骨董こっとう)” の例文
見ても分るじゃありませんか。骨董こっとうらしいものは一つも並んでいやしない。もとが紙屑屋かみくずやから出世してあれだけになったんですからね
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この場合、他の骨董こっとう品と同じく、数が少なければ、それだけ珍重されたのも、和本そのものが、すでに芸術的に出来ているがためです。
書を愛して書を持たず (新字新仮名) / 小川未明(著)
今も昔も変らないのが骨董こっとうの夜店であるが、銀座の夜店の骨董に真物ほんものなしといわれるまでに、イミテーション物が多いのは事実である。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
そのほか土蔵のなかの骨董こっとう什器じゅうきたぐひから宝石類に至るまで、ほとんど洗ひざらひ姉さまのところへ運び出されたやうな感じでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もう質屋はしまってる時刻だし、つぎの汽車で出発したくはあったので、町の骨董こっとう屋へ行こうとした。すると階段でモークに出会った。
骨董こっとう屋でも、目が利くということがいちばん大切なのと同じである。骨董屋は商売だから、目が利くのはあたりまえではないか。
材料か料理か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
欽窯きんようの花瓶なぞ、七条家の御門の外に出た事のない御秘蔵の書画骨董こっとうの数々を盗み出して、コッソリと大阪の商人に売りこかし
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人は骨董こっとうや美術や風景を愛すけれども、私は美しい人間を趣味的に愛しているので、私は人間以外の美しさに見向きもしないたちなのだ。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一皿数千円もするというような骨董こっとうとしての九谷と、夜店で売っている九谷とが、今の東京の人に知られているので、丁度その連絡をなし
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
エデスはこのスミスの活躍をすこしも知らずに、商売物の骨董こっとうのことで各地を旅行していることと信じきっていたというのだ。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
芸術家などいう連中には、骨董こっとうなどをいじくって古味ふるみというようなものをありがたがる風流人と共通したような気取りがある。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
書画、古着、手道具、骨董こっとう、武具、紙屑かみくずに至るまで、それぞれを専門とする上方訛かみがたなまりの商人の声が、屋敷町の裏をうるさく訪れて廻っている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書画しょが骨董こっとううことが熱心ねっしんで、滝田たきたさん自身じしんはなされたことですが、なにがなくて日本橋にほんばし中通なかどおりをぶらついていたとき
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
唐櫃は骨董こっとうやガラクタ道具を入れたもので、旧家にこんな物のあることはなんの不思議もありませんが、その唐櫃の中に、骨董品にまじって
朝鮮国王の城が開かれた時、城内の金銀財宝には目をつける人はあったけれども、書画骨董こっとうに目のとどく士卒というのは極めて稀れであった。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
土佐の藩士で造幣局に出て、失職して千葉の監獄の監守になり、後に台湾で骨董こっとう商と金貸をした(虎と蛇の薬をもって来た)人の細君だった。
浜田は先日も「柳が物を持つと、どんな骨董こっとうでも、たちどころに骨董でなくなり、まっさらなものになる。これが不思議だ」
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
骨董こっとうというのは元来支那しなの田舎言葉で、字はただそのおんを表わしているのみであるから、骨の字にも董の字にもかかわった義があるのではない。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
骨董こっとう趣味とは主として古美術品の翫賞がんしょうに関して現われる一種の不純な趣味であって、純粋な芸術的の趣味とは自ずから区別さるべきものである。
余談にわたりますが、師匠東雲師は、まことに道具が好きで、仏の方のことは無論であるが骨董こっとう的な器物は何によらず鑑識に富んでおりました。
変態的骨董こっとう趣味の一つのあらわれに過ぎないかも知れないが、一体人には、よかれあしかれ、自分にないものをあこがれ求める共通性があるもので
(いや、ますます降るわえ、奇絶々々。)と寒さにふるえながら牛骨が虚飾みえをいうと(妙。)——と歯を喰切くいしばって、骨董こっとうが負惜しみに受ける処だ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故畑柳氏は、骨董こっとうずきで、書斎にも古い仏像などを置き並べていたが、氏の没後も、それが皆そのままになっている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ことに晩年は骨董こっとうなどにお凝りになり、すっかり家運の傾いた後だったので、お前のお父様と私とで、それを建て直すのに随分苦労をしたものだった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もとは夜店で果物なんか売っていたんですけれど、今じゃどうして問屋さんのぱりぱりです。倶楽部クラブへも入って、骨董こっとうなんかもぽつぽつ買っていますわ。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから、足まめにして親切で売ることにしよう。しかし、いかに俗にちればとて、世間医のやる幇間ほうかん骨董こっとう取次とりつぎと、金や嫁の仲人なこうど口だけは利くまい
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
