朝臣あそん)” の例文
せい元來ぐわんらい身分みぶん分類ぶんるゐで、たとへばおみむらじ宿禰すくね朝臣あそんなどのるゐであり、うぢ家系かけい分類ぶんるゐで、たとへば藤原ふじはらみなもとたひら菅原すがはらなどのるゐである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
朝臣あそんが自歌と認むべきものはごく少數であるとなし、その正調と目すべき數首の歌を擧げ示されたなぞは、たしかに有益な文字であつた。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
騒がしい天気でございますから、いかがとお案じしておりますが、この朝臣あそんがお付きしておりますことで安心してお伺いはいたしません。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
前の東京市長永田秀次郎氏も、今の東京市長中村是公氏も、それから電気局長の大道朝臣あそんもみんな後藤系のチャキチャキである。
大昔にも姓氏というものは歴然と存している、すなわち源・藤原というのが氏であって、朝臣あそんとか宿禰すくねとかいうのがかばねである。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さかの上の朝臣あそんのはからいで、鞍馬くらまの夜叉王のことは、すっかり顔長の長彦にまかせられ、京の大臣の馬は、顔丸の丸彦がもらいうけました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それはさっき河童がいった有範朝臣あそんの館にちがいないのである。しかし、二人は、そのほかに、なものを見たのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なア、ベク助。貴公、小野の小町の弟に当る朝臣あそんだなア。人に肌を見せたことがないそうだなア。ハッハッハア」
鹿爪らしく何の朝臣あそんだの、何のむらじだの、宿禰すくねの、真人まひとの、県主あがたぬしのと、それぞれ昔の貴族豪族の姓を名乗っていた時代が近く五十年前にあったのである。
姫やわかの顔、女房にょうぼうののしる声、京極きょうごく屋形やかたの庭の景色、天竺てんじく早利即利兄弟そうりそくりきょうだい震旦しんたん一行阿闍梨いちぎょうあじゃり、本朝の実方さねかた朝臣あそん、——とても一々数えてはいられぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「願念寺のごりがん」と蔭で言つてゐたし、願念寺はまた父のことを「仲臣なかとみ朝臣あそん」と眼の前でゝも呼んでゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
手近いところで言うても、大伴宿禰すくねにせよ。藤原朝臣あそんにせよ。そうう妻どいの式はなくて、数十代宮廷をめぐって、仕えて来た邑々のあるじの家筋であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
この皇円阿闍梨は、粟田関白四代後の三河権守重兼が嫡男であって、少納言資隆朝臣あそんの長兄にあたり、椙生すぐうの皇覚法橋ほっきょうの弟であって、当時の叡山の雄才と云われた人である。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さらば常の心のよごれたるを洗ひ浮世のほかの月花を友とせむにつきつきしかるべしかし、かくいふは参議正四位上大蔵大輔おおくらたゆう朝臣あそん慶永よしなが元治二年衣更著きさらぎ末のむゆか、館に帰りてしるす
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
従三位じゅさんみ藤原ノ朝臣あそん泰文は「悪霊民部卿」という忌名いみなで知られている藤原ノ忠文ただぶみの四代の孫で、弁官、内蔵頭を経て大蔵卿に任ぜられ、安元二年、従三位に進んで中納言になった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
詔使到来を待つのころほひ、常陸介ひたちのすけ藤原維幾朝臣あそんの息男為憲、ひとへに公威を仮りて、ただ寃枉ゑんわうを好む。こゝに将門の従兵藤原玄明の愁訴により、将門其事を聞かんが為に彼国に発向せり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大納言国経朝臣あそんの家にはべりける女に、いと忍びて語らひ侍りて行末までちぎりけるころ、此の女俄かに贈太政大臣(時平)に迎へられて渡り侍りにければ、文だにも通はす方なくなりにければ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「菊川に公卿衆泊りけりあまがは」(蕪村ぶそん)の光景は、川の面を冷いやりと吹きわたる無惨の秋風が、骨身に沁みるのをおぼえようではあるまいか、更にそのむかし、平家の公達きんだち重衡しげひら朝臣あそん
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
もっとも業平朝臣あそんと云うお方は美男と見えまして、男の好いのは業平のようだといい女で器量の好いのを小町こまちのようだと申しますが、業平朝臣は東国あずまへお下りあって、しばらく本所業平村に居りまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
安宅はそう思ったけれども、兼好という法師はひねくれ者だから、平の朝臣あそんの昔がたりだなどといって、じつは自分のことだったかもしれないと思い、この話では執権と法師のほうが似つかわしいな。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「木曽の大領、義明朝臣あそん!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ねえ朝臣あそん、おまえはその落ち葉でも拾ったらいいだろう。不名誉な失恋男になるよりは同じ姉妹きょうだいなのだからそれで満足をすればいいのだよ」
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「無理もありません。父ぎみやら俊基朝臣あそんなどの非業な死を、まのあたりに見た少年の御血気としては。……して今日は、小右京さまには?」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
