駄々だだ)” の例文
その代りに前者はドコとなく市気があったが、後者は微塵みじん算盤気そろばんけがなくて自由な放縦な駄々だだ気分を思う存分に発揮していた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
むりな理屈だが、楽しみにしていた壺をひらいてみると、何も出てこないので、吉宗公、ちょっと駄々だだをこねはじめたのかもしれない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
悦子それより早う帰ってルミーさんに会いたいねん、………と、駄々だだねたりしたが、それでも朝になってからいびきいてよく眠った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家来たちがなだめると尚更なおさら、図に乗って駄々だだをこね、蝦夷を見ぬうちはめしを食わぬと言っておぜん蹴飛けとばす仕末であった。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうしてその醜くいものを一番く知っていたのは、彼女の懐に温められて育った駄々だだに外ならなかったのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうした様子がから駄々だだっ子で、あの西洋にまで貞奴の名をとどろかして来た人とは思われないまであいがなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お願いですお願いですと滅法めっぽう矢鱈やたら駄々だだねて聴かないのには往生した。死刑囚にはよくソンナ無理な事を云って駄々だだを捏ねる者が居るそうだがね。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
アントアネットは家にただ一つの肱掛椅子ひじかけいすにすわり、オリヴィエはその足先の腰掛にすわって、いつものように大きな駄々だだとして愛撫あいぶされていた。
夫人にとってのヘルンは、最も信頼しんらいする良人であったと共に、一面ではまた『大きな駄々だだ坊や』でもあった。
と、私は怨めしい、腹が立つというよりも呆れかえっておかしくなって、何という見境もない駄々だだの、我儘わがまま放題に生まれついた女であろうと思った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その頑是がんぜない駄々だだっ子のような私どもを、ながい目で見守りつつ、いつも救いの手をさしのべるのが菩薩です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
母の前では縦横に駄々だだをこねたまえど、お豊姫もさすがに父の前をばはばかりたもうなり。突っ伏して答えなし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
駄々だだがおもちゃばこをぶちまけたように、のつけられないすねかたをしている徳太郎とくたろうみみへ、いきなり、見世先みせさきからきこたのは、まつろうわらごえだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
気ぐらいの高いことはまるで公爵のお嬢さまみたいで、このハンカチの刺繍が気に入らないの、こんな音楽じゃ踊れないなんて駄々だだをこねてばかりいるんだよ。
徳川どのにも、それくらいな駄々だだはこねさせてやらねばなるまい。……が、長益も雄利かつとしも、見ておれよ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに二番目の繁が一度愚図り始めたら、泣くだけ泣かなければまないという風で、日に日に募って行くこの児の駄々だだは久米をも女中をも泣かせてしまうのを見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一郎は、また駄々だだをこねだしました。けれども今度はどうしてもきかれないので、おしまひにはばあやをつたり、けつたりしました。ほんとに、いけない一郎です。
鳩の鳴く時計 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
何しろ婆さんなぞが心配して、いくら一しょに行きたいと云っても、当人がまるで子供のように、一人にしなければ死んでしまうと、駄々だだをこねるんだから仕方がない。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
駄々だだで、それでいて老成ませ勝気かちきなところがあった。年は一つ上の八つだったと覚えている。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「お前が出て行けア、己だって家にアいねえ。」と、芳太郎は駄々だだのように言い出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
という注文なんです。奥さんは見ず知らずの開業医にさえ、醜い肌を見せるのはいやだと、駄々だだをこねたんですね。美人という奴は実に難儀なものではありませんか。ハハ……
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕は再び「さア。」といって促すと、お民は急に駄々だだをこねるような調子をつくって
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それがだん/\こうじて、のっ引ならなくなり、安宅先生は葛岡の勤めている学園などにはもう一ときもいられないと駄々だだねて、その駄々をまた本当のことに捏ね直す羽目はめになり
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女は、小倉が自分をきらって駄々だだをこねるんだと思って、困り切っていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「オツパイが一番おいしいのよ、ね、駄々だだねないで、さ、おあがり……」
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
