発矢はっし)” の例文
旧字:發矢
ける日は追えども帰らざるに逝ける事はとこしえに暗きに葬むるあたわず。思うまじと誓える心に発矢はっしあたる古き火花もあり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ドクトルはそのあとにらめていたが、ゆきなりブローミウム加里カリびんるよりはやく、発矢はっしとばかりそこになげつける、びん微塵みじん粉砕ふんさいしてしまう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ものもいわず、うしろから躍りかかった白刃は、鹿之介の肩を斬りさげて、なお発矢はっしと、切ッ先を岩にぶつけて火を発した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と観ずる途端に発矢はっしと復笞の音すれば、保胤はハラハラと涙を流して、南無なむ、救わせたまえ、諸仏菩薩ぼさつ、南無仏、南無仏、と念じたというのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兵馬は金剛杖をふるって、駕籠をめがけて来る曲者くせもの発矢はっしと打ち、つづいてかかる悪者の眉間みけんを突いて突き倒し、返す金剛杖で縦横に打ち払いました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いきなり庭に持出すと、薪割りで真っ向から発矢はっしとやりました。よく枯れ切った木曾の檜材は、左京の腕の冴えにつれて、物の見事に真二つになります。
彼は私たちなどには目もくれずに、ただホームズの顔に、発矢はっしとつけられて、憎悪と驚異が、混り光っていた。
そう園のいうのを聞くと、ガンベは指の短かい、そして恐ろしく掌の厚ぼったい両手を発矢はっしと打ち合せて、胡坐あぐらのまま躍り上がりながら顔をめちゃくちゃにした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つと、そばにあった杯盤を、取るよりも早く、勘之介の面上を目がけて発矢はっしとばかりに投げ付けた。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
別離わかれの時のお言葉は耳にとまって……抜き離せばこの凄いわざもの……発矢はっし、なみだの顔が映るわ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「ああそうですか、ちょっと待ってください、今一本矢が残っているから。」とか何とか言ってその右の手にあった矢を弓につがえて五、六間先にある的をねらって発矢はっしと放った。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たとえば花が囁嚅ささやいたとか犬が欠伸あくびしたとかいうような文句や、前にもいった足利あしかが時代の「おじゃる」ことばや「発矢はっし!……何々」というような際立きわだった誇張的の新らしい文調であったので
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
晧糸こうし水平すいへいに飛んで、発矢はっし! と小娘の頭に刺さった……と見る! 剣鋩けんぼう、かすかに人体をそれて、突き立ったので、仰天した観覧人たちがホッと安堵あんどの胸をなでおろす間もあらばこそ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
老人の打ち卸す発矢はっしとした勢いには、破壊の憎みと創造の歓びとが一つになって絶叫しているようである。その速力には悪魔のものか善神のものか見判みわけ難い人間離れのした性質がある。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
発矢はっしの二三十もならべてたたかいたれどその間に足は記憶おぼえある二階へあがり花明らかに鳥何とやら書いた額の下へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり同伴つれの男が隣座敷へ出ている小春を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
と吟ずるや否や神殿の扉に発矢はっしとばかり二本の矢を射かけた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
発矢はっし
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
と、歯を喰いしばって、斬りつけたと思うと、小次郎の左の手から、黒い棒が発矢はっしうなって、その小手を強く打った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬が打った石礫いしつぶて、猛犬の額に発矢はっしと当る。犬は一声高く吠えて飛び退き、爛々らんらんたるまなこを以て遠くから兵馬を睨む。
わが世界とひとの世界と喰い違うとき二つながら崩れる事がある。けて飛ぶ事がある。あるいは発矢はっしと熱をいて無極のうちに物別れとなる事がある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハッと身をひねると同時に、何やら平次の脇をかすめて、学寮の塀に発矢はっしと突っ立ったものがあります。
葉子はむっとしてその男のひたいから鼻にかけたあたりを、遠慮もなく発矢はっしと目でむちうった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして猟用の鞭を振りながら肉薄して来るウードレーに、発矢はっしとピストルを突きつけた。
陰で聞いている美奈子は、胸を発矢はっしと打たれたように思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
敵の真眉間まみけんのぞんで切っさき下りに斬りつけた——時すでに大月玄蕃も手馴れの鬼丸三尺の剛刀は抜く手も見せず、発矢はっしと右脇へ受け払って来た——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何処から打ったか、発矢はっしつぶて、右の拳を打たれて、左馬之助は思わず匕首の手をゆるめました。
