音信たより)” の例文
始めのうちは音信たよりもあり、月々つき/″\のものも几帳面ちやん/\と送つてたからかつたが、此半歳許はんとしばかり前から手紙もかねも丸で来なくなつて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
音信たよりも出来ないはずの音信が来て、初めからしまいまで自分を思ッてくれることが書いてあッて、必ずお前を迎えるようにするからと
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
打続きて宮が音信たよりの必ず一週に一通来ずと謂ふこと無くて、ひらかれざるに送り、送らるるにひらかかざりしも、はやかぞふれば十通にのぼれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「結構だ。せいぜい稼いでお母に楽ウさせるんだナ。ときに、おふくろといえば、どうしたえ、その後は? 音信たよりでもあるかね?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先づ印度インドに赴いて其れから埃及エヂプト希臘ギリシヤを巡遊して歸國すると云ふ事である。春子はどうしたのであらう。遂に音信たよりがない………。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
それのみならず、風の音信たよりに聞けば、お前はもうとっくかたづいているらしくもある。もしそうだとすれば、お前はもう取返しの付かぬ人の妻だ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この音信たよりがあったので、許されたもののように思われて、蝶吉は二階にあがると、まずその神月の写真を懐に抱いたのであった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな音信たよりをこちらへしてくる必要はないはずだと言い切っておしまいになりましたので、中将は歎いていたと申します。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼はその光をめがけながら飛びかう虫の群れをつくづくとながめているうちに、久しく音信たよりもしない同門の先輩暮田正香くれたまさかのことを胸に浮かべた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その後も相変らず毎月一度ぐらいの音信たよりをつづけていたが、八月になって僕は上州の妙義山へのぼって、そこの宿屋で一と夏を送ることになった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御病気とした処が御全快になりますれば、何とかモウお音信たよりが有ろうと存じますのに、いまだにお音信が有りませんのは何うしたのでございましょう
こわされそうもない事情が、最初の手紙でわかっていたが、はなしの長引くうちに、先方の親たちの気の変って来たような様子が、後の音信たよりでほぼ推測された。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
弟が自身で受取りに行くと申してきかない、などという音信たよりがある度毎に、自分の死んだ後のありさまを、目のあたりに見る愉快さに、夢中になって居りました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
彼は、故郷くにからの音信たよりで、忠右衛門の忰の頼母が、自分を父の敵だと云い、復讐の旅へ出たということを知った。彼は冷笑し、(討ちに来るがよい、返り討ちにしてやるばかりだ)
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
敵の休右衛門は、七十を越した極老ごくろうの者である。二人の音信たよりを待つうちに、いつ病死するかもしれない。二人には、不義であろうとも、一日も早く多年の本懐を達するにくはないと。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ヹローナからの音信たよりぢゃ! どうぢゃ、バルターザー! 御坊ごばうからの消息たよりかったか? ひめ如何どうぢゃ、父上ちゝうへ御無事ごぶじか? ヂュリエットはなにとしておゐやる? づ、それをかう
若し一週間も音信たよりが無いと、何か変事でも出来たのでは無いかと心配になる。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そういって、もう音信たよりはないものと思いながらも約束は約束だから待っていますと、先方も満更まんざら打っちゃって置いたのではなく、五月の末になって、長谷川栄次郎からたよりがありました。
コロンボと過ぎて新嘉坡しんがぽうるに船の着く前に、恋しい子供達の音信たよりが来て居るかも知れぬと云ふのぞみに心を引かれたのと一緒で自身のために此処こゝ迄来て居る身内のあるのを予期して居たからである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
返事も滅多に出さなかつたので、近頃妹の音信たよりもずゐぶん遠退いてゐた。圭一郎は今も衝動的に腫物はれものに觸るやうな氣持に襲はれて開封ひらくことを躊躇ちうちよしたが、と言つて見ないではすまされない。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「エ、彼女あれこそ病身なんですが、まだ何とも音信たよりがありません。」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「それからな、今日は重大な音信たよりを聞いたから、知らせる」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
葉山行のことをも、さもうれしい音信たよりのやうに吹聽した。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「ゆみちゃん! どこへ行っても音信たより頂戴よ。」
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「息子さんから暫く音信たよりがないんでしょう」
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ひとづてによこしたその音信たよりのなかに
山之口貘詩集 (旧字旧仮名) / 山之口貘(著)
