出懸でか)” の例文
汽車にでも乗って出懸でかけようと、例の赤手拭あかてぬぐいをぶら下げて停車場ていしゃばまで来ると二三分前に発車したばかりで、少々待たなければならぬ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とても今日は東京に入ることは出来ないから、暑い中を此処ここで休んで涼しくなつてから出懸でかけやうといふ船頭の腹であつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なつになると納涼すずみだといつてひとる、あき茸狩たけがり出懸でかけてる、遊山ゆさんをするのが、みんなうちはしとほらねばならない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先生さまが変装なすって、そっとお出懸でかけになるところをたしかに見て居りました。はい、トランクをお持ちになっていましたなあ。おお、このトランクに違いありません。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西伯利シベリアより露国革命派続々逃込み、中には東京へ来るものも有之これあり候故、これらを相手に一と仕事と出懸でかけし処、相手がまるでお坊ちやんにて話にならず、たうとう骨折損ほねおりぞんとなりたり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かう因縁いんねんがあるので、りよ天台てんだい國清寺こくせいじをさして出懸でかけるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
家を出懸でかけて行ったときの晴やかな感じを呪わしく思った。
初往診 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
東京に出かけて行けば、さが手蔓てづるはいくらもある。中にはその居る所を教へてれたものもある。しかし出懸でかけて行く旅費もないほどその家は困つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
をりからせなに、御新造ごしんぞ一人いちにん片手かたて蝙蝠傘かうもりがさをさして、片手かたて風車かざぐるまをまはしてせながら、まへとほきぬ。あすこが踏切ふみきりだ、徐々そろ/\出懸でかけようと、茶店ちやてんす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現にこの不合理極まる礼服を着て威張って帝国ホテルなどへ出懸でかけるではないか。その因縁いんねんを尋ねると何にもない。ただ西洋人がきるから、着ると云うまでの事だろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ははアじゃないよ。君もぼんやりしとるじゃないか。いまボートにのって出懸でかけたのは、事務長と六名の漕手こぎてだから、みんなで七名だ。ところが今見ると、いつの間にやら八名になっている」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あしたにするといやね、勝手へ行つてたらぼうちやんがさびしからう、私はすぐ出懸でかけるから。」
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ、みちが分からないから、一緒に其処そこまで送って行って来るッて出懸でかけて行ったんですよ」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
今まで訪問に出懸でかけて、年寄か、小供か、ちんばか、眼っかちか、要領を得る前に門前から追いかえされた事は何遍もある。追い還されさえしなければ大旦那か若旦那かは問うところでない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さてこまつたは、さむければ、へい、さむし、あつければあつ身躰からだぢや、めしへば、さけむで、昼間ひるまよる出懸でかけて、ぬま姫様ひいさまるはえが、そればかりではきてられぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『ぢや、ついでに、お祭につかふ山さかきでも取つて来ませうかね?』と言つてそして出懸でかけた。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それから飯を済ましてすぐ学校へ出懸でかけた。くつみがいてなかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わし一體いつたい京都きやうともので、毎度まいど金澤かなざはから越中ゑつちうはう出懸でかけるが、一あることは二とやら、ふねで(一人坊主ひとりばうず)になつて、乘合のりあひしうきらはれるのは今度こんどがこれで二度目どめでござる。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれは日毎に出懸でかけては、家々の軒に立つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
天守てんしゆ五階ごかいから城趾しろあと飛下とびおりてかへらう! 意気込いきごみで出懸でかけたんだ、実際じつさいだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けたならけたでよし今夜こんやじやらうもんねえが、一晩ひとばん出懸でかけてべい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところで、蒋才子しやうさいし今日けふまたれいの(喜偶歩ぐうほをよろこぶ。)で、くつ裏皮うらかはチヤラリと出懸でかけて、海岱門かいたいもんふ、づは町盡まちはづれ、新宿しんじゆく大木戸邊おほきどへんを、ぶらり/\と、かの反身そりみで、たぼ突當つきあたつてくれれば
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
初めは何か子供の悪戯いたずらだろうくらいにして、別に気にもかけなかったが、段々だんだん悪戯いたずらこうじて、来客の下駄やからかさがなくなる、主人が役所へ出懸でかけに机の上へ紙入かみいれを置いて、後向うしろむきに洋服を着ている
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)