おんな)” の例文
不気味にすごい、魔の小路だというのに、おんなが一人で、湯帰りの捷径ちかみちあやしんでは不可いけない。……実はこの小母さんだから通ったのである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このおんなの日頃ねんじたてまつる観音出でて僧とげんじ、亡婦ぼうふの腹より赤子をいだし、あたりのしずにあづけ、飴をもつて養育させたまひけり。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「へ、お火鉢」おんなはこんなことをそわそわ言ってのけて、忙しそうにもみ手をしながらまた眼をそらす。やっと銀貨が出ておんなは帰って行った。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかしおんなすえよりずる者がサタンのかしらを砕くであろうと、その時すでに神は宣言せられたのであった(創世記三の一五)。
部落前あたりの路傍で子供達が縄飛びをし、朝鮮服の下に下駄をつっかけたおんな達が路地の中をうろうろ動き廻っていた。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
五十あまりの、品のよいおんなが、古塚のような小丘の裾に佇んでいたが、すぐに寄って来た。それへ娘は何やら囁いた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでおんなのつとめは果されたと思うかも知れませんが、それはかたちの上のことにすぎません、本当に大切なものはもっとほかのところにあります。
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕飯の頃には、針仕事に通って来ているおんなも帰って行った。書生は電話口でしきりとガチャガチャ音をさせていた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
北方の狐のたたりは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江こうそせつこう地方の五通に至っては、民家に美しいおんながあるときっとおのれの所有として
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
峠路で時々炭売のおんなたちに出あうことがある。彼女等は一様に誰も皆山袴を穿き、負子に空俵を結びつけてあったり提灯や菅笠などを吊してあったりする。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
殺生せっしょうもなさらず、肉も食わず、妻も持たず、まるで生きた仏様みたようでございますよ。心の内で人をのろう事もなければ、おんなを見て色情も起こりませぬのでな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
(ただ念仏を)彼女の教養とおんなの道は、したがって、まだ処女おとめのころから信仰がその根本になっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おんなよなにゆえにくや。」——「わが主を取りし者ありていずこに置きしかを知らざればなり。」
『されど我なんじらに告げむ、およそおんなを見て色情を起す者は、心の中すでに姦淫したるなり。』
七瀬殿のことを、悪し様に申してはよくないが、嫁しては夫に従う、これが、おんなの道でござろう。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ドクトル、アンドレイ、エヒミチはベローワとおんな小汚こぎたないいえの一りることになった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
家の隅になった赤い実の見える柿の木の下へ、嬰児あかんぼを負ったおんなが来た。それは孫むすめであった。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
影写ママの合間には地方の有力者が立って、南極探検の説明やら挨拶やらをするが、淳朴なる田舎のおんな子供こどもを動かすには余りに学術的にわたり、その効果は認められないようであった。
筒袖の単衣ひとえ着て藁草履わらぞうり穿きたる農民のおんなとおぼしきが、鎌を手にせしまま那処いずくよりか知らず我らが前に現れ出でければ、そぞろに梁山泊りょうざんぱくの朱貴が酒亭も思い合わされて打笑まれぬ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
れば既に半右衞門の妻では無く、離縁したも同じ事で、離縁したおんな仮令たとえ無瑕むきずでも、長二郎のために母で無し、まして大悪無道、夫を殺して奸夫を引入れ、財産を押領おうりょういたしたのみならず
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
病人か狂人かと思われる様な蒼い顔をした眼のぎょろりとした五十余のおんなが、案内を請う彼の声に出て来た。会堂を借りて住んで居る人なので、一切の世話をする石山氏の宅は直ぐ奥だと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
愛宕あたごの山蔭に短い秋の日は次第にかげって、そこらの茶見世から茶見世の前を、破れ三味線をきながら、哀れな声を絞って流行唄はやりうたを歌い、物をうて歩くめしいたおんなの音調が悪くはらわたを断たしめる。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
自分で正気づいたと、心がたしかになった時だけ、うつつおんな跫音あしおとより、このがたがたにもうたまらず、やにわに寝台ねだいからずるずると落ちた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水番というのか、銀杏返いちょうがえしに結った、年のけたおんなが、座蒲団を数だけ持って、先に立ってばたばた敷いてしまった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
元三ウォンサミの小屋から呶鳴るような歌声がちぎれちぎれに響いて来る。爺が喉笛を上げて歌うのだ。その後からおんなや男達の笑い声がどっとふるえ出たりする。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