秋の日の暮れかかるともしごろ、奈良の古都の街はずれに、骨董こっとうなど売る道具市が立ち、店々の暗い軒には、はや宵の燈火あかりが淡くともっているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
折角の保護建造物が皆ガタ/\に狂ってしまうぜ。そこで骨董こっとう大切だいじ窮策きゅうさくがあんな妙な悲鳴を挙げているのさ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さすがは豪家のことであって書画や骨董こっとうや刀剣類には、素晴らしいような逸品いっぴんがあったが、惜し気なく取り出して見せてくれた。これも彼には嬉しかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それぞれ書画や骨董こっとう類を贈ったので、幸子も祖父母の時代からある、表に御所車の刺繍ししゅうをした帛紗ふくさを贈った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヴァンクゥヴァの自分の家の庭に日本ふうの四阿あずまやをつくり、家じゅうを日本に関する書籍と骨董こっとうでいっぱいにして、たいていは日本の着物を着て暮らしている。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、他の人たちにはたいてい書画骨董こっとうなどという財産もあり、それを売り払ってどうにかやっていたらしいが、私にはそんな財産らしいものは何も無かった。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
金が出来ると、女色にょしょくあさる、自動車を買う、邸を買う、家を新築する、分りもしない骨董こっとうを買う、それ切りですね。中に、よっぽど心掛のいゝ男が、寄附をする。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
武術などというものは、もう無用の骨董こっとうだと思ってばかにしていたが、こういうことになってみると。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
江戸演劇は既に通俗なる平民芸術にはあらで貴重なる骨董こっとうとなりし事あたかも丹絵売たんえうりが一枚幾文いくもんにて街頭にひさぎたる浮世絵の今や数百金にあたいすると異なる事なし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
多くのものは、御覧のとおり、骨董こっとう趣味の意見にはほとんど服しないで選ばれたものだ。それでも、これらはどれも皆、このような部屋に掛けるにはふさわしいものだ。
これ等を取扱っていると、実に気持がよく、そしてこのような宝物を、最も簡単な小骨董こっとう店で見出す面白さは、蒐集家の精神を持つ者のみが真に味い得るところである。
彼れ居常他の嗜好しこうなし、酒を飲まず、たばこを吹かず、その烟を吹かざるは、彼が断管吟の詩に徴して知るべし。書画しょが、文房、骨董こっとう、武器、一として彼の愛を経るものなし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なま物識りの骨董こっとう好きの人が、だれに製作させた物、某の傑作があると聞いて、譲り受けたいと、想像のできる貧乏さを軽蔑けいべつして申し込んでくるのを、例のように女房たちは
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
骨董こっとう珍器、珠玉の類を蒐集しゅうしゅうするためには、どのような不徳不義をも、甘んじて行おうとする気性、松浦屋の手から召し上げた珍品だけでも、数万両の額に上ると言われていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いかにもそうだよ、書画や骨董こっとうの鑑定に長じて千年以前の物もたちどころに真偽を弁ずると威張いばる人が毎日上海玉子しゃんはいたまごの腐りかかったのを食べさせられても平気でいる世中よのなかだもの。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
柱あるところには硝子の箱を据え付け、そのうち骨董こっとうを陳列す。壁にそいて右のかたにゴチック式の暗色のひつあり。この櫃には木彫もくちょうの装飾をなしあり。櫃の上に古風なる楽器数個あり。
または家重代いえじゅうだいというようなわけで古い人形を保存する人、一種の骨董こっとう趣味で古い人形をあつめる人、ただ何が無しに人形というものに趣味をもって、新古を問わずにあつめる人
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その持ち去ったのは主に歌舞音曲おんぎょくの書、随筆小説の類である。その他書画骨董こっとうにも、この人の手から商估しょうこの手にわたったものがある。ここに保さんの記憶している一例を挙げよう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ず予めここで述べなければならないことは前論士は要するに仏教特に腐敗ふはいせる日本教権に対して一種骨董こっとう的好奇心を有するだけで決して仏弟子でもなく仏教徒でもないということであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
当時朝から晩まで代る代るに訪ずれるのは類は友の変物奇物ばかりで、共に画を描き骨董こっとうを品して遊んでばかりいた。大河内おおこうち子爵の先代や下岡蓮杖しもおかれんじょう仮名垣魯文かながきろぶんはその頃の重なる常連であった。
彼は、有能な実際的科学者で、忠実な大英国の技術官で、敬虔けいけんなスコットランド教会の信徒で、かの基督キリスト教のキケロといわれるラクタンティウスの愛読者で、又、骨董こっとう向日葵ひまわりとの愛好者だった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
骨董こっとう屋は下手げてものと呼んでいるように思う。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「しかしこの頃俺に書画、骨董こっとうや、刀剣の鑑定を持込んで来るには閉口しとる。一番わからん奴の処へ見せに来る訳じゃからの。ハハハハ」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ダンディの自作の「山の詩」をひいたピアノ・レコードがフランスにあるが、それは骨董こっとうになった。日本では手に入り難い。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)