頂戴ちょうだい)” の例文
(あなたは春陽会しゅんようかいへいらしって? らしったら、今度知らせて頂戴ちょうだい。あたしは何だか去年よりもずっとさそうな気がしているの)
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(帯の間から、白い角封筒を出し、歩いて野中教師の傍に寄り)先生、黙って、ね、何もおっしゃらずに、黙って、受け取って頂戴ちょうだい
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「先生。大変な騒ぎで御座ります。奥山おくやまねえさんが朝腹あさっぱらお客を引込もうとした処を隠密おんみつ見付みつかりお縄を頂戴ちょうだいいたしたので御座ります。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
左膳とチョビ安、四つの眼、いや三つの眼で見はっていた壺が、いつのまにやら鍋に化けて、しかも、ありがたく頂戴ちょうだい嘲笑的ちょうしょうてきな一筆。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「後生ですから、そこからはさみをもってきて頂戴ちょうだいな、ね」こんどはだまっていましたが、いそいでそこにあった人形を抱きあげて
人形物語 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
と達雄は慰労ねぎらうように言った。隠居は幾度か御辞儀をして、「頂戴ちょうだい」と山盛の飯を押頂いて、それから皆なと一緒に食い始めた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その度合によってチェーホフの像が千変万化することは言うまでもない。僕はこの宣言をそっくりそのまま頂戴ちょうだいする立場に立つ。
阿Qは形式上負かされて黄いろい辮子べんつを引張られ、壁に対して四つ五つ鉢合せを頂戴ちょうだいし、閑人はようやく胸をすかして勝ちほこって立去る。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
頂戴ちょうだいすれば鬼に金棒だ。……で、明日の朝出発してもらいたいのじゃが……、すこし無理かな……こっちにもいろいろな都合があるのでな
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その声は力なく、途切とぎれ途切れではあったが、臨終の声と云うほどでもなかった。彼女の眼は「何でもいいからそうっとしといて頂戴ちょうだいね」
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「は、じゃない、昨日きのう、入江先生より頂戴ちょうだいして参った免許の目録やら皆伝のまきがあろう。なぜ、叔父御おじごに、お見せ申さぬ。父にも見せい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両人ふたりが出て行ったあとで、吾輩はちょっと失敬して寒月君の食い切った蒲鉾かまぼこの残りを頂戴ちょうだいした。吾輩もこの頃では普通一般の猫ではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「行かない事はありゃしないわ、邪魔だから帰って頂戴ちょうだいって、あたしとっとと追い立ててやるわ。———そんな事を云っちゃいけない?」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
千駄木せんだぎ時代の絵はがきのほかにはこれが唯一の形見になったのであったが、先生死後に絵の掛け物を一幅御遺族から頂戴ちょうだいした。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そうさ。きっと非常に愉快な旅行になるよ。」学士はこういいながら、つくえの上の堅パンを一切れ取った。「頂戴ちょうだいしても好いのだろうね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
物を欲しがる時何をおくれと教えられる事もあるし頂戴ちょうだいと教えられる事もある。親たちの真似まねをして何をよこせといって叱られる事もある。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ふんだんに頂戴ちょうだいしろ! 長崎屋さんは、今までもうけたお礼に、おめえたちに、いくらでも、拾っていけっておっしゃってるぜ!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかし、拒絶どころか、表面だけでもいちおうはありがたく頂戴ちょうだいしなければならないところに、実は、現在の日本の最大の病根があるんだよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
どこからそんな金が出るのか、大盤振舞おおばんぶるまいである。そんな振舞い酒を北槻中尉もありがたく頂戴ちょうだいしているふうではなかった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
エレーナ (ワーニャに気づかず)ゆるして……放して頂戴ちょうだい……(アーストロフの胸に頭を押しつける)いけませんったら! (行こうとする)
……「よう、どうしたのよ、いつものように折角お迎えに出たあたしを、抱きあげて早く店の内へ連れてって頂戴ちょうだいよ。」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
只今は頂戴ちょうだいいたしますまい。食事ぜんですから。(ゾフィイは藁椅子を持ち来て腰を掛く。学士はその椅子を自分にて持ち来らんとしてせ寄る。)
「瀬川さん、すみませんが、こう返事して頂戴ちょうだい。私たちは旅費のつづく間、そして、ソヴェトが私たちを追い出さない限り、いるつもりですって——」
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
例えば「それを取ってくれ」という意味の事を、ある奥様たちは頂戴ちょうだいという字にいんかを結びつけて、ちょっとそれ取って頂戴いんかといったりする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
『そなたの、そのみぐるしい姿すがたなんじゃ! まだ執着しゅうじゃく強過つよすぎるぞ……。』わたくし何度なんどみぐるしい姿すがたをお爺様じいさまつけられてお叱言こごと頂戴ちょうだいしたかれませぬ。
鈴本がねてあいにく繰込のお供もつかまつらず、御酒頂戴ちょうだいも致されず、うちへ帰っていもとじゃ間に合ずというので、近所だから大和家へ寄ることちょいちょい。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎年卒業式の時、そばで見ていますが、お時計を頂戴ちょうだいしに出て来る優等生は、大抵秀麿さんのような顔をしていて、卒倒でもしなければ好いと思う位です。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
元通り取りくずしてちょうど午後二時半頃一同は引き退さがりました。宮中にて一同午餐ごさん頂戴ちょうだいしまして、目出たく学校へ帰ったのが午後四時頃でありました。
妹梅子の轢死体を頂戴ちょうだいいたして帰りましたが、まあこのような世間様に顔向けの出来ないようでございますから、お通夜つうやも身内だけとし、今日の夕刻ゆうこく
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうおっしゃいますが、これをだまってりましたら、あとで若旦那わかだんなに、どんなお小言こごと頂戴ちょうだいするかれませんや」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こんな調子で御土産おみやげはとんと頂戴ちょうだいはせぬ。頂戴しないどころではない、御土産に熨斗のしをつけて返してやるのだ。
我輩の智識吸収法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
やっと立上りそうな腰構えになると又も、盃を頂戴ちょうだいに来る者がいるので又も尻を落付けなければならなかった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして上げて、貴方あなた、そうして上げて頂戴ちょうだい! と、私の方を向いている妻の眼が、しばたいている。牡丹ぼたんはもう散ったが、薔薇ばらは花壇一杯、咲き乱れている。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
恩給だけでともかくも暮らせるなら、それをありがたく頂戴ちょうだいして、すっかり欲から離れて、その日その日を一家むつまじく楽しく暮らすのがあたりまえだ。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
展覧会の案内書に先生がたから一言ずつでもお言葉を頂戴ちょうだいすることにしたらどんなものでしょうといやがった。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三十円の月給を頂戴ちょうだいしてやうやうに中学校の教員となつて校長のおひげを払ふやうな先生が天下丸呑まるのみの立志論を述べ立つるなど片腹痛きにも限りあるものなり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
倭文子の生きた姿を見て、このままおれが、ノメノメとお繩を頂戴ちょうだいすると思っているのか。おれはやっぱり負けたのではない。倭文子の命はおれのものだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして鎮守ちんじゅ様が召し上がった後を頂戴ちょうだいする分には、何も差しつかえはなかろう。うむ、そうだ。……それにしても、村の人達に見つかっては、具合ぐあいが悪い………
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
頂戴ちょうだいいたします。そのお礼に、この美しい紫の花を差し上げたいのですが、わたしが投げてもあなたのところまでは届きません。グァスコンティさま、お礼を
さいわいにして、イカバッド・クレーンは、彼の物語を書いているこのわたしほど急いでいなかったので、ご馳走はどれもこれもしこたま頂戴ちょうだいしたのである。
この間蛇は、栗鼠を見詰めて他念なく、人これに近づくもよほど大きな音せねば逃げず、最後に栗鼠蛇の方へ跳び下りるを、待ってましたと頂戴ちょうだいしおわると。
なよたけ さあ、それじゃ、またみんな一生懸命にお天道様にお祈りしましょう! じゃ、いい? みんないつもの通り、そこんところにずっと並んで頂戴ちょうだい
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「さよう」と頭領は気の毒そうに、「もしもお味方くだされぬとなれば、やむを得ずお敵対致します。すなわち太刀は申すに及ばず、金子きんす持ち物を頂戴ちょうだいいたす」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ朝廷が顧念こねんなされるという主義だけを、明らかにする目的にもっぱらだったためか、他の多くの例幣の物と同じく、いつまでも頂戴ちょうだいに出てこぬ者が多くて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
実に馬鹿らしく形式だった厭味いやみなものであるので、吾輩の抹茶についても時折嘲笑ちょうしょう的痛罵を頂戴ちょうだいしたことがあったのである、だがそれもやはり酒のような筆法で
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「拙者は竹腰藤九郎たけのこしとうくろうでござる、おしるし頂戴ちょうだいして、先君せんくん道三入道殿にゅうどうどの修羅しゅら妄執もうしゅうを晴らす存念でござる」
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
種々な絵の中に、牧童が牛の背に乗って、笛を吹いている顔が可愛らしいので、何枚も画いてもらい、「もっと可愛くして頂戴ちょうだい」といって笑われた事もありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あなたスペインからラケレメレエ探して来て加奈子にやって頂戴ちょうだい。それにしてもあなたが恋しい。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まあ妾どうしましょう? 妾はどうなるんでしょう? ねえ士官さま、お若くて、親切な士官さま、妾をかわいそうだと思って頂戴ちょうだいな! 妾を逃がして下さらないこと?
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「そのようなお言葉を頂戴ちょうだいあそばす方がいらっしゃらないことはご存じのようですが、どなたに」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)