“飄然:ひょうぜん” の例文
“飄然:ひょうぜん”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治17
中里介山10
夏目漱石5
太宰治5
泉鏡花5
“飄然:ひょうぜん”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.9%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.3%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆0.1%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
胆吹の御殿から、胆吹の山上を往来していた弁信法師もまた、飄然ひょうぜんとして山を出て、この長浜の地へ向って来たのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは空船あきぶねでもあるとともづながみるみるうちにひとりでに解けて、飄然ひょうぜんとして遊びにゆくのであった。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ままになる事なら、その下手くその作品を破り捨て、飄然ひょうぜんどこか山の中にでも雲隠れしたいものだ、と思うのである。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
果して安国寺さんは私との交際を絶つに忍びないので、自分の住職をしていた寺を人に譲って、飄然ひょうぜんと小倉を去った。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この最中に、道庵のもとへ珍客が一人、飄然ひょうぜんとしてやって来ました。珍客とは誰ぞ、宇治山田の米友であります。
さすがに一封の手紙を残して、筆に心を知らせたるまま、光代にも告げず善平にも告げず、飄然ひょうぜんとして梅屋を立ち去れり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
曹操とその幕将が、その日もしきりに討議しているところへ、飄然ひょうぜん、名を告げて、この陣営へ訪れて来たものがある。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼が、まるで黒いゴム風船のように、飄然ひょうぜんとこの屋上庭園に上ってきたとて、誰もとがめる人などありはしない。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
その翌朝、未明に貴公子は兵馬を促し、二人が飄然ひょうぜんとして、この屋敷を出かけてしまったから、あとのことはわかりません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飄然ひょうぜんと画帖をふところにして家をでたからには、余にもそのくらいの覚悟がなくては恥ずかしい事だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八年まえ大学を卒業してから田舎いなかの中学を二三箇所かしょ流して歩いた末、去年の春飄然ひょうぜんと東京へ戻って来た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一日浪子の主治医を招きて書斎に密談せしが、その翌々日より、浪子を伴ない、の幾を従えて、飄然ひょうぜんとして京都に来つ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そうして松本をめざしてゆくと、松本方面から、飄然ひょうぜんと旅をして来た浪士てい精悍せいかんな男が一人、
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
武蔵はそう考えついて、十分に人々の好意を謝し、一足さきに、楽しい河原のむしろを辞して飄然ひょうぜんと去った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、お豊殺害の日から十二日を経た一昨日の朝、行方をくらましていた信次郎が、飄然ひょうぜんとして帰ってきたのであります。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「ところがあなた大違いで……」「何か内々でやりますかね。油断のならない世の中だからね」と飄然ひょうぜんとふわふわした返事をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うわさをすれば陰のたとえれず迷亭先生例のごとく勝手口から飄然ひょうぜん春風しゅんぷうに乗じて舞い込んで来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又或る仏僧は皇帝の愚昧なる一言を聞くと、一拶いっさつを残したまま飄然ひょうぜんとして竹林に去ってしまった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その中百円を葬儀の経費に百円を革包に返し、のこりの百円及び家財家具を売り払った金を旅費として飄然ひょうぜんと東京を離れて了った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は二枚ばかりの単衣ひとえを風呂敷に包むと、それを帯の上に背負って、それこそ飄然ひょうぜんと、誰にも沈黙だまって下宿を出てしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
と、なぞのような言葉をのこして、果心居士かしんこじ飄然ひょうぜんと松のあいだへ姿をかくした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出雲守いずものかみと対談していた万太郎は、やがて明るい顔をして、月江や金吾に何か言いおくと、飄然ひょうぜんとして奉行所の外へ出ました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど斎藤先生の葬儀の式場に、正木先生がどこからともなく飄然ひょうぜんと参列しに来られたのです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
