可笑おかし)” の例文
可笑おかしかったのは、花時はなどき向島むこうじま高櫓たかやぐらを組んで、墨田の花を一目に見せようという計画でしたが、これは余り人が這入はいりませんでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
この彼女の可笑おかしさが未来の幾年かを空虚なものにしてしまうのだ。まるで音響のないユダヤ人の才能のように危険なものであった。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
私もつい口惜くやし紛れに、(写真の儀はお見合せ下されたく、あまりあまり人につけても)ッさ。何があまりあまりだろう、可笑おかしいね。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気のつきた折は是非世間の面白可笑おかしいありさまを見るがよいと、万事親切に世話して、珠運がえまに恋人のすみし跡に移るを満足せしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女房の事はもらつた時よりほかに何も云つてないが、子供の生長おいたちには興味があると見えて、時々とき/″\代助の可笑おかしくなる様な報知をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、日本左衛門も、これが堅気の秦野屋なら、慰めなければならないところを、かえって妙に可笑おかしくなって、九兵衛の肩をたたきながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喜「恐入りました、御家老様からお洒落がお菓子で出たから、可笑おかしな洒落と云うのをやろうかね、さアと云うと一寸ちょいと出ないものでげすが」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すみの方へ入って、ボール紙を切刻んだり、穴を明けたり、絵具をさしたりして、夢中になっている彼の傍へ来て、お島は可笑おかしそうにたずねた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一緒にいる時分は、ほんのちょいとした可笑おかしいことでも、くやしいことでも即座にちまけて何とかかんとか言って貰わねば気が済まなかったものだ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ナニ、永いことがあるものか、手鍋さげても奥山ずまいという本文通りよ、結句けっく、山ん中が面白おもしろ可笑おかしくていいじゃねえか」
お源は亭主のこの所為しょさに気をのまれて黙って見ていたが山盛五六杯食って、未だめそうもないのであきれもし、可笑おかしくもなり
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それでもその当時は、三芝居だとか檜舞台だとか云って、むやみに有難がっていたもので、今から考えると可笑おかしいくらい。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は蕎麦掻の注文をしてしまって、児島の橘飩きんとんにも譲らないと思って、ひとりで可笑おかしがった。暫くは蕎麦の話が栄える。主人も蕎麦掻は食べる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
稀有けうの徴税法 ここに一つ可笑おかしい事がある。大蔵省でマルを量るはかりがおよそ二十種ばかりある。それから麦、小麦、豆等を量るますも三十二種ある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そうじゃあねえ、おいら初め橋場はしばの親分まで、このところ可笑おかしいくれえの不漁しけさ、このまま三日もいれあ人間の干乾しが出来ようてえ始末なんだ」
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは、いかに他から見ても可笑おかしいことであり、噴き出さずにゐられないやうなことであつても、それに引摺られて行くやうなものでなくてはならない。
解脱非解脱 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
僕が吾が妻の意見を聞くのを君は可笑おかしいと思うだろうが、有名なる探偵のうちには下女の意見まで問うた人が有る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
雪江さんの言草が可笑おかしかったばかりじゃない。実は胸に余る嬉しさやら、何やらやら取交とりまぜて高笑いしたのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あのね、あちらへ行つたらば、花に来てといひかけて。あ好いよ、私が行つて吩咐いひつけましよう、貴夫人振るも、可笑おかしなもの、ねえあなた少しお待ちあそばしてと。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
これは藩地でもこの地に限る風習で、かの大原女が柴を頂いているように、魚を入れた桶を頂いている姿といい、またその売声といい、一種可笑おかしなものである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
どうにもうにもただ可笑おかしくてたまらない、けれどもわらっては悪いと思うからるたけ我慢して笑わないようにして見て居たが、れも初めの中は随分苦労であった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
の牧師は可笑おかしな奴だなあ。此年になって彼の教会で結婚した者は清水さんと森川さんばかりじゃない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
随分傍から見たら可笑おかしい位であったろうと思う、一行の泊った熊谷という宿屋は、この土地ではかなりの旅店で、ことに最初思ったよりは、この島が開けているので
利尻山とその植物 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
よく肩が凝るという父の背後うしろへ廻って、面白くも可笑おかしくもない歴代の年号などを暗誦あんしょうさせられながら
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いや、可笑おかしいやら、見事やら、『コルシカの鼻輪』といって、牛角力ずもうを見るくらいの衆なら、今でも噂に出るくらいのものでがす。すると一昨年の夏のことでがした。