業平なりひら朝臣あそん実方さねかたの朝臣、——皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、あずま陸奥みちのくくだった事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
普通の名字のほかに源の朝臣あそんとか藤原の朝臣とかいうように、二重の家の名を表わす例になっている。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
京の都の大臣の所から盗んできた馬を、顔丸の丸彦にうばいとられてしまいましたし、その馬のことをよく知っているさかうえ朝臣あそんが、堅田かただにやって来られるそうでした。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そしてまた……。正成は今上きんじょうの御一方にちかいまいらせた一朝臣あそん。さよう、江口の遊女おんなのように、世を浮舟と渡る上手なすべは知り申さぬと」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何の欠け目もない青年朝臣あそんでいて妻をまだめないのはどうしたことだ、しかるべく選定して後見のしゅうとを定めるがいい。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それについて、顔長の長彦の話を聞かれて、さかうえ朝臣あそんが満足されたことは、申すまでもありません。そしてこれから先のことについても、ことごとく、長彦の考えに賛成されました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
またついぞ、河内守正成などいう者が朝臣あそんの端にいることすらお目のすみにもある風ではなく、禁中などでも目礼一つ返されたことはなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きれいな身なりをして化粧をした朝臣あそんたちをたくさん見たが、のお上着を召した端麗な鳳輦ほうれんの中の御姿みすがたになぞらえることのできるような人はだれもない。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「そうか。そう分って、何やら胸のつかえが下がった気がする。みかど後醍醐のおそばには、なおまだ、ああした公卿振りの朝臣あそんがあまたおるのか」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ねえ朝臣あそん、寝床をどこかで借りなさい。老人としよりは酔っぱらってしまって失礼だからもう引き込むよ」
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
(この両方の訴えを、取り上げたものか否か)という問題は、毎日のように、堂上の朝臣あそんたちの政議にのぼっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容貌ようぼうなども今が盛りなようにもととのっているのであるから、高雅な最もとうとい若い朝臣あそんと見えた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「——といって、従四位藤原朝臣あそんと、痩せても枯れても、位階があれば、雑人ぞうにんや、凡下ぼんげの娘を、妻にも持てず……」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心のうちでは貫之つらゆき朝臣あそんが「糸にるものならなくに別れは心細くも思ほゆるかな」
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それも、安芸守あきのかみ播磨守はりまのかみだった時代の一朝臣あそんの頃には、物にかまわぬおもしろい殿よ——と似合いもしたがである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中務卿親王なかつかさきょうしんのう上野こうずけ親王しんのう中納言ちゅうなごんみなもと朝臣あそんがおられます」
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
抱き入れるおつもりだったか、そこもとは、日野俊基としもと朝臣あそんとの大事な秘密を打明けた。かつ、朝廷に、幕府討伐のもくろみが密々はこばれているともいわれた
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『……はてな。こんな場末に、朝臣あそんの家などがあるかしら。どっちへ出ても、雑人町ぞうにんまちのあばら家ばかりだが』
持ち、また名のある武士ほど、四囲の事情もむずかしく、俄に起てぬとは察しられる。……したが、かつては日野朝臣あそんとも幾たびとなく会うていた正成が、ここへ姿を
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はははは、いかにも宗良むねながらしい歌よな。だがこれからは、すべて朝政に一統され、公武の別などなく、武士も朝臣あそんとしてみなちょうに仕え、公卿も武を忘れてはならぬのだ。
月をかざし、花を着て、牛車に乗りあるき、あの少将、この朝臣あそんと、浮かれ男相手に恋歌などを取りわして、源氏物語の中の女性みたいな生活を、一ぺんでもしてみたい。
なぜ、和郎わろは、母方ははかたの身よりへ無心に行きなさらぬ。わろの母御前ははごぜは、みな、れッきとした、藤原の朝臣あそんとやら、中御門様とやら、きら星な御貴人ぞろいではおわさぬか。
成良しげなが親王(義良のりながの兄)を、関東の管領かんりょうとし、足利直義ただよし朝臣あそんを相模守に任じ、その補佐とする——
「正成は武人です。また、笠置へ伺候してこのかたは、身も心も今上きんじょうの御一方に誓いまいらせた一朝臣あそん。さよう、江口の遊女おんなのように、世を浮舟と渡るすべはよう存じておらぬ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では初めて、あなたにだけ心底を申しましょう。つとにこの道誉も、宮方へ密かな心をよせていたひとりなのです。それを知っていた者は、いまは亡き日野俊基朝臣あそんだけですが」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蔵人頭くろうどのかみから右大弁うだいべんに昇り、今も参議という現職にある朝臣あそんであるが、そこでこの貴公子はさかんに六条柳町へ通ってくる。この世界にいる時だけ腹の立つのを忘れるというのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)