しのぎ)” の例文
かれらがこうしてしのぎをけずって闘っている最中である。富子と雛吉とが或る富豪の宴会の余興によばれて、代る代るに一段ずつ語った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かくて両軍衆議院の戦場でしのぎを削った結果は、延期説賛成者百八十九に対する断行説賛成者六十七で、とうとう延期派の大勝に帰した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
藤枝と林田は今や心の中でしのぎを削つているのだろう。二人は殆どにらみ合わんばかりである。今度は林田が驚愕の色を表わした。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
最後の処には、眉目秀麗な若者と、悪相の武士とのしのぎを削るところを描いて、悪相の武士のわき腹から黒い血が噴出していた。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見かけだけは仲のい、新婚夫婦に見えて、霊肉合致の域にいたるまで、触れさせまいとする闘いに、互に心肉のしのぎを削っている、妙な生活!
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かくて人生は永劫えいごうの戦場である。個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者としのぎけずる。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
堂々と互にしのぎを削つたらいゝ。これが生活の原理です。競争のないところに文化の向上はありません。いつたいぜんたい、何がさう怖いんですか?
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
えらいぞ、金盥かなだらいまで持ち出いたわ、人間は皆裾が天井へ宙乗りして、畳を皿小鉢が躍るそうな。おおおお、三味線太鼓がしのぎを削って打合う様子じゃ。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要するに夫も私も、互いが互いをけしかけ合い、そそのかし合い、しのぎけずり合い、どうにもならない勢いに駆られて夢中でここまで来てしまったのである。………
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
空想家の早飲込みのドチラかといえば天才肌という風に、各自正反対の特徴を持っていた……それが互いにしのぎけずって学業のを争っていたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ソレが此方こっちでは分らなくてどうにも始末が付かない。又党派には保守党と自由党と徒党のような者があって、双方負けず劣らずしのぎけずって争うて居ると云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
気狂が集合してしのぎけずってつかみ合い、いがみ合い、ののしり合い、奪い合って、その全体が団体として細胞のようにくずれたり、持ち上ったり、持ち上ったり
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
闇黒やみに、何やらシットリとしめった空気が流れている。しのぎからむね目釘めくぎへかけて、生温かい血でぬらぬらする大刀濡れ燕を、枯れ細った左手に構えた左膳は
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「御主人と競争です。御主人が買いなら、奥さんは売りという次第わけで、しのぎを削っているそうです」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もっともこれは随分無理な話で、英米の世界一流の学者が集まって、金にかししのぎを削って研究している方面へT君が一人ではいって行って、その向うが張れるはずはない。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
互に憎し、口惜くちをしとしのぎを削る心のやいばを控へて、彼等は又相見あひみざるべしと念じつつ別れにけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しのぎを削つて、追ひつ追はれつ、入り乱れてゐる、電車線の一端が夕日に光つて、火にめられたやうに赤くなりながら、ずん/\森の中までしかゝつて来た、戸部線の電車が
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
金くさい卑俗な利害のために日夜しのぎを削るブルジョア共の社会生活に反抗するこれらのロマンチスト作家たちが互に「焔の如く燃ゆる人々」として結合し合い、互の独創性を尊敬し
バルザックに対する評価 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのあくる日、摂津平野の一角で、松山勢は、大和の筒井順慶の兵としのぎをけずった。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
他所眼よそめには、至極打ち解けて見えましたが、腹の中ではしのぎを削り合って、一人でも弟子を多くし、少しでも評判をよくしようといった、両雄並び立たぬ心持でいたに相違ありません。
金語楼と先代正蔵が小三治で前者に属し、まさしくしのぎを削って売り出し中だった。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
幸い今は列国が欧州の広野にしのぎを削っている。支那が十分に覚醒して、十分に信頼し、国家的基礎を固むるには絶好の機会である。支那が日本に驥足きそくばすのは、今日をいて他にない。
甲州信州の武士たちが、戦国時代にしのぎを削った、桔梗ききょうヶ原は古戦場であった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにしても、あの猫又の頭から、折節蒼然と暮色の襲う中に、アルプス連峯のしのぎを削るピークを見はるかした時の、荘厳とも痛烈とも言いようのない脅威に充ちた凄惨な光景はどうだったか。
登山は冒険なり (新字新仮名) / 河東碧梧桐(著)
都門ともんの劇場に拙劣なる翻訳劇出づるや、朋党ほうとう相結あいむすんで直ちにこれを以て新しき芸術の出現と叫び、官営の美術展覧場にいやしき画工ら虚名のしのぎを削れば、猜疑さいぎ嫉妬しっとの俗論轟々ごうごうとして沸くが如き時
