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雑沓
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ざっとう
ふりがな文庫
“
雑沓
(
ざっとう
)” の例文
旧字:
雜沓
相手の姿が江戸の
雑沓
(
ざっとう
)
へまぎれこむと、容易に討ち難くもあり、影もくらまされる怖れもあるので、ぜひとも、東海道を旅する間に
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
芋を洗うような
雑沓
(
ざっとう
)
で、入浴する方が却って不潔ではないかと思われるくらいであったが、わたしはやはり毎日かかさずに入浴した。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
滔々
(
とうとう
)
と弁じ立てるのだが、その日は法水が草稿を手に扉を開くと、
内部
(
なか
)
は三十人ほどの記者達で、身動きも出来ぬほどの
雑沓
(
ざっとう
)
だった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
浅草観音堂の裏手の林の中は
人通
(
ひとどおり
)
がすくなかったが、池の傍の群集の
雑沓
(
ざっとう
)
は、活動写真の楽器の音をまじえて騒然たる
響
(
ひびき
)
を伝えていた。
水魔
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
成る
可
(
べ
)
く人目にかからぬように毎晩服装を取り換えて公園の
雑沓
(
ざっとう
)
の中を
潜
(
くぐ
)
って歩いたり、古道具屋や古本屋の店先を
漁
(
あさ
)
り
廻
(
まわ
)
ったりした。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
中巻第一図と第二図とは
本所御船蔵
(
ほんじょおふなぐら
)
を望む
両国広小路
(
りょうごくひろこうじ
)
の
雑沓
(
ざっとう
)
なり。日傘
菅笠
(
すげがさ
)
相重
(
あいかさな
)
りて
葭簀
(
よしず
)
を張りし
見世物小屋
(
みせものごや
)
の間に動きどよめきたり。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
朝の散歩の
趣
(
おもむき
)
を久しく忘れていた僕には、常に変わらない町の色が、暑さと
雑沓
(
ざっとう
)
とに染めつけられない安息日のごとく
穏
(
おだ
)
やかに見えた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして、
雑沓
(
ざっとう
)
する
道
(
みち
)
からは、
喧騒
(
けんそう
)
な
叫
(
さけ
)
びがあがり、ほこりが
舞
(
ま
)
いたっていました。その
間
(
あいだ
)
を
少年
(
しょうねん
)
は、とぼとぼ
歩
(
ある
)
いてきたのです。
新しい町
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
よく縁日の
雑沓
(
ざっとう
)
の中で、銅の
盥
(
たらい
)
をぐるぐる
廻
(
まわ
)
して綿菓子というものを売っていることがあるが、あの綿菓子のような感じである。
雪雑記
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
昼間の
雑沓
(
ざっとう
)
に引きかえて橋の上にはほとんど人影がなく、鉄の
欄干
(
らんかん
)
が長々と見えていた。時々自動車が橋を揺すって通り過ぎた。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
薄暗い
雑沓
(
ざっとう
)
の中で誰れもがするような別れの挨拶を述べ、自分でも見すぼらしく思うばかりの痩腕を高くあげて万歳を叫んだのであるが
指導物語:或る国鉄機関士の述懐
(新字新仮名)
/
上田広
(著)
楽隊は
進行曲
(
マーチ
)
を奏し出す。見物の群集は
閧
(
とき
)
を上げる。響きと
色彩
(
いろ
)
と人の顔とが入り乱れている
雑沓
(
ざっとう
)
の間をそろそろと自動車は動き出した。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
群衆はあのときから絶えず地上に
汎濫
(
はんらん
)
しているようだ。僕は
雑沓
(
ざっとう
)
のなかをふらふら歩いて行く。僕はふらふら歩き廻っている。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
雑沓
(
ざっとう
)
の中で、私は押しつけられる彼女のやわらかな胸と腿をかんじた。私は重く
痺
(
しび
)
れるような慾望が、私の中に顔をもたげるのがわかった。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
その
雑沓
(
ざっとう
)
を押し分けて仮装の住吉踊や赤垣源蔵、おかる勘平、あるいは鳥追い、巡礼姿、大津絵の按摩さんまで続々繰り込む。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
「どうせ、園遊会なんてこうですよ。あの模擬店の
雑沓
(
ざっとう
)
は、
何
(
ど
)
うです。見ている
丈
(
だけ
)
でも、あさましくなるじゃありませんか。」
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
顛落
(
てんらく