が、結局持前の陽気好きの気性が環境かんきょうに染まって是非に芸者になりたいと蝶子に駄々だだをこねられると、負けて、種吉は随分工面した。だから、つらい勤めもみな親のためという俗句は蝶子に当てはまらぬ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「そんな駄々だだを言うものではありませぬ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さあちゃんやっぱり駄々だだをこねるか」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「まあ、駄々だだのようだわね。」
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このまま縦令たとい露西亜の土となろうとも生きて再び日本へは帰られないと駄々だだねたは決して無理はなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は返辞もしないで咳をつづけた。彼女は寝床から飛び出して彼のそばへ行った。彼はいらだっていて駄々だだをこね、加減がよくないと言い、言いやめて咳をした。
何でもヨシ子がこの頃急に佐賀へ帰ると云って駄々だだをこね出したので、二人が困っているという噂があるんだ。……ドウダイ……事実とピッタリ一致するじゃないか
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ、肉親という事実に安心し、甘えて駄々だだをこねているのだとは、どうしても私には思われません。ホレーショー、どうですか。本当のところを知らせて下さい。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
酒の上の駄々だだ手固摺てこずらせではなく、お粂としてはほんとうにそう腹をきめたのでしょう、その後で、家からここへ移して来た、自分の着類、舞台の用具、衣裳一式
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今から駄々だだねちゃ仕方がない。——壮快じゃないか。あのむくむく煙の出てくるところは」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お宮のふてぶてしい駄々だだを見たような物のいい振りや態度ようすに、私は腹の中でむっとなった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ところでお豊だがの、おまえもっとしつけをせんと困るぜ。あの通り毎日駄々だだをこねてばかりいちゃ、先方あっち行ってからが実際思われるぞ。観音様がしゅうとだッて、ああじゃ愛想あいそをつかすぜ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なだめるのがいつもきまった文句であると新聞は伝えた。その悲しい叫びを駄々だだといった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
台所前の井戸端いどばたに、ささやかな養雞所ようけいじょが出来て毎日学校から帰るとにわとりをやる事をば、非常に面白く思って居た処から、其の上にもと、無理な駄々だだこねる必要もなかったのである。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
きのう舞台ぶたいたおれたまま、いまいままで、楽屋がくやてえたんじゃないか。それをおまえさん、どうでもうちかえりたいと駄々だだをこねて、とうとうあんな塩梅式あんばいしきに、お医者いしゃせてかえ途中とちゅうだッてことさ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「さ、もう駄々だだをこねるんぢやアないよ、お前のおかげで昨日今日は二人とも遊んでしまつた。」とひながら、佐次兵衛は京内をつれて谷川へ水をみに行つて見ると、これはまあ何といふ事です。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
いつもなら姉ちゃんも一緒でなければなどと駄々だだねずにはかないところを、大人しく承知して、耕助と、惣助と、妙子と、弁当持ちのじいやとの五人で、迎えに来た自動車に乗って出かけたが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかしほんとはほめられた義理のものではなかったのだ。この子どものような母が自分の兄のような大きな子どもが手ばなせないと駄々だだをこねたに過ぎなかったのだ。いわば情痴と同じなげきからだ。
オペラの辻 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
岡田が駄々だだの様に怒鳴どなった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同時にすこし駄々だだをこねるような口調を帯びてきたので、秀吉はすこしうるさくなったものか
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、ただ駄々だだぴろい感じばかりで、畳の上でもまるで野原へ出たとしきゃあ思えない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死を決して駄々だだね始め、終日看守を手古摺てこずらせた揚句あげく、やっと目的を達すると、その翌日からドシドシ肉を運び始めて大いに当局を弱らせたのもこの時の事であったという。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
家の中であらゆる悪戯いたずらをしていてしまい、退屈で腹がすいたと駄々だだをこねだしたころ、果して、ルイザはあわただしくもどって来、子供らの手を取り、祖父の家へ連れて行った。
陶冶とうやされないあの駄々だだは、あの我儘が近代人だといえばそうとも言われようが、気高い姿体と、ロマンチックな風致をよろこぶ女にも、近代人の特色を持った女がないとは言われない。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
泣いたり駄々だだねたりはしまい。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)