累々るいるい)” の例文
金売りの商人が話した通りに、原の奥には大きい奇怪な石が横たわって、そのあたりには無数の骨や羽が累々るいるいと積みかさなっていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
死骸は路上に累々るいるいとしてつみ重なり、人心も不安におののき、これでこの世も終りであろうかと、世の無常をひどくはかなみ悲しんだ。
船をこわした古い材木と、けずりぱなしの材木との累々るいるいたる間を、与兵衛に手を引っぱられて行くお玉は気味が悪くてなりませんでした。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
老博士の卓子テーブル(そのあしには、本物の獅子ししの足が、つめさえそのままに使われている)の上には、毎日、累々るいるいたる瓦の山がうずたかく積まれた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
此処ここは×国間諜団かんちょうだん巣窟そうくつではないか。累々るいるいよこたわるのは、みな×国の間諜たちだった。もっとも一人だけ覆面を取らぬ団員があったが……。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
城内にもひとすじの内濠うちぼりがあったが、そこは溝渠こうきょのような幅しかない。累々るいるいと重なりあう死骸の血が、そこの水まであかくした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床はあるが、言訳いいわけばかりで、げんふくも何もかかっておらん。その代り累々るいるいと書物やら、原稿紙やら、手帳やらが積んである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、そこに、有縁無縁の石塔の累々るいるいとしたあいだに、鐘搗堂かねつきどうをうしなったつり鐘の雑草にうもれていたずらに青錆びているのをみるだろう。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
黒い石が累々るいるいと重なりつづいて古びた水苔で足がすべる。蛇籠じゃかごを洗う水音が陰々と濡れそぼれた夜の底をながれていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこここに死骸しがいを収める西方らしい雑兵どもが急しげに往来するばかり、功徳池くどくいけと申す蓮池はすいけには敵味方の屍がまだ累々るいるいと浮いておりますし、鹿苑院ろくおんいん
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
藪の中に累々るいるいたる花をつけた椿がある。今一雨来たならば、あの花がぽたぽた落ちるであろう、といったのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その側に風に吹き落とされた未熟の林檎が累々るいるいと積み重ねられていた。兄らは私を見つけると一度に声を上げた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、島独特の黄色い円いかおをした童子が赤いトマトの累々るいるいとつまって盛り上った竹の籠を両手に擁えて、山坂などをのぼって来る。その髪の毛に円光が立つ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
芝生の上では、日光浴をしている白い新鮮な患者たちが坂に成った果実のように累々るいるいとして横たわっていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それならば内の裏にもあるから行って見ろというので、余は台所のような処を通り抜けて裏まで出て見ると、一間半ばかりの苗代茱萸が累々るいるいとしてなって居った。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
むかし、むかし、大むかし、この木は山谷やまたにおおった枝に、累々るいるいと実をつづったまま、静かに日の光りに浴していた。一万年に一度結んだ実は一千年の間は地へ落ちない。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
泊岩とまりいわの奇岩の累々るいるいたるあたりは、これまた自らなる庭園で、小さな盆地には水をたたえ、黄楊つげ、つつじなどの群生しているものは、皆刈込かりこんだような形をしており、有明海
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
日本橋の親類を探しに丸の内へ出掛けた近所の新城は、呉服橋に焼死体が累々るいるいとして横たわっている惨状を話した。そうして麹町の火が四谷の方向に延びつつあることを言った。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
同時に現代文化の粋を極めた常識とか、学識とかいうものが、一挙に葉微塵ぱみじんとなって、あとにはからっぽの頭蓋骨だけが、累々るいるいとして残る事になる……という訳なんだが……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
初秋の夜も沈々しんしんと更けた十二時すぎになると、アーラ不思議や、忽然こつぜんとして一人の女に化けた妖怪が現れ、累々るいるいと並んでいる石碑の間を歩いて行くのを見届けたから、翌朝再びその場へ行ってみると
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
死刑場には、不用になった黒く塗った絞台や、今も乞食が住む非人小屋があって、夕方は覚束ない火が小屋にともれ、一方の古墳こふん新墳しんふん累々るいるいと立並ぶ墓場の砂地には、初夏の頃から沢山月見草が咲いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
月はなお半腹のその累々るいるいたるいわおを照すばかり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王侯の 墓累々るいるいたるも
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歩毎に伏屍ふくし累々るいるいたり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それは累々るいるいたる人間の骸骨で、規則正しく順々に積み上げてあった。年を経て全く枯れたる骨は、松明たいまつの火に映じて白く光っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひとしゅうする白骨が累々るいるいとあるではないか。桃園の事はすでに終る。いまはめいして九泉に安んじて可なりである。かつ
