髪結かみゆい)” の例文
旧字:髮結
その辻看板に、嵐粂吉という名を見たものですから、いつぞや髪結かみゆい言伝ことづけして来たことばを、胸に浮かべたものでしょう、次郎はふと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上清は湯の戻りに髪結かみゆいの所へ回って頭をこしらえるはずだそうであった。閑静な宗助の活計くらしも、大晦日おおみそかにはそれ相応そうおうの事件が寄せて来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも自分の家に長く泊めて置くのは亭主の手前もあるので、お葉は近所のおきつという女髪結かみゆいの二階に次郎兵衛を預けた。
昨日の晩花川戸はなかわど寄席よせ娘浄瑠璃むすめじょうるりあげられる。それから今朝になって広小路ひろこうじ芸者屋げいしゃやで女髪結かみゆいが三人まで御用になりました。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下廻したまわり田舎いなかを歩いていた時、某町あるまちで楽屋遊びに来る十七八のきれいな女を見つけた。それは髪結かみゆいをしている唖女であった。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
髪結かみゆい弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児ちご小姓児太郎の朝髪のみだれをでつけていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
世をとどろかす事業をげて見せばやと、ある時は髪結かみゆいとなり、ある時は洗濯屋、またある時は仕立物屋ともなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
……その日は霜が消えなかった——居周囲いまわりの細君女房連が、湯屋でも、髪結かみゆいでもまだ風説をたやさぬ、お稲ちゃんと云った評判娘にそっくりなのであった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに心を残して髪結かみゆいに行っている間に、この騒ぎが持上って、人が迎えに来たものだから急いで駈けつけて見ると、果して、こんなことになってしまっている。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日はうちに用があるから、おひるからのお針はお休み……と。で、その通りにしていると、いつの間にか髪結かみゆいさんが来て、私に髪を結ってやろうッて言うんです。
ただし俊秀の子女は、いまだ五科を経ざるも中学に入れ、官費をもって教うるを法とす。目今この類の者、男子八人、女子二人あり。内一人は府下髪結かみゆいの子なりという。
京都学校の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
故松助演じるところの『梅雨小袖つゆこそで』の白木屋お駒の髪結かみゆい新三しんざをとっちめる大屋さん、かつおは片身もらってゆくよのタイプで、もちっとゴツクした、ガッチリした才槌頭さいづちあたまである。
文「もし旦那、御免なせえ、わっちは元錨床いかりどこと云って西洋床をして居りました時、此方こちらの二階のお客に旧弊頭きゅうへいあたまもありますので、時々お二階へ廻りに来た文吉という髪結かみゆいでございます」
まるで焼場やきばのようなにおいだもの。きのうだって、髪結かみゆいのおしげさんがいうじゃァないか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
日本人の妻君は寄るとさわるとヤレ丸髷まるまげ形状かっこういの、何処どこ髪結かみゆいさんが結いました
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それからこれも末期の現象の一つであったのであろうが、東京の下町などには、女髪結かみゆいのような職業の人たちにいやがらせをやって生活していた自称愛国団体のしたの連中があった。
とにかくその頃の女の髪結かみゆい銭が、島田でも丸髷まるまげでも百文(今の一銭に当る)で、柳橋のおもとといえば女髪結の中でも一といわれた上手だったが、それですら髪結銭は二百文しか取らなかった。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
御作おさくさんは起きるが早いか、まだ髪結かみゆいは来ないか、髪結は来ないかと騒いでいる。髪結は昨夕ゆうべたしかに頼んでおいた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何せよ、今思い合してみると、あの髪結かみゆいの鶴吉というのは、売笑婦の置屋おきやであったり、また世間見ずの女をたぶらかして来るぽん引きと呼ぶ渡世の人間です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岡場所は残らずお取払い、お茶屋の姐さんは吉原へ追放、女髪結かみゆいに女芸人はお召捕り……こうなって来ちゃどうしてもこの次は役者に戯作者げさくしゃという順取じゅんどりだ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お互のこころを通じあって、恋の橋渡はしわたしをおしじゃあないか。何の事はない、こりゃ万事人の悪い髪結かみゆいの役だあね。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしの家の裏から出てゆく露地の入口に、むかしは山の井という駕籠屋かごやで、今はおかみさんが女髪結かみゆいをしている家の奥の間を借りている、さださんという板木屋はんぎやの職人があった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清水助右衞門は髪結かみゆい文吉の言葉を聞き、顔色変えて取ってかえし、三千両の預り証書を春見の前へ突き出し、返してくれろと急の催促に、丈助は其のうちすでに百円使い込んでるから
