痙攣けいれん)” の例文
しかも、彼女は小刻みにぶるぶると体を震わし、唇のあたりには微かな痙攣けいれんさえ見える。これはただごとではない、と直感したので
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
顔面神経痙攣けいれんとでもいうのだろうか、時をおいて顔にデリケイトな痙攣がおこり、同時に、喉の奥のほうからなにかがこみあげてき
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
脣は、痙攣けいれんして、眼は大きく剥き出し、瞳孔を釣上げてしまって、恐怖と、その苦痛とで、半分気を失っているような表情であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
黒衣婦人の四肢はもう痙攣けいれんをはじめていた。これが最期だ。女賊とはいえ、この可憐かれんな最期の願いをしりぞける気にはなれなかった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は一種の痙攣けいれんにとらえられ、息をするためのように椅子の背に身をらせ、両腕をたれ、涙にぬれた顔をマリユスの前にさらした。
そしてその足元には、十字架を掛けた以前の壮漢が斬られて間もないと見え、ときどき弱い痙攣けいれんを血にまみれた全身に起している。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
双のこめかみから電気を通すと、テンカンみたいなはげしい痙攣けいれんを起して、ぐったりとのびてしまう。意識がなくなってしまうのです。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
わたくしの心の臓は痙攣けいれんしたように縮みました。ちょうどもうあなたの丈夫な、白いお手に握られてしまったようでございました。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
壁の隅には、かの犬が追い込まれて、痙攣けいれんしたように横たわっているので、わたしは試みに呼んでみたが、犬はなんの答えもなかった。
彼女はしかしその間、目をつぶったまま、何か自身の考えに沈んでいた。ときどき痙攣けいれんのようなものが彼女のせたくびの上を走っていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女は激しい痙攣けいれんでも起したかのように、ふるえる手にいきなり鶴見の見ていた本を取り上げて、引き破って、座敷のすみに放りやった。
その肉感的な痙攣けいれんを感じた当惑のきわみに、かれはまだお千絵にもお綱にも持ったことのない悪魔的な考えにフト頭を濁していた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さし當つての急場のしのぎに財布さいふを差出して、金切聲かなきりごゑにも、ヒステリイにも、嘆願にも、抗議にも、痙攣けいれんにも一切とり合ひませんでした。
彼女はわるびれた様子もなく、ジッと眼をつぶっていた。花びらが落ちたような小さなふっくらとした朱唇しゅしんが、ビクビクと痙攣けいれんした。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
半面は、メソメソと涙や鼻汁をたらして泣いて、その真中には、どっちつかずの低い鼻が、痙攣けいれんを起したような形で付いていた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それとも単なる痙攣けいれん運動なのか、習慣的なものか孤立的なものか……これだけではいかなる決定をも与えることができませんが
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兎に角、非常につかれてゐる。そして手や足が自分のものではないやうに顫へて、自分の目のしたのあたりに絶えずぴく/\と痙攣けいれんがある。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
壁に向かって拳固げんこや足や頭でぶつかってゆき、わめきたて、痙攣けいれんに襲われ、家具に突き当って怪我しながら下に倒れてしまった。
川面を渡って、烈しく風が吹くからであったが、紙帳は、痙攣けいれんを起こしたかのように、ふるえつづけた。と、不意に紙帳は寝返りを打った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると、そのとたん彼女の顔が神経的に痙攣けいれんして、恐らく侮蔑と屈辱を覚えたとしか思われぬような、潔癖さが口をついて出た。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ただこの時、自分のピストルで右耳を射たので以後、右耳は全くきこえなくなり、顔面に時々はげしい痙攣けいれんをおこすようになってしまった。
患者は五歳になる男のであった。彼が先方の家へついたときは、その児は痙攣けいれんを起して意識を失い、その唇も青ざめて居た。
初往診 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
神経性の痙攣けいれんが下唇の端をぴくぴくと引っらせ、くしゃくしゃになったちぢが、まるでたてがみのようにひたいに垂れかかっている。
縫いぐるみの朝鮮虎がほんとうにビクビクと手足を痙攣けいれんさせだしたのですから、見物席はおもわずわっとばかりに拍手を浴びせかけました。
くわいのボロくづのやうに欄干にうづくまつて、最早息があらうとも覺えず、生命の最後の痙攣けいれんが、僅かにその四に殘るだけです。
いま彼女かのぢよかほをごりと得意とくいかげえて、ある不快ふくわいおものために苦々にが/\しくひだりほゝ痙攣けいれんおこしてゐる。彼女かのぢよつてく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