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこここに死骸しがいを収める西方らしい雑兵どもが急しげに往来するばかり、功徳池くどくいけと申す蓮池はすいけには敵味方の屍がまだ累々るいるいと浮いてをりますし、鹿苑院ろくおんいん
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
地の底とは思われない広い部屋に、大勢の黒いかたまり累々るいるいと、また蠢々しゅんしゅんと、動きまわり、かたまり合っているところ、実に浮世離れのしたながめであった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その山の多くは隙間すきまなく植付けられた蜜柑みかんの色で、暖かい南国の秋を、美くしい空の下に累々るいるい点綴てんてつしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
附近の草木は枯死こしし、鳥獣の死屍しし累々るいるいたるのが見えた。不図ふと、死の谷へ下りようという峠のあたりに人影が見えた。人間らしくはあったがまさしく怪物であった。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
人間の知らない山の奥に雲霧くもきりを破った桃の木は今日こんにちもなお昔のように、累々るいるいと無数のをつけている。勿論桃太郎をはらんでいた実だけはとうに谷川を流れ去ってしまった。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
累々るいるいたる熔岩の集団には、こけがいよいよ深く、樹々きぎの枝には「さるおがせ」がつき、谷間にはししがしら、いので、かなわらび、しけしだ、おおしだ等水竜骨すいりゅうこつ科の隠花いんか植物が群生し
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
最初に悟浄ごじょうが訪ねたのは、黒卵道人こくらんどうじんとて、そのころ最も高名な幻術げんじゅつ大家たいかであった。あまり深くない水底に累々るいるいと岩石を積重ねて洞窟どうくつを作り、入口には斜月三星洞しゃげつさんせいどうの額が掛かっておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その根元に豆菊がかたまって咲いて累々るいるい白玉はくぎょくつづっているのを見て「奇麗ですな」と御母さんに話しかけた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天下は暗澹あんたん——いずれ、光明のかんむりをいただく天下人てんかびとはあろうが、その道程どうてい刀林地獄とうりんじごく血汐ちしお修羅しゅらじゃ。この秀吉ひでよしのまえにも多難な嶮山けんざん累々るいるいとそびえている
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焼けたはりや板、柱の類が累々るいるいとかさなっているその一つへ、痩せさらばえた片足をチョンとかけて、四方八方前後左右へ眼をちらす丹下左膳……見せたい場面です。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
トーチカの真下のところには、味方の兵士のしかばねが、累々るいるいと転がっていた。よくまあ、こうも一遍にやられたものだと、感心させられた。そのあたりは、墓場そのものであった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこらの壁のきわに何物かが累々るいるいと積み重ねてあるのが見える。
しかし小さいだけあって、鈴なりに枝をしなわして、累々るいるいとぶら下っているところがいかにもみごとに見える。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あわれや馬も人もその下になった者は悲鳴すら揚げ得ずに圧しひしがれてしまう。そしてたちまち、その口は、累々るいるいたる大石に大石を重ねて封鎖されてしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあとには、鬼啾きしゅうと、いきどおりのなみだと、黙々たる怨恨えんこん累々るいるいと横たわり重なってゆく。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたりには累々るいるいと、殺された家畜の首がない体が横たわっているのであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういう新兵器は朝廷の禁軍ならでは持っていないもので——実際に見舞われたのも初めてなほどだった。泊軍はただなだれを打ち、はや累々るいるい死屍ししを出して
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余は石甃いしだたみの上に立って、このおとなしい花が累々るいるいとどこまでも空裏くうりはびこさまを見上げて、しばらく茫然ぼうぜんとしていた。眼に落つるのは花ばかりである。葉は一枚もない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刻々敵も討ち減らしてはいるが、味方もそれに数倍する死傷者を累々るいるいと路上に重ねている有様であった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助にはこの累々るいるいたる黒いものが、ことごとくこう云う娯楽の席へ来て、面白く半夜をつぶす事のできる余裕のある人らしく思われた。彼はどの顔を見てもうらやましかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
累々るいるいとある屍と屍の間に、誰か、兎のようにはやい動作で、身をかくした者があった。昼間のような月明りである。じっと、そこを見つめると、かがんでいる者の背がよくわかる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
個人の意志よりもより大なる意志に支配せられて、気の毒ながらこの歳月を君らの麺麭パンの恩沢に浴して累々るいるいと送りたるのみ。二年ののち期満ちて去るは、春きたつてかり北に帰るが如し。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さすがの信長さえ、どこを見ても、敵味方とも死者負傷者の累々るいるいとかさなっている有様に
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしタンタラスと云う人があった。わるい事をしたばちで、ひどい目にうたと書いてある。身体からだは肩深く水にひたっている。頭の上にはうまそうな菓物くだもの累々るいるいと枝をたわわに結実っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)