伯父おじ)” の例文
頼まれれば篠笛しのぶえを吹いたりするような心掛ですから、どんなに間違ったところで伯父おじの小田切三也が、娘の婿にするはずもありません。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
我等は貴君に警告す、我等は来る八月十八日深夜二時を期して、貴君の伯父おじ若林子爵家の所蔵する黄色金剛石イエロオダイア頸飾くびかざりを奪いとるべし。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
民助伯父おじ——岸本から言えば一番年長としうえの兄は台湾の方で、彼女の力になるようなものは叔父としての岸本一人より外に無かったから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人の弟は、喪中の家の沈黙におびえて、急に外へ逃げ出してしまった。ロドルフはテオドル伯父おじの商館にはいって、伯父の家に住んだ。
みかどは御伯父おじのこの宮に深い御愛情をお持ちになって、宮から奏上されることにおそむきになることはおできにならないふうであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
垂木たるきは、年寄としよりのおもみさえささえかねたとみえて、メリメリというおととともに、伯父おじさんのからだ地上ちじょうっさかさまに墜落ついらくしたのでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「かまわねえ、豆腐屋の子だから豆腐屋らしくしろよ、なにも金持ちだからっておせじをいうにゃあたらねえ」と伯父おじ覚平かくへいがいった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
児をてる日になりゃア金の茶釜ちゃがまも出て来るてえのが天運だ、大丈夫だいじょうぶ、銭が無くって滅入めいってしまうような伯父おじさんじゃあねえわ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その頃、伊賀、伊勢の住人で、平家の家人だった者が寄り集り、肥後守定能さだよし伯父おじ平田ひらたの入道定次さだつぐを大将として、近江国に討って出た。
「ああ、それは私の弟だ。お前は、まあ、私のおいだったんだね。私は、しばらく外国へ行っていた、お前の伯父おじさんなんだよ。」
うららかに晴れわたった、春の日曜日の朝はやく、明石一太郎君は、田舎いなか伯父おじさんといっしょに、たんぼ道を歩いていました。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その女の方の伯父おじさんに当るとやらで、当分そこへ引取られたはずなんですが、わたくしも、もしあちらへ出向く機会がありました節は
私は母や伯父おじと相談して、とうとう兄といもとに電報を打った。兄からはすぐ行くという返事が来た。妹の夫からも立つという報知しらせがあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「俺と伯父おじさんとは、これからおかへ往って来る、お客さんが、飯がすんだら、蒲団ふとんをかけて、とまを立ててあげろ、苫を立てんと風邪を引く」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かくて治子は都に近きその故郷ふるさとに送り返され、青年わかものは自ら望みて伯父おじなる人の別荘に独居し、悲しき苦しき一年ひととせを過ぐしたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「一刻も離れやしません。うちの客なんかどうとも勝手にしやがれだ! あっちの方は伯父おじ采配さいはいを振ってくれるから」
HはS村の伯父おじを尋ねに、Nさんはまた同じ村の籠屋かごや庭鳥にわとりを伏せる籠を註文ちゅうもんしにそれぞれ足を運んでいたのだった。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若松屋惣七が武士を廃業する以前、ふたりは、伯父おじうちにいっしょにいたこともあり、何事もうちあけて相談しあうなかなのだ。伯父は旗本だった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私には義理の伯父おじが一人ある。名前を云ったら知っている人もあるだろう。須婆田車六すわだしゃろくといって日印協会の理事だ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
少年の伯父おじのモウリ博士が、この冷造金属球れいぞうきんぞくきゅうの設計者だったそうな。日本アルプスの万年雪を掘ってその中へおとしこんだのもモウリ博士の考えだった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三人のうちの末の子は一人の大伯母おおおばから十万リーヴルのいい年金を継ぐことになっており、二番目の子はその伯父おじの公爵の称号をつぐことになっており
玉のほうは相変わらずきわめて冷淡な伯父おじさんで、めんどうくさがってすぐにどこかへ逃げて行ってしまった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで同情して、男が誘って伯父おじの処へ泊めてもらおうと行く、意気な伯父さん早合点はやがてんで、「よく取ったよく取った」……こんなことで二人の縁が結ばれる。
二葉亭の伯父おじで今なお名古屋に健在する後藤老人は西南の役に招集されて、後に内相として辣腕らつわんふるった大浦兼武おおうらかねたけ(当時軍曹)の配下となって戦った人だが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
月々の小遣こづかいの中から伯父おじなるパトリック・マンディがいくらかずつ保留してベシイの名で積み立てておいた百三十八ポンドというものが自由になるだけで
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
