手真似てまね)” の例文
旧字:手眞似
なだらかに傾斜した砂浜を、身ぶり手真似てまねをまじえて、何かしきりに話しあいながら、だんだん英夫たちのいる方へやって来る。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と、手を振りぬいて後の者を制しながら、一方、あなたの山腹へ向っても、出せるだけの声を張って、何やら手真似てまねで意志を送っていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ルピック夫人は、これはまた、食事の時以外はかささぎよりもおしゃべりなのだが、食卓につくと、手真似てまねと顔つきでものをいいつけるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼は髯から手を放すと、ややり身になって、鼻の高い、眼光の鋭い顔を時々ちらりと眺めながら、勢いよく手真似てまねをして、しゃべり出した。
英雄の器 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きんは笑いながら手真似てまねで、客間に蒲団ふとんを敷くように云いつけた。紙の焼ける匂いを消す為に、きんは薄く切ったチーズの一切れを火にくべた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
半分は手真似てまねで物を言って、長火鉢を間にした差向い、妙に黙りこくって飲んでいると、やがて、亥刻よつ(十時)過ぎ。
会話と云っても手真似てまねである。その覚束おぼつかない手真似をもって、ようやく紋太夫が聞き出したのは、壺神様つぼがみさまの事である。
三吉は庭に出て、大きな石と石の間を歩いたが、不図ふと姉の後に立つ女髪結を見つけて不思議そうに眺めていた。髪結は種々な手真似てまねをしてお種に見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うしてつくる? ……つひ一寸ちよつくら手真似てまねはなされるもんではねえ。むねに、機関からくりつとります。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「わたし、あの時は実にこわかったわ。顔がこんなよ。」と手真似てまねをして、玉子が一伍一什いちぶしじゅうくわしく話した。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
言語が通ぜぬから、手真似てまねや顔色やにて不快の念を表すが多い。これが一番不愉快ふゆかいかんずることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
墓地向うのうちの久さんの子女こどもが久さんを馬鹿にするのを見かねて、あんまりでございますねとうったえた。唖の子の巳代吉みよきちとはことに懇意になって、手真似てまね始終しじゅう話して居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
余は再び手真似てまねを交ぜて解剖的の説明を試みた所が、女主人は突然と、ああサンゴミか、というた。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
暗くなり切った時、家主いえぬしの女が蝋燭ろうそくともして来て、病人の寝ているそばの、今一つの寝台ねだいこしらえに掛かった。それを見てマリイはそれには及ばぬと、手真似てまねで知らせた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
善作が空身からみで立っている、手真似てまねで下りろという、崖が急で下りられない、ゆびさす方に従ってようやく下り場所をさがし、偃松の中に転げこむと、荷梯子にばしごがそっくり寝ていた
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
二人の話はただ吉川夫人の双眼鏡に触れただけであった。お延はわざと手真似てまねまでして見せた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中館が、令夫人もいるかい? ときいたら、半分若侍のこしらえをしたその俳優は、ええ、と答えて、何か手真似てまねをした。へえ。そうなのかい。中館はちらりと唇をまげた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
小山嬢は、美貌の青年に向って手真似てまねと共に何事かを命じた。すると青年は、くるっと後を向いた。青年の顔は、今や窓外から室内をうかがう帆村と田鍋課長の方へ正面を切った。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いずれも自分だけが、委細を見届けているような口ぶりで、身ぶり、手真似てまねまでして見せて、つまり、あの小童は棒使いの名人だということにおいては、誰も一致するようです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一人を追躡ついじょうして銀明水ぎんめいすいかたわらまで来りしに、吹雪一層烈しく、大に悩み居る折柄、二人は予らに面会をおわりて下るにい、しきりに危険なる由を手真似てまねして引返すべきことをうながせしかば
翌日の夕方、彼は広島駅で下車すると、まっすぐに幟町のぼりちょうの方へ歩いて行った。道路に面したガラス窓から何気なく内側をのぞくと、ぼんやりと兄の顔が見え、兄は手真似てまねで向うへ廻れと合図した。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
道のむかひの塀の隣りで、此処こことは筋むかうの鼠色の家の一番上ほとんど家根とすれすれのところに一つきりある窓から十六七の少女をとめが顔を出して先刻さつきから曙村さんを手真似てまねなどでからかつて居るのてあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ソレ弾丸だまでも食って怪我けがをしては大変と松とも話し、一緒に家へ帰って、師匠に市中の光景などを手真似てまねで話をしておりますと、ドドーン/\/\という恐ろしい音響おとが上野の方で鳴り出しました。
そして、T機関士に手真似てまね
