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懊悩
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おうのう
ふりがな文庫
“
懊悩
(
おうのう
)” の例文
旧字:
懊惱
何かの場合ごとに今日の夫人の
懊悩
(
おうのう
)
する心の端は見えても、さりげなくおさえている心持ちに院は感謝しておいでになるのであった。
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
お勢
母子
(
ぼし
)
の者の出向いた
後
(
のち
)
、文三は
漸
(
ようや
)
く
些
(
すこ
)
し
沈着
(
おちつい
)
て、
徒然
(
つくねん
)
と机の
辺
(
ほとり
)
に
蹲踞
(
うずくま
)
ッたまま腕を
拱
(
く
)
み
顋
(
あご
)
を
襟
(
えり
)
に埋めて
懊悩
(
おうのう
)
たる物思いに沈んだ。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
夜遅く栗橋に出て大越の土手を終夜歩いて帰って来たこともある。女の心の
解
(
げ
)
しがたいのに
懊悩
(
おうのう
)
したことも一度や二度ではなかった。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
すべての疑惑、
煩悶
(
はんもん
)
、
懊悩
(
おうのう
)
、を一度に解決する最後の手段を、彼は胸のなかに
畳
(
たた
)
み込んでいるのではなかろうかと
疑
(
うたぐ
)
り始めたのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
長い
懊悩
(
おうのう
)
も、
憂鬱
(
ゆううつ
)
も、忍耐も、寂しい寂しい異郷の
独
(
ひと
)
り旅も、すべては皆この一つを感知するために有ったかのように思われて来た。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
それにしても、その典麗な顔をネジ曲げるような、不安とも
懊悩
(
おうのう
)
とも付かぬ、不思議な表情の往来するのは
何
(
ど
)
うしたことでしょう。
死の予告
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
それほどに
懊悩
(
おうのう
)
してジリジリと興奮するまで文学を嫌い抜いていたのは、一つは「このいやという存在の声」が手伝っていたのである。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
苛責
(
かしゃく
)
と
懊悩
(
おうのう
)
に、のべつ追い廻されているように、彼は、死に場所を探し歩いた。だが、死を考えているうちは、まだ死ねなかった。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だが、ある時、遂に主人が、この
忍男
(
しのびおとこ
)
を発見する。すさまじき
憤怒
(
ふんぬ
)
の形相。
煩悶
(
はんもん
)
懊悩
(
おうのう
)
の痛ましい姿、彼は真底から女を愛していたからだ。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
瞳の色は、飽くまで冷たかったが、
微
(
かす
)
かにせまった眉や、顎のあたり、胸底の
懊悩
(
おうのう
)
をじっと押しこらえている感じが、
歴々
(
ありあり
)
と浮び上った。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
従而
(
したがって
)
、やがて後年ひとたび真実の形にはいると、全身をもって物の真底にふれ
懊悩
(
おうのう
)
しだした
麒麟児
(
きりんじ
)
の姿がハッキリ分るように思うのである。
神童でなかったラムボオの詩:中原中也訳『学校時代の詩』に就て
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
引緊
(
ひきしま
)
った面に、物を探る額の曇り、キと結んだ紅い
唇
(
くちびる
)
、
懊悩
(
おうのう
)
と、勇躍とを混じた表情の、
閃
(
ひらめ
)
きを思えば、類型の美人ということが出来よう。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
悩ましい日の色は、思い疲れた私の眼や肉体を一層
懊悩
(
おうのう
)
せしめた。
奈良
(
なら
)
からも
吉野
(
よしの
)
からも
到
(
いた
)
るところから絵葉書などを書いて送っておいた。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
懊悩
(
おうのう
)
の果には、あの気品の高い正直な青年が、奴隷の微笑をさえ頬に浮べるようになったのだ。混沌の特産物である自己嫌悪。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
そういう死の
懊悩
(
おうのう
)
が彼の幼年時代の数年間を苦しめた。——その懊悩はただ、
生
(
せい
)
の
嫌悪
(
けんお
)
によってのみ和げられるのだった。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
広い宇宙に生きて思わぬ
桎梏
(
かせ
)
にわが愛をすら縛らるるを、歯がゆしと思えど、武男は
脱
(
のが
)
るる
路
(
みち
)
を知らず、やる
方
(
かた
)
なき
懊悩
(
おうのう
)
に日また日を送りつつ
