襟飾えりかざり)” の例文
先に立ちたるは、かち色のかみのそそけたるをいとはず、幅広き襟飾えりかざりななめに結びたるさま、が目にも、ところの美術諸生しょせいと見ゆるなるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とくに念を入れた服装みなりをしていて、フランネルの服、派手な手袋、白の半靴はんぐつ、薄青の襟飾えりかざりゆわえていた。手には小さなむちをもっていた。
道すがらはまたお使者つかいで、金剛石のこの襟飾えりかざり、宝玉のこの指環、(嬉しげに見ゆ)貴方あなたの御威徳はよく分りましたのでございます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新らしいえり襟飾えりかざりを着けえて、余の枕辺に坐ったとき、余は昨夕ゆうべ夜半よなかに、裄丈ゆきたけの足りない宿の浴衣ゆかたを着たまま、そっと障子しょうじを開けながら
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その政治家が召集されて初めてワシントンへ出掛ける時、夫人は叮嚀に襟飾えりかざりの歪んだのを直してやりながら子供に教へるやうに言つて聞かせた。
彼はまたタキシイドの胸のポケットへ革命的な襟飾えりかざりを押し込んで、それを素晴らしい変り色の絹ハンケチであるかのごとく見せる術にも成功していた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
杉田老画伯の如きは孫の数人もありながら赤き襟飾えりかざりなど致して、へんに風態を若々しく装い、もって老生を常日頃より牽制せんとする意図極めてあらわに見え申候。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
新しい艶のある洋服を着て、襟飾えりかざりの好みもうるさくなく、すべてふさはしい風俗のうちに、人を吸引ひきつける敏捷すばしこいところがあつた。美しく撫付なでつけた髪の色の黒さ。頬の若々しさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むすこはエーベルフェルドの電気工場に勤めているそうで、それがワイナハトには久しぶりで帰るというので、この間じゅうから妹娘が贈物ゲシェンクする襟飾えりかざりを編んでいました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
代診だいしんちひさい、まるふとつたをとこ頬髯ほゝひげ綺麗きれいつて、まるかほいつあらはれてゐて、氣取きどつた樣子やうすで、あたらしいゆつとりした衣服いふくけ、しろ襟飾えりかざりをしたところ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其外にやすりと小刀ないふ襟飾えりかざりが一つ落ちてゐる。最後さいごむかふすみを見ると、三尺位の花崗石みかげいしの台の上に、福神漬ふくじんづけくわん程な込み入つた器械が乗せてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
橋板はしいたがまた、がツたりがツたりいつて、次第しだいちかづいてる、鼠色ねづみいろ洋服やうふくで、ぼたんをはづして、むねけて、けば/\しう襟飾えりかざりした、でつぷり紳士しんしで、むねちひさくツて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この代診だいしんちいさい、まるふとったおとこ頬髯ほおひげ綺麗きれいって、まるかおはいつもよくあらわれていて、その気取きどった様子ようすで、あたらしいゆっとりした衣服いふくけ、しろ襟飾えりかざりをしたところ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
山本さんは部屋にある姿見の方へ行って、洋服の襟飾えりかざりを直して見た。わずかばかりの額の上の髪をでつけた。帽子をかぶって、旅のかばんを提げて、旅舎やどやから小川町の停留場へと急いだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白チョッキをつけ赤い襟飾えりかざりをした、若い、あぶらぎった、頭の禿げた、つやつやした顔色の役人が、彼の手を親しく握りしめて、前日の歌劇オペラのことを話しだした。クリストフは用件をくり返した。
ついでに先刻さっきから苦になっていた襟飾えりかざりの横っちょに曲っているのを注意して直させた後で、また彼の話を聴きつづけた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒い毛氈もうせんの上に、明石あかし珊瑚さんご、トンボの青玉が、こつこつとびた色で、古い物語をしのばすもあれば、青毛布あおげっとの上に、指環ゆびわ、鎖、襟飾えりかざり燦爛さんらんと光を放つ合成金の、新時代を語るもあり。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれも岸本には見知越みしりごしの連中で、襟飾えりかざりの結び方からして美術家らしく若々しかった。こうして集って見ると、岸本よりはずっと年少とししたな岡が在留する美術家仲間ではむし年嵩としかさなくらいであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此前あつさかりに、神楽坂へ買物に出た序に、代助の所へ寄つた明日あくるひあさ、三千代は平岡の社へ出掛でかける世話をしてゐながら、とつおつと襟飾えりかざりを持つた儘卒倒した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぼたんをはずして、胸を開けて、けばけばしゅう襟飾えりかざりを出した、でっぷり紳士で、胸が小さくッて、下腹したっぱらの方が図ぬけにはずんでふくれた、脚の短い、靴の大きな、帽子の高い、顔の長い、鼻の赤い
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この前暑い盛りに、神楽坂へ買物に出たついでに、代助の所へ寄った明日あくるひの朝、三千代は平岡の社へ出掛ける世話をしていながら、突然夫の襟飾えりかざりを持ったまま卒倒した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手を当てるとつめたかった、光が隠れて、たなそこに包まれたのは襟飾えりかざりの小さな宝石、時に別に手首を伝い、雪のカウスに、ちらちらとの間からす月の影、露のこぼれたかと輝いたのは、けだ手釦てぼたんの玉である。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲野さんは椅子いすの背にりかかって、この楽天家の頭と、更紗模様さらさもよう襟飾えりかざりと——襟飾は例にって襟の途中まで浮き出している。——それから親譲の背広せびろとをじっとながめている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその布はこの間まで余のうちに預かっていた娘の子をかたづける時に新調してやった布団ふとんの表と同じものであった。この卓を前にして坐った先生は、えり襟飾えりかざりも着けてはいない。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうも、この襟飾えりかざりすべっていけない」と手探てさぐりに位地を正しながら
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼方あちらかどだから、遠く三四郎と真向まむかひになる。折襟をりえりに、はゞの広い黒繻子くろしゆすむすんださきがぱつとひらいて胸一杯いつぱいになつてゐる。与次郎が、仏蘭西の画工アーチストは、みんなあゝ云ふ襟飾えりかざりけるものだと教へて呉れた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)