けれども途中幾度か激しい吐瀉としゃに見舞われた豚は、自動車のある処まで来るととうとう動かなくなってしまいました。痙攣けいれんを起したんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「疳つりの半」は名前のごとく始終体を痙攣けいれんさせている男だが、なぜか廓の妓たちに好かれて、彼のために身を亡した妓も少くはなかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
咄嗟とっさの出来事にこれも面喰って足速やに駈けつけた禅僧は、蒼ざめ、つきつめた顔をかすかに痙攣けいれんさせながら旅人に言った。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして間もなく、それが絶え間のない痙攣けいれん——極度の神経興奮を、抑えつけようとする力弱い無駄むだな努力からくるものであることがわかった。
彼は、激しい怒りに、血走っているような鋭い眼をえ、歯を食いしばって、深い影を刻んだ頬のあたりを痙攣けいれんさせていた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「ほら、あんなに体じゅう震わせて、まるで痙攣けいれんでも起こしているようだわ」とワルワーラは腹立たしげにことばを続けた。
矢代は船中でこの病気の話を聞かされていたからいよいよ来たなと思ったが、足を動かそうにも痛さに痙攣けいれんがともなった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ミチはきつい眼になり、その白い頬を痙攣けいれんさせ、構えもせずに牝豹めひょうを思わせる敏捷びんしょうさで男に飛びつくと、その口に近い皮膚を力をこめてつねった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
なにかの物あたりであろうというので、まずかたのごとき手当てを施したが、由松は手足が痙攣けいれんして、それから半晌はんときばかりの後に息を引き取った。
首のない屍骸は、切り口のまっ赤な肉がちぢれ、白い脂肪を見せて、ドクドク血を吹いている。二、三度、四肢てあし痙攣けいれんした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
只、馴れぬ人が一晩中使用すると頸に痙攣けいれんが起る。この枕は特殊な方法で結った頭髪に適するために、出来たものである。
その結果我々ははげしき痙攣けいれん苦痛なくして救われたが、イエスの身は呪いとなって、一たび陰府よみの底深く沈み給うたのです。
ホップ夫人は該ステュディオにはいるや、すでに心霊的空気を感じ、全身に痙攣けいれんを催しつつ、嘔吐おうとすること数回に及べり。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヒクヒクと身体を痙攣けいれんさせて、哀れな犬は(俺はその犬を哀れと見たわけではない。逆に俺は猛烈な憎しみを感じていた)
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
少なくとも自分を追い払う者は誰もないとブロックは見てとり、顔を緊張させ、後ろにまわした両手を痙攣けいれんさせながら、爪立つまだちではいってきた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
その夜は、いくら飲んでも、いがまわらず、むなしい興奮と、練習づかれからでしょう、頭はうつろ、ひとみはかすみ、まぶたはおもく時々痙攣けいれんしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その最期の苦悶くもんを表わす週期的の痙攣けいれんを見ていた時に、ふと近くに読んだある死刑囚の最後のさまが頭に浮かんで来た。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「長くやっているから、声帯に胼胝たこが出来ている。獣医の方では、蹄血斑ていけつはんという。その胼胝が痙攣けいれんを起して悲鳴を揚げると、君の謡曲になるんだ」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は持病の胃痙攣けいれんのために、塩酸モルヒネを常用していた。私はこれを書き出す前に注意して極量を少しく超過するだけの分量をんだのである。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
横に三畳の畳を隔てて、花房が敷居に踏み掛けた足の撞突とうとつが、波動を病人の体に及ぼして、微細な刺戟が猛烈な全身の痙攣けいれんいざない起したのである。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
君は眉根まゆねの所に電光のように起こる痙攣けいれんを小うるさく思いながら、むずかしい顔をしてさっさとにぎやかな往来を突きぬけて漁師町りょうしまちのほうへ急ぐ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女は再び、前脚を一層深く折り曲げ、背筋の皮と耳朶みみたぶとをブルン! と寒そうに痙攣けいれんさせて、ねむくてたまらぬとうように眼を閉じてしまった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かくなりては極めて柔かなるものも噛まずに呑み込まざるべからず。噛まずに呑み込めば美味を感ぜざるのみならず、腸胃ただちに痛みて痙攣けいれんを起す。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして先生の顏の平面が急に崩れて、顏面筋が小波さざなみのやうに痙攣けいれんしたかと思ふと、怒りの紅潮がさつと顏中に走つた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)