よわい)” の例文
旧字:
身延の対岸の帯金村に四十五日を送った後に、故郷の丸畑へ帰ったのが寛政十二年十二月末で、上人のよわいはその時八十三歳であった。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よわい人生の六分ろくぶに達し、今にして過ぎかたかえりみれば、行いし事として罪悪ならぬはなく、謀慮おもんばかりし事として誤謬ごびゅうならぬはなきぞかし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
縁側もない破屋あばらやの、横に長いのを二室ふたまにした、古びゆがんだ柱の根に、よわい七十路ななそじに余る一人のおうな、糸をつて車をぶう/\、しずかにぶう/\。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この年五月十五日に、津軽家に代替だいがわりがあった。信順は四十歳で致仕して柳島の下屋敷にうつり、同じよわい順承ゆきつぐ小津軽こつがるからって封をいだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すこぶる精微を極め、文辞また婉宕えんとうなり。大いに世の佶屈きっくつ難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君よわいわずかに二十四、五。
すこぶる精微を極め、文辞また婉宕えんとうなり。大いに世の佶屈きっくつ難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君よわいわずかに二十四、五。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それがよわい五十に近い身で、このはずかしめにあおうとは! 彼は、今自分が蚕室さんしつの中にいるということが夢のような気がした。夢だと思いたかった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一九〇九年、レオン・ワルラスの七十五歳のよわいを記念して、ローザンヌ大学は médaillon を作った。それには、次の銘が刻んである。
昨日きのうの雨のやどりの御恵に、まことある御方おんかたにこそとおもう物から、今よりのちよわいをもて、御宮仕おんみやづかえし奉らばや」と云った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けだし、人が老いてますますさかんなのは、むろん例外で、あるよわいをすぎれば、心身ともにおとろえていくのみである。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
あなたのようによわい八十になん/\としてなお矍鑠かくしゃくたる元気を保ち、壮者をしのぐ趣がおありになるのは羨しい次第である。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
されば我々年少なりといえども、二十年前の君のよわいにひとし。我々の挙動、軽躁なりというも、二十年前の君に比すれば、深く譴責けんせきを蒙るのなし。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いよいよ心も心ならずおどろき悲しみ、弟妹等の生長せるばかりにはややうれしき心地すれど、いたずらによわいのみ長じてよからぬことのみしいだしたる我が
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兄エドモン・ド・ゴンクウルは弟ジュウルの歿後ぼつごそのよわいようやく六十に達せんとするの時、あらたに日本美術の研究に従事しまず歌麿うたまろ北斎ほくさい二家の詳伝を編纂へんさんせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを手に取らないこと二十年、すでによわいも六十をこえた俳諧師月杖は、昔の吟味与力、高梨小藤次なのである。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驚くべきことには、遠からず和尚にやって来る七十のよわいを期して、長途の旅に上る心じたくがそこにしてあった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
流石剛頑な山名宗全も、文明五年にはよわい七十である。身体も弱ったのであろう。既に軍務を見るのを好まず、其の子政豊に、一切をまかせて居たのである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よわい十六歳を過ぎて一人寝をするような寂しい人間は一人もいなかった、ところがある時一人の青年が仲間と沙漠を旅行しているうちに仲間に外れてしまって
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
男は今夜のよわいよりも三つばかりも余計に指を折ったらしい年頃で、まだ一人前の男のかずには入らない少年であった。彼はむろん烏帽子えぼしをかぶっていなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はまだ学界のために真剣に研究せねばならぬ植物を山のように持っているのに、歳月は流れわがよわい余す所幾何いくばくもない。感極って泣かんとすることが度々ある。
父母存在し、一姉あり、さきに他に嫁し、一弟あり、よわい七歳にして没す。妻あり一男を産む、成長す。当時家族五人、予や明治十二年以降、某官衙かんがに微官を奉ず。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
すでによわい七十になんなんとして、なお男性としての欲望を抑え得なかったという、彼自身の驚くべき真率な告白に照らして見ても、『クロイツェル・ソナタ』が
痩身白髯はくぜんよわい古稀に達せる博士は任期すでに満ちて、近く帰国の途に就こうとしていたのであったが、初めは問題をあまり大したことにも考えていなかったのであろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ときどき彼を見舞いに来る高田と会ったとき、梶は栖方のことを云い出してみたりしたが、高田は死児のよわいかぞえるつまらなさで、ただ曖昧あいまいな笑いをもらすのみだった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