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
儂はこれを思うごとに苦悶
懊悩
(
おうのう
)
の余り、
暫
(
しば
)
し
数行
(
すこう
)
の
血涙
(
けつるい
)
滾々
(
こんこん
)
たるを覚え、寒からざるに、
肌
(
はだえ
)
に
粟粒
(
ぞくりゅう
)
を覚ゆる事
数〻
(
しばしば
)
なり。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
そう云う訳で、敵も味方も疑心暗鬼に囚われている最中に、法師丸はひとり昨夜の失敗を思い出しながら
懊悩
(
おうのう
)
していた。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それ以来、夢を見るには見るけれど、夢の後に来るものは驚愕にあらずして、多少の
懊悩
(
おうのう
)
と懐疑とです。
甚
(
はなは
)
だ稀れには歓喜であることもあります。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
懊悩
(
おうのう
)
として
憂
(
うき
)
に
堪
(
た
)
へざらんやうなる彼の
容体
(
ようたい
)
に
幾許
(
いくばく
)
の変も見えざりけれど、その心に水と火の如きものありて
相剋
(
あひこく
)
する苦痛は、
益
(
ますます
)
募りて
止
(
やま
)
ざるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
軽部は
懊悩
(
おうのう
)
した。このことはきっと出世のさまたげになるだろうと思った。ついでに、良心の方もちくちく痛んだ。
雨
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
そうして、
懊悩
(
おうのう
)
と
嫌悪
(
けんお
)
の念を持って、わたしは去年のシーズンのことや、ウェッシントン夫人のことを思い出した。
世界怪談名作集:12 幻の人力車
(新字新仮名)
/
ラデャード・キプリング
(著)
故に人として
活
(
い
)
きんためには、是非とも信仰を保持せるままにて難問題の解決に当らなければならない。ここに困難があり、ここに苦悶
懊悩
(
おうのう
)
が生れる。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
それを見てからといふもの、僕がどんな
懊悩
(
おうのう
)
の日夜を送つたかは、くどくどしく述べる気力がない。一口に言へば、僕は
嫉妬
(
しっと
)
と恋の鬼になつたのである。
わが心の女
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
山中はいつものごとく御看病と
称
(
とな
)
えて。なにか浜子のへやにてしきりに咄しさい中なり。勤は帰朝以来何か感ずるところありて。
懊悩
(
おうのう
)
として心楽しまず。
藪の鶯
(新字新仮名)
/
三宅花圃
(著)
そう判ると、かすかな嫉妬を覚えたけれども、これまでの惨苦も
懊悩
(
おうのう
)
も一時に消え失せて、残った白紙の
眩
(
まば
)
ゆさには、何もかも忘れ果ててしまうのだった。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
唐突
(
だしぬけ
)
に
嫁入
(
よめ
)
らせると、そのぞっこんであった男が、いや、失望だわ、
懊悩
(
おうのう
)
だわ、
煩悶
(
はんもん
)
だわ、
辷
(
すべ
)
った、転んだ、ととかく世の中が面倒臭くって
不可
(
いか
)
んのです。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
自分のひそかに通っていた
軽
(
かる
)
の村の愛人が急に死んだ後、或る日いたたまれないように、その軽の村に来てひとりで
懊悩
(
おうのう
)
する、そのおりの挽歌でありますが
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
犬吠岬
(
いぬぼうざき
)
の茶店の主人の話だそうである。三十年来の経験で、自殺者心中者はたいてい様子でわかる。思案にくれて
懊悩
(
おうのう
)
しているようなのはかえって死なない。
柿の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
大至急の手紙には
如何
(
いか
)
なる事を
言来
(
いいきた
)
りけん、大原はその夜
終宵
(
よもすがら
)
懊悩
(
おうのう
)
して
寝
(
ね
)
もやらず、翌日も心の
苦
(
くるし
)
みに堪え難くてや起きも上らで昼過ぐるまで床の内にあり。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
今までどうも作句の上に不満足な点があった、どうかしてそこを逃れ出て新しい境地に入りたいと
懊悩
(
おうのう
)
していたが、それがこの句を得たと同時に合点がいった。
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
彼は逃げようとして絶えず隙を
覗
(
うかが
)
ってでもいるような、何かぴったりとしない葉子の気分に、淡い
懊悩
(
おうのう
)
と腹立たしさを感じながら、それを追窮する勇気もなく
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
終日
懊悩
(
おうのう
)
。夕方庭をぶら/\歩いた後、今にも降り出しそうな空の下に
縁台
(
えんだい
)
に腰かけて、庭一ぱいに