逢坂山おうさかやまの大谷風呂を根拠地とした不破の関守氏は、その翌日はまた飄然ひょうぜんとして、山科から京洛を歩いて、夕方、宿へ戻りました。
そんな飄然ひょうぜんとした思いが、わざわいとなって、現在こんな苦痛をなめなくてはならなくなるということが、そのときにどうしてわかりましょう。
人魚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しか彼女かれは別に何をするでもなく、門前の往来に飄然ひょうぜんと立っているだけの事であるから、市郎も改まってとがめる訳には行かぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、少し安心して、そっと屋外へ出ると、飄然ひょうぜん、江岸にある自分の仮屋のほうへ立ち去った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目的の成否にかかわらず、三日以内には一応、船へ戻ると言伝ことづてをしていた田山白雲は、早くも二日目の晩に飄然ひょうぜんとして立戻って来ました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「先頃、甲州陣の折、ふと宿所へ訪ねてみえたが、あくる朝、夜もあけぬ間に、また飄然ひょうぜんと立ち去ってしもうた。これはそのとき彼が画いたものだ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさ子の父丹七は、あさ子の葬式をすました翌日、飄然ひょうぜんとして出発したまま、その後帰って来ないので、人々は、今でもその生死を知らないのである。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
時には、忽然こつぜんとすがたを見せ、時には飄然ひょうぜんとすがたを消し、峰のふところに遊ぶ白雲のように、武蔵の足跡は、近ごろ殊に定まらなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ太閤などには、風流の虚無などわかりっこないのだから、飄然ひょうぜんと立ち去って芭蕉ばしょうなどのように旅の生活でもしたら、どんなものだろう。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
むっくりと頭を持ちあげている達磨だるまの姿に似た飄然ひょうぜんたる峰を見出すであろう。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
半ぺん坊主が出て行った日の夕方、宇津木兵馬が飄然ひょうぜんとしてこの寺に帰って来ました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この事があってから、婆さんの尼は、坂東三十三番に、人だすけの灸を施し、やがては高野山に上って更に修行をすると云って、飄然ひょうぜんうちを出た。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある朝新聞を読んでいると、信濃山中の温泉で或朝早く飄然ひょうぜん出立した貴公子風の青年があり、あとで女中が便所の中に首くくりの縄の切れたあとを発見した。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
飄然ひょうぜんと猫背の後ろ姿を向け、もう風のように彼方あなたへ歩み去って行く——
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今から一月以前であるが、どこからともなく飄然ひょうぜんとその老人はあらわれた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鐘巻自斎が小野忠雄の門から飄然ひょうぜんと出て行くと、門下の大衆も、ただ一人の新九郎に、八方から罵詈ばり嘲笑を存分に浴びせかけて、思い思いに退場して行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小野さんはうやうやしく屑籠を受取った。宗近君は飄然ひょうぜんとして去る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道也先生は例のごとく茶の千筋せんすじ嘉平治かへいじ木枯こがらしにぺらつかすべく一着して飄然ひょうぜんと出て行った。居間の柱時計がぼんぼんと二時を打つ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陳大夫はその日、一頭の羊をひいて、城の南門から、飄然ひょうぜんと出て行った。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村長むらおさの話をきけば、数日前に、このうちへとまって飄然ひょうぜんったというみょうな老人というのこそ、どうやら果心居士であるような気がする。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
景もまたそれについていったが、女はとうとう飄然ひょうぜんといってしまった。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
けろりとなるといったふうな飄然ひょうぜんとしたなかに、いかにも温情のあふれている先生で、年歳としはもう四十を越していたが、師範を出ていないせいか、学校での席次は
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
呶鳴るだけどなってしまうと、三次は人を分けて飄然ひょうぜんと帰って行った。
こう言い残して、お久良の侠気を見込んだ鴻山が、ふたたび、藺編いあみの笠のひもを結んで、四国屋の寮からいずこともなく飄然ひょうぜんと立ち去ったのは……後の話。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七曲ななまがりの険をおかして、やっとのおもいで、ここまで来たものを、そうむやみに俗界に引きずりおろされては、飄然ひょうぜんと家を出た甲斐かいがない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、ふたたび呵々かか大笑しながら、飄然ひょうぜんと立ち去ってしまった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこからともなしに飄然ひょうぜんとやって来ては、石をかえるにしたり、壁へ女の姿を現わしたりして見せて、そのあと饗応ごちそうって帰って往ったのですが
