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靨
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えくぼ
ふりがな文庫
“
靨
(
えくぼ
)” の例文
男は怪しき
靨
(
えくぼ
)
のなかに
捲
(
ま
)
き込まれたままちょっと途方に暮れている。肯定すれば
偽
(
いつわ
)
りになる。ただ否定するのは、あまりに平凡である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それにかかわらず安陵竜陽みな凶終するよう論ずるは、性慾顛倒の
不男
(
ぶおとこ
)
や、
靨
(
えくぼ
)
を売って活計する色子野郎ばかりに眼を
曝
(
さら
)
した
僻論
(
へきろん
)
じゃ。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
ふと気が付いてスパセニアは、振り返ってにっこりと
靨
(
えくぼ
)
をうかべましたが、
欄干
(
てすり
)
にからだを
凭
(
もた
)
せて、
悪戯
(
いたずら
)
っぽそうに、聞いてくるのです。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「おッとッとッと、おせんちゃん。
何
(
な
)
んでそんなに
急
(
いそ
)
ぎなさるんだ。みんながこれ
程
(
ほど
)
騒
(
さわ
)
いでるんだぜ。
靨
(
えくぼ
)
の一つも
見
(
み
)
せてッてくんねえな」
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
靨
(
えくぼ
)
の見えている両手を重ねて、つつましやかではあるが無邪気な言葉で、こう娘はいい継いだが、嘉門の一人子お菊であった。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
それを我慢しながら、グッと押して見ると、美女の肩が、
靨
(
えくぼ
)
のように
凹
(
くぼ
)
んで行った。柔かいのだ。ゴムのように柔かいのだ。
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
慎しみ深い大きな眼の底にどこか不似合な大胆さも潜めていて、上唇の小さな
黒子
(
ほくろ
)
が片頬の
靨
(
えくぼ
)
とよく調和をとって動くのが心に残る表情だった。
旅愁
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
口には薄気味の悪い愛嬌をたたえて
皺
(
しわ
)
がより
靨
(
えくぼ
)
ができている。そして眼は、一座のすべての連中と同じく、酒気のためにとろんとかすんでいる。
ペスト王:寓意を含める物語
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
年のわりに小柄で(彼はもう
十歳
(
とお
)
になっていた)、まるまると肥って、きれいな空色の目をして、両の頬には
靨
(
えくぼ
)
があった。
可愛い女
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
その大きな目は悲しそうにまたたいていたが、すぐ私たちの方を向くと、人の善い微笑が
靨
(
えくぼ
)
と一しょに自然に流れるように浮んでくるのであった。
或る少女の死まで
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
メアリゴウルドの目鼻立や特徴はすべてそのままで、可愛らしい小さな
靨
(
えくぼ
)
さえ、その金色の
頤
(
あご
)
に残っていました。
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
「それじゃ、たしかだ。」郵便屋は、桃の花の頬に、
靨
(
えくぼ
)
を浮べて笑った。「あなたは幸吉さんの兄さんです。」
新樹の言葉
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
栗梅
(
くりうめ
)
の小さな紋附を着た太郎は、突然こう言い出した。考えようとする努力と、笑いたいのをこらえようとする努力とで、
靨
(
えくぼ
)
が何度も消えたり出来たりする。
戯作三昧
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
留守は七十六歳になる喜代之助の老母とおあさと云う
別嬪
(
べっぴん
)
、年は廿六ですが
一寸
(
ちょっと
)
見ると廿二三としか見えない、うすでの
質
(
たち
)
で色が白く、笑うと
靨
(
えくぼ
)
がいります。
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
右の頬っぺたに
靨
(
えくぼ
)
の出来る、血色の美しい薄色髪の花嫁だの、ヘルソン県下の持村だの、財産だのと、いろんなくだらないことを喋りちらしていたものである。
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
悪戯
(
いたずら
)
ッ
児
(
こ
)
のように、くるくる動く
黒眼勝
(
くろめがち
)
の、
睫
(
まつげ
)
の長い
瞳
(
ひとみ
)
を、輝かせ、
靨
(
えくぼ
)
をよせて
頬笑
(
ほほえ
)
むと、
袂
(
たもと
)
を
翻
(
ひるが
)
えし
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
と
細
(
ほっそ
)
りした頬に
靨
(
えくぼ
)
を見せる、笑顔のそれさえ、おっとりして品が
可
(
い
)
い。この姉さんは、
渾名
(
あだな
)
を令夫人と云う……十六七、
二十
(
はたち
)
