悄然せうぜん)” の例文
悄然せうぜんとして浜辺に立つて居ると二人の貴人が其の前に現はれた。一人は大気のつかさアシーナの女神で、一人は伝令神マアキュリーである。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
佐久間玄蕃さくまげんば中入なかいり懈怠けたいのためか、柴田勝家しばたかついへしづたけ合戰かつせんやぶれて、城中じやうちう一息ひといき湯漬ゆづけ所望しよまうして、悄然せうぜんきたさうへとちてく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『あゝ、今迄いまゝでなん音沙汰おとさたいのは、稻妻いなづま途中とちうんでしまつたのでせう。』と、日出雄少年ひでをせうねん悄然せうぜんとして、武村兵曹たけむらへいそうかほながめた。
ほたるが多く飛びかうのにも、「夕殿せきでんに蛍飛んで思ひ悄然せうぜん」などと、お口に上る詩も楊妃ようひに別れた玄宗の悲しみをいうものであった。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
須世理姫は彼の去つた後も、暫くは、暗く火照ほてつた空へ、涙ぐんだ眼を挙げてゐたが、やがて頭を垂れながら、悄然せうぜんと宮へ帰つて行つた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それを聞いて悄然せうぜんと手持無沙汰に立ち去るものもある。待ち構へたやうに持つてゐたやりつてゐた荷を棄てて、足早あしはやに逃げるものもある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
悄然せうぜんとして八丁堀から歸つて來ると、これも眞劍に心配して居るには相違ありませんが、物に遠慮のないガラツ八が
されど吾妻は悄然せうぜんとして動きもやらず「——考へて見ると警察程、社会の安寧をやぶるものは有りませんねエ、泥棒する奴も悪いだらうが、とらへる奴の方がほ悪党だ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
勘次かんじ悄然せうぜんとしてた。與吉よきちたびかれこまつた。さうして毎日まいにちしなのことをおもしては、天秤てんびん手桶てをけかついだ姿すがたにはにも戸口とぐちにもときとしては座敷ざしきにもえることがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
父は店先でトン/\と桶のたがれてゐたし、母は水汲に出て行つた後で私は悄然せうぜんと圍爐裏の隅にうづくまつて、もう人顏も見えぬ程薄暗くなつた中に、焚火の中へ竹屑を投げ入れては
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一時間ばかりもゐて、おせいの亭主は悄然せうぜんと戻つて行つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
さう云はれては、悄然せうぜんと頭を垂れて
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
夜が既にけた後、素戔嗚はいびきをかいてゐたが、須世理姫は独り悄然せうぜんと、広間の窓にりかかりながら、赤い月が音もなく海に沈むのを見守つてゐた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ことばしたより、其處そこに、はなし途中とちうから、さめ/″\といてをんなは、悄然せうぜんとして、しかも、すらりとつた。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
平次は悄然せうぜんとして歸つて來ました。まことに散々です。この上は百兩の金をつくつてお時に返し、改めて十手捕繩を返上して、小商こあきなひでも始める外はなかつたのです。
「其から梅子さん、私一身上の御依頼が御座いますが」と、篠田は悄然せうぜんとしてまなこを閉ぢぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
先刻せんこく見送みおくられた吾等われらいま彼等かれらこのふねよりおくいださんと、わたくし右手めて少年せうねんみちびき、流石さすが悄然せうぜんたる春枝夫人はるえふじんたすけて甲板かんぱんると、今宵こよひ陰暦いんれき十三深碧しんぺきそらには一ぺんくももなく
悄然せうぜんとしてあといて勘次かんじえうはないからと巡査じゆんさ邪慳じやけんしかつてひやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このをとこことけるな、なにつてもうそおもへ、——おれはそんな意味いみつたへたいとおもつた。しかしつま悄然せうぜんささ落葉おちばすわつたなり、ぢつとひざをやつてゐる。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
明日あしたにしろ」とかれ簡單かんたん拒絶きよぜつしてさうしてそれつきりいはないことがるやうになつた。與吉よきちしば/\さういはれて悄然せうぜんとしてるのを、卯平うへい凝視みつめて餘計よけいしかめつゝあるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
平次は悄然せうぜんとして笹野新三郎の前を滑りました。
彼は悄然せうぜんとして落涙せり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
第三の幽霊 (これは燐火りんくわを飛ばせながら、愉快さうにただよつて来る。)今晩は。なんだかいやにふさいでゐるぢやないか? 幽霊が悄然せうぜんとしてゐるなんぞは、当節がらあんまりはやらないぜ。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)