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ここに事件の解決までに、百日の期間はできたが、老先生には、そもどんな策戦があるか。やがて、一刻いっときの間も惜しむように、飄然ひょうぜんとして、どこかへ立ち去った。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上りの客はこの宿しゅくで、下りの客は坂の下あたりで宿やどをきめてしまったと思われる時分、この茶店へ飄然ひょうぜんと舞い込んだのは一人の旅の武士さむらいであります。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この坊さんはいつでも飄然ひょうぜんとして来て飄然として去るのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
却説さて、葛木法師の旅僧は遠くもかず、どこで電車を下りて迂廻まわりみちしたか、多時しばらくすると西河岸へ、船から上ったごとく飄然ひょうぜんとしてあらわれて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文吉は、もう老隠居を見ているのに飽きたらしくあっさり「さよなら」と言って飄然ひょうぜんと去ります。今度はわたくしを連れて来たのを忘れたと見え、わたくしは置いてけぼりです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もう少し飄然ひょうぜんとした、あくぬけたところがなければいけない。
十月一日の夜、松村子爵は飄然ひょうぜんとしてMホテルにあらわれた。
正義 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
窓の外で、立話をしたきりで、主水は飄然ひょうぜんと先の旅へ去った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は一人言のように言って、升屋から飄然ひょうぜんと立去りました。
で、彼は思うところあって飄然ひょうぜんと春日山へ来たのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
飄然ひょうぜんです。まったく飄然ひょうぜんです、彼は釘勘と共に、奉行所の前の石豆腐いしどうふ差入さしいれ茶屋)で軽い旅支たくをすると共に、遠く江戸を離れたのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう書き置きをしたためて、その夜、飄然ひょうぜんと家を出た。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
最前袖畳にした羽織を桜の杖の先へ引きけるが早いか「一剣天下を行く」と遠慮のない声を出しながら、十歩に尽くる岨路そばみち飄然ひょうぜんとして左へ折れたぎり見えなくなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一年ほどして彼はまた飄然ひょうぜんとして上京した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田中新兵衛は飄然ひょうぜんとして、どこへか行ってしまった。
帆もかじも無い丸木舟が一そうするすると岸に近寄り、魚容は吸われるようにそれに乗ると、その舟は、飄然ひょうぜん自行じこうして漢水を下り、長江をさかのぼり、洞庭を横切り
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうだなあ、こちらは飄然ひょうぜんたる旅人にすぎぬが」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう云い捨てて彼は飄然ひょうぜんと立ち去った。お藤は蒼くなって跛足をひきながら内へころげ込んで、夫の次郎兵衛にそれを訴えると、次郎兵衛も一旦は眉を寄せたが又思い直したように笑い出した。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この間信州へ行くつもりで、中央線の二等車に一人おさまっていると、飄然ひょうぜんとして枢密院すうみついんの内田伯が入ってこられた。いわゆる微行で富士の五湖巡りをするのだという話である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれども試験を受けぬ訳には往かぬから試験前三日といふに哲学のノート(蒟蒻板こんにゃくばんりたる)と手帳一冊とを携へたまま飄然ひょうぜんと下宿を出て向島の木母寺もくぼじへ往た。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それは明治十五六年ごろの秋のことであった。ある日、一人の旅僧が飄然ひょうぜんとやって来て、勘右衛門かんえもんという部落でも一番奥にある猟師の家の門口に立って、一夜の宿をうた。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
飄然ひょうぜんとしてホウゴウ社にむかったのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
元禄五年の春、五十二歳になった上野介は飄然ひょうぜんとして領地へかえってきた。着いたのは三月のはじめの雨の日である。大気はまだうすら寒かったが華蔵寺には早くも春の気配がただよっていた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そこへ飄然ひょうぜんと竜之助が帰って来ました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御方はそれを洩れ聞くと共に、飄然ひょうぜんと京から姿を隠してしまった。そして、間もなく江戸城の大奥へ妹の通子を訪ねて来た。その時は、僅か老女の水瀬と一人の侍女こしもとしか連れていなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闇太郎は、飄然ひょうぜんとして笑うのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
