巣窟そうくつ)” の例文
自分の家を乱行の巣窟そうくつにしたりしているうちに、三つになるミーチャの世話を引き受けたのは、この家の忠僕グリゴリイであった。
先刻さっきの話では、岩は坑道をあけていったそうじゃ。どうだい、その坑道を逆に進んでいったら岩の巣窟そうくつへ行けそうなものじゃないか」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまや、その巣窟そうくつの上に、裁決の日は来た。一山の僧房や伽藍がらんは、わずか伝法院でんぽういんの一宇を残したきりで、炎々たる兵燹へいせんかかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは重罪の巣窟そうくつであるというてよろしい。また乞食の多くもこの種族に属して居る。なおこの種族の中には別に乞食族という者もある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まったくそれは、探検という言葉がなんらの誇張もなく当てはまるほど危険な、ないしは危険を感ずる、都会悪の巣窟そうくつなのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
首尾よくここを逃げることが出来たら、最下等の私娼の巣窟そうくつを訪ね、お吉に逢って様子を聞こう、道人様のおり場所を教えてくれるに相違ない
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくのごときすなわちスペインの古い修道院のありさまである。恐るべき帰依の巣窟そうくつ、童貞女らの洞穴どうけつ、残忍の場所である。
蜘蛛は、葉の密集した小さな束の中に、絹の巣窟そうくつをつくる。小さな漏斗形の精巧な織物だ。それは蜘蛛のふだんの住居だ。
ニーナ 父も継母ははも、あたしがここへくるのは反対なの。ここは、ボヘミアンの巣窟そうくつだって……あたしが女優にでもなりゃしまいかと、心配なのね。
弘子をわが巣窟そうくつに連れ去って、完全に所有してしまおうという、けだものらしい陰謀を企らんでいたからではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんぽんたんは外国のにおいを、ここではじめていだのだ。なぜなら神田は学問をする書生さんの巣窟そうくつであり、いまでいうインテリゲンチャの群である。
「無頼の巣窟そうくつ」へと化して行った点がなくはないが、それも俺たち自身のせいというだけでなく、ボル派に追いまくられて、そうなった点だってあるのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その中に這入て居る書生は皆活溌有為ゆういの人物であるが、一方から見れば血気の壮年、乱暴書生ばかりで、中々一筋縄ひとすじなわでも二筋縄でも始末に行かぬ人物の巣窟そうくつ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたしこころで、これはきっと悪者わるものどもの巣窟そうくつであるとかんがえました。そして、このあいださなければならぬとおもいました。わたしは、よくそのときのことをおぼえています。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この笠松はその昔「あし」ととなえた蘆荻ろてきの三角洲で、氾濫する大洪水のたびごとにひたった。この狐狸こり巣窟そうくつあばいて初めてひらいたのがの漂流民だと伝えている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし、祥子の証言で、香港の香山飯店が、皇軍に占領される前からのスパイ団の巣窟そうくつであったことや、趙と王はそれに出入りしていた一味であったことだけはわかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
だんなの知恵じゃ、すぐとそいつが一味の巣窟そうくつにも穴倉にも見当がつくんでがしょうが、あっしゃぺったり生き血を首筋へやられたときゃ、五年ばかり命がちぢまりましたぜ
としふゆ雪沓ゆきぐつ穿いて、吉備国きびのくにから出雲国いずものくにへの、国境くにざかい険路けんろえる。またとしなつにはくような日光びつつ阿蘇山あそざん奥深おくふかくくぐりりてぞく巣窟そうくつをさぐる。
彼等自らうら淋しく追放人エキスパトリエといっている巴里幾年もの滞在外国人がある。初めはラテン区が彼等の巣窟そうくつだったが、次にモンマルトルに移り、今ではモンパルナッスが中心地となっている。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
地形から考えても、今は格別、むかし狐や狸の巣窟そうくつであったらしく思われる。私もここに長く住むようならば、綺堂をあらためて狸堂とか狐堂とか云わなければなるまいかなどとも考える。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七月×日 どうもあの若い支那人のやつはしからぬ脚をくつけたものである。おれの脚は両方とものみ巣窟そうくつと言ってもい。俺は今日も事務をりながら、気違いになるくらいかゆい思いをした。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「女将軍?ええ、山賊の巣窟そうくつかな。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此処ここは×国間諜団かんちょうだん巣窟そうくつではないか。累々るいるいよこたわるのは、みな×国の間諜たちだった。もっとも一人だけ覆面を取らぬ団員があったが……。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
恩田はどこともしられぬ彼の巣窟そうくつひそみ隠れているのであろう。警察の手を尽した捜索も徒労におわった。気丈の蘭子は休みもしないで舞台に立った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人の内心、そは空想と欲念と企画との混沌界こんとんかいであり、夢想の坩堝るつぼであり、恥ずべきもろもろの観念の巣窟そうくつである。そは詭弁きべんの魔窟であり、情欲の戦場である。
