あや)” の例文
それきり何の音沙汰おとさたもない。昨夜ゆうべは一ト晩中寝ないで待ったが、今朝になっても帰されて来ぬところを見ると、今日もどうやらあやしい。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またたとひ人たる者がかくかくれたるまことをば世に述べたりとてあやしむなかれ、こゝ天上にてこれを見し者、これらの輪にかゝはる 一三六—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
人々大いにあやしみ、師が物がたりにつきて思ふに、八〇其の度ごとに魚の口の動くを見れど、八一更に声を出だす事なし。
かの徳川氏が鎖国の政略を取りたるも、かの諸侯らが鎖藩の政略を取りたるも、もとよりその本を一にするものにして決してあやしむに足らず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
菅沼の家は谷中やなかの清水町で、庭のない代りに、縁側へ出ると、上野の森の古い杉が高く見えた。それがまた、さびた鉄の様に、頗るあやしい色をしていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是に於いて、皇太子た使者を返し、其の衣を取らしめ、常のごとたまふ。時の人大にあやしみて曰く、聖の聖を知ること、其れまことなる哉。いよいよかしこまる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
巨いなる荒掠者の手からふり撒かれ、己の遡る河上にいま、微塵はとうめいのあやしい廃汽となつて沈んでくる。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
灰色の外套がいとう長くひざをおおい露を避くる長靴ながぐつは膝に及びかしらにはめりけん帽のふち広きをいただきぬ、顔の色今日はわけて蒼白あおしろく目はあやしく光りて昨夜の眠り足らぬがごとし。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
故は、彼こそ父が不善の助手なれと、始より畜生視して、得べくばつて殺さんとも念ずるなりければ、今彼がことば端々はしはしに人がましき響あるを聞きて、いとあやしと思へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思うに、人事において流行はやりすたりのある如く、自然においても旧式のものと新式のものが自らある、空中飛行機におどろく心は、やがて彗星をあやしむ心と同一であると云えよう。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
繊巧細弱なる文学は端なく江湖の嫌厭を招きて、あやしきまでに反動の勢力を現はし来りぬ。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
白梅の精とか何んとか言つて、あやしい細工をしたのは、無暗に人を近寄らせない爲さ
なんじの通力がそもそも何事を成しうるというのか? 汝は先刻からわが掌の内を往返したにすぎぬではないか。うそと思わば、この指を見るがよい。」悟空があやしんで、よくよく見れば
ここにその春山の霞壯夫、その弓矢を孃子の厠に繋けたるを、ここに伊豆志袁登賣、その花をあやしと思ひて、持ち來る時に、その孃子の後に立ちて、その屋に入りて、すなはちまぐはひしつ
孔子こうしいはく、(二〇)伯夷はくい叔齊しゆくせい舊惡きうあくおもはず、うらここもつまれなり。じんもとめてじんたり。またなにをかうらみん』と。(二一)伯夷はくいかなしむ、(二二)軼詩いつしるにあやしむし。
川水牛角なきをあやしみ訳を聞いて貰い泣きしてその水からくなる、杜鵑ほととぎす来り訳を聞き悲しみの余り眼をつぶし商店に止まって哭き、店主貰い泣きして失心す、ところへ王の婢来り鬱金うこんを求めると胡椒
見守りつ、ゆく水の白くあやしくなりまさりゆくさま
またわれらの想像の力低うしてかゝる高さに到らずともあやしむに足らず、そは未だ日よりも上に目の及べることなければなり 四六—四八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もしまた必要なしとせば帝王宰相らのはなはだ好事家たるをあやしまざるを得ず、ああこれまた第十九世紀の文明なるか。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
菅沼のいへ谷中やなか清水町しみづちようで、にはのない代りに、椽側へると、上野のもりふるすぎたかく見えた。それがまた、さびてつの様に、すこぶあやしいいろをしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
助のたちの人々此の事を聞きて大いにあやしみ、先づはしめて、十郎掃守をも召具めしぐして寺に到る。
一里半ほど東に当っている谿川たにがわで、水力電気を起すための、測量師や工夫の幾組かが東京からやって来たり、山から降りて来たりする頃には、二人のなかを、誰もあやしまなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここに日の耀ひかりのじのごと、その陰上ほとに指したるを、またある賤の男、その状をあやしと思ひて、恆にその女人をみなの行を伺ひき。かれこの女人、その晝寢したりし時より、姙みて、赤玉を生みぬ
あやしともはなはだ異し! く往きて、疾くかへらんと、にはかひきゐくるまに乗りて、白倉山しらくらやまふもと塩釜しおがま高尾塚たかおづか離室はなれむろ甘湯沢あまゆざわ兄弟滝あにおととのたき玉簾瀬たまだれのせ小太郎淵こたろうがぶちみちほとりに高きは寺山てらやま、低きに人家の在る処
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
共王は斉と結んで、魯を討とうとし、其の出師の期を告げる為に巫臣を使として斉につかわすことにした。巫臣は家財を残らずまとめて、出発した。途で、申叔跪という者が之に会い、あやしんで言った。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼等の痩するとはだいたはしく荒るゝ原因もと未だあきらかならざりしため、その何故にかく饑ゑしやを我今あやしみゐたりしに 三七—三九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何人の夜けてまうで給ふやと、あやしくも恐ろしく、親子顔を見あはせていきをつめ、そなたをのみまもり居るに、はや前駆ぜんぐ若侍わかさむらひ七四橋板はしいたをあららかに踏みてここに来る。
その個人的年齢を以て推し、その歴史的時日を以て推し、その時勢的境遇を以て推せば、かくの如き論の、かくの如き人の口より、かくの如き世に出で来るは、あやしむに足らず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「お前の神経も少しあやしいよ。ふとしたらお柳がたたっていないとも限らない。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「え?」と小野さんは俄然がぜんとして我に帰る。空をかすめる子規ほととぎすの、も及ばぬに、降る雨の底を突き通して過ぎたるごとく、ちらと動けるあやしき色は、く収まって、美くしい手は膝頭ひざがしらに乗っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかはあれ、神の聖旨みむねによりてヨルダンの退しざり海の逃ぐるは、救ひをこゝに見るよりもなほあやしと見えしなるべし。 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すなわち上古の歴史にしてかくのごとき現象あるは決してあやしむに足らず。なんとなればかくのごときの境遇あればなり。近世の歴史においてかくのごときの現象あるは決して異しむに足らず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼は己の最大いとおほいなる罪より來る損害そこなひを知る、此故にこれを責めて人のなげきを少なからしめんとすともあやしむに足らず 四六—四八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
驚きかつあやしむならむ、されど汝我を樂しませ給へりといへる聖歌は光を與へて汝等の了知さとりの霧を拂ふに足るべし 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)