色気いろけ)” の例文
旧字:色氣
らねえでどうするもんか。しげさん、おめえのあかしの仕事しごとは、ぜにのたまるかせぎじゃなくッて、色気いろけのたまるたのしみじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こう年を取っては色気いろけよりも喰気くいけと申したいが、この頃ではその喰気さえとんと衰え、いやはや、もうお話にはなりませぬ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃は小供の事で今のように色気いろけもなにもなかったものだから、かゆい痒いと云いながら無暗むやみに顔中引きいたのだそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで、ねやを共にする男へなんぞの色気いろけは、大嵐おおあらしの中へき飛ばしたかのように、自分一人で涙を楽しんでいる風なのだ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ズル/\ツと扱出こきだしたは御納戸おなんどだかむらさきだか色気いろけわからぬやうになつたふる胴巻どうまきやうなもの取出とりだしクツ/\とくとなかから反古紙ほごがみつつんだかたまりました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
年紀としをしてしからず、色気いろけがある、……あるはいが、うぬ持余もてあました色恋いろこひを、ぬつぺりと鯰抜なまづぬけして、ひとにかづけやうとするではないか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかも色気いろけがあるわけでも、食気くいけがあるわけでもなんでもない、一方の生命の危険から、ほとんど天災というよりほかはない女の立場であったに拘らず
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最早もはやあのいたづらな仔猫の眼ではなくなつて、たつた今の瞬間に、何とも云へないびと、色気いろけと、哀愁とを湛へた、一人前の雌の眼になつてゐたのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長造は、弦三のことを、色気いろけづいた道楽者どうらくものののしったことを思い出して、暗闇の中に、冷汗ひやあせをかいた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ハハハ、厭だによってか、ソレそれがもういけねえ、ハハハ詰らねえ色気いろけを出したもんだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その上もう五十といえば色気いろけなどはなくなりて、唯おかしみ一方の酔態であろうと思う。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
『アッ。あれは、わしの新調の車らしいぞ。誇らしゅう、わしの前を打たせて行くわ。……ちえっ、牝馬めすうまめ。——おうなのくせに、色気いろけづいて、あぶみにも、くつわにもかからぬ牝馬め』
今の芸者の三味線などは聞かれたものでないなぞと人前で耻し気もなくそんな事が言われたのはまだ色気いろけもあり遊びたい気もせなかった証拠である。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして心のうちでああ美しいと叫びました。十六、七といえば、男でも女でも、俗にいう色気いろけの付く頃です。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
煙草たばこふかしてけむだして、けむなかからおせんをれば、おせん可愛かあいや二九からぬ。色気いろけほどよくえくぼかすむ。かすえくぼをちょいとつっいて、もしもしそこなおせんさま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
最早もはやあのいたずらな仔猫の眼ではなくなって、たった今の瞬間に、何とも云えないびと、色気いろけと、哀愁とをたたえた、一人前の雌の眼になっていたのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……いはほそうは一まいづゝ、おごそかなる、神将しんしやうよろひであつた、つゝしんでおもふに、色気いろけある女人によにんにして、わる絹手巾きぬはんかちでもねぢらうものなら、たゞ飜々ほん/\してぶであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とはうも出来でけた、それはさうと君は大層たいそう衣服きものうたな、何所どこうた、ナニ柳原やなぎはらで八十五せん、安いの、うもこれ色気いろけいの本当ほんたうきみなにを着ても似合にあふぞじつ好男子かうだんしぢや
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へえー、お前さん、十九かい。まああきれたわね。わたしゃ十六七とばかり思っていたよ。じゃあもう色気いろけもたっぷりあって——旦那様もなかなか作戦がしっかりしていらっしゃるわね。へえ、そうかい、十九とは……」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顔の事になると、原田は他人より一倍眼が肥えてると云った風に批評するのが癖で、結局惚れるとか惚れられないとか、話を色気いろけの方へ持って行って決着を付ける。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
赤い帯を色気いろけなく結んで、古風な紙燭しそくをつけて、廊下のような、梯子段はしごだんのような所をぐるぐる廻わらされた時、同じ帯の同じ紙燭で、同じ廊下とも階段ともつかぬ所を、何度もりて
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渋茶しぶちゃあじはどうであろうと、おせんが愛想あいそうえくぼおがんで、桜貝さくらがいをちりばめたような白魚しらうおから、おちゃぷくされれば、ぞっと色気いろけにしみて、かえりの茶代ちゃだいばいになろうという。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
羽織はおりのお色気いろけ取合とりあひいこと、本当ほんたう身装なりこさへ旦那だんなが一ばん上手じやうずだとみんながさうつてるんですよ、あのね此春このはる洋服やうふくらしつた事がありましたらう、黒の山高帽子やまたかばうしかぶつて御年始ごねんしかへり
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
何ぼ何でもこの年になって色気いろけで芸者は買えません。芸でも仕込んで楽しむより仕様がない。あなたの前だから遠慮なく気燄きえんを吐きますが僕はこう見えてもこれでなかなか道徳家のつもりです。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何とも云へないびと、色気いろけと、哀愁とを湛へた、一人前の雌の眼になつてゐたのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし流れて行く人の表情が、まるで平和ではほとんど神話か比喩ひゆになってしまう。痙攣的けいれんてき苦悶くもんはもとより、全幅の精神をうちわすが、全然色気いろけのない平気な顔では人情が写らない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)