扮装ふんそう)” の例文
旧字:扮裝
悪党でも派手を誇る時代だったから、それは洛内の見聞であったろうが、いずれはそんな部類の雑多な扮装ふんそうをしていたにちがいない。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次第に扮装ふんそううまくなり、大胆にもなって、物好きな聯想れんそうかもさせる為めに、匕首あいくちだの麻酔薬だのを、帯の間へはさんでは外出した。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
帆村荘六は早く起き出ると、どうした気紛きまぐれか、洋服箪笥からニッカーと鳥打帽子とを取り出して、ゴルフでもやりそうな扮装ふんそうになった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肥満しきった快活豪奢ごうしゃな婦人らが、代わる代わるイソルデやカルメンに扮装ふんそうして現われた。アンフォルタスがフィガロを演じた。
「すぐわかりました。進さんだという事が、すぐにわかりました。どんな扮装ふんそうをしていても、やっぱりわかるものですね。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
どっかにサーカスがかかっていて、その広告ビラをいて歩くチンドン屋に違いない。それにしても、虎の扮装ふんそうとは珍しい。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女性にことに著しい美的扮装ふんそう(これはきわめて外面的の。女性は屡〻しばしば練絹ねりぎぬの外衣の下に襤褸つづれの肉衣を着る)、本能の如き嬌態きょうたい
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
幕の外に出ている玉乗りの女の異様な扮装ふんそうや、大きい女のかつらかぶったさるの顔にも、釣り込まれるようなことはなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
綾織あやおりの帯で、塩瀬紺無地のはかまふさついた、塗柄の団扇うちわを手まさぐる、と、これが内にいる扮装ふんそうで、容体が分りましょう。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肝心の犯罪捜査を外れたわき道に種々の揷話を生んだものだが、この、漫画に出てくる「ジャック」、舞台や仮装舞踏会の彼の扮装ふんそうは、かならずその
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼女が臨終七時間前にうつしたという「カルメン」の写真は、彼女の扮装ふんそうのうちでもうつくしい方であるが、心なしか見る目に寂しげな影が濃く出ている。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お駒ちゃんは、その天人姿の扮装ふんそうのまま舞台をいったり来たりして走りながら、叫ぼうとしてけむりにむせる。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とんがりかぶともあごひげも得物のやりの三つまたも扮装ふんそうは絵にある清正と同じでしたが、こっけいなことに、その清正は朝鮮タバコの長いキセルを口にくわえて
扮装ふんそうとメイキャップの工夫をするというふうにハムレットになりきるために異常な努力をつづけていました。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
典型にもとづく俳優の演技並びにその扮装ふんそうとこの三要素の綜合そうごうして渾然こんぜんたる一種の芸術を構成したるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それはれいの浮浪者の扮装ふんそうをしているチャップリンが一匹の野良犬とならんでいる写真なのだ。その後も私はずっとその写真のことを、なんとなく忘れずにいる。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
あらゆる妖怪ようかいはその衣裳方となって彼を扮装ふんそうしてやったのである。はいつつ立っている。爬虫類はちゅうるいの二重の歩き方である。かくて彼はあらゆる役目に適するようになる。
紅、黄、紫、あい、黒などの、禁ぜられた衣裳いしょうを着用できるのは、舞台上の扮装ふんそうの場合だけである。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
扮装ふんそうは、少年少女は平常着ふだんぎのままでもい、そのほかは子供の空想の産物で好いが、先生は威厳を損じない程度にのどかな人物であること、猟人かりうどはずんぐりしていて意気なあわてもの
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
田舎廻りの舞台の上で、彼は玄武門の勇士を演じ、自分で原田重吉に扮装ふんそうした。
従来寺院のものであった聖譚曲——聖書の中の事蹟じせきを音楽として、背景も扮装ふんそうも用いずに、地味じみ抹香臭まっこうくさく歌われた「聖譚曲」を、社会とお宗旨関係者の反対を押し切って劇場に持ち来り
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
小翠は戸を閉めて、また元豊を扮装ふんそうさして項羽こううにしたて、呼韓耶単于こかんやぜんうをこしらえ、自分はきれいな着物を着て美人に扮装して帳下の舞を舞った。またある時は王昭君おうしょうくんに扮装して琵琶をいた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その扮装ふんそうは高貴な王女のようでともかく霊体のようにはかいてない。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
「今はもう皆あれだす、うちの子供にもあんなん買うたろ」といってようやく着せて見た洋服を、私は心斎橋筋しんさいばしすじの散歩で沢山見受ける。即ち女の子は、近所の女給かダンサーの扮装ふんそうとなって街頭に現れる。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
見ると、それは医員に扮装ふんそうしたほかならぬ冬木刑事であった。