寂寥
(
さびしさ
)
を
咲
(
さ
)
く月見草の冷たい黄色の花をやゝ久しく見入った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
しかし帰農したらば安静を得られようと思うのが、あるいは一時の
懊悩
(
おうのう
)
から起こるでき心かもしれない。
去年
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
精神も幸福も未来も魂もすべてが、車の歯から歯へ、
苦悶
(
くもん
)
から苦悶へ、
懊悩
(
おうのう
)
から懊悩へと、陥ってゆく。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
其の夜、下宿にかえった僕が、
悔恨
(
かいこん
)
と
魅惑
(
みわく
)
との間に
懊悩
(
おうのう
)
の一夜をあかしたことは言うまでもない。
階段
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
この娘は恋の
懊悩
(
おうのう
)
の為、この年の翌々年、宝永二年に死んでしまうことになっているが、人間は単に恋のような精神的の苦悩の為に滅多に死ぬものではないと私は思う。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そして彼はもだえ、一刻前のすべての輝ける希望と、喜びとはたちまち絶望と
懊悩
(
おうのう
)
とに変わった。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
わざと描かれたうす桃色の
拙
(
つたな
)
い色調のうちから誘われた、さまざまの記憶にうかんでくる女の肉線を、
懊悩
(
おうのう
)
に
掻
(
か
)
き乱された頭に、それからそれへと思い浮べるのであった
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
もうどうすることもできない。北山や綣村を相手にして気狂いの真似をしながら生涯を終ることにしよう……この
諦観
(
ていかん
)
に達するまでにハムレットはどれほど
懊悩
(
おうのう
)
したことか。
ハムレット
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼は権力と己の芸術心との間に
煩悶
(
はんもん
)
懊悩
(
おうのう
)
した上で、三上皇の御製を採ったのでないかと思う。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
しかし彼は、
淋
(
さび
)
しくのけ者になって、何の望みもなく、閉ざされた鎧戸の前に立ったまま、
懊悩
(
おうのう
)
のあまり外が見えるような風をしてはいたものの、それでもやはり幸福だった。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
絶えざる不安
懊悩
(
おうのう
)
におびえつづけていながらも、いつもの好奇癖で、闇太郎が、何か売り込みものを持って来たと取ると、すぐに、もう内容が見たくてたまらない三斎だった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
これだけがせいいっぱいの、私のいまの生きかたなのです、そしてこの頃の私は、火のような
懊悩
(
おうのう
)
が、心を焼いている。さあ! もっと殴って、もっと私をぶちのめして下さい。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
そのことで彼は
懊悩
(
おうのう
)
していた。その過去と、彼が頭脳と、勇武とに
卓
(
すぐ
)
れている事実とから、彼を措いてはこの組織的な行動の統率者たり得る人物は無い、と人々は断じたのである。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
いわゆる「死
已
(
すで
)
に名無く生また
懶
(
ものう
)
し、英雄恨み有り蒼天に訴う」の如き、また以て彼が
懊悩
(
おうのう
)
の情を察するに足らん。看よ、生また
懶
(
ものう
)
しの三字、如何に多量の
不穏
(
ふおん
)
なる精神を含むか。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
到頭七里ヶ浜の
湘南
(
しょうなん
)
サナトリウムで、
懊悩
(
おうのう
)
しながら療養の日を送ってしまいました。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
喘息
(
ぜんそく
)
病みの玄石が、肉体的に苦しむのはこうした夜だった。はげしい興奮と、
懊悩
(
おうのう
)
とに、全精力を使い尽くしてしまった彼が、こうした寒い夜に、持病の発作を起こしたのは当然だった。
二人の盲人
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
少女を待ち兼ねて
懊悩
(
おうのう
)
していた源は、少女の顔を見るなり恨めしそうに言った。
緑衣人伝
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
雀右衛門は、自分の下僚を呼んで相談し、
懊悩
(
おうのう
)
の表現、まことに哀れである。
純情狸
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
懊
漢検1級
部首:⼼
16画
悩
常用漢字
中学
部首:⼼
10画
“懊悩”で始まる語句
懊悩呻吟
懊悩地獄
懊悩戦慄
懊悩煩悶
懊悩転輾