くだり)” の例文
旧字:
源平盛衰記げんぺいせいすゐき文覚発心もんがくほつしんくだりに、「はやきたつて女と共にし居たり、狭夜さよやうやう更け行きて云云うんぬん」と、ちやんと書いてある事である。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えゝー段々と進んでまいりました離魂病のおはなしで、当席にうかゞいまする処は花里が勤めの身をもって情人伊之吉に情を立てるというくだり
竈山のくだりに清原元輔の連歌と細川幽斎の九州道の記とが引いてある。元輔連歌。「春はもえ秋はこがるゝかまど山霞も霧も烟とぞなる。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
当年——元弘三年三月に起った博多合戦とその前後のことは——もう先に“船上山”のくだりから“博多日記”のあたりで一おう書いておいた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明治十八年『東京流行細見記』には府下一般芸者之部といふくだりに、富士見町の部、小春、小ぎく、小とく、小すず、長吉の五名を出せるのみ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
汝らの尊敬してやまざるモーセの書の中なる柴のくだりに、神がモーセに「我はアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神なり」
扇谷定正おうぎがやつさだまさが水軍全滅し僅かに身を以てのがれてもなお陸上で追い詰められ、漸く助友すけともに助けられて河鯉かわこいへ落ち行くくだりにて
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「松谷鶴子と安南王の馴染めから、皇帝の殺しの件、警視庁が有明荘の止宿人を便宜拘束したくだりまで精しく書いてある」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
第六章の後半において乗艦のシャッガァ号が、敗残の身を万死に一生を得て思いも設けぬ翠緑の陸地に向って、静かに近付いてゆくくだりがあります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そんな広告に微笑しながら、新聞の案内広告を見ていた私は、その雑件と云うくだりに至って、思わず新聞をとり直した。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
『ルウジン』の中のナタシヤが捨てられて苦しむくだりに、『それでもかの女は飯を食ふ……一度食へば、食はない前よりもその悲哀に遠ざかつて行く』
生滅の心理 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
物語を書きつめ、あるいはもともと原話が、錯倒していたため、すぐ後の檍原アハギハラミソぎのくだりに出るのを、平坂の黄泉道守ヨモツチモリの白言と並べたのかも知れぬ。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
痰火たんくわくだりに薑汁を用ゐることもあり、治寒痰咳嗽といふ句もあり、導痰丸だうたんぐわん、導痰たうなどの処方もあるので、父が砂糖生薑をしまつてゐたことが
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
柳之助りゅうのすけ亡妻ぼうさいの墓に雨がしょぼ/\降って居たと葉山はやまに語るくだりを読むと、青山あおやま墓地ぼちにある春日かすが燈籠とうろうの立った紅葉山人こうようさんじんの墓が、と眼の前にあらわれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
沫雪あわゆきくだりにいへるごとく、冬の雪はやはらにして足場あしばあしきゆゑ、熊をとるは雪のこほりたる春の土用まへ、かれが穴よりいでんとするころほどよき時節じせつとする也。
と云うのは、嘗て私は中学校にいた時分、歴史の時間にアントニーとクレオパトラのくだりを教わったことがあります。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「よしか森久保君……」と陣笠は安本の太平記を盲探めくらさがしにけてみて「さ、新田義貞と勾当内侍こうたうのないしの色事のくだりだよ。」
すなわち「第三回論戦」と「エリフ対ヨブ」のくだりめて、最後の「エホバ対ヨブ」を講演の題目とするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
で、おとうと弟子の小沢松五郎をれ(上野戦争のはなしのくだりにて、半さんの家へ私と一緒に参った小僧)
私はこの日記を読まれる人が、いつかこのくだりを読むとしても、私の感情と共鳴し、あるいはその時わたしに及ぼしたような結果を実感せられるであろうとは思わない。
そしておそらく、イエナのいくさの話よりも、皇帝の敗北のくだりにおいていっそうそうであったろう。
さすが商業界の利者ききものとも云はるる身が、みんごとお艶に降伏したるは、遼東還附の一条よりもなほかついひ甲斐なき事なりしとのこのくだりは年久しく仕ふる藤助といふ老僕が
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「冬の旅」の中で一、二曲ヒュッシュとならんで推賞すべきレコードがある。それは後のくだりに。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
何故なぜといへば将門記の中の、将門が勝を得て良兼を囲んだところのくだりの文に
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
とう律、みん律、しん律などを参酌して立案し、同年八、九月の頃に至ってその草案は出来上ったが、当時の参議副島種臣そえじまたねおみ氏はこれを閲読して、草案「賊盗律」中に謀反むほん、大逆のくだりあるを発見して
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