独りで寝ることが辛かったので、海端の紅燈家をおとなっておんなと寝た。二十二日には「ヒ」と「タ」とが送別の宴を張ってくれた、その夜「ヒ」の家に泊った。
切る奴は他にある、おのれらは切らぬ、安心せい……鴫澤主水しぎさわもんどを探し出し、ただ一刀に返り討ち! おんな、お妻を引きずり出し、主水ともども二太刀で為止しとめる。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は七層ばかりある建築物たてものの内の第一階の戸口のところで、年とった壮健じょうぶそうなおんなの赤黒い朝の寝衣ねまきのままで出て迎えるのに逢った。その人が下宿の主婦かみさんであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そのおんなならここに来て三月になるが、今は病に罹って寝ている」
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それがために家中のおんなが皆ふきだした。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
余計な事でございますがね——しょうが知れちゃいましても、何だか、おんなの二人の姿が、鴛鴦の魂がスッと抜出したようでなりませんや。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻のおんなが煙草盆を持って来た。火がうずんであって、暑いのに気が利かなかった。立ち去らずにぐずぐずしている。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その時ふと私達の目には白い着物を着たおんな達が四五人、遠く砂浜を歩いて来るのが見えた。丁度夕焼頃となり、それがとても美しく映えて見えるのだった。
玄海灘密航 (新字新仮名) / 金史良(著)
昨日はおんなを買った。せきは未だ止まぬ。家を変えねばならぬ。東京へ帰ろう。小説「裸婦」にかかるだろう。暫くは又浄書だ、ばかなことだ。末子を嫁に貰おう。
「何⁉」とおんなはそれを聞くとその顔色をさっと変え、「それではあなたには木曽のお館義明公の執事職主人勝りの智恵者といわれた花村殿のご子息の右門殿と申されるか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弟、娘、甥、姪などの視線は、過去った記憶を生命いのちとしているような不幸なおんなの方へ集った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると風呂桶から出ようとしているおんなが云った。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
陰惨忍刻にんこくの趣は、元来、このおんなにつきものの影であったを、身ほどのものが気付かなんだ。なあ、布気田ふげた。よしよし、いや、村のしゅ
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古釘のように曲った老人の首や、かいこのようにせぐくまっているどもり男の背中や、まどろんでいるおんなの胸倉や、蒼白い先達ソンダリの吊上った肩を、切傷のような月が薄淡く照らした。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
憎くないおんなからのこの仕向けであった。四十五歳の、分別のある嘉十郎ではあったが
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
食事の済む頃に、婆さんは香ばしく入れた茶と、干葡萄ほしぶどうを小皿に盛って持って来て、食卓の上に置いた。それを主人に勧めながら、お針に来ているおんなの置いて行ったという話をした。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔も近江街道を通る馬士まごが、橋の上に立った見も知らぬおんなから、十里さきの一里塚の松の下のおんなへ、と手紙を一通ことづかりし事あり。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなは目にかどを立て蒼い火をともしている。支械を下ろして先達は頼むように弱々しく叫んだのである。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
「さような訳でございますなら、侍冥利さむらいみょうりかないました立派な行いではございませぬか。それはそれとして鳰鳥とかいう、殿をたぶらかすそのおんな、どのような毒婦なのでございましょう?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おんなたちは母屋に寝て、私は浅芽生あさぢうの背戸を離れた、その座敷に泊ったんです。別々にも、何にも、まるで長土間が半町あります。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
息をひそめてもみ合いながら、医療部の医師や看護婦や購買組合の男たちが、玄関口に横着けにされた自動車から一人のみすぼらしい恰好をしたおんなを運び込んでいる。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
こう云いながら勝手口から出て来た一人のおんながある。侍はその方を振り返り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すすき、天守の壁のうちより出づ。壁の一かくはあたかも扉のごとく、自由に開く、このおんなやや年かさ。鼈甲べっこうの突通し、御殿奥女中のこしらえ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
果してそのおんなと情夫とが、共謀して良人を殺したのであった。
染吉の朱盆 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「人間の娘も、鷺のおんなも、いのち惜しさにかわりはないぞの。」といわれた時は、俎につくばい、鳥にかがみ、媼にって、手をついた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)