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滲
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にじ
ふりがな文庫
“
滲
(
にじ
)” の例文
私は有島武郎さんの作品を
讀
(
よ
)
んで、作品のうちに
滲
(
にじ
)
んでゐる作者の心の
世界
(
せかい
)
といふものゝ大きさや、強さといふものを深く
感
(
かん
)
じます。
三作家に就ての感想
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
彼は荒く息をしながら、左の腕で顔を
掩
(
おお
)
った。するとその二の腕の内側に、大きな掻き傷が二
条
(
すじ
)
できて、血の
滲
(
にじ
)
んでいるのが見えた。
暴風雨の中
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
客は
酌人
(
しゃくにん
)
の
美姫
(
びき
)
へ手をふった。赤ら顔は酒のせいばかりではない。肥っていてよく光る皮膚にボツボツと黒い脂肪が
滲
(
にじ
)
み出している。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私はそれを見ると何んという事なしに涙が眼がしらに
滲
(
にじ
)
み出て来た。それを私はお前たちに何んといっていい現わすべきかを知らない。
小さき者へ
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
立話をしているうちに僕はふと涙が
滲
(
にじ
)
んで来た。(涙が? それは後で考えてみると、人間一人飢死を免れたのを
悦
(
よろこ
)
ぶ涙らしかった。)
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
▼ もっと見る
壮士の額にはようやく汗が
滲
(
にじ
)
んできた、それと共に気がジリジリと
焦
(
じ
)
れ出すのがわかります。この時、竜之助の
足許
(
あしもと
)
がこころもち進む。
大菩薩峠:03 壬生と島原の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
姉である伸子のいうことをちゃんと理解しようとしている心が
滲
(
にじ
)
んでいるばかりでなく、保自身、自分のうけとりかたの正当さを
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
少くとも彼の鼻の頭には、線香花火でやけどした程の火ぶくれが出来て、
甘皮
(
あまかわ
)
の破れた皮膚の下からほんの
僅
(
わず
)
かばかり血が
滲
(
にじ
)
んだ。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
トルストイやドストエフスキーやストリンドベルヒの作に心惹かれるのはそのなかに深い善、悪の感じが
滲
(
にじ
)
み出ているからである。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
リーマン博士のそのときの
硬
(
こわ
)
ばった顔付、額にねっとりと
滲
(
にじ
)
み出たその汗から見て、博士はたいへんな責任を背負っていることが分った。
宇宙尖兵
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
喬介はそう言って、笑いながら右腕の
袖口
(
カフス
)
をまくし
挙
(
あ
)
げて見せた。手首の奥に白い
繃帯
(
ほうたい
)
、赤い血を薄く
滲
(
にじ
)
ませて巻かれてあった。
カンカン虫殺人事件
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
そしてその窓に
倚
(
よ
)
りかかって、いましがたどちらの目から
滲
(
にじ
)
み
出
(
で
)
たのかも分らない熱いものが私の頬を伝うがままにさせながら
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
中には、
片袖
(
かたそで
)
の半分
断
(
ちぎ
)
れかけている者や、脚絆の一方ない者や、白っぽい縞の着物に、所々血を
滲
(
にじ
)
ませているものなども居た。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
私は自分のやたらインキを
滲
(
にじ
)
ませている金釘流が恥ずかしくてならなかった。居士は自分でペンを
執
(
と
)
ってさらさら書き流した。
西隣塾記
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
うすい灯のいろが、ゆうべのように
川岸
(
かし
)
の夕ぐれの中に
滲
(
にじ
)
んで、客もないのか、打ち水に濡れた石のいろが、格別にきょうはわびしかった。
山県有朋の靴
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
わずかに
滲
(
にじ
)
み出る血液くらいでは致死量に至らないようだ。むしろ
醍醐味
(
だいごみ
)
となって、美味の働きをしているのかも知れない。
河豚は毒魚か
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
また、はじめは身振りだけの愛の
挨拶
(
あいさつ
)