の頃までは、同じ心で、令嬢と云った。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
だが、娘は、母親の若よかな
靨
(
えくぼ
)
のある頬が鳥渡の間、内気な少女のように初々しく輝くのを見た。
或る母の話
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
直は、家庭のこまこました場合、淋しい
靨
(
えくぼ
)
をよせて私はどうでも構いませんというひとである。
漱石の「行人」について
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
細面ながら
力身
(
りきみ
)
をもち、鼻がすッきりと高く、きッと締ッた口尻の
愛嬌
(
あいきょう
)
は
靨
(
えくぼ
)
かとも見紛われる。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
そして、彼の顔や肩へ、木の間からチラチラと
射
(
さ
)
すいっぱいな日光の
靨
(
えくぼ
)
にうっとりとした。
銀河まつり
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
片頬をもたらせるように品を作ると、ほのかな
靨
(
えくぼ
)
が、
凝脂
(
ぎょうし
)
の中にトロリと渦をまきます。
十字架観音
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
上流の婦人にあっては、
靨
(
えくぼ
)
は美しいものとされぬ。靨は笑に伴い、笑は上品でないからである。だが下女だと、靨のある、太った、ずっしりした身体つきが、好意を以て見られる。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
桜餅をふくみ
靨
(
えくぼ
)
を頬にきざむあどけなさ。一句の中心は季題の桜餅ではなくてえくぼである。次に引眉毛の濃い粧りは夏やせの顔をややけわしく見せ、頬も色彩らぬつかね髪の年増女。
大正女流俳句の近代的特色
(新字新仮名)
/
杉田久女
(著)
あら大の字の方だわと正直にいふは
靨
(
えくぼ
)
の梅子、上の字なんぞ附けてはお万ねえさんに悪いわねえとは、ちびの文子なかなかませたり、下から来た女に
堀田原
(
ほったはら
)
の使はと問へばまだといふに
そめちがへ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
黒吉は、知っている限りの美文を並べると、「
靨
(
えくぼ
)
が指先きを吸込むように……」
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
彼女の涼しい目は眠られないふた晩に醜く
脹
(
は
)
れ
上
(
あ
)
がり、かわいい
靨
(
えくぼ
)
の宿った
豊頬
(
ほうきょう
)
はげっそりと
痩
(
や
)
せて、耳の上から崩れ落ちたひと握りの
縺毛
(
もつれげ
)
が、その
尖
(
とが
)
り
出
(
で
)
た
頬骨
(
ほおぼね
)
にはらりとかかっていた。
五階の窓:04 合作の四
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
靨
(
えくぼ
)
は顔面の某筋肉と某筋肉との空隙へ空気の圧力により皮膚が陥入ったもの
いわゆる自然の美と自然の愛
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
私の幼い記憶に残つてゐる、たあちやんは赤い、うすい髪の毛をひきつめた銀杏返しに結つた、色の黒い目の細い、両頬に
靨
(
えくぼ
)
のある忘れられないやうな、何処となくやさしみのある顔だつた。
日記より
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
金之助
(
きんのすけ
)
さんという
名前
(
なまえ
)
からして
男
(
おとこ
)
の
子
(
こ
)
らしく、
下
(
しも
)
ぶくれのしたその
顔
(
かお
)
に
笑
(
え
)
みの
浮
(
う
)
かぶ
時
(
とき
)
は、
小
(
ちい
)
さな
靨
(
えくぼ
)
があらわれて、
愛
(
あい
)
らしかった。それに、この
子
(
こ
)
の
好
(
よ
)
いことには、
袖子
(
そでこ
)
の
言
(
い
)
うなりになった。
伸び支度
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
綺麗
(
きれい
)
でまぶしいようですもの。見ているだけでも
好
(
い
)
い心持になりますわ。あのしっかり締った肉付き、
生
(
なま
)
でたべてもようございますわね。どうでしょう、
靨
(
えくぼ
)
がいっぱい、どこにもかしこにも。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
私
(
わたし
)
はだまつて
美迦野
(
みかの
)
さんの
靨
(
えくぼ
)
にうつとりとみとれてゐた。
桜さく島:見知らぬ世界
(新字旧仮名)
/
竹久夢二
(著)
憎らしき
靨
(
えくぼ
)
よ頬っぺたの穴よ。
須賀爺
(新字新仮名)
/
根岸正吉
(著)
それから、肉眼の注意を逃れようとする微細の
渦
(
うず
)
が、
靨
(
えくぼ
)
に寄ろうか崩れようかと迷う姿で、間断なく波を打つ彼女の頬をありありと見た。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その指はすんなりと長くて肥って、一本一本の関節がうす紅くぼかしたようになって小さい可愛い
靨
(
えくぼ
)
さえ浮いていた。
性に眼覚める頃
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
