おく)” の例文
中にも苦味走つた顔の男は、巡査の人を見るやうな見方をしたと思つたので、八はしやくさはつたが、おくが出て下を向いてしまつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とは云っても覚えが有るものでございますから、其所そこは相手が女ながらも心におくれが来て段々後へ下る。すると段々見物の人がたかって
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、こうして覚えのある足に馬力をかけてさえいれば、たとえ安達ヶ原であろうと、唐天竺からてんじくであろうと、おくれを見せるがものはない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ホホホホホホ。何をおくれていやるのじゃ、駕の中にはわらわがおります。怖いと思うたら、先の者へぶつけた途端にそちたちは逃げるがよいぞ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美女 (おくれたる内端うちわな態度)もうもう、決して、虚飾みえ栄燿えようを見せようとは思いません。あの、ただ活きている事だけを知らせとう存じます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そへてふくろふさけ一段いちだんものすごしおたか決心けつしん眼光まなざしたじろがずおこゝろおくれかさりとては御未練ごみれんなりたかこゝろさきほどもまをとほきはめし覺悟かくごみちひと二人ふたり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
阿Qは近頃割合に人の尊敬を受け、自分もいささか高慢稚気こうまんちきになっているが、いつもやり合う人達の面を見ると、やはり心がおくれてしまう。ところが今度に限って非常ないきおいだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
角の家の腰障子を開けて出て来た小女が、じろ/\と顔を覗き込んで行ったのでたちまちおくれが差し、その隣の淀文へ這入ることが出来ずに、行過ぎて元の広小路へ出てしまった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「親の敵——で悪ければ兄の敵、それで気に入らなきゃ朋輩の敵だ。おくれたか山浦」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
腹召されんとて藤四郎の刀を以て、三度まで引給えどかつて切れざりしとよ、ヤイ、合点が行くか、藤四郎ほどの名作が、切れぬ筈も無く、我が君のおくれたまいたるわけも無けれど
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかに阿修羅あしゅらのように荒れたとて、敵ではないにきまっているのに、さも、尚たのむところありげに、おくれも見せずたたずむ姿には、必勝を期するものの自信がありありと見えるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
されど友は我を伴ひしことなく、我も亦獨り往かん心を生ずることなかりき。こは見んことの願はしからざるにあらず、心のおくれたるなり。むかしベルナルドオの我にいひしことあり。
兼ねて覚悟はしていたものの、いざ申し上げるとなって見ると、今更のように心がおくれたのです。しかし御主人は無頓着に、芭蕉ばしょうの葉のおうぎを御手にしたまま、もう一度御催促ごさいそくなさいました。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
由平よしへいは我にかえってからしまったと思った。由平はおくれた自分の心を叱って、再び身を躍らそうとした。と、其の時背後うしろの方から数人の話声が聞こえて来た。由平は無意識に林の中へ身を隠した。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
張扇はりおうぎをたゝき立てるのは先ずこのくらいにして、さて本文に這入りますと、なにを云うにも敵の大軍が野にも山にも満ち/\ているので、さすがの日本勢もそれを望んで少しく気おくれがしたらしい。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
失せもあへぬそのかみの日のおくれたる弱きこころに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
立ちおくれがしてしまうのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仲間ちゅうげん仰向あおむけになって見ると驚きました。かたわらに一本揷ぽんさしの品格のい男がたゝずんで居るから少しおくれて居ました。
おくれたか。策か。いずれにしても卑怯ひきょうと見たぞ。——約束の刻限はく過ぎて、もう一刻ひとときの余も経つ。巌流は約をたがえず、最前からこれにて待ちかねていた」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何事もなくても、こんな風におくれがちなお玉のきもをとりひしいだ事が、越して来てから三日目にあった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
それはおくれたわけではないけれども、明日の決心を思う時は、血肉がじっとしてはおられないのであります。それはそうあるべきはずです。しかるにこの人は平気で寝刃を合せています。
友はいさゝかおくれたる氣色もなく、かのダンテを詠ずる詩をしたり。式場は忽ち水を打ちたるやうに鎭まりぬ。讀誦どくじゆの力あるに、聽くもの皆感動したるなり。われは初より隻句をのこさずそらんじたり。
ここにいたりて自然のいきおい、最早みしやすからぬやうにおぼゆると同時に、肩もすくみ、ひざもしまるばかり、はげしく恐怖の念が起つて、ひとえに頼むポネヒルの銃口に宿つた星の影も、消えたかとおくれが生じて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
𤢖は一匹でなかったが、は入口に立って格闘の模様を窺っていたらしい。で、今や真先まっさきの一匹がかかる始末となったので、少しくおくれが出たのかも知れぬ。いずれも奥へ引退ひきさがって、再び石を投げ初めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もうのうちと単騎せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の辻占つじうら淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄せの当坐のなぞ俊雄は至極御同意なれど経験ためしなければまだまだ心おくれて宝の山へ入りながらその手を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
主人はつて外を見た。丁度八と目を見合せるやうになつたが、もとより藪の中が見える筈はない。八は少しもおくれたやうな気はしないで、かへつて主人を旦那だんならしいと思つた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
生半可なまはんか、ひとの心や気もちのうごきに敏感になったから、かえって、こっちの手がおくれるのだ。日観なども、眼をとじて一撃をり落せば、実はもろ土偶でくみたいなものかも知れないのだ
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふーん、死におくれたな」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鳴神なるかみのおとの絶間たえまには、おそろしき天気におくれたりとも見えぬ「ナハチガル」鳥の、玲瓏れいろうたる声振りたててしばなけるは、淋しき路をひとりゆく人の、ことさらに歌うたふたぐいにや。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「叔父上。あなたは、このになって、さてはおくれに襲われましたな」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい。」怜悧れいりらしい目を見張つて、存外おくれた様子もなく堀をあふた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おくせず、弥九郎は、前へすり寄った。ほとんど、膝もふれあう程まで。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
末造はつと席をった。そして廊下に出て見ると、腰をかがめて、曲角の壁際に躊躇ちゅうちょしている爺いさんの背後うしろに、おくれた様子もなく、物珍らしそうにあたりを見て立っているのがお玉であった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
後に立って、めつけている内匠頭へ、おくれもなく、振り向いて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「忠次、いみじくも申したり。おくしたる者の眼には、田に飛ぶ白鷺しらさぎも、敵の旗かと見えておくれ立つとか。はははは、まず両人の報告の程度なら、信長も大安心というもの——家康どの、祝されてよかろう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何故? 今になっておくれを取るのか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくれたかっ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)