剥製はくせい)” の例文
立ち昇る白煙の下を、猛獣は剥製はくせいひょうのようにピンと四肢ししを伸ばして、一転、二転、三転し、ついに長々と伸びたまま動かなくなった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
汚い手拭地てぬぐいじ浴衣ゆかたを着た九つか十位の男の児が、剥製はくせいの蛙みたいにひょろひょろになって、つつじの株の葉陰にうずくまっていた。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
その日はわたくしは役所で死んだ北極熊を剥製はくせいにするかどうかについてひどく仲間と議論をして大へんむしゃくしゃしていましたから
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そんな話を聞いていると、太郎にはその剥製はくせいの鳥がおかしく思われましたし、向こうの泥水の池もおもしろく思われてきました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いや、剥製はくせいではありません。きているのです。もうとしをとったので、いつもこうしてねむっています。」と、おとここたえました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まづしい店前みせさきにはおほがめかふわに剥製はくせい不恰好ぶかっかううをかはつるして、周圍まはりたなには空箱からばこ緑色りょくしょくつちつぼおよ膀胱ばうくわうびた種子たね使つかのこりの結繩ゆはへなは
その原始林にはいま植物園内博物館に剥製はくせいとなっているあの非妥協的なエゾオオカミやヤマイヌが、明治二十年代まで出没していたのである。
室内には、剥製はくせいにした動物の標本が処も狭く並んで居り、広々とした壁にはいろいろの天体図や気象図などが掲げてあった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
シャムラーエフ (トリゴーリンを戸棚のほうへひっぱって行く)そらこれが、さっきお話しした品ですよ……(戸棚から鴎の剥製はくせいをとり出す)
僕等は博物館の硝子戸ガラスどの中に剥製はくせいわにを見ることを愛してゐる。しかし一匹の鰐を救ふよりも一匹の驢馬を救ふことに全力を尽すのに不思議はない。
その飾り窓には、野鴨のがも剥製はくせいやら、鹿の角やら、いたちの毛皮などあり、私は遠くから見ていたのであるが、はじめは何の店やら判断がつかなかった。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは、背中の部分がイボイボして、毳々しい緑色でいろどられた一寸五分位な、芋虫を剥製はくせいにしたやうなものだつた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
びた朱いろの絨緞じゅうたんを敷きつめたところどころに、外国製らしい獣皮の剥製はくせいが置いてあり、石膏せっこうの女神像や銅像の武者像などが、規律よく並んでいる。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある夏、台湾へ旅行した時、穿山甲せんざんこう剥製はくせいにしたのが形も面白く、珍しいので、もらってきたことがあった。
触覚について (新字新仮名) / 宮城道雄(著)
そしてことの重大さに驚愕きょうがくしたスミス博士が、折返し電話で連絡した時には、残念ながら、魚体は既に腐敗し、外形だけが剥製はくせいとなって残っていたのである。
剥製はくせいのほととぎすに向ひて我思ふところを述ぶ。この剥製の鳥といふは何がしの君がみずから鷹狩に行きて鷹に取らせたるを我ためにかく製して贈られたる者ぞ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
やがて水族館をぐるぐる回って暗い廊下を抜けると、不意に眼前に数頭の獅子ししが森林を駆け回っている光景が現れた。いずれも剥製はくせいであるが、その様が真に迫っていた。
謎の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それは襤褸ぼろこしらえた馬のようでもあった。硝子ガラス玉の眼をめ込んだ剥製はくせいの馬のようでもあった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼女のひざの、夏草模様に、実物剥製はくせいちょうが、群れ飛んでいるあたりを、其処そこに目に見えぬ鍵盤けんばんが、あるかのように、白い細い指先で、軽くしなやかに、打ち続けているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一つ一つは実に立派だが、この並べ方では、仏像の剥製はくせい博物館といった感じがある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼が「剥製はくせい者」と名づけた人々にたいして温和ではなかったが、「曲馬師」ら、腕の丸みと粉飾した手とを称賛さしに押し出してくる名高い音楽長らにたいしても、やはり温和ではなかった。
写真の大山猫は明治大正の頃に捕獲されたものの剥製はくせいで、顔つきなど実物とはまるでちがってしまっているという。が、それでも熊をも倒すといわれる精悍せいかんさ、獰猛どうもうさはうかがわれぬことはなかった。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
主人はいい香りをたき込まれており、従僕は剥製はくせいにされていた。
三歩前のほうへ位置を変えたのでそれが剥製はくせいだとわかった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
酋長しゅうちょう獅の皮を剥製はくせいし馬をして見れ嗅ぎ狎れしむと。
大八車に雉子きじ剥製はくせいが揺れながら見えた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
すると剥製はくせいの毛皮なのかしら。だが、どこやら毛皮とも違うところがある。毛皮ならああまで生きものの感じが残っているはずはない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この間も、博物標本室の、ぞう剥製はくせい標本の中から、のこのこと出て来た諜者ちょうじゃがいたからね、わしの教室だって、決して安全な場所ではないんだ
