粛々しゅくしゅく)” の例文
旧字:肅々
けれど二階堂のやしきから貝の音にしたがって歩武堂々と町なかも意識して粛々しゅくしゅくとながれて来た。期待のとおり装いも見事であった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿直の室からバラバラと十人余り走り出たが、静かに冠者の後方から粛々しゅくしゅくとして進んで行く。いずれも屈強の若武士わかざむらいである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
某は不思議に思ったが路の真中に立っていられないので、路ぶちへ寄って見ていると、騎馬武者の一隊は、其の前を粛々しゅくしゅくと通りすぎようとした。
首のない騎馬武者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
出迎えと見物とに集った十万人ちかい東京市民の間を、マール号の陸戦隊員二百名が、例の記念塔を砲車牽引車けんいんしゃに積んで、粛々しゅくしゅくと市中を行進した。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こう言って一行を促し立てた時分に、新撰組の一行十余人が、粛々しゅくしゅくとしてこの茶店に入って来ました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お蓮様を中に、さながら葬式の行列よろしく、闇をふくんで粛々しゅくしゅくと寮の焼け跡へさしかかった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此処ここにはそれをめぐる玉垣の内側が他のものとは違って、ことごとく廻廊のていをなし、霊廟の方から見下みおろすとその間に釣燈籠を下げた漆塗の柱のかずがいかにも粛々しゅくしゅくとして整列している。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
亀井かめい片岡かたおか鷲尾わしのお、四天王の松は、畑中はたなかあぜ四処よところに、雲をよろい、繇糸ゆるぎいとの風を浴びつつ、あるものは粛々しゅくしゅくとして衣河ころもがわに枝をそびやかし、あるものは恋々れんれんとして、高館たかだちこずえを伏せたのが
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静かなる事さだまって、静かなるうちに、わが一脈いちみゃくの命をたくすると知った時、この大乾坤だいけんこんのいずくにかかよう、わが血潮は、粛々しゅくしゅくと動くにもかかわらず、音なくして寂定裏じゃくじょうり形骸けいがい土木視どぼくしして
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汝は政府を分離し、これを特別一個の物となし今日の雄大深遠なる、勢力の感化をこうむらざるものとなしてこれを論ずるあたわず。西欧の文明は粛々しゅくしゅくとしてその新舞台に出で来たれり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
びしい露地の明るさの果て、本郷の家並が曲りくねって連なり、戸毎に日章旗がひらひらとはためいている。祝祭日なのである。日の光さす道を曲りながら、霊柩車れいきゅうしゃは既に粛々しゅくしゅくと動き出した。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
鞭声べんせい粛々しゅくしゅくよるかわを渡る」なぞと、古臭い詩の句を微吟びぎんしたりした。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寒い春風のなかを粛々しゅくしゅくとして校庭を出た。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
も吹かず、も鳴らさず、山巒さんらんの間を縫って、極めて粛々しゅくしゅくと来るのであったが、五千余騎の兵馬の歩みは、いかに静かにと努めても
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この砂漠に、醤麾下きかの最後の百万名の手勢てぜいが、炎天下えんてんかに色あげをされつつ、粛々しゅくしゅくとして陣を張っているのであった。
盛装を凝らした窩人達は夜のうちから詰めかけて来て、あけの明星の消えた頃には境内は人で埋ずもれた。その時一群の行列が粛々しゅくしゅくと境内へ練り込んで来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御成門まで来ると、一隊の練兵が粛々しゅくしゅくと練って来る。主膳も勢い、道を避けて通さなければならぬ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さらには、いかにも軍紀整然とみえる歩兵の長柄隊、長槍隊、弓隊などが三段になって、雪かぜの中を面もそむけず粛々しゅくしゅくと行く。
ウラル号は粛々しゅくしゅくとした大西洋を南下し、怪人集団の蟠居ばんきょする水域に近づいていった。やがて集団城塞の手前十キロメートルのところから潜航に移った。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
その一群れは足並揃えて粛々しゅくしゅくとこっちへ近寄って来る。同勢すべて五十人余り、いずれも華美きらびやか服装よそおいである。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一団になった山の娘は粛々しゅくしゅくとして道標のかたわらへやって来る。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みな、生きてかえるいくさとは思わないので、張りつめた面色めんしょくである。決死のひとみ、ものいわぬ口を、かたくむすんで、粛々しゅくしゅくをそろえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会議がはじまるときには、十三人の会員が全部揃って、粛々しゅくしゅく円卓子まるテーブルまわりをとりかこんだ。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黒塗り蒔絵まきえらしい一挺の駕籠を、四人の武士と四人の老女とが、警護をするように引きつつみ、若侍の死骸らしい物を、その中の二人の武士が釣って、粛々しゅくしゅくとこちらへ進んで来るのを見た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
粛々しゅくしゅく、行軍の足なみにかえる。その頃から素槍すやりを引っさげた部将が、一倍大股な足どりで、絶えず隊側を監視しつつ進んだ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人造人間部隊が粛々しゅくしゅくと行軍を開始して向ってきたので、原地人軍は、さすがにちょっと動揺どうようを見せた。が、先登せんとうに立つ勇猛果敢ゆうもうかかんな酋長は、槍を一段と高くふりまわして、部下を励ました。
此方こなた花村甚五衛門は一党の軍勢を引き連れて燃える松火たいまつに路を照らし山の中腹を伝って行く。軍令厳しく兵誇らず、初冬の夜風をこうに受けて、一列縦隊ただ粛々しゅくしゅくと南へ南へと進むのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠くで、それを合図と見ていたものか、たちまち清風鎮の街中へ、約二百の山兵が、燕順、王矮虎おうわいこ、白面郎などに引率されて粛々しゅくしゅくと入って来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧正服そうじょうふくとアラビア人の服とをごっちゃにしたような寛衣かんいをひっかけ、頭部には白いきれをすっぽりかぶり、粛々しゅくしゅくと進んで、聖壇にのぼり、椅子に腰を下ろした。聴衆の間からは、いきが聞えた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無言の一行は山の腹、木曽川の岸の岨道そばみち粛々しゅくしゅくとして行くのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄蓋と共に、魯粛ろしゅくも案内に立ち、粛々しゅくしゅく、中門まで通ってくると、開かれたる燦碧金襴さんぺききんらんの門扉のかたわらに、黙然、出迎えている一名の重臣があった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粛々しゅくしゅくとしかし傍若無人に、美作を後にして歩み出したのである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五千の偽装兵をしたがえ、張遼、許褚きょちょを先手とし、人はばいをふくみ馬は口をろくし、その日のたそがれ頃から粛々しゅくしゅくと官渡をはなれて、敵地深く入って行った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、その夜も夜警隊は粛々しゅくしゅくと城下を見廻っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
発火、埋兵まいへい殲滅せんめつの三段に手筈を定めて、全軍ひそと、仮寝のしじまを装っていると、やがて果たして、人馬の音が、粛々しゅくしゅくと夜気を忍んでくる様子だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粛々しゅくしゅく堂々として進んで行く。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて、まッくらな瀬田せた唐橋からはし小橋こばし三十六けん、大橋九十六けんを、粛々しゅくしゅくとわたってゆく一こう松明たいまつが、あたかも火の百足むかでがはってゆくかのごとくにみえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで行列粛々しゅくしゅくと進んだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金瓢きんぴょう馬簾ばれんを中心に、槍の光を並べ、弓をつらね、鉄砲をそろえ、青葉の露の頻りに降る暗い坂道を、一糸のみだれもなく、粛々しゅくしゅくと麓へむかって降りかけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全軍粛々しゅくしゅくと進んで行く。
「両勢一万五、六千人。かねも打たず旗も振らず、音なき波の歩みのように粛々しゅくしゅくとこれへ向ってまいります」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全軍粛々しゅくしゅくと動き出した。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早くも噂の伝わった江戸の町々の人目に見まもられながら、芝の田村右京太夫の邸へと、真っ暗な滅失めっしつを、粛々しゅくしゅくと踏んで、かなしくも何処かの橋を、渡っている頃なのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜、宵のうちは、風清く、月明らかで、粛々しゅくしゅくたる夜行には都合が悪かったが、渭水いすいを渉る頃から、夜霧ふかく、空も黒雲にとざされて来たので、司馬懿はかぎりなく歓んで
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところへまたも、一群の正規兵が、隊伍たいご粛々しゅくしゅくと、目の前を通りすぎた。ふさつきの立て槍を持った騎馬隊と鉄弓組の中間には、雪白の馬にまたがった眉目びもくするどい一壮士の姿が見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんさびたすぎこだちの御山みやまの、黒髪くろかみを分けたように見えるたかい石段いしだんのうえから、衣冠いかん神官しんかん緑衣りょくい伶人れいじん、それにつづいてあまたの御岳行人みたけぎょうにん白衣びゃくえをそろえて粛々しゅくしゅく広前ひろまえりてくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予の坐像を乗せた喪車もしゃには、座壇の前に一さんの燈明をとぼし、米七粒、水すこしをくちにふくませ、またひつぎ氈車せんしゃの内に安置して汝ら、左右を護り、歩々粛々しゅくしゅく、通るならば、たとえ千里を還るも
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄徳以下、列のあいだを、粛々しゅくしゅくと城内へとおった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
粛々しゅくしゅくと流れて来る——
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)