飛行機に乗る怪しい紳士 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこへ紅毛人の婆さんが一人静かに戸をあけて女に近より、一封の手紙を出しながら、「読んで見ろ」と云う手真似てまねをする。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歌道や茶の友には、礼儀のほかに、階級をえた心と心の親しいものがある。行祐ぎょうゆうはすこし仰山ぎょうさん手真似てまねで答えた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マリイ・マドレエヌは白木のテーブルのうしろで貧乏ゆすりをしている。そして、相手をそらさない笑顔を作りながら、熱心に手真似てまね身振りをしてしゃべり続ける。
こう話し聞かせる岡見は、人の心に火を点けて歩くという若者の様子を手真似てまねにまでして見せて、笑った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生憎あいにく来客だ。御母さんは手真似てまねで早く隠せと云うから、余は手帳を内懐うちぶところに入れて「宅へ帰ってもいいですか」と聞いた。御母さんは玄関の方を見ながら「どうぞ」と答える。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土人乙女はそれを見ると、踊っていた手を急ぎ止めて手真似てまねで私へ話しかけた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呼吸いきの下でいって、いい続けて、時々歯噛はがみをしていた少年は、耳をすまして、聞き果てると、しばらくうっとりして、早や死の色の宿ったる蒼白そうはくおもてやわらげながら、手真似てまねをすること三度ばかり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「其中に一人立ちて大音声だいおんじやうののしり、手真似てまねなどして狂人の如し」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その河童は僕が目をあいたのを見ると、僕に「静かに」という手真似てまねをし、それからだれか後ろにいる河童へ Quax, quax と声をかけました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤吉郎は、あたまを掻いて、もっと、何かして遊ぼうという意味を、手真似てまねや顔つきで誘った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、とうとう、火のの伝わってこない食器棚と袋戸棚の間へ押し込められてしまう。盲人めくらは、途方に暮れ、手探りをし、手真似てまねで何かいい、指の先が獣のようにいまわるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
先生は往時むかし戦争にまで出たことのある大きな手で、種々いろいろ手真似てまねをして
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手真似てまねで一ぱいやるしぐさをして見せたのが、真に迫りました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紋太夫はそばへ寄って行った。そうして手真似てまねで話し出した。
手真似てまねで見せた、与吉は両手を突出つきだしてぐっと引いた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、クラバックはラップや僕にはちょっと「驚くな」という手真似てまねをした上、今度は冷やかにこう言うのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それをガツガツと食べ終りますと、手真似てまねをして、もっとくれいと強請せがみましたから、いかん、と首を振ってみせたら、さまざまなあだをいたして、いやはや手古摺てこずりました」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一瞬は、それほど由々ゆゆしき一瞬であり、彼女はために策の施しようがないのだ。平生へいぜい用いるおどしの手真似てまねさえ、赤い切先きっさきのように鋭く燃えるあの眼つきにっては、もう役に立ちそうもない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「何か宇津木の奴、しきりに手真似てまねをして女をなだめている」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女の情熱が和んでから手真似てまねでいろいろ話して見た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、やがて両手を挙げ、顔中に喜びをみなぎらせる。すると猿がもう一匹いつか同じ枝の上にゆらりと腰をおろしている。二匹の猿は手真似てまねをしながら、暫く何か話しつづける。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
眼のいろ、唇のうごき、手真似てまね身振みぶりだけでも、話は立派に通じるんだ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、手真似てまね巫女みこに訊いた。
そのうちに船長はマントルの中から望遠鏡を一つ出し、「さん・せばすちあん」に「見ろ」と云う手真似てまねをする。彼はちょっとためらった後、望遠鏡に海の上を覗いて見る。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
会所の久六が、手真似てまねでバッサリ、いやに小声で注意をする。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて廊下のつき当りまで来ると、新田はその部屋の戸を開けて、うしろの三人を振返りながら、「御覧なさい」と云う手真似てまねをした。ここは柔道の道場を思わせる、広い畳敷の病室だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)