露草つゆくさ)” の例文
例えば天上の星のように、瑠璃るりを点ずる露草つゆくさや、金銀の色糸いろいと刺繍ししゅうのような藪蔓草やぶつるくさの花をどうして薔薇ばら紫陽花あじさいと誰が区別をつけたろう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と見れば、彼方の松の木陰に、さっきからじっとうずくまったまま、顔も上げずに咲いている露草つゆくさのような、弱々しい女性の姿があった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさくも吹散ふきちりたり。かぜぎぬ。藪垣やぶがきなる藤豆ふぢまめの、さやも、まひるかげむらさきにして、たにめぐながれあり。たで露草つゆくさみだれす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十九——殺されたお曾與よりは一つ年下ですが、荒つぽい兄の勘三郎に似ぬ、露草つゆくさの花のやうな淋しい娘です。
青山あおやま兵営の裏手より千駄せんだくだる道のほとりにも露草つゆくさ車前草おおばこなぞと打交うちまじりて多く生ず。きたりてよく土を洗ひ茎もろともにほどよくきざみて影干かげぼしにするなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
無邪氣な惡戲いたづらの末、片意地に芝居見を強請せがんだ末、弟を泣かした末、私は終日土藏の中に押しめられて泣き叫んだ。そのまどの下には露草つゆくさの仄かな花が咲いてゐた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
お宮のいちょうが黄色になればあぜにはすすき、水引き、たでの花、露草つゆくさなどが薄日うすびをたよりにさきみだれて、その下をゆくちょろちょろ水の音に秋が深くなりゆく。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そよ理想りさうおもひにうすき身なればか朝の露草つゆくさ人ねたかりし
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
露草つゆくさ つら/\月見草つきみぐさ
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
露草つゆくさの茎
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
……妙な事は、いま言った、はぎまた椿つばき、朝顔の花、露草つゆくさなどは、枝にもつるにも馴れ馴染なじんでいるらしい……と言うよりは、親雀から教えられているらしい。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう三十年の昔、小日向水道町こびなたすいどうちょうに水道の水が、露草つゆくさあいだを野川の如くに流れていた時分の事である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
天色そらいろ露草つゆくさ七つ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もしたましひ拔出ぬけいでたらんか、これ一顆いつくわ碧眞珠へきしんじゆに、露草つゆくされるなるべし。ひともしあだあらば、みなやいばつてかたきたん。靈山れいざん汽車きしやせまれり。——山北やまきた——山北やまきた——
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見ずや木造の今戸橋いまどばしはやくも変じて鉄の釣橋となり、江戸川の岸はせめんとにかためられて再び露草つゆくさの花を見ず。桜田御門外さくらだごもんそとまた芝赤羽橋むこう閑地あきちには土木の工事今まさにおこらんとするにあらずや。
兩方りやうはうのふちをはさんで、雜草ざつさう植込うゑこんだのが、やがて、蚊帳かやつりぐさになり、露草つゆくさになり、紅蓼べにたでになつて、なつのはじめから、朝露あさつゆ夕露ゆふつゆ、……よる姿すがたかくれても、つきおもかげいろ宿やどして、むしこゑさへ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ! おき、」と涙聲なみだごゑで、まくらあがらぬ寢床ねどこうへ露草つゆくさの、がツくりとして仰向あをむけのさびし素顏すがほべにふくんだ、しろほゝに、あをみのさした、うつくしい、いもうとの、ばさ/\した天神髷てんじんまげくづれたのに
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其方そちらの……貴女あなたのおにはに、ちよろ/\ながれます遣水やりみづのふちが、ごろ大分だいぶしげりました、露草つゆくさあをいんだの、たではな眞赤まつかなんだの、うつくしくよくきます……なかいてるらしいんですがね。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
月見つきみでもあるまいが、背戸せど露草つゆくさあをえてつゆにさく。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……露草つゆくさいまさかりです……桔梗ききやう澤山たくさんえました……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)