受け検査官一名及び同僚巡査一名と共に、都合三名で、ビヽエン街五十七番館に住む飾物模造職藻西太郎と云う者をば、バチグノールの此家に住で居る伯父おじ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼は昔その丘に一度は伯父おじに連れられ、一度は母に連れられて、切支丹の虐殺を見に行ったことがあった。
父は祖父をして遠方に避難ひなんし、兄は京都の英学校に居り、家族の中で唯一人ただひとりの男の彼は、母と三人の姉と熊本を東南にる四里の山中の伯父おじの家に避難した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お代は今の言葉が気になる様子「伯父おじさん、満さんはまだ帰らねいのう」とさもその帰りを待つごとし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
親戚しんせきの家を転々して育って、自分の財産というものも、その間に綺麗きれいさっぱり無くなっていて、いまは親戚一同から厄介者やっかいものの扱いを受け、ひとりの酒くらいの伯父おじ
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「なにしたど。爺※ご取っ換ぇるど。それよりもうなのごと山山のへっぴり伯父おじでやるべが。」
十月の末 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
伯父おじさん、あなたまあ往来で、何をおっしゃるのでございます。早く帰ろうじゃございませんか」
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、そなたの気持が、まんざら、わからぬ拙者でもござりませぬぞ、それにしても、なぜ、子供のときから、いわば伯父おじめいのようにも親しんで来た、拙者どもに、心の中を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
松崎は鮎釣あゆつりが好きだつたところからそれをかこつけに同業の伯父おじから紹介状をもらつて河内屋に泊り込んでゐた。X町のそばには鮎のゐる瀬川が流れて季節の間は相当にぎわつた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
君子はこの伯父おじさんについて行けば母のいるところへ行けるものと思い、ややともすると遅れがちになる足を、ときどきチョコチョコ走りに運びながら老人のあとに従った。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
またある時は伯父おじの病床に侍して(かゝる時の折ふしにもなお彼の人を忘れ難きはなぞや)といい、ある時は用もなきに近きみちをえらんでゆき、その人の住む家の前を通りて見
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
安斉あんざいさんから校長先生へ添書てんしょを持ってきたのである。校長さんは家来でない。しかし家来のところへおよめにきている人の伯母おばさんのご主人だから、つまり、家来の伯父おじさんだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女の身元保証人になっている、女の伯父おじだという男から持ち込まれた難題に、お爺さんも妾のお芳も蒼くなっていた。それを浅井がなかへ入って、綺麗に話をつけてやったのであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ここのお父さんにもしものことがあっても、私はお前と離れようとは思わない。伯父おじさん(主人の兄)の所へは行きたくない。どんな暮しでもするから、そのつもりでいておくれ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
徴兵ちょうへい検査で、本籍ほんせきのある高知県に帰ったとき、特殊とくしゅ飲食店を開いている伯父おじさんから商売がら廃娼はいしょう反対演説を聞いたあと、こっちも一杯機嫌きげんで、あなたの話をほのめかすと、伯父さんは
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼と国経とはまさしく伯父おじおいの関係になるのであるが、地位から云えば故太政大臣関白基経の長子であり、摂家せっけ正嫡せいちゃくである時平の方がはるかに上で、すでに左大臣の顕職にある年の若い甥は
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「高氏はいつでもかまいません。すべて伯父おじ君まかせ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九州の伯父おじのところへ行くことにした。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
町「伯父おじさん、あなたもうお達者で」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
甚だしいのは田舎の伯父おじである。
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ハンスの伯父おじさんでしたから」
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
伯父おじが正当であるかどうかを彼は判断することができなかったけれども、伯父を忌み嫌い、伯父のうちに敵があるのを感じていた。
伯父おじさんのんでいるまちは、都会とかい片端かたはしであって、たてこんでいるちいさな家々いえいえうえに、くものないそらからりつけていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「僕春田です」伯父おじである牧野子爵から紹介された時、春田君は謙遜して自分から握手を求めながら、言葉ひくく話しかけた。
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お民、お客さんが酒を飲むようなら、沸かしてあげろ、まだ俺と伯父おじさんと飲うだ残りが、一合や二合はあるじゃろう」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)