であっても、次第に、そこから本当の愛が
滲
(
にじ
)
んで
湧
(
わ
)
いて来る事だってあると思います。
新ハムレット
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
たゞ水源は水晶を産し、水は白水晶や紫水晶から
滲
(
にじ
)
み出るものと思つて居た。春はその水晶山へ、はら/\と
一重
(
ひとえ
)
桜が散りかかるのを想像する。
川
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
今日勝った、今日負けた、今度こそ負けるもんか——血の
滲
(
にじ
)
むような日が滅茶苦茶に続く。同じ日のうちに、今までより五、六割も
殖
(
ふ
)
えていた。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
そして、指の上を、よくも
磨
(
と
)
いでない刃でやわらかくこする。むろん、刃は通りっこない。彼は押さえつける。汗をかく。やっと血が
滲
(
にじ
)
み出す。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
『そんな気持になれないのだから仕方がない……』と云つた弟の眼には涙が
滲
(
にじ
)
んでゐた。悪かつたと私が思つてゐると
亡弟
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
彼女と弟とは固くなって
眸
(
ひとみ
)
を見張った。兄は
俯伏
(
うつぶ
)
せに横わったまま片方の眼を押えてしくしく泣いていた。その指の
叉
(
また
)
から濃い血が
滲
(
にじ
)
みでてくる。
青草
(新字新仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
呑んだ水はすぐにねっとりとした
脂汗
(
あぶらあせ
)
になって皮膚面に
滲
(
にじ
)
み出た。暁方の少し冷えを感ずるころ、手を肌にあててみると塩分でざらざらしていた。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
皺だらけな顏が白くなつた上に
大粒
(
おほつぶ
)
な汗を
滲
(
にじ
)
ませながら、脣の
干
(
かわ
)
いた、齒の
疎
(
まばら
)
な口を
喘
(
あへ
)
ぐやうに大きく開けて居ります。
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
見ていると何だかえたいの知れぬ、非常に不気味なものが、ジワジワと、写真の中から、
滲
(
にじ
)
み出して来る様な気がする。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
冷え冷えと露を含んだ草の葉が彼の肉体に触れたとき、彼は死人のように蒼ざめて、恐怖のあまり眼を大きく見開いた。
冷汗
(
ひやあせ
)
が彼の額に
滲
(
にじ
)
み出た。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
持主が急いで座を立った
証拠
(
しょうこ
)
に、細い筆の穂先が、巻紙の上へ墨を
滲
(
にじ
)
ませて、七八寸書きかけた手紙の末を
汚
(
けが
)
していた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
最後に姿見の方へ行って剃り立ての顔を眺めた時は、今まで髭に隠れていた鼻の下あたりが青々として見えた。ところどころからは血も
滲
(
にじ
)
み出た。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
彼の頭にある女の肉体は、筋ばった
蒼白
(
あおじろ
)
い
脂
(
あぶら
)
の
滲
(
にじ
)
み出たような女の肉体につながった。それは彼の細君の体であった。
文妖伝
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「家内ええと、二、二十人」——彼は思わず
額
(
ひたい
)
を拭いた。汗が
滲
(
にじ
)
んで来たからである。その筈である。彼の家族は彼と母親との二人きりなのだから。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
船首にグングンのしかかって来る
断崖
(
だんがい
)
絶壁の姿を間一髪の瀬戸際まで見せ付けられた連中の
額
(
ひたい
)
には皆
生汗
(
なまあせ
)
が
滲
(
にじ
)
んだ。
難船小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
神戸牧師は額に冷たい汗を
滲
(
にじ
)
ませて、苦悶の表情を浮べながらこう答えたが、又元のようにむっつり黙って終った。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
眼を閉じると、瞼のうらにうっすらと涙が
滲
(
にじ
)
んで来るのが判る。舟の中と違って、家の中にはさまざまなにおいが、生活のにおいがただよい揺れていた。
狂い凧
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
炎熱に走り廻って汗をかいてるところへ傷口の血が全身に
滲
(
にじ
)
んで、この時はもう牛は一つの巨大な血塊に見える。
踊る地平線:07 血と砂の接吻
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