)
するかよりほかはないものだ——ただ、往来
雑沓
(
ざっとう
)
の町中ででもあるというと、他の人畜に危害を与えるおそれもあるが
大菩薩峠:36 新月の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
しかも多くの人たちが
群集
(
ぐんしゅう
)
し、
雑沓
(
ざっとう
)
している中から神の声は聞こえてきたのです。もちろんそれは一つの
寓話
(
ファブル
)
でしかありません。しかしです。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
悍馬
(
かんば
)
足曳
(
あしびき
)
に三人鈴なりの
体
(
てい
)
、
雑沓
(
ざっとう
)
の護摩堂付近へ馬を乗り入れたとき、ちょうど群集を斬りはらいながらたち現われた左膳と、バッタリ——。
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
自動車が浅草の
雑沓
(
ざっとう
)
のなかにまぎれこみ、私たちもただの人の気楽さをようやく感じて来たころ、馬場はまじめに呟いた。
ダス・ゲマイネ
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
大学生らしい男が五、六人、何処かで飲んで来たのだろう、いい機嫌で
雑沓
(
ざっとう
)
を押し分けながら道一杯に並んでやって来た。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
三社祭りの
雑沓
(
ざっとう
)
のなかで、悠二郎が呼びかけると彼は赤い顔をし、おと年から下谷竹町の左官屋へいっていると云った。
桑の木物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
いつも、じーんと耳の底が鳴るくらい淋しい湯宿の部屋にいつけた
頭脳
(
あたま
)
は、入って来た日暮れ方の町の
雑沓
(
ざっとう
)
と雑音に、ぐらぐらするようであった。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
電車路の
雑沓
(
ざっとう
)
に出てから、私は須山に追いついた。彼は鼻をこすりながら、何気ない風に
四囲
(
まわり
)
を見廻わし、それから
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
まだあまりに騒がしい大都会の
雑沓
(
ざっとう
)
もなく、あまりにたえがたい商業の営みもなく、その代りに、二三のかなり大きな古い広場と、にぎやかさをも
道化者
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
点呼に応ずる兵卒の正服つけて、黒き毛植ゑたるバワリア
鍪
(
かぶと
)
戴
(
いただ
)
ける、警察吏の馬に
騎
(
の
)
り、または
徒立
(
かちだち
)
にて
馳
(
は
)
せちがひたるなど、
雑沓
(
ざっとう
)
いはんかたなし。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
雑沓
(
ざっとう
)
の
巷
(
ちまた
)
は、五分と経たぬ間に、
無人郷
(
ノーマンズ・ランド
)
に変ってしまった。その
荒涼
(
こうりょう
)
たる光景は、関東大震災の夜の比ではなかった。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
俊助
(
しゅんすけ
)
は
生酔
(
なまよい
)
の
大井
(
おおい
)
を連れてこの四つ辻を向うへ突切るには、そう云う周囲の
雑沓
(
ざっとう
)
と、
険呑
(
けんのん
)
な相手の足元とへ、同時に気を配らなければならなかった。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
新台子の兵站部は今
雑沓
(
ざっとう
)
を極めていた。後備旅団の
一箇聯隊
(
いっこれんたい
)
が着いたので、レールの上、家屋の
蔭
(
かげ
)
、
糧餉
(
ひょうろう
)
のそばなどに軍帽と銃剣とがみちみちていた。
一兵卒
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
彼らはふり返って、笑いながら女たちに合い図をし、毎週一回シャン・ゼリゼーにいっぱいになるそのほこりだらけの日曜の
雑沓
(
ざっとう
)
のうちに姿を消した。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
泉原の
周囲
(
まわり
)
の人々は一斉に振返って、奇声をあげた小さな日本人を不思議そうに
瞶
(
みは
)
っている。泉原は
突嗟
(
とっさ
)
の間に
雑沓
(
ざっとう
)
の間を縫ってM駅行の切符を
購
(
か
)
った。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
あの銀座の
雑沓
(
ざっとう
)
、夕方のにおい、一しょにいた夫らしい男、まだそれらのものをありありと見ることが出来た。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
日露戦争の終った年の暮、彼は一の心的革命を
閲
(
けみ
)
して、まさに東京を去り山に入る決心をして居た時、ある夜彼は新橋停車場の
雑沓
(
ざっとう
)
の中に故人を見出した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
しかしこれに慣れた巴里人は老若男女とも悠揚として
