蚯蚓みみず)” の例文
梅雨の、わが庭に蚯蚓みみずが這いだしてきた。一匹は南に向かい、一匹は西に行く。一体、蚯蚓はどこを目当てに這って行くのであろう。
ミミズ酒と美女 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
上気して耳朶を真赤にし「こめかみ」に蚯蚓みみずの様な静脈を表わしてお金は、自分でも制御する事の出来ない様な勢で親子を攻撃した。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
死んだあゆを焼くとピンとそりかえったり動いたりする……、うなぎを焼くとぎくぎく動く、蚯蚓みみずを寸断すると、部分部分になって動く……。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
妹分のお駒に懸想けそうして、蚯蚓みみずののたくったような手紙を書いて、人の悪いお駒に翻弄されていたことが判ったくらいのものでした。
妙な木製車のついている柱には、血汐の斑痕はんこんがありありと分るし、大きな銅鍋あかがねなべには、硫黄色の鉛が蚯蚓みみずのようにこびりついている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで雀であろうが蚯蚓みみずであろうが、すべてこの世の女性はみな布の糸を桛にして、首にかけてあるいたという話が通用したのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お嬢さんは、お手車か、それとも馬車かと考えますのが一式の心ゆかしで、こっちあ蚯蚓みみずみたように、芥溜はきだめをのたくッていましたんで。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土を穿ち、土を移し、土をらし、土を積む。彼等は工兵のありである。同じ土に仕事する者でも、農は蚯蚓みみずである。蚯蚓は蟻を恐れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紫色に光る一つの山蚯蚓みみずが、小蛇のように何処からか這いだして来て、それが係蹄の針金にかかった。半兵衛はそれを見つけた。
山の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
血ぶくれになった蚯蚓みみずの胴のようなものが関節ごとに不恰好ぶかっこうにくびれ、ふやけた肉のかたまりとなっていずりまわっている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
壱銭銅貨位のや天保銭位の大きさのを買ってもらって悦んだが、蚯蚓みみずをやるので嫌いになった。私は蛇より蚯蚓が厭だ。
西洋の耶蘇ヤソが生まれたときには空の星辰が一時に輝いて祝福したというが、己の生まれたときには恐らくがま蚯蚓みみずが唸ったかも知れやしない!
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
少年の用いていた餌はけだし自分で掘取ったらしい蚯蚓みみずであったから、いささかその不利なことが気の毒に感じられた。で、自分の餌桶を指示さししめして
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
太い静脈が手の甲を、蚯蚓みみずのように這っていた。その腕と並んでいるもう一本の腕の、掌の端から生えているのは、爪のない三本の指であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
而もその上、その傷は私が一時の興奮からってしまったあの迪子みちこの傷とソックリで、捻れたような赤い肉の隆起が、蚯蚓みみずのように匍廻はいまわっていた。
古傷 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「ああ嫌いですね、大嫌いです、殊にそんな風につんけんする時の女は、蚯蚓みみずよりも嫌いですよ」「みみずですって、へん」幽霊はひらき直った
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庭は蚯蚓みみず蛞蝓なめくじ培養所と云ったようなのが、今朝は雲は暗く垂れかかって、成る程、いつまでも夜が明けない筈である。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
三年のすずきが食いつこうと、あるいはまた間違って糸蚯蚓みみずほどのはえ(註に曰く、ハエをハヤというは俗称なり。形鮎に似て鮎に非なる白色の淡水魚なり)
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むかしの人は、虫と名のつくものは、どんなものでも歌をうたうものと思っていたらしく、蚯蚓みみずや蓑虫をも鳴く虫の仲間に数え入れて、なかにも蓑虫は
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
蚯蚓みみずに団子………。さやう、それからなまの肉類。エー、それに同じ魚で自分よりさいのを食べるものが多いといふことを知つておいでのおありませう。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
例えば蚯蚓みみずの研究所で鯨の研究をやりたいといったような場合には、ともかくも一応上長官の諒解を得るために
学問の自由 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこへ、一間程の綸に鈎をつけ、蚯蚓みみず餌で、上からそーツとおろすです。少しあたりを見て、又そーツと挙げさへすれば、屹度きっと五六寸のが懸ツて来るです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
蚯蚓みみずき声を研究するために、あの、そこの廃兵院の森に夜明しをしてしゃがんでおりましたら、泥棒と見誤られて刑事に誰何すいかされたことがございます
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
夕刻蚯蚓みみずの太い奴をつけて岸から川の中へ垂らして置くと、夜分鰻や鯰がガブリと食って引っかゝる。竿が岸に差してあるから、暴れても逃げられない。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
法水は扉の横手にある水道栓に眼を止めたが、それからは、昨夜のうちに誰か水を出したと見えて、蛇口から蚯蚓みみずのような氷柱つららが三、四本垂れ下っている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