左の手に
蝋燭
(
ろふそく
)
を持つて兄の
背後
(
うしろ
)
に
廻
(
まは
)
つたが、
三筋
(
みすぢ
)
の
麻縄
(
あさなは
)
で後手に
縛
(
しば
)
つて
柱
(
はしら
)
に
括
(
くヽ
)
り附けた
手首
(
てくび
)
は血が
滲
(
にじ
)
んで居る。
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
「いくら貧乏人の子でも、こんな血の
滲
(
にじ
)
むほど
打
(
ぶ
)
ったものを、見ていて知らぬふりするものがあるかナッ!」
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
吉良は、礼のための礼のように、冷淡をよそおっても、出雲守へ好意を示したいこころが、声に
滲
(
にじ
)
んでいた。
元禄十三年
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
涙に
滲
(
にじ
)
んだ眼をあげて何の気なく西の空を
眺
(
なが
)
めると、冬の日は早く
牛込
(
うしごめ
)
の高台の
彼方
(
かなた
)
に落ちて、
淡蒼
(
うすあお
)
く晴れ渡った寒空には、姿を没した
夕陽
(
ゆうひ
)
の
名残
(
なご
)
りが大きな
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
と思った瞬間、俯伏になったマダム丘子の口元から透通るような鮮やかな血潮が泡立ちながら流れ出、真白い卓子にみるみる真赤な地図を描いて
滲
(
にじ
)
み拡がった。
蝱の囁き:――肺病の唄――
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
女が白衣の胸にはさんだ一輪の花が、血のように
滲
(
にじ
)
んでいる。目を細くして見ていると、女はだんだん絵から抜けでて、自分の方へ近寄ってくるように思われる。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
向日性を持った、もやしのように蒼白い堯の触手は、
不知不識
(
しらずしらず
)
その灰色した木造家屋の方へ伸びて行って、そこに
滲
(
にじ
)
み込んだ不思議な影の
痕
(
あと
)
を撫でるのであった。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
そしてこの挨拶のしどろもどろを取りなおすつもりで、胸を張ってできるだけもっともらしい顔つきをして
端坐
(
たんざ
)
した。だが脇の下にはほんとうに汗が
滲
(
にじ
)
んでいた。
地球儀
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
なんとも言い知れない悲しさが胸の底から
滲
(
にじ
)
み出して、お君も抱かれながらに
啜
(
すす
)
り泣きをやめなかった。
両国の秋
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
髯
(
ひげ
)
を伝わる呼吸が、雫となってポタポタ落ちる、鉛筆をポッケットから出して、弟が寒暖計を見て報告する温度を、手帖に記していると、傍から鉛筆の墨が
滲
(
にじ
)
んで
雪中富士登山記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
高麗の陶磁器は日々人の心に親しみたいための器であった。それは古代においてのみではない。李朝の代に及んでも日常の凡ての用品にさえその心を深く
滲
(
にじ
)
ませた。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
木の間がくれに洩れる六月の陽が汗を
滲
(
にじ
)
ませた。羽虫が目先をちらついた。
虻
(
あぶ
)
が追いかけて来た。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
彼は一種不可思議な感激に身ぶるひさへ出て、思はず目をしばたたくと、目の前の赤い小さな薔薇は急にぼやけて、双の眼がしらからは、涙がわれ知らず
滲
(
にじ
)
み出て居た。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
私も笑い、全くおかしい話だが、哀しさがおかしさの裏からジワジワと
滲
(
にじ
)
み出てくる話であった。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
葭簀
(
よしず
)
のそばに腕組みをして突っ立っている
重右衛門
(
じゅうえもん
)
をジロリと尻目にかけ、ツカツカと象の胸先のほうに寄って行って、血の
滲
(
にじ
)
み出している
辺
(
あたり
)
をツクヅクと眺めていたが
平賀源内捕物帳:山王祭の大像
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
職務とは言いながら、片肌脱ぎたいくらいな暑さを我慢して
滲
(
にじ
)
み出る汗をハンカチに吸いとらせている姿を見たならばだれでも冗談でなしに、お役目ご苦労と言いたくなる。
愚人の毒
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
滲
漢検1級
部首:⽔
14画
“滲”を含む語句
滲出
滲透
滲染
滲入
吹滲
油滲
浸滲
滲々
滲出物
滲徹
滲透圧
滲透性
身滲