慌
(
あわ
)
てず、騒がず、その
雑沓
(
ざっとう
)
の中を縫って衝突する所もなく、自分の志す方角に向って歩いて行くのです。
激動の中を行く
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
江戸の賑わいを集め尽したような浅草の
雑沓
(
ざっとう
)
は、この意味もなく見えるささやかな事件を押し包んで、活きた
坩堝
(
るつぼ
)
のように、刻々新しい
沸
(
たぎ
)
りを巻き返すのです。
銭形平次捕物控:138 第廿七吉
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そして妾は、佐野が心の内部で見えない未来の敵に対して戦端を開いているのに気がつきました。妾は恐ろしい
雑沓
(
ざっとう
)
の中で、不吉な予感をその時感じたのです。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
社前に
著
(
つ
)
くと、
提灯
(
ちょうちん
)
や露店などの明りがさして薄ぼんやりと明るくはなっているが
雑沓
(
ざっとう
)
はいよいよ激しい。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
野原や庭で鳴いているのは、近くへ寄っても鳴きやめるのに、
雑沓
(
ざっとう
)
の中でよく鳴いていることと思います。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
大波のように押寄る男女の
雑沓
(
ざっとう
)
、子供の叫び声——とても巡査の力で制しきれるものでは有ません。
藁草履
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「この通りの
雑沓
(
ざっとう
)
でよく見分けがつきかねて困っていたところ、薄葉の蛍でさてはと思い申した。」
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
江戸堀
(
えどぼり
)
公判廷に至るの間はあたかも人をもて
塀
(
へい
)
を築きたらんが如く、その
雑沓
(
ざっとう
)
名状
(
めいじょう
)
すべくもあらず。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
荘子はそういう
雑沓
(
ざっとう
)
には
頓着
(
とんちゃく
)
なく櫟社の傍からぬっと空に生えている
櫟
(
くぬぎ
)
の大木を眺め入って居た。
荘子
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それぞれへ
聞合
(
ききあ
)
わせて、あまりの懐しさに、魚市の人ごみにも、電車通りの
雑沓
(
ざっとう
)
にも、すぎこしかたの思出や、おのが姿を、化けた尻尾の如く、うしろ姿に
顧
(
かえり
)
み、顧み
菊あわせ
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それにこの御徒町附近一帯は軒並み続きで、
雑沓
(
ざっとう
)
するので、年寄りや子供には適した処でない。
幕末維新懐古談:72 総領の娘を亡くした頃のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
私は、客のない時は、切符売場式の店の窓口からボンヤリ戸外の
雑沓
(
ざっとう
)
を眺めているのが常です。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
だがたいていの場合は、市中の
賑
(
にぎ
)
やかな
雑沓
(
ざっとう
)
の中を歩いている。少し歩き疲れた時は、どこでもベンチを探して腰をかける。この目的には、公園と停車場とがいちばん好い。
秋と漫歩
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
東京の
市中
(
しちゅう
)
へ使いにいって、あのものすごい
雑沓
(
ざっとう
)
に出あうと、かれは自分をどうしていいかわからないのに、この親切なおやじさんと
別
(
わか
)
れるようになるのがいやだったのです。
清造と沼
(新字新仮名)
/
宮島資夫
(著)
圭二を抱いたりして却って喜んでいる。大抵の人がお父さんのように理論と実行の間に厳然たる区別を立てゝいるから、東京駅は随分
雑沓
(
ざっとう
)
する。僕達は早速待合室に陣取った。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
花はほんとうに
幽邃
(
ゆうすい
)
で、境地はいたって静かですし少しも
雑沓
(
ざっとう
)
などは致しませんから、ゆっくりした気もちで半日遊んでいますと、これこそほんとの花見だと納得がまいります。
女の話・花の話
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
あまり一時に
多数
(
あまた
)
の人を会合させるとかえって
雑沓
(
ざっとう
)
するからそういう時は
幾種
(
いくしゅ
)
にも区別して先ず第一は会費二円の食道楽会を毎月一回開く。第二は一円の会費でこれも毎月開く。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
“雑沓”の意味
《名詞》
雑沓(ざっとう)
多くの人で混雑すること。そのような場所。ひとごみ。
(出典:Wiktionary)
雑
常用漢字
小5
部首:⾫
14画
沓
漢検準1級
部首:⽔
8画
“雑沓”で始まる語句
雑沓狼藉