そして、さもしとやかに一礼すると、愛くるしい
靨
(
えくぼ
)
を見せて、恰好のよいルージュの唇で、
嫣然
(
えんぜん
)
と
頬笑
(
ほほえ
)
むのであった。
猟奇の果
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
『この大きな地球全体を金のかたまりにしてしまうような力と取りかえようと言われても、わしはあの子の
頤
(
あご
)
にある小さな
靨
(
えくぼ
)
一つもくれるんじゃなかった!』
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
彼女にしてみれば赤の他人のこの少年、その両の頬にある
靨
(
えくぼ
)
、そのぶかぶかの制帽——そのためになら、彼女は自分の命を投げだしても惜しくはなかったろう。
可愛い女
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
血色
(
けっしょく
)
の鮮かな、眼にも
眉
(
まゆ
)
にも
活々
(
いきいき
)
した力の
溢
(
あふ
)
れている、年よりは
小柄
(
こがら
)
な
初子
(
はつこ
)
は、
俊助
(
しゅんすけ
)
の姿を見るが早いか、遠くから
靨
(
えくぼ
)
を寄せて、気軽くちょいと腰をかがめた。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そして初めて彼女は、羞ずかしそうに頬を
赧
(
あから
)
めて、溶けんばかりの
靨
(
えくぼ
)
を
泛
(
うか
)
べながら私の方を見上げました。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
煙草
(
たばこ
)
ふかして
煙
(
けむ
)
だして、
煙
(
けむ
)
の
中
(
なか
)
からおせんを
見
(
み
)
れば、おせん
可愛
(
かあい
)
や二九からぬ。
色気
(
いろけ
)
程
(
ほど
)
よく
靨
(
えくぼ
)
が
霞
(
かす
)
む。
霞
(
かす
)
む
靨
(
えくぼ
)
をちょいとつっ
突
(
つ
)
いて、もしもしそこなおせん
様
(
さま
)
。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
緋縮緬を手に
搦
(
から
)
む、襦袢は席の乱れとて、強いて堪えた頬の
靨
(
えくぼ
)
に、前髪の艶しとしとと。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
笑うと指の先が沈むほどにも、左右に
靨
(
えくぼ
)
が出来るという、そういう眼に立つ女でした。
犬神娘
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
笑うと
靨
(
えくぼ
)
と申してちょいと頬に穴があきますが、どういう器械であくか分りませんけれども、その穴は余程深く、二分五厘有ったと云います、誰が尺を
突込
(
つッこ
)
んで見たか、髪の毛の
艶
(
つや
)
が好く
粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分):02 粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分)
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
ともすれば
愛嬌
(
あいきょう
)
八重歯が漏れて、頬へ
靨
(
えくぼ
)
の寄るのを、場所柄必死と噛み殺しているといった肌合の娘です。年は少し取って、
厄
(
やく
)
——どうかしたら、
二十歳
(
はたち
)
を越しているのかもわかりません。
銭形平次捕物控:055 路地の小判
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「かわいそうに、こんなに、むしゃぶりついて」と、無心な
靨
(
えくぼ
)
を指で突いた。
雲霧閻魔帳
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
黒吉は葉子の汗ばんだ、指のつけ根が
靨
(
えくぼ
)
のように凹んでいる、柔らかい
掌
(
て
)
を、肩に感じると、胸には熱く息吹くくなくなとした乳房を受けた。それは無論、薄い肉襦袢越しではあったが……。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
赤児が初めて笑い出す
靨
(
えくぼ
)
のような、消えやすい笑いだ。
微笑
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
姉のジーナは
靨
(
えくぼ
)
を刻んでパッと眼が
醒
(
さ
)
めるように
艶麗
(
えんれい
)
ですし、スパセニアは大空の星でも
眺
(
なが
)
めるように、近寄り難い気品を漂わせて、ほんとうの美人というのは
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
波の様に
息吐
(
いきづ
)
いたり、
靨
(
えくぼ
)
のはいったたくましい二の腕が、まぶた一杯に蛇の踊りを踊ったり、それらの、おさえつける様な、凶暴な姿態に混って、大柄な和服姿の彼女が
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
“靨”の意味
《名詞》
靨 (えくぼ)
微笑んだときに頬にできるくぼみのこと。 詳細は えくぼ を参照。
(出典:Wiktionary)
“靨(えくぼ)”の解説
えくぼ(笑窪、靨、ゑくぼ)は、人が笑うとき、頬にできる小さなくぼみのこと。
(出典:Wikipedia)
靨
漢検1級
部首:⾯
23画
“靨”を含む語句
笑靨
片靨
片笑靨
売靨史
愛敬靨
死笑靨
笑靨花
節靨
粧靨
靨笑