遙々はる/″\)” の例文
今ぞとおもふ心の勇み立ちて、五十をえし母に別るゝをもさまで悲しとは思はず、遙々はる/″\と家を離れてベルリンの都に来ぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
無論博士の心の臓は化粧箱に入れた儘、奈良の屋形やかたに残してゐるに相違なかつたが、博士は直ぐそのあとを慕つて、遙々はる/″\博多までくだつて往つた。
何百万光年、何億光年——そんな遙々はる/″\とした距離の長さに考を向けてゐると、彼の平常ふだんの尺度は混乱して、気の遠くなるやうな心地を感じるのだ。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
仕舞しまひ住馴すみなれ京都みやこあとになし孤子みなしごかゝへて遙々はる/″\あづまそらおもむ途中とちう三州迄は來たれどもほとん困窮こんきうせまり餘儀なく我が子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「これは八五郎と言つて俺同樣の男だ。遠慮なく話すが宜い。一體どんな用事で柏木から遙々はる/″\來なすつたんだ」
從者ずさはやがて門に立ちよりて、『瀧口入道殿の庵室は茲に非ずや。遙々はる/″\たづね來りし主從二人、こゝ開け給へ』と呼ばはれば、内よりともしびげて出來いできたりたる一個の僧
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ふる草津くさつかくれて、冬籠ふゆごもにも、遙々はる/″\高原かうげんゆきけて、うらゝかなつてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
で、頬杖ほゝづゑをつく民也たみやつては、寢床ねどこからいたは、遙々はる/″\としたものであつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
病む子を遙々はる/″\見舞はうとして出立の支度を整へた遠い故郷の囲炉裏端いろりばたで、真赤に怒つてゐるのならまだしも、親の情をしりぞけた子の電文を打黙つて読んでゐる父のさびしい顔が
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
中には遙々はる/″\広島県下から呼び寄せたものさえあるが、苦心肝胆を砕いて漸く核心に触れる事が出来たので、今日第二回の訊問をなすべく支倉を予審廷に呼び出したのであるが
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
聞及びしゆゑ家來に召抱めしかゝへたく遙々はる/″\此處まで參りしなりいさゝかの金子などに心をかける事なく隨身ずゐしんなすべしおつては五萬石以上に取立て大名にしつかはすべしまよひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ひどくあわてて居ましたが、用事も名前も、いくら訊いても言つてくれません。遙々はる/″\遠方から、お名前を訊いて訪ねて來たが、錢形の親分に逢ひ度いと——」
大阪美術倶楽部くらぶで催された故清元きよもと順三の追悼会ついたうゑに、家元延寿太夫えんじゆだいふが順三との幼馴染おさななじみおもひ出して、病後のやつれにもかゝはらず、遙々はる/″\下阪げはんして来たのは美しい情誼であつた。
東枕ひがしまくらも、西枕にしまくらも、まくらしたまゝ何處どこをさしてくのであらう。汽車案内きしやあんない細字さいじを、しかめづらすかすと、わかつた——遙々はる/″\きやう大阪おほさか神戸かうべとほる……越前ゑちぜんではない、備前國びぜんのくに糸崎いとざきである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一門のたより、天下の望みをつなぐ御身なれば、さすがの横紙よこがみやぶりける入道にふだうも心を痛め、此日あさまだき西八條より遙々はる/″\の見舞に、内府ないふも暫く寢處しんじよを出でて對面あり、半晌計はんときばかて還り去りしが
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かうぶり母の看病仕かんびやうつかまつりたしと涙ながらに申けるを大岡殿聞れ汝が申でう道理もつともには聞ゆれどもまた胡亂うろんなる處ありわけ其方そのはう遙々はる/″\利兵衞をたのみに思ひて來りしにかれ約束やくそく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
らぬそゞろ歩行あるきも、山路やまぢとほく、遙々はる/″\辿たどるとばかりながる……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小橋氏はかう思つたので、喜捨金をつのりに遙々はる/″\米国まで出掛けて往つた。
幸ひ與力笹野權三郎は、忍藩の重役某の縁者で、それを辿たどつて配下の御用聞錢形平次を動かし、暫らく平次を保養させることにして、遙々はる/″\川越の田舍まで出張らせることに段取を拵へたのでした。
野中のなか古廟こべうはひつて、一休ひとやすみしながら、苦笑にがわらひをして、さびしさうに獨言ひとりごとつたのは、むかし四川酆都縣しせんほうとけん御城代家老ごじやうだいがらう手紙てがみつて、遙々はる/″\燕州えんしう殿樣とのさま使つかひをする、一刀いつぽんさした威勢ゐせいいお飛脚ひきやくで。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年に一度同窓生の会合があると、いつも遙々はる/″\東京まで出掛けて来る。
遙々はる/″\深川からやつて來たといふのです。
民也たみやこゝろいけへ、遙々はる/″\つて恍惚うつとりしながら
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)