蚯蚓みみずには吸盤がないゆえ、普通の蛭類と普通の蚯蚓類とを比べて見ると、その差別は明瞭で、その間の境界も判然とあるごとくに思われるが、よく調べると
境界なき差別 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「だれだいあいつは。ひとり蚯蚓みみずの鳴声に似たのがゐるよ。ぴいぴいぴいか。ごめんなさいね。うるさくて」
腹と尾に力を入れてまっしぐらに急進するが一番はやい故、専らその方を用いた結果、短い足が萎靡いびしてますます短くなる代りに、躯が蛇また蚯蚓みみずのごとく長くなり
晩飯に私は海産のぜん虫——我国の蚯蚓みみずに似た本当の蠕虫で、只すこし大きく、一端にあるふさから判断すると
□四月させる事なし、鉄線開きたけのこ出。ひぐらし鳴き、蚯蚓みみず出、螻蟈けら鳴き、芭蕉実を結ぶ、国人これを甘露と名づく。
彼の病原を洞察した宿禰は、蚯蚓みみずと、酢漿草かたばみそうと、童女の経水けいすいとを混ぜ合せた液汁を長羅に飲ませるために苦心した。しかし長羅はそれさえも飲もうとはしなかった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
蚯蚓みみずの思いをさぐるよりも、ややこしく、わずらわしく、薄気味の悪いものに感ぜられていました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
煉瓦の壁にもたれて、全身をねじ曲げ、両手は空を掴み、額には蚯蚓みみずの様な静脈をふくらませて、今にも窒息しそうに悶えていたが、ゾッとしたことには、その格好が
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当時住んでいた長屋の窓下に蚯蚓みみずにして仕掛けをして鴉の寄るのを窺ったりしたことがある。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
お前は私たちの後から、黐竿もちざおを肩にかついだ小さな弟と一しょに、魚籠びくをぶらさげて、ついてきた。私は蚯蚓みみずがこわいので、お前の兄たちにそれを釣針につけてもらった。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雪崩の押した跡らしい、上の方に赭い崩れが見える。其処の水際の木蔭に荷を卸して昼飯にした。金作が大虎杖を切って釣竿を作ると、源次郎が蚯蚓みみずを掘って餌にする。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もっとも切り出した腸は鰻の色とはちがって、全体が薄白く、それが蚯蚓みみずのように、而も極めて緩く動くのですから、馴れない者の眼には可なりに気味の悪い印象を与えます。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
にんじんがカンテラをげ、おじさんが半分泥のつまったブリキかんを持って行く。この中へ、釣り用の蚯蚓みみずを蓄えて置くのである。それから、その上へ湿しめったこけせる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
良ッちゃんが、あんな男の嫁さんになるかと、思うただけで、背中がゾコゾコッとするわ。蜈蚣むかでと、蚯蚓みみずと、毛虫とが、一緒に襟元に飛びこんだみたいよ。おう、気色きしょくる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
前の谷をへだてて向こうの山の中途を汽車が大きな音をたてて蚯蚓みみずの歩むよりも遅く登っている。前後の機関車から吐く煙と共にこの静かな天地に音ばかり大きく響かして行く。
五色温泉スキー日記 (新字新仮名) / 板倉勝宣(著)
「おおおお可哀かあいそうに何処どこを。本当に悪い兄さんですね。あらこんなに眼の下を蚯蚓みみずばれにして兄さん、御免ごめんなさいと仰有おっしゃいまし。仰有らないとお母さんにいいつけますよ。さ」
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これは三銭の竿で、木綿糸、一銭に三本のはり、二三分の蚯蚓みみずで釣れる。半日もやると晩のお菜に四五十は釣れる。此奴の釣り味といふものは、実に静かで、優雅なところがある。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
冬になると、魚芳はひよどりを持って来て呉れた。彼の店の裏に畑があって、そこへ毎朝沢山小鳥が集まるので、釣針に蚯蚓みみずを附けたものを木の枝に吊しておくと、小鳥は簡単に獲れる。
(新字新仮名) / 原民喜(著)
「馬、馬、馬鹿つ……」先生は顏に蚯蚓みみずのやうな青筋を立てて、上村の席に近寄つた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
かつて僕が腹立まぎれに乱暴な字を書いたところが、或人が竜飛鰐立りょうひがくりつめてくれた事がある。今日のも釘立ち蚯蚓みみず飛ぶ位の勢はたしかにあるヨ。これで、書初かきぞめもすんで、サア廻礼だ。
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
水のような月の光が畳の上までさし込んで、庭の八手やつでまばらな葉影はあわく縁端にくずれた。蚯蚓みみずの声もかすかに聞こえていた。螢籠ほたるかごのきに吊して丸山さんと私とは縁端に並んで坐った。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
わたしどもの日々の仕事は大概蚯蚓みみずを掘って、それを針金につけ、河添いに掛けてえびを釣るのだ。蝦は水の世界の馬鹿者で遠慮会釈もなしに二つの鋏ではりさきを捧げて口の中に入れる。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
種子発生は、流星の出現と相通ずる所があり、卵を砕くつばめくちばしと相通ずる所がある、そして蚯蚓みみずの発生とソクラテスの生誕とを同時に導き出す。望遠鏡の終わる所には顕微鏡が始まる。
釜無支流の立場川、高原療養所近く流れて八ヶ岳山麓の本郷村立沢部落迄、もっぱら木の葉山女魚やまめ餌は蚯蚓みみずである。実は十二月のものである。長野県は九月から十一月迄渓流魚は禁漁である。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
蚯蚓みみずや蛇のようにのたくりまわる台所道具を聯想したり、苦痛をあらわすために、鮮血のしたたる大木や、火焔の中に咲く花を描きあらわしたりする事は、あたかも神秘の正体を知らない人間が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)