妖艶ようえん巣窟そうくつの浅草公園で、ことに腕前のすごいといわれたおとめのことは、種にしようと思ったから近づいたのだ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それだから梁山泊りょうざんぱくのごとき世を怖れぬ大盗の巣窟そうくつも出来たりすると、高俅こうきゅう大臣のおすすめでな、このごろは朔風さくふうの野に御弓も持たれるようになってきたわけ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソリャ鎖国家の巣窟そうくついっても有様ありさまで、四面八方ドッチを見ても洋学者などの頭をもたげる時代でない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
慶安年間の四谷左門町ときては、いわゆる悪漢わる巣窟そうくつで、微禄の御家人とか香具師やしとか、猿廻しとか夜鷹よたかとかないしは怪しげな浪人者とか、そんな者ばかりが住んでいた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それなる一味の巣窟そうくつであったばかりではなく、にせ金を鋳造していた場所だったのです。
この界隈かいわいは、労働者や各国の下級船員を相手にする、最下層の売春婦の巣窟そうくつだった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そこは真っ暗な草原で、野犬の巣窟そうくつ、追剥ぎの稼ぎ場である。闇の奥で犬の声がきこえる。狐の声もきこえる。雨のふる時には容赦なく吹っかける。冬のあけ方には霜を吹く風が氷のように冷たい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ワシントン市におけるスパイの巣窟そうくつはついに壊滅かいめつし、スパイの大半は捕縛ほばくせられ、その一部は、自殺または逃走した。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あのジョンドレットの巣窟そうくつでなされたように多数の悪漢が一度に捕縛さるる場合には、必ずそれに引き続いて多くの捜索と監禁とが起こってくるもので
ですが、あいつは僕をこそうらむべきではないでしょうか。あいつらの巣窟そうくつを焼き払ったのも、大切なひょうを銃殺したのも、みんな僕のせいなんですからね。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうした反信長同盟の張本と巣窟そうくつは、いったい何処にあるかといえば、叡山えいざん、本願寺などの僧団と三好の残党の内にあるとは、誰もすぐ考えつくところだが、事実は
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
儒者文人の叢淵そうえん即ち不品行家の巣窟そうくつとも名づくべき悪風を成し、遂に徳川を終わりて明治の新世界に変じたれども、いわゆる洒落放胆の気風は今なお存してまず、かの洋学者流の如き
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「纐纈城を逃げ出せよ。羅刹らせつ巣窟そうくつを遁がれ出よ。汝悪魔纐纈城主よ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一二申残もうしのこしたことを附加えますと、六郎氏の死体がどうして裸体にされていたかという疑問については、吾妻橋界隈かいわいは浮浪者、乞食、前科者の巣窟そうくつであって
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたかも巣窟そうくつから狩り出された獣のように、永住し得る場所を見いだすまで一時身を隠す穴をさがしていた。
彼はここがカンヌキ山のずっと奥深い山ぶところにかくされたる六天山塞ろくてんさんさいの地下巣窟そうくつだとは知らなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
知っているのがだいぶおるし、あそこは、勤王浪士の巣窟そうくつだ。近づくにも策がない。……で頼みというのは、八十三郎を、其方そちの手で、連れ出してもらいたいことだが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「したがってここは彼らの本陣、巣窟そうくつと見るべきかと存ぜられます」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いろいろわけがあるのです。ぼくが透明怪人の首領にさらわれたことは、もうきみの耳にもはいっているでしょう。じつはあのビルが悪人の巣窟そうくつなのです。」
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、人間と生れた宿業しゅくごうの尽きぬうちは、いやでも天はあなたを地上で使い切るでしょう。梁山泊は賊の巣窟そうくつとのみお考えのようだが、これなん天罡星てんこうせいの集まりです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
衆人はその腐敗の床を、恐るべき死の揺籃ようらんを、一種敬虔けいけんな恐怖をもってながめていた。ベナレスの寄生虫の巣窟そうくつは、バビロンの獅子ししほらにも劣らぬ幻惑を人に与えていた。
岩は地の底へ巧みに作られた自分の巣窟そうくつに帰ると、いきなり部下を集めて下した大命令! さてどんな大事件が、「岩」の手によってこれからき起されようとしているのだろうか。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここは螢ヶ丘六文の巣窟そうくつ、そこの束ねをするお吉の部屋。——
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
明智のふしぎな注文に、刑事は目をパチパチさせていましたが、魔人の巣窟そうくつを発見した名探偵のいいつけです。わけはわからなくても、したがうほかはありません。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大盗の巣窟そうくつ梁山泊りょうざんぱくなどの水郷すいごうもあって、旅途はさびれ、土民の気風も荒く、そのうえ日々聞ゆる兇悪な犯行にさえ、従来、官の実績は何もあがらず、官は無力なものと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)