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小さな戸棚とだなが一つあるきりの、がらんとした、さびしい部屋でした。戸棚の上に、剥製はくせいの白い鳥がおいてありました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼はちょっとためらったのち、隣り合った鳥類ちょうるいの標本室へはいった。カナリヤ、錦鶏鳥きんけいちょう蜂雀はちすずめ、——美しい大小の剥製はくせいの鳥は硝子越ガラスごしに彼を眺めている。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その仕事場しごとばだいまえに、一つばさながとりがじっとしてっています。ちょうど、それは鋳物いものつくられたとりか、また、剥製はくせいのようにられたのでありました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
シャムラーエフ いつぞやトレープレフさんが射落したかもめね。あれを剥製はくせいにしてくれって、ご注文でしたが。
これは時鳥ほととぎすなり。ある人鷹狩に行きて鷹に取らせたる時鳥を余のために特に剥製はくせいにして贈られしなり。土の首はこの時鳥のために半ば隠れ居るやうなる位置に置かる。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚とだなには、剥製はくせいですが、四ひき蜂雀はちすずめがいます。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして棺の中へは、犬の骨格を剥製はくせいにして店先へ飾ってあったのを胴にし、ろう人形の等身大の首を頭部にして、俄造りに出来上った等身大の人形を詰込んで固く釘を打って了ったのだった。
またおだやかな日々が暫く経って行った或日あるひ、今も良人の研究室になっている土蔵の二階から、涌子は昔、自分に貰った蝙蝠を良人が少年の丹念を打ち籠めて剥製はくせいにしてあったのを持ち出した。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あれは剥製はくせいの熊だったのかしら、いやいやそんなはずはない。剥製の動物があんなにもがいたり、逃げまわったりできるものか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
県下第一の旅館の玄関、芍薬しやくやくと松とをけた花瓶、伊藤博文いとうひろぶみ大字だいじがく、それからお前たちつがひの剥製はくせい……
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
町には、貝がらだの、珊瑚さんごだの、極楽鳥ごくらくちょう標本ひょうほんだの、大きな剥製はくせいのトカゲだの、きれいにみがいてあるべっこうガメの甲羅こうらなどを売っていて、みんなほしくなった。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一郎は、そっと立っていって、戸棚とだなの上の剥製はくせいの鳥を持ってきました。それは、さぎに似た白い鳥でしたが、不思議に、長いくちばしが頭の横っちょについていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
博物はくぶつ教師きょうしは、あごにひげをはやしている、きわめて気軽きがるひとでありましたが、いつも剥製はくせいとりを、なんだろう? ついぞたことのないとりだが、とおもっていました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一、押入の奥にあつた剥製はくせいの時鳥を出して見たらば、口の内の赤い色の上にほこりがたまつて居つた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
アリョーシャは鳥の剥製はくせいをじっと見詰めて、そのまま考えこんでしまった。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
卓の上には地球儀ちきゅうぎがおいてありましたしうしろのガラス戸棚とだなにはにわとりの骨格やそれからいろいろのわなの標本、剥製はくせいおおかみや、さまざまの鉄砲てっぽうの上手にどろでこしらえた模型、猟師りょうしのかぶるみの帽子ぼうし
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
またおだやかな日々がしばらつて行つた或日あるひ、今も良人の研究室になつてゐる土蔵の二階から、涌子は昔、自分に貰つた蝙蝠を良人が少年の丹念を打ちめて剥製はくせいにしてあつたのを持ち出した。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
彼は「或阿呆の一生」を書き上げた後、偶然或古道具屋の店に剥製はくせいの白鳥のあるのを見つけた。それは頸を挙げて立つてゐたものの、黄ばんだ羽根さへ虫に食はれてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この主人の好みらしいすこぶる金の懸った、それでいて一向あかぬけのしない家具調度で飾りたて、床には剥製はくせいの虎の皮が三枚も敷いてあり、長椅子にも、熊だの豹だのの皮が
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早苗さんは、剥製はくせいの動物標本を見たことなくって? ちょうどあんなふうに人間の美しい姿を、永久に保存する方法が発明されたら、すばらしいとは思わない? それなのよ。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あのとりを、まだらないの。孔雀くじゃく剥製はくせいなんだよ。」と、ケーこたえました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
床の間の左の隅の小暗き処には、足のつきたる浅き箱ありて、緑色の美しき剥製はくせいの小鳥が一尺ばかりの小枝の上にとまつて居るのが明かに見ゆる外は善く見えず。見えざれど余は固よりこれを知る。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)