将軍家の下問であっても、秘伝とすべきくだりは述べられないので、草稿を作るのには、かなり困難がともなった。こうして平三郎の発足がきまったのは、江戸から使者があって五日めのことだった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「講釈の本にも、そう書いてある。牧、牧直まきなおしに叡山登山のくだり、ての」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
僕の家にも事実はあんな老婢がいて、僕を非常にかわいがってくれた。『坊っちゃん』の中に、お清からもらった財布さいふを便所へ落とすと、お清がわざわざそれを拾ってもってきてくれるくだりがあった。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なお水菓子が好きだと云う、三歳みッつになる男のの有ることを、さきくだりにちょっと言ったが、これは特に断って置く必要がある、捨児すてごである。夜半よなかに我が軒に棄てられたのを、拾い取って育てている。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駒井甚三郎がこのくだりを読みおわると、お松が
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と双方とも丸でからッきし夢中で居りますると、こゝに一つの難儀がおこりますくだり一寸ちょっと一服いたして申し上げましょう。
いよいよ大渦巻のくだりになってまいりました瞬間、思わず膝を叩いてこれあるかな! と感じ入った次第なのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
此随筆中「洗浴発汗」と云ふくだりを書きさして、蘭軒は突然しもの如く大書した。「今日殿様被蒙仰御老中恐悦至極なり。文化十四年八月二十五日記。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此書このしよの前編上のまき雪中の火といふくだりに、六日町の(魚沼郡)西の山手に地中ちちゆうより火のもゆる事をしるせしが、地獄谷の火の㕝をもらせしゆゑこゝにしるす。
まだ、そこまで行っていないが、古典平家だと“那須余一”や“弓流し”のくだりの初めに“逆櫓さかろ”の一章がある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ふざけるくだりがあるのを覚えてゐるだらう。シイザアのやうな相当としをとつた英雄でも、若い美しい女に
禊ぎの習慣の由来として、みぬまの出現を言うくだりがあり、実際にも、みぬまがはたらいたものと見られる。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一 たまたま柳里恭りゅうりきょうの『画談』といふものを見しに、次の如きくだりあり。曰く総じて世の中にはかわず多し梁唐宋元明りょうとうそうげんみんの名あるを見ることなき故に絵に力なし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
(第五号の「鑑賞講座」の二頁より三頁に亘る一節)又わたしの「文芸一般論」の「内容」のくだりにも通ずることでありますから、必しも論ずるのを待ちますまい。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
例へば、明治廿三年二月廿三日夜より廿四日。盛華院清阿妙浄善大姉三回忌仏事献立控の廿四日十二人まへくだりに、平(かんぴよう。いも。油あげ。こんにやく。むきたけ)
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は大きな手柄をたてた。——このところで彼は、祖父の武勇だんから取って来たいくつかのくだりを自分の話に織り込んだ。——彼女はその間に、悶々もんもんのあまりに病気になった。
わたくしがじぶんで鮨売になって市中を徘徊したというくだりがございましたが、憚りながら、それは役者というものをご存じのないおかんがえ、小鰭の鮨売の型をとるためなら決して
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小説を読んでいて、別にそう感傷めいたくだりでもないところでふいと涙が出る。神経が大変に繊弱になった、怒り易いことも近来ひどい。何でもない他人の言葉がぴりぴりと癇癪かんしゃくに触る。かっとなる。
此書このしよの前編上のまき雪中の火といふくだりに、六日町の(魚沼郡)西の山手に地中ちちゆうより火のもゆる事をしるせしが、地獄谷の火の㕝をもらせしゆゑこゝにしるす。
その後から成都の勅使李福りふくが着いたことになっていて、勅使と聞くや、孔明はふたたび目をひらいて、次のようなことばを奉答しているというようなくだり
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その証拠には源氏の初瀬詣はつせまうでくだりにも、虫の垂衣たれぎぬの事は見えぬさうである。私はその人の注意に感謝した。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
殊に、英艦によって舵機を砕かれ、前部砲塔を白煙に包まれながら、薄暮に紛れて遁竄とんざんしてしまったあたりのくだりを、今一度読み直しておいていただく必要がある。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
是が縁で此のお筆が此のいえの娘になりましたが、誠に不幸の人で再び大難にくだり一寸ちょっと一息つきまして。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日の夕刊が配達されると、木挽町こびきちやうの蔵相官邸の門衛は、ちやうどそこへ来合はせてゐた自分の話し相手に頓着なくいきなり夕刊をけて、蔵相親任のくだり読下よみくだした。そして
蘭軒は一々証拠を挙げて論じてゐるが、わたくしは此に蘭軒が鮑本香薷散かうじゆさんくだりを論ずる一節を抄出する。「香薷散犬がこぼして雲の峰。」これは世俗の知る所の薬名だからである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)