サン・ゼルマン伯の如きは、よわい二千歳でキリストを見たことがあるなどと豪語したものである。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
よわいは傾きますが、私の画に対する勇猛心は、日毎に、強く燃えさかってゆくようでございます。
『朗詠』註に子の日の遊びとは正月初子に野に出でて遊ぶなり、子の日を賞するに仔細あり、子は北方なり、北洲の千年をかたどる松によれば、人も千年のよわいを保つべきなり。
日本はもう二千余年というよわいを重ね、その間に多くの祖先たちの力が合さって、今日の日本を築き上げてくれました。どんなものも歴史のおかげを受けぬものはありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
明治政府が、百年のよわいを保ちえずして、崩壊した根本原因は、ここにあるものと、私は考える。
よわい四十九歳に達した上野介は、上杉家に生れた春千代を養子として鍛冶橋かじばしの吉良邸に迎えた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
二人のよわいはもうかくまでに進んでいる。おそらくは相見るのもしばらくの間であろう。その間に心置きなく話し合えないのは、悲しむべきことであり、ほとんど罪深いことである。
けれども、翁のよわいおいに老の重なるしるしらしいものは見えなかった。翁は相変わらず螺の腹にえび蔓の背をしてこそおれ、達者で、あさけ夕凪には戸外へ出て、山々の方を眺めた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今は既に七十のよわいを幾つか越したが、やをという女中がいる。私の上京当時はまだ三十幾つかであっただろう。「東京ではお餅のことをオカチンといいます」と私に教えた女中である。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今さら旧吹込みのスレザークを説くのは、あまりに死児のよわいかぞうるたぐいに堕するだろう。『菩提樹ぼだいじゅ』でも、『君こそ吾がいこいなれ』でも、昔のと今のと比べると、まことに今昔の感だ。
と、悪虐を描くためには、悪虐し、殺人にはみずから殺人するか、そんな世間法せけんほうな賊は、文壇にどんな功があろうともよわいするをいさぎよしとしない。特にそんな奴には警察が厳重にしてくれ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
長生をしてこの二人のように頭がたしかに使えるのはなおさらめでたい。不惑ふわくよわいを越すと間もなく死のうとして、わずかに助かった余は、これからいつまで生きられるかもとより分らない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余は明治のよわいを吾齢と思いれ、明治と同年だとほこりもし、恥じもして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よわい僅か二十一歳、漸くこれからという花の盛りにご逝去になったのである。
この有様を見るに見兼みかねて、猛然として演壇に起ったのは、よわい七十に余る老ドクトルである、彼は打ちしおれたる聴衆の精神に、一道の活気を与えんがために、愁いを包んで却って呵々大笑し
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
そして、亀はようやくこの養老院において、万年のよわいを保とうというのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「とう——とうたらりたらりらア——。ところ千代ちよまでおわしませエ——。吾等も千秋せんしゅうさむらおう——。鶴と亀とのよわいにてエ——。幸い心にまかせたりイ——。とう——とうたらりたらりらア……」
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
作者が女とも女子とも云わずして、貴夫人と云うは、その人の性を指すと同時に、よわいをも指せるなり。この貴夫人と云うことばは、女の生涯のうちある五年間を指すに定れり。男をば単に男と記す。
辻馬車 (新字新仮名) / フェレンツ・モルナール(著)
よわい、千余年と称し、洛北の叡山で、お月さまに化け、役の行者に見破られて尻っ尾を出した狸と兄弟分と誇っていたというから、変化の術は千態万姿、まず関東における狸仲間の大御所であった。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
よわいさかりにして忽然こつぜんと身を隠したとすれば、人にあらずんば何か他の物が、これを求めたと推断するが自然である。特に山男の場合に限って、もくするに現実の遭遇をもってする理由はないのかも知れぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「死児のよわいを数えるってやつだ。そんな事をいって何になります」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
待って今後のことははじめてなすべきものと信じ候小生ごときはすでに起たざるべからざるのよわいに達しながら碌々ろくろくとして何事をもなしえざること痛悔つうかいの至りに候ことに生来病弱事志ことこころざしと違い候は天の無為を
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
老僧の接木という言葉があって、よわい已に傾いた老僧が接木をする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
よわいわずかに十四才にして父をたすけて実業界に入った。
だがつもるよわいつきになお君の酒をよろこぶのは
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
古椿ここだく落ちてよわいかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)