朝夕ちょうせき糊口ここうみちに苦しみつつ、他の壮士らが重井おもい、葉石らの助力を仰ぎしにも似ず、妾は髪結かみゆい洗濯を業として、とにもかくにも露の生命いのちつなぐほどに、朝鮮の事件始まりて、長崎に至るみちすがら
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
髪結かみゆいのおたつと、豆腐屋とうふやむすめのおかめとが、いいのいけないのとあらそっているうちに、駕籠かごさらおおくの人数にんず取巻とりまかれながら、芳町通よしちょうどおりをひだりへ、おやじばしわたって、うしあゆみよりもゆるやかにすすんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その髪でも、お粂の気持と髪結かみゆいの注文が合わないで一もめもめました。お粂としては銀杏いちょう返しか松葉くずしにでも渋く結うつもりでいたのが、髪結は反対して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慰みに、おしゃくさんの桃割ももわれなんか、お世辞にもめられました。めの字のかみさんが幸い髪結かみゆいをしていますから、八丁堀へ世話になって、梳手すきてに使ってもらいますわ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
油のにおいで結ったばかりと知られる大きな潰島田つぶしには長目に切った銀糸ぎんしをかけている。わたくしは今方通りがかりに硝子ガラス戸を明け放した女髪結かみゆいの店のあった事を思出した。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お富のためには真実の叔母ゆえ、あとねんごろに野辺の送りも済ませてから、丁度七日の逮夜たいやの日に、本郷ほんごう春木はるき町の廻りの髪結かみゆい長次ちょうじさんと云う、色の浅黒い、三十二三になる小粋こいきな男がって参りました。
七刻ななつごろ、町風呂まちぶろへ行って、髪結かみゆいの家で茶をのんで、路地をもどってくると、隣家となりの女按摩のお吉ッつぁんの前を通ると、家の中で、大きなくさめをした者がある。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐっと取詰とりつめて、気が違った日は、晩方、髪結かみゆいさんが来て、鏡台に向っていた時ですって。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
したい事があって来ましたけれど、あいにくお留守で今夜はいそぎますから、お待ち申さずに帰ります。三十日の晩に髪結かみゆいさんの帰りにまたお寄り申します。おからだ御大事に。君より。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それも髪結かみゆいさんが結ったのではない、自分でもちのよいように結ったのへごみが付いた上をコテ/\と油を付け、撫付なでつけたのが又こわれましたからびんの毛が顔にかゝり、湯にも入らぬと見えて襟垢えりあかだらけで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
髪結かみゆいやら、河岸かしの者に、噂を探らせてみると、あきれた淫婦あまだ、沢村田之助に入れあげて、猿若町さるわかちょうがハネると、代地だいち八重桐やえぎりへ引き入れて、いい気になっているという話だが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪結かみゆいが一人、お針が二人、料理人が一人、医師が一人、女を十二人選んで、世話役が三人これを頭取が率いてパリイとかシカゴとかいう処の、博覧会へ日本の女を見せにく。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、露八は、髪結かみゆいの亭主と同じように、傍目はためからみればいい身分のような境涯だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝床をすべって、窓下の紫檀したんの机に、うしろ向きで、紺地に茶のしまお召の袷羽織あわせばおりを、撫肩なでがたにぞろりと掛けて、道中の髪を解放ときはなし、あすあたりは髪結かみゆいが来ようという櫛巻くしまきが、ふっさりしながら
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拭布ふきんを掛けたなり台所へ突出すと、押入続きに腰窓が低い、上の棚に立掛けた小さな姿見で、顔を映して、襟を、もう一息掻合わせ、ちょっと縮れて癖はあるが、髪結かみゆいも世辞ばかりでない
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稼高かせぎだかの中から渡される小遣こづかい髪結かみゆいの祝儀にも足りない、ところを、たといおも湯にしろ両親が口を開けてその日その日の仕送しおくりを待つのであるから、一月とまとめてわずかばかりの額ではないので
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこへ……髪結かみゆいが一人出るわいの。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)