ぴき)” の例文
ところが、午前一時少しまえになると、今まであんなに釣れていたのがぴたっと止り、こんどはどうやってもだぼはぜぴきかからない。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なア兄弟がた。またしても、気がかりを言いだすようだが、十ぴきの金鯉を揃えるぐらいなことが、どうしてそんなにむずかしいのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その二人ふたりは、うみからはたらいてたがいにうちかえりました。そして、こうおつも、自分じぶんたちのとったおおだいを一ぴきずつ料理りょうりをしました。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
はじめて心付くと、厠の戸で冷く握って、今まで握緊にぎりしめていた、左のこぶしに、細い尻尾のひらひらと動くのは、一ぴき守宮やもりである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コイツを発動機船の沖買いが一ぴき二三銭か四五銭ぐらいの現金ナマで引取って、持って来る処が下関の彦島ひこしま六連島むつれあたりだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鉤には誰かが河豚ふぐにでも切られたらしい釣鉤と錘具おもりとが引つ懸つてゐるばかしで鱚らしいものは一ぴきをどつてゐなかつた。
この人は東京府下での網打あみうちの名人でこの人が網を打ってまわった跡には魚が一ぴきも居ないというほどの評判であった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「叔父の処じゃから、箪笥位は買うてやらんといかんじゃろうな」と、云って九兵衛は見るともなしに女房の右の肩端を見ると、一ぴきの蠅がとまっていた。
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なにしろ御法度ごはっと破りの仕事だから、今までのように一ぴき二分では売られない、これからは一尾一両ずつに買ってくれと云い出したが、宇三郎は承知しない。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『イヤそれだれだつて道具だうぐります。如何いく上手じやうずでも道具だうぐわるいと十ぴきれるところは五ひきれません。』
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
朝早あさはやく、いそ投釣なげづりをしてゐるひとがありました。なかなかかゝらないので、もうやめよう、もうやめようとおもつてゐました。と一ぴきおほきなやつがかかりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
泥鰌どじょうも百匁ぐらいずつ買って、猫にかかられぬようにおけ重石おもしをしてゴチャゴチャ入れておいた。十ぴきぐらいずつを自分でさいて、鶏卵たまごを引いて煮て食った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鰯も安い時と高い時がありますけれども二十ぴき使うとして衣の代とともに二十五銭位なら出来ましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
庭には小さいながらも池があつて、赤い黒い、尺許りの鯉が十ぴきも居た。家の前には、其頃村に唯一つの衡門かぶきもんが立つてゐた。叔父の家のは、とうに朽ちて了つたのである。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と五味君は少時しばらくうきを睨んでいて、一ぴきり上げた。それをびくに納めてから
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
例えば下野しもつけ上三川かみのかわ城趾しろあとの濠の魚は、一ぴき残らず目が一つでありますが、これは慶長二年の五月にこの城が攻め落された時、城主今泉但馬守いまいずみたじまのかみの美しい姫が、懐剣で目を突いて外堀に身を投げて死んだ。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日も鮒を一ぴきばかり持って帰ったら叱られやしないかネ。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
差し出たことだが、一ぴきか二ひきで足りるものなら、お客は幾人だか、今夜の入用いりようだけは私がその原料を買ってもいいから。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、悪い時には悪いもので、海は華族学校の先生達に当てつけたやうに、松魚といつては一ぴきも網にのぼせなかつた。
ぴきばかりの小さなはやも水の泡のように浮んだ。続いて二つばかり蒼白い魚が浮いて来た。腹の黄いろな細長い胴体が浮いて来た。その胴体はうなぎであった。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おう、ご厄介だが、世話になるよ。とにかく十ぴき金鯉きんごいを持たなければ、友人のてまえ帰れんからのう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渡し場へ出られなくなってから、座頭は平助にたのんで毎日一ぴきずつの生きた魚を買って来てもらった。冬から春にかけては、ここらの水も枯れて川魚も捕れない。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで一ぴき七八銭当りで上陸して、汽車に乗って大阪へ着くとドンナに安くても十四五銭以下では泳がない。君等は二十銭以下の大鯖を喰った事があるかい。無いだろう。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「一杯もいいが、——おらあまだ、十ぴきも釣らねえんでね」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ずつと往昔むかしは江戸の両国川にはなまづといふものは一ぴきむでゐなかつたのを、いつの年か大水が出て、それからのちは鯰があの川でれるやうになつた。
漁師りょうしの家がまばらにある。朝、朱実が飯をいているまに、浜へ来て、網からこぼれる五、六ぴきよしに通し、ひっさげて帰ると、ちょうどお膳ができていたものである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実を云うと、夫の藤吉はこのあいだからの江戸川のどんど橋のあたりへ忍んで行って、禁断のむらさき鯉の夜釣りをして、現にゆうべも一ぴきの大きい鯉を釣りあげて来た。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし一ぴきもかかりません。思切って船を漕戻こぎもどしたのがの刻過ぎで、浦近く、あれ、あれです、……あの赤島のこっちまで来ると、かえって朦朧もうろうと薄あかりに月がさします。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中禅寺では夏のうちは鱒は釣れない事になつてゐるのを、この阿爺おやぢさんはいとを垂れるが早いか、十五六ぴきの鱒を釣りあげたので、土地ところの漁師を吃驚びつくりさせてしまつた。
それは淵のぬしともいうべき鯉かすずきのたぐいであろうと思ったので、かれは一刀に刺し殺そうとしたが、また考えた。その正体はなんであろうとも、しょせんは一ぴきの魚である。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
両方でを寄せるうちに、松の根を草がくれの、並木下の小流こながれから刎出はねだしたものではない。昼間、竜巻の時、魚が降った、あの中の一ぴきで、河北潟から巻落されたに違いない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「では、なんですかい。金鯉十ぴきご入用とかって仰っしゃったのは、嘘なんですか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その薄暗い岸の上に一ぴきの大きい魚の跳ねまわっているのが、おぼろげにうかがわれた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鳩尾みずおちめた白羽二重しろはぶたえの腹巻の中へ、生々なまなまとした、長いのが一ぴき、蛇ですよ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲間には、高村光雲氏の弟子で、泰雲といつた、蛞蝓なめくぢの好きな男もまじつてゐた。白砂糖にまぶして三十六ぴきまで蛞蝓を鵜呑うのみにしたといふ男で、悪食あくじきにかけては滅多にひとひけは取らなかつた。
するりと竿を上げると、餌をくわえた小さなはやが一ぴきぶら下っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけがこの狭い座敷に坐って、赤い御飯にお頭付かしらつきの一ぴきも食べるというくらいのことです。この前日に京都の松茸を頂いたのは有難い。おかげで明晩の御料理が一つえました。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二十銭というのを、はじめは一ぴきの値だろうと思うと、ウあるいは十五だから、なりは小形でもお話になる。同じいきおいをつけても、鯛の方はどうやら蒼鬣魚より売手が上品に見えるのも可笑おかしい。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そない言はんと、一ぴきだけおなはんか、和尚さん。」
それから少し離れて、ひとりの女の児が高く積まれた枯枝の幾束に倚りかかって、これもじっと鉈の光りを見つめていました。その女の児は藤蔓にえらを通した五、六ぴきの山女をさげていました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「和尚さん、あの鯉一ぴきわてにおなはんか。」
「だって一ぴきも居ないんですもの。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)