行かねえもんでさあ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぐうという声がしたので、蒲団ふとんの下にもぐんでいる彼をすぐ引き出して、相当の手当てあてをしたが、もう間に合わなかった。彼はそれから一日いちんち二日ふつかしてついに死んでしまった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあもう一日いちんち二日ふつかはよろしいじゃございませんか」とお兼さんは愛嬌あいきょうに云ってくれた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その翌日あくるひからHさんの手紙が心待に待ち受けられた。自分は一日いちんち二日ふつか三日みっかと指を折って日取を勘定かんじょうし始めた。けれどもHさんからは何の音信たよりもなかった。絵端書えはがき一枚さえ来なかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃ君が亭主に、僕が御者だぜ。負けた方が今日一日いちんち命令に服するんだぜ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
延岡と云えば山の中も山の中も大変な山の中だ。赤シャツの云うところによると船から上がって、一日いちんち馬車へ乗って、宮崎へ行って、宮崎からまた一日いちんち車へ乗らなくっては着けないそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際僕が不適当なら仕方がないが、まだやって見ない事なんだから——せっかく山を越して遠方をわざわざ来た甲斐かいに、一日いちんちでも二日ふつかでも、いいですから、まあ試しだと思って使って下さい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つづらのふたをとって見たり、かぶせて見たり一日いちんちそわそわして暮らしてしまいましたがいよいよ日が暮れて、つづらの底でこおろぎが鳴き出した時思い切って例のヴァイオリンと弓を取り出しました
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)