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一昨年の冬頃から安南を舞台にして華々しくしのぎを削ることになったが、小口は見越過ぎて親仏派の皇甥李光明と結びついたため、逸早く宗皇帝を相談役に抱え込んだ林の日安鉱業に一歩立遅れ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたくしは刀の見様などは存じませんが、先ず刀を真直まっすぐに立って暫くの間こう遣って見ると、刀脊みねむねに相成ってるカサネの厚い所を見て、又こう袖を当てまして暫くの間鋩尖ぼうしさきから横手下物打したものうちからしのぎ
のこんの色香いろか人を迷わしむるものがあって、浅井亡びた後の論功行賞としては、この美しい後家さんを賜わりたいということに、内心、織田の宿将どもがしのぎを削ったが、そこは貫禄と言い、功績と言い
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
牙をみ眼をいからして、しのぎを削りつばを割つて争つた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そしてお可久様を張りに来ている連中も、だんだんふるいにかけられて、粘り強い者だけが、今では、碁盤の外の勝敗にしのぎを削っているのであった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「己には大概、お前の素振りで分っているんだ。この頃の己たちは喧嘩こそしないが、心の底では互にしのぎを削っている。これでも己たちは夫婦だろうか?」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちよろ/\とだけのながれながら、堤防どてひかへず地續ぢつゞきに、諏訪湖すはこひとひかへたれば、爪下つました大湖たいこみづしのぎをせめて、をはいで、じり/\とせまるがごとおもはるゝ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
元来ならおれが山嵐と戦争をはじめてしのぎけずってる真中まんなかへ出て堂々とおれのかたを持つべきだ。それでこそ一校の教頭で、赤シャツを着ている主意も立つというもんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「残念」とばかり宗三郎、おのれおのれへ勇を付け、胴へ引き付けた太刀のしのぎ、それへ左手をグッとあて、駈け込んで突く心組み、「ウン」と気合いをこめたとたん、円陣グ——ッと開き渡った。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、悪い人間じゃないんですが、小才こさいが利く丈けに、軽薄なところがあります。現に安達君としのぎを削りながら、万一の用心の為めに、別の縁談を受けつけて引っ張っているんですから」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とうとう苦しまぎれに、そのドッチかの許嫁いいなずけであった少女をそのドッチかにくっつけて結論にして、その手柄を自分のものにすべく、あらゆるペテンを尽してしのぎを削っている……というような
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
都門ともんの劇場に拙劣なる翻訳劇づるや、朋党ほうとう相結あいむすんで直ちにこれを以て新しき芸術の出現と叫び、官営の美術展覧場にいやしき画工ら虚名のしのぎを削れば、猜疑さいぎ嫉妬しっとの俗論轟々ごうごうとして沸くが如き時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
素延すのべは、地鉄のむらをなおし、刃方はがたかどを平め、しのぎのかどを出す。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たがいしのぎを削ったのも止むを得ないことでした。
しのぎを削る太刀の音……。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しのぎの血を、垂直にこぼしながら、武蔵はまたしずかに歩み出した。野の花を踏みながら焚火たきびのけむりが立つ次の丘の肩へ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
崖はそもそも波というものの世を打ちはじめた昔から、がッきとくろがねたていて、幾億ひろとも限り知られぬ、うしおの陣を防ぎ止めて、崩れかかる雪のごとくしのぎを削る頼母たのもしさ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に一閑斎に詰め腹を切らせようと云う所まで取りめたのであったが、略〻ほゞ勢力の伯仲する両家がしのぎを削って争っていたのでは世の中がいつも騒がしく、ひいては天下動乱のもといにもなるので
親父同志が政友会と憲政会に別れて、しのぎを削っているんだから、とても覚束ない。光子さんは僕に寄越した手紙を悉皆すっかり返してくれと言う。手紙にもそう書いてあったから悉皆持って帰って来ていた。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あゝ、自分はかの眼もくるめく電灯のしたで、無智なる観客を相手に批評家と作家と俳優と興行師とが争名さうめいと収益とのしのぎ削合けづりあふ劇場の天地を一日も早く忘れたい。さういふ激烈な芸術のちまたを去りたい。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しのぎを削る太刀の音……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いかに和議は成っても、あふるる春光と、平和はうたわれても、ここの地上は、四十年以来、互いに父祖の代からしのぎけずり合って来た敵地である。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたし薪雜棒まきざつぽうつてて、亞鉛トタン一番いちばんしのぎけづつてたゝかはうかな。」と喧嘩けんくわぎてのぼうちぎりで擬勢ぎせいしめすと、「まあ、かつたわね、ありがたい。」とうれしいより、ありがたいのが
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
中学時代にしのぎを削った間柄だ。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いま割拠かっきょする諸国の群雄にとって、血まなこ、血みどろな、第一の関心は、その領土である。寸土尺地にもしのぎを削りあって他事もない有様の折である。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)