——ともあれ、その年の武蔵野合戦で、手いたく打ち負かされた秋、宮は香坂高宗らのしきりに留めるのも振りきって、飄然ひょうぜんと、狩野介かのうのすけただ一人を供に、木曾路から美濃へと旅立たれた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで津村は、自分の家の祖母が亡くなった年の冬、百ヶ日の法要を済ますと、親しい者にも其の目的は打ち明けずに、ひとり飄然ひょうぜんと旅におもむ体裁ていさいで、思い切って国栖村へ出かけた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平次は飄然ひょうぜんとして帰って行くのです。
やまいと称し飄然ひょうぜん熱海あたみに去りて容易よういに帰らず、使を以て小栗に申出ずるよう江戸に浅田宗伯あさだそうはくという名医めいいありと聞く、ぜひその診察をいたしとの請求に
そこで半蔵は飄然ひょうぜんと出かけた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
疲れると帰帆の檣上しょうじょうにならんで止って翼を休め、顔を見合わせて微笑ほほえみ、やがて日が暮れると洞庭秋月皎々こうこうたるを賞しながら飄然ひょうぜんねぐらに帰り、互に羽をすり寄せて眠り
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
武太郎は前夜十一時近く、酒気を帯びて飄然ひょうぜんと『柳亭』に現れた——例によってお玉に金の無心をしたが、たびたびのことなので取り合わなかった——武太郎は激怒してさんざん乱暴狼藉ろうぜきを働いた揚句
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
飄然ひょうぜんとして橋を渡り去ったが、やがて中ほどでちょっと振返って、滝太郎を見返って、そのまま片褄かたづまを取って引上げた、白い太脛ふくらはぎが見えると思うと、朝靄あさもやの中に見えなくなった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日、飄然ひょうぜんこの地へ来た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
と、飄然ひょうぜんと帰って行った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃私は年なお三十に至らず、孤身飄然ひょうぜん、異郷にあって更に孤客となるのうらみなく、到る処の青山せいざんこれ墳墓地ふんぼのちともいいたいほど意気すこぶる豪なるところがあったが今その十年の昔と
第三話において物語ったごとく、少しばかり人を斬り、それゆえに少し憂欝になって、その場から足のむくまま気の向くままの旅を思い立ち、江戸の町の闇から闇を縫いながら、いずこへともなく飄然ひょうぜんと姿を消したわが退屈男は
貧乏のためにあなどりをこうむることとてはなき世の風俗なりしがゆえに、学問には勉強すれども、生計の一点においてはただ飄然ひょうぜんとして日月じつげつしょうする中に、政府は外国と条約を結び、貿易の道も開らけて
先年、大菩薩峠の著者が、白骨温泉に遊んだ時、机竜之助のような業縁ごうえんもなく、お雪ちゃんのようにかしずいてくれる人もない御当人は、独去独来の道を一本の金剛杖に託して、飄然ひょうぜんとして一夜を白槽しらふねの湯に明かし
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
独り言のように呟いてから、沢庵はふと旅の空へ心を急ぎ、光広へ向って、改めて別れを告げた上、なお当分の間ではあるが、病中のお通と、城太郎の身とをくれぐれもやかたに託して、それから間もなく烏丸家の門を飄然ひょうぜんと出て行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四年前——昭和六年八月十日の夜、中之島公園の川岸にたたずんで死を決していた長藤十吉君(当時二十八)を救って更生こうせいへの道を教えたまま飄然ひょうぜんとして姿を消していた秋山八郎君は、その後転々として流転るてんの生活を送った末
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それから同夜九時頃になると「飯喰いに行って来る」と称して飄然ひょうぜんとして下宿を出でそのまま行衛ゆくえくらましたとの事であるが、仄聞そくぶんするところに依ればひそかに九大精神病科の自室に引返し徹宵てっしょう書類を整理していたともいう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
或朝、紅葉を飯田町の三畳の書斎に訪うて話していると、飄然ひょうぜんやって来たのは飛白かすり単衣ひとえ瀟洒しょうしゃたる美少年であって、これが漣であると紹介された時は、かねて若い人だとは聞いていたが、余り若過ぎるので喫驚びっくりしてしまった。
ああ、もう東京はいやだ、殺風景すぎる、僕は北京ペキンに行きたい、世界で一ばん古い都だ、あの都こそ、僕の性格に適しているのだ、なぜといえば、——と、れいの該博がいはくの知識の十分の七くらいを縷々るると私に陳述して、そうして間もなく飄然ひょうぜんと渡支した。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
されば乞食僧は、昼間何処いずくにか潜伏して、絶えて人にまみえず、黄昏こうこん蝦蟇の這出はいいづる頃を期して、飄然ひょうぜんと出現し、ここの軒下、かしこの塀際、垣根あたりの薄暗闇うすくらやみに隠見しつつ、腹にたして後はまた何処いずかたへか消え去るなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛色のかわった犬一疋いっぴきにおいの高い総菜にも、見る目、ぐ鼻の狭い土地がら、おもかげを夢に見て、山へ百合の花折りに飄然ひょうぜんとして出かけられたかもはかられぬを、狭島の夫人、夜半より、その行方ゆくえが分らぬなどと、騒ぐまいぞ、各自おのおの
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身は今旅の旅にりながら風雲のおもいなおみ難くしきりに道祖神にさわがされて霖雨りんうの晴間をうかがい草鞋わらじ脚半きゃはんよと身をつくろいつつ一個の袱包ふくさを浮世のかたみににのうて飄然ひょうぜんと大磯の客舎を出でたる後は天下は股の下杖一本が命なり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)