そのかずおよそ一百人、だが扮装ふんそうは別々である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その扮装ふんそうも思い思いでした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(すばらしき大演武会の司会者は、また欧羅巴ヨーロッパの国王間にも到底見られない華麗豪壮な扮装ふんそうちりばめられた端正なる一貴人であった——)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく扮装ふんそうして市場に立ち現われると、若い女や年取った男どもが、それを非常に喜んだ。屍体したいと後宮の臙脂えんじとの匂いが、そこから発散していた。
いつもなら、矢走千鳥やばせちどりが手伝ってくれるのだが、彼女は臨時に終幕に持ち役ができて舞台に出ているので、ジュリアはみずか扮装ふんそうぐほかなかった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぢりめんの長じゅばん、おめしのコートというところから、伯爵家の若夫人の外出の服装ではないといい、わざとああした目立たぬ扮装ふんそうをしたのであろうとも言い
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どの狂言にも代々の名優の工夫に成る一定の扮装ふんそう、一定の動作———所謂いわゆる「型」が伝えられているから、その約束に従い、太夫の語るチョボに乗って動きさえすれば
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「右六名のうち、孔雀くじゃく扮装ふんそうは最も醜怪なり。馬肉をくらいたる孫悟空そんごくうごとし。われらしばしば忠告を試みたるも、更に反省の色なし。よろしく当道場より追放すべし。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
舞台中央に立った一人の異様な人物、金モールの飾りいかめしい赤ビロードの上衣うわぎ、ズボン、同じくピカピカ光るビロード帽子、スペインの闘牛士そのままの扮装ふんそうである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ねずの三武さんぶという連中の扮装ふんそうものだったので、いっそう評判になった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
松川はその時お召ぞっきのぞろりとした扮装ふんそうをして、いにしえの絵にあるような美しい風貌ふうぼうの持主であったし、連れて来た女の子も、お伽噺とぎばなしのなかに出て来る王女のように、純白な洋服を着飾らせて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それぞれ扮装ふんそうを凝らした連中が勢揃いしていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
大袈裟おおげさな言葉や羽根飾り、ブリキの剣と厚紙のかぶととをつけた芝居がかりの空威張からいばり、そういう扮装ふんそうの下にはいつも
衝立ついたての後から、その途端に、腰もしっかり定まらない一人のいどれが、扮装ふんそうしてひょろりと起って来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はかま水干立烏帽子すいかんたてえぼし、ものめずらしいその扮装ふんそうは、彼女の技芸と相まってその名を高からしめた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
サーカスの舞台では、ピシーン、ピシーンとむちが鳴る。おりの横手にピカピカ光る金色の一物いちもつ。それは名にしおう猛獣団長大山ヘンリー氏の闘牛士そっくりの扮装ふんそうであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それに南蛮胴の鎧と云い、水牛の抱角だきづの帝釈天たいしゃくてんの兜と云い、邪推をすれば、内面の弱点を人に見透みすかされまいとして、いてそう云う威嚇的な扮装ふんそうをしたと思われぬでもない。
きょうも、その、おもしろい小父さまは、能役者たちの狂言が幾番かすむと、やおら自身、楽屋幕のうちへはいり込んで、やがて、扮装ふんそうして、舞台へ出て来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京の祇園ぎおんから呼びよせただらりの帯の舞い子が四、五人、柳橋の江戸まえのねえさんたちが四、五人、西洋道化師に扮装ふんそうした幇間ほうかんが四、五人、キャバレーの盛装美人が七、八人
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
要は自分にその真似まねが出来ようとは思わないながら、何のかのと物の分った顔をして年中ごたごたをつづけている自分の家庭を顧みると、人形のような女を連れて、人形芝居のような扮装ふんそう
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
胡弓こきゅう長笛ちょうてき蛮鼓ばんこ木琴もっきんかねなどの合奏オーケストラにあわせて真っ赤な扮装ふんそうをした童女三人が炎の乱舞を踊りぬいてしばらくお客のご機嫌をつないでいる。——それが引っ込む。曲が変る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹下左膳たんげさぜん扮装ふんそうをして、大きな太鼓たいこを胸にぶらさげた男を先頭に、若い洋装の女のしゃみせんひき、シルク・ハットにえんび服のビラくばり、はっぴ姿の旗持ちなどが、一列にならんで
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼が、家臣に何かささやくと、忽ち、正面の大襖おおぶすまが除かれ、二次の馳走として用意されていた猿楽さるがく役者が、楽器を調ととのえ、扮装ふんそうをこらし、待ち控えていて、すぐ狂言舞を演じはじめた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
べつに一定の風俗扮装ふんそうがあるわけではなく、その目的が他日の武門生活の修行にあれば、虚無僧でも何でも、それを武者修行とよんで差閊さしつかえないわけであるが、やがて、それが社会の表面に
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもはれの式日に、曠の扮装ふんそうをもって、演じてしまった宿命にすぎない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)