拍手したとて、どうして音がするものか、かさりとも音がしないじゃないか、予は可笑おかしくてたまらなかったが、先生はなかなか本気でいるので放笑する訳にもゆかず
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
新井君はこう云ってそのボーイを探るような眼をして見詰めるので、自分はいくらか可笑おかしくなった。
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
○「お金入れの口を開けてみて、お金が一文いちもんも無いときは何だか可笑おかしくって可笑くって、あはあは笑うのよ。たとえ困るのは知れ切っていても、若さのせいか知らん。」
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふと小歌の年齢としごろに考え及ぼし、いつの間にか自分と夫婦になって、痴話もする苦説くぜつもする小鍋立もする合乗もする、恐い事恥しい事嬉しい事哀しい事面白い事可笑おかしい事
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
私は可笑おかしくって可笑くってたまらなかった、そして帰りぎわに雑誌の口絵にいれる量見で、その命令書を頂戴したいと思ったが、それはどうしても置いてゆかなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
その男はそういうと、如何にも可笑おかしそうに、不遠慮な大声を上げて笑い出したのであった。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すると、そこにかたまっていた全部のものが、たまらなく可笑おかしくなったように大笑いした。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夫婦喧嘩は、始終の事で珍しくも無いが、殊更とりわけ此頃亭主が清元の稽古に往く師匠の延津のぶつ○とかいうひと可笑おかしいとかで盛に嫉妬やきもちを焼いては、揚句がヒステリーの発作で、痙攣ひきつける。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
するとその侍はしもにいて、しばらくかしらを傾けて居りましたが、やがて、「青柳あおやぎの」と、はじめの句を申しました。するとその季節に合わなかったのが、可笑おかしかったのでございましょう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
怪量は詳しく当時の模様をはなした。時どき自分で可笑おかしくなると見えて大声を出して笑った。怪量を取り調べていた役人は同僚と何か相談した。そして、向き直って怪量を睨みつけた。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また何とかいって叱りつけ自分も可笑おかしそうに笑っては例の啖唾を吐くのであった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熊楠ウェブストルの字書を見るとルジクラス(可笑おかしい)の例としてド・クインシーの語を引く。いわくファン・トロールの書に「アイスランドの蛇—なし」これだけを一章として居ると。
おれはちやんと判りきつてゐるのに、知らずにだまさうとする馬鹿な狐だ』と三五郎は心の中で可笑おかしくなりましたが、なにしろう日が暮れて来ては、急いで家へ帰らうと馬に乗りました。
子供に化けた狐 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
あまり必要でもない事だから知らずにいてもすむが時々可笑おかしく思う事がある。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
他のいろいろな人が越すごとに寧ろ可笑おかしかったくらいだった。八百屋の主人も、造花屋も松岡がいてくれるので、何より安堵していたのだった。松岡自身もつて変な気のすることはなかった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
面白可笑おかしな人にもあい
手振てふり足拍子可笑おかし
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
どうだい、芳さん、私も思わず知らず莞爾にっこりしたよ、これは帰って来たのが嬉しいのより、いっそその恰好が可笑おかしかったせいなのよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のみならず、次郎が歯がみをしてムキになってくると、かえってクッと可笑おかしくさえなって、とてもこのチビを斬る力は出そうもありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナニ糞! と思って了えば好いのだが、そう思えないのは矢張りお宮に心が残るのであろう。と、ふっと自分が可笑おかしくもなって、独り笑いをした。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
物の道理を相当に心得ている筈の父安行すらも、はり𤢖を恐るる一人いちにんであるらしい。市郎ははらの中で可笑おかしく思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「本当に知らねえんだ」と繁次が云った、「ここまでやってみたけれど、自分でも可笑おかしくなってよしちゃったんだ」
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「でも可笑おかしいんですの。こんなことを言うのは、自分の恥をさらすようなもんですけれど、実際あの人が変なんです」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同じ学校の上の級に沼波ぬなみというのがあった。僕は顔も知らないが、先方では僕と埴生との狗児ちんころのように遊んでいるのを可笑おかしがって見ていたものと見える。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おえねえ頓痴奇とんちきだ、坊主ぼうずけえりの田舎漢いなかものの癖に相場そうば天賽てんさいも気がつええ、あれでもやっぱり取られるつもりじゃあねえうち可笑おかしい。ハハハ、いいごうざらしだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)