すると真闇まっくらな道のはたで、たちまちこけこっこうという鶏の声がした。女は身を空様そらざまに、両手に握った手綱たづなをうんとひかえた。馬は前足のひづめを堅い岩の上に発矢はっしきざみ込んだ。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしこの猛激な老人は、依然として言葉は無く、ただ私の友人の顔を発矢はっしと睥みつけている。その猛き眼光、こわい髭、——さながらに猛虎の風貌をも思わしめるものであった。
手裏剣しゅりけんを抜いて発矢はっしと投げる。投げた方角は薩州邸の馬場から此邸こちらの隔ての塀あたり。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今まで安らかに単調に秒を刻んでいた歯車は、きゅうに気息いき苦しそうにきしみ始めていた。と思う間もなく突然暗い物隅から細長い鉄製らしい棒が走りでて、眼の前の鐘を発矢はっしと打った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると、物蔭からとつぜん走り出た人影が、その駒の口を抑えたので、駒はおどろいて、発矢はっしと道の小石を蹴ッた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきなり小判を右手の拇指おやゆび食指ひとさしゆびとの間に立てて、小口をつばで濡らすと、銭形の平次得意の投げ銭、山吹色の小判は風を切って、五六間先の家光の手にある茶碗の糸底いとぞこ発矢はっしと当ります。
言葉をかけるとそれでも片づけものの手を置いて葉子のほうに向き直った愛子は、この時ようやく顔を上げておとなしく「はい」と返事をした。葉子の目はすかさずその顔を発矢はっしとむちうった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ほそふくれたるかしらたなごころに握って、黄金こがねの色を細長く空に振れば、深紅しんくの光は発矢はっしと尾よりほとばしる。——次の瞬間には、小野さんの胸を左右に、燦爛さんらんたる金鎖が動かぬ稲妻いなずまのごとくかかっていた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、身を伸ばしかけると、伊織は待っていたように、右手に隠していた刀で、その横枝の股を発矢はっしと上から撲った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発矢はっしと、ばちの音、聞くものの魂をさながらに身ぶるいさせた。大絃たいげん嘈々そうそうとして急雨のように、小絃は切々として私語しごのごとしという形容ことばのままだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに、頼遠のたずさえていた笠懸射かさがけいの弓が、発矢はっしうなるものを放った。矢は御車のひさしに立った。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
司馬懿の運が強かったものか、廖化が馬上から振り下ろした一刀は、相手の肩をはずれて、喬木の幹へ発矢はっしと切りこんでしまった。余りに勢いよく斬り込んだので、廖化が
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうこれまでだとなると、彼は猛然と捨身になって右肩の上に発矢はっしと刃を受けるや否、横に飛び退いて身を沈め、猿臂えんぴ伸ばしにピューッと新九郎の足許を地摺りにすくった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、燕青は札を引ッこ抜いて、発矢はっしと、かたわらの岩へ打つけて、叩き割ってしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふらふらと最前の橋廊下まで来て見たが、何の様子も知れないので、お延は我れ知らず廊下から廊下を伝って、やかたのどん詰りまで来た時、発矢はっしと、激しい剣の音がしたのを聞いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ竹童ちくどうのこんな必死ひっしな顔をかれは見たことがない。はりのうえにをかがめ、片手かたて横木よこぎにささえ、右手めて火独楽ひごまをふりかぶって、うごかば、いまにも発矢はっしと投げつけそうな眼光がんこう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そもそも、没羽箭ぼつうせん張清の得意とする“つぶて”ほどやっかいな物はない。近づけば左手の閃刀せんとうが片手使いのあしらいを見せ、離れればたちどころに、一かいの小石を発矢はっしと飛ばしてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戒刀かいとうさやをはらって、銀蛇ぎんだ頭上にりかぶってとびおりる。発矢はっし、昌仙が、一太刀うけているすきに、呂宋兵衛るそんべえとその影武者、蚕婆かいこばばあ早足はやあし燕作えんさく、四人四ほうへバラバラと逃げわかれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発矢はっし、振り下ろした剣は、火華をとばし、見事、その巨岩おおいわを両断していた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅と白の砕片さいへんが、粉になって、発矢はっしと飛んだ。不伝は、ね起きて
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
賛之丞さんのじょうは、ここぞとばかり、発矢はっし軍扇ぐんせんにぎりながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ねんじて壇上のつばへ、発矢はっしと刀を入れた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発矢はっしッ——
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発矢はっし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)