ひらき見るに今ではごく辛抱人しんばうにんになりし由當時丸龜まるがめにて江戸屋清兵衞と云ては立派りつぱ旅籠屋はたごやになりてくらし居るといふおもむきの手紙也依て漸々やう/\私しは安心なし夫より此來このかたたがひに書状の音信たよりして居たりしと話す所へお梅はおかんが出來ましたから一ツ御あがりなされましと湯豆腐ゆとうふなべとくり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私の音信たよりをあてにして待っておられるあなたや御年寄には、この十日が少し長過ぎたかも知れません。私もそれは察しています。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二年ぶり、打絶えた女の音信たよりを受取った。けれども俊吉は稼業は何でも、ぬしあるものに、あえて返事もしなかったのである。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三吉は東京の方の空を眺めて、種々な友達から来る音信たよりを待ちびる人と成った。学校がひける、門を出る、家へ帰ると先ず郵便のことを尋ねる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今になってもまだ自分の音信たよりに取り合わぬ態度をお続けになるのはどうしたことであろう、あまりに人情がおわかりにならぬと恨めしがるようになった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はい、難有ありがたうございますが、少々宅の方の都合がございまして、二三日うちには音信たよりがございますはずで、その音信たより
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
尼「いや老爺じいさん、心配おしでない、いまに音信たよりが有ろう、不図邂逅めぐりあうことが有るけれども、旅へ出て難義をなすっておいでの様子、殊に病難も見える」
「小万さん、平田さんの音信たよりは、西宮さんへもないんだろうかね」と、吉里の声は存外平気らしく聞えた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
さあ、その時叔父さんにれられて帰ったきり、どこにいるのかそれなりでちょっとも音信たよりがないそうにおす。わたしもそれから用事で大阪の方にてきまして、今日帰ったばかりのとこどすよって。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「只今でもお音信たよりがございますか?」
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
東京の音信たよりが雨と風と洪水の中に、悩んでいる余の眼に始めて暸然と映ったのは、坐る暇もないほどいそがしい思いをした妻が
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
衣絵きぬゑさんのもうくなるまへだつた——たしか、三めであつたとおもふ……従弟いとこ細君さいくん見舞みまひつたとき音信たよりであつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おとゝ祖五郎の行方は知れず、お国にいる事やら、たゞしは途中でわずらってゞもいやアしまいか、などと心細い身の上で何卒どうぞして音信たよりをしたいと思っても何処どこにいるか分らず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「しかたがありません、断念おもいきらないわけには行かないのだから。もう、音信たよりも出来ないんですね」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
花とかちょうとか言っているのであったなら、冷眼に御覧になることもやむをえないことであるが、自身の悲しいことに同情して音信たよりをする人には、親しみを覚えていただけるわけではないか
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あいつどこへもふみをやる所がないものだから、やむを得ず姉とおれに対してだけ、時間をついやして音信たよりおこたらないんだと、腹の中で云うでしょう。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親おやじなんざ気をんで銃創てっぽうきずもまだすっかりよくならねえのに、此奴こいつ音信たよりを聞こうとって、旅団本部へ日参だ。だからもうみんながうすうす知ってるぜ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のは存外御無沙汰を致しましたが、只々お案じ申し上げるのみでございますが、何分お音信たよりさえも出来ませんと、若旦那さまも、あなたさまの事をお案じ申し上げ
私のここにいますことを聞いて音信たよりをよこしたのですが、他人とは思いませんものの、はじめて聞いた話を軽率けいそつにそのまま受け入れて親しむこともできぬような気になっておりましたのに
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
結婚してからああ親しくできたらさぞ幸福だろうとうらやましい気もした。三沢からなん音信たよりのないのも気がかりであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親なんざ気をんで銃創てっぽうきずもまだすつかりよくならねえのに、此奴こいつ音信たよりを聞かうとつて、旅団本部へ日参にっさんだ。だからもうみんながうすうす知つてるぜ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
本当にあなたまア何うも誠に私ゃアホヽヽヽヽ(笑)一寸お音信たよりをしたいと思って居りましたけれども、斯ういう忙がしい中で、まア美代吉にも私ゃアいつでもそう云うの
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中将からは久しぶりの音信たよりというものもくれません。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こうまでこれを教うるものは、四国のはてにもほかにはあるまい。あらかた人は分ったが、それとなく音信たよりも聞きたい。の、